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第四十三話
しおりを挟む救急車が山口総合十字病院に横付けされたのを後ろからレクサスNXで追いかけていた吉川の目に見えた。
救急窓口の書類に美都留の関係者であることを記入し、吉川は係りの人に案内された処置室に向かった。
そこで、CTと当面の応急措置をして、ICUに行くか病棟に行くか決まるらしい。
吉川は処置室の前に待機していたが全身から血の気が引き、足の震えが止まらない。
美都留大丈夫か、ホテルに連れ帰れば良かった。
躊躇したばかりに。
頭の中が堂々巡りになっている。
処置室から医師が出てきた。
「三島さんの関係者の方ですか」
「はい。そうです」
「脳のCTの結果、幸いなことに内部迄は傷が到達しておりませんでした。脳波も心電図も正常です。
一時的に打撲で脳震盪を起こしていたようです。しばらくして傷が深まることも想定されますので、今日は一般病棟で様子を見ます。
それから先程、意識は戻っており、瞳孔も問題ありません」
吉川の全身から緊張が和らいだ。
山口県警の本部長に電話で状況を報告した。
処置室から美都留が頭にガーゼをされて、横たわり運ばれてきた。
一般病棟に運ばれる美都留の後を吉川はついて行く。
事務員に聞かれる。
「A個室でいいですか」
「はい。支払いも私で」
「退院されるまでにこちらに三島美都留さんとの関係等記入お願いします。
ご親族様はこのA個室で付添可能です」
病室に着いた。
「大丈夫か。美都留」
「ピンピンしているわ。私は不死身よ。
でも塚本さんが殺されたのと同じ手口かも。
羽音のようなものが聞こえたの。
咄嗟に高嶺城の塚本さんを思い出し、頭に手をやり、体を左横にかわして、後ろを振り向こうとしたら、右側の頭に衝撃を感じて意識を失ったの。失う直前に吉川さんの声が聞こえたわ。
だから私を傷つけようとした正体から次の攻撃がなかったの。
吉川さんが来てくれて、私も少し左側に逸したから、致命傷にはならなかったのよ」
「もう金輪際無茶な一人で怪しい所に行かないと約束してくれ」
「私の関係者と書かず言わず、配偶者または夫。百歩譲って婚約者、許嫁と書くなら良いわよ」
美都留の笑顔がもどってきた。いつもの美都留だ。
今日だけは笑顔でいられるな。
「大丈夫のようだな。安心した。まだ安心は早いか」
「今日はホテルに行かないで。
ここに居て!
また何かが起きるかも」
「わかったよ。寝ずの看病をするよ。
それより、悪化しないように、もう喋らず安静にして寝てくれ」
吉川は頬をふくらませている美都留を眺めていた。
個室で朝方、美都留が目を瞑り額に汗をかいて両手で掛け布団を捲し上げ、胸を反らして吐息をもらしながら何か言っていた。
美都留が瞳を大きく開けたかと思うと吉川に向かって言った。
「わかったかもしれない。もう少し情報は必要だけれども」
美都留の顔が上気している。
吉川はデジャヴを感じた。
「ナースコールを呼ぼうか?」
「大丈夫よ。自分の身体はよくわかっているから、問題ないわ。
それより、手を繋いで」
美都留の顔が更に更に赤くなっている。
そっと美都留の手を握った。
美都留は、安心したかのように再び眠りに着いた。
何がわかったかもしれないのか。
しばらく手を握ったまま吉川もウトウトしていたら、雀の囀りが聞こえてきた。
夜が明けたようだ。
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