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第一話
しおりを挟むアラサーの三島美都留は焦っていた。
「メールが使えない。おかしいよね。電話もつながらない。
会社に行って聞いてこよう。」
美都留小さな会社で事務をしているのだが、ここ最近は在宅勤務を命じられてパソコンで仕事をやっている。
けさから会社のメールが不通になっていた。
会社に電話したが通じなかったので会社に久しぶりに出勤してみようと思い会社に向った。
「あれ、あの人。」
先週、いい感じで取引先の男性を食事に誘っていい雰囲気だったので新しい恋が芽生えたと思っていたのに。
「取引先の男性が若い女と手を組んでにこやかに談笑している。」
男が私に軽く会釈をした。
相手の若い女が私と男の視線に気が付いて男に確認している。
「ああ。あの人は仕事の関係者だよ。何でもない。分かるだろ。」
「そうね。あんな女はあなたが好きにあるわけないわ。若くもないし。さあ、行きましょう。」
憤然として美都留は会社に急いだ。
「食事のあとホテルに取引先の男に誘われたのだけれど、月一の憂鬱がきてよかったわ。あんな小娘より、私のほうがよっぽど。
美都留さんのような魅力的で官能的な女性に出会ったことが無いと言っていたのにあれは何だったの。」
会社の前に張り紙があった。
『都合により、ここの会社は解散します。ありがとうございました。』
刑事がやってきて美都留は呼び止められた。
「あなたはこことどういう関係ですか。」
爽やかな顔の刑事だった。私と同じくらいの年かも。指には何もついていない。
「会社の事務員をしています。
けさからメールや電話が通じなくて困ったので会社に来てみたら張り紙があったのです。
どうかしたのですか。」
「捜査中ですが、ここの会社の社長が顧客から集めた資金を持ち逃げしたようです。顧客から訴えがあり捜査をしているところです。」
後ろで声が聞こえた。
「逃走している社長が見つかった。屋上にいるぞ。」
美都留は非常階段から屋上に駆け上がった。
そういえば社長に、高金利の資産運用の方法があると言われて五百万円預けたばかりだった。
後ろから刑事が追ってくる。
「危ないから屋上にいってはダメだ。」
取柄はないが高校の陸上で走り幅飛びをしていた美都留は軽やかに屋上に上がっていく。でも昔の書物を読破した国文学専攻の大学のゼミは実生活では役立たなかった。
屋上に上がると、社長と人相の悪い男がもみ合いになっていた。
人相の悪い男が言った。
「貸した金を返してもらおうか、利息はトイチで貸したのだからな。」
「私を騙して資産運用のいい話があると言ってきたのはお前の方だろう。もう破滅だ。この世から、おサラバだ。」
社長の胴体の背広を空けるとそこには爆薬が巻いてある。
「どうせ、偽物だろう。さっさとそのスーツケースをよこせ。」
刑事が叫ぶ。「二人とも神妙にしろ。」
「私の五百万円を返して。」
四人がもみ合いになり、煌めきと轟音が聞こえたかと思ったら、次の瞬間、美都留の意識が飛んだ。
ハーフツインの髪型の美都留が目を覚ますと、事務服ではなく巫女姿だった。
「ここはどこ。私は誰。」
「気が付きましたか。気を失っていました。
貴方はここの神社の宗家の娘さんです。ここは大三島神社です。」
「さきほどは海賊を追い払い助けてくれてありがとう。」
イケメンの爽やかな刑事顔の大名が美都留の前に居た。
無いわ。
大名の薬指を確かめた。
でも、今は現代ではないかも。
「今は何年ですか。」
「永禄九年(1566年)だが。」
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