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彼女が出来た

大どんでん返し

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その後も話は続いた。

バレー部から、僕がクラスでどんな存在だったかという話へ。

「小野っちトマト好きだから、給食の時間にトマトあげてたり、いつも宿題忘れてノート貸してあげたりしてましたよ」

「アンタトマトなんて、ウチじゃ食べなかったじゃない?」

そうだっけ?
そう言われてみると、好きこのんで食べたような記憶が無い。

「えーっ!でも給食のメニューでトマトが出ると、オレ食ってやるよって言って、いつもあげてましたよぉ~」

「もういいじゃん、その話は」

ちょっと恥ずかしくなってきた。

「あ、アンタまさか慶子の事好きだったんでしょ?」

ゲッ…

ド直球で聞いてくるとは。

好意を抱いていたのは確かだけど、そんな事をここで言うのか!

「でも、慶子が貴久なんて相手にしないだろねぇ」

アハハハと笑う。

波多野は波多野で、返事に困っている。

あぁ~…なんか気まずい雰囲気だなぁ。


「じゃ慶子。今度は貴久抜きで、また話しよっ」

「はい。祐実センパイもう帰るんですか?」

「んー…帰って勉強しないとね。
ウチ進学校だから、ちょっとでも勉強しないとついていけなくなるしね。
貴久、アンタも早く帰ってくるんだよ!じゃまたね」

バイバイ、と手を振って店を出た。

「小野っちと祐実センパイって、姉弟なのに全く違うよね、性格が」

不思議そうな顔してる。

どっちの性格が良いんだ?

「姉弟だからって、性格まで一緒のワケ無いじゃん?」


「アタシ一人っ子だから、そういうのよく分かんないし」


一人っ子?

「エッ、そうだったの?」

初めて聞くぞ、そんな事は?

「ウソっ、前に話した事あるよ!」


「そ、そうだっけ?」

…覚えて無い!


「お兄ちゃんかお姉ちゃん欲しかったんだけどなぁ…羨ましいよ、小野っちが」

少し寂しげな表情を浮かべた。


「そうかぁ?ウチに居ると、母親が二人いるみたいだよ。
ちゃんと学校行けだの、勉強しろ、とかうるさいだけだよ」

「確かに、小野っちはサボり癖あるからね!今もそうなの?」

「うーん…何ていうか、F高校落ちてから今のとこ通ってるけど、ヤローばっかでつまんなくてね」

波多野はアイスティを飲んで、氷をガシャガシャとストローでかき混ぜながら、自分の事を話した。

「アタシもF高校落ちたじゃん?それで二次募集で今のとこに入ったけど…
確かに、最初はイヤだなぁと思ったけど、それでも行ってみると、ケッコー楽しいよ。
仲の良い友達も何人か増えたし。
アタシは、今のとこに通って良かったなぁって思う」


そりゃ、その学校が波多野にとって合ってるからじゃないのかな。

「オレさぁ…今の学校に1学期だけ通って、編入試験受けて他の学校に行こうって思ったら、オヤジに物凄く怒られちゃってさぁ。
入学金払って、すぐに他の学校行きたいなんてムシが止しすぎる!って怒られたんだけどね。
でも学校行っても、ヤル気なんて全くないし、ホントの事言うと、辞めたくて仕方ないんだよ」


「えぇ、ウソ!」

驚いた顔をしている。

ホントの事だから仕方ない。

「小野っち、面白い事見つけないとダメじゃん!」

「無いよ、面白い事なんて。周りはバカだし、学校行っても、寝てるかマンガ読んでるかのどっちかだよ」

「じゃあ小野っちの言う、面白い事って何なの?」

身を乗り出して聞いてきた。

そういや…楽しい事って何だ?

「んー、何だろう?彼女作って、楽しい放課後を過ごすって事?そんなもんしか無いよ」

「だからあの時、アタシにああいう事言ったの?」

告白した時の事が鮮明に浮かぶ。

今は思い出したくない…

「いや、それは違うな…」

「えっ?んじゃ何で?」

言いたくないんだよ、こんな事…
ましてや、本人の目の前で言うのかよ?

「それは、中学の時に言えなかったから、言っただけだよ」

波多野は黙ってしまった。

だから言いたくないんだ。

あまりの恥ずかしさに、今すぐ逃げ出したくなる程だ…

しかし次の瞬間、思いもよらない事を口にした。

「じゃ、アタシたち付き合おっか?」

…………………えっ、

まさに、大どんでん返し!

(当時、とんねるずがよく使っていた言葉で流行っていた)

「ねぇ、そうしようよ!」

ホントか?ウソじゃないよな?

「うん、まぁいいけど…」


精一杯の虚勢を張って答えた。

こうして、僕は波多野と付き合うようになった。

冷静を装ってたが、心の中では飛び上がらんばかりに喜んだ。

(…奇跡だ!ヤッター!ようやく付き合える事になったんだ!)
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