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彼女が出来た

ドキがムネムネ

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日頃から頭の中は

(あぁ~女とヤリてぇー、セックスして~)

そんな事ばかり考えていた。

しかし波多野からの初キスを受けた時、不思議とムラムラとした気持ちは起こらなかった。

あぁ、今オレ幸せだっ!

という気持ちが頭の中を駆け巡っていた。

波多野もキスをして照れなのか、無言で弁当を食べていた。

僕も何を話せばいいのかわからずに、ひたすらおにぎりを食べていた。

弁当の中にあるおにぎりとおかずは、ほぼ無くなりかけていた。

すると波多野が思い出したかの様に

「そう言えば、小野っちってジェットコースター苦手だったよね?」

えっ、あれ?何で知ってるの?

「中3の3学期に、卒業記念として学校でディズニーランドに行ったじゃん?あの時、小野っちスペースマウンテン乗ってギャーギャー言ってたのを思い出した」

えっ、だってその時は波多野と一緒に乗ってなかったハズ…という事は、誰かがバラしたのかっ!

あの時は物凄い恥を書いた…

周りが真っ暗で、ガーッと急降下だったからな…

今思い出しても恥ずかしい。

「小野っち、アタシ一人でジェットコースター乗るから見ててよ」

「…いや、オレも乗る!」

「無理しなくていいってば!」

「いや、乗る!だって、二人で乗れば大丈夫そうだし」

「ホント?じゃあ、それ乗ったら観覧車に乗ろう」

「うん」

これを言うのを忘れてた。

「あっ、その前に」

「えっ何?やっぱり止めておく?」

僕は手を合わせ

「ご馳走でした。唐揚げチョー美味かった」

何事かと思った波多野はゲラゲラと笑う。

「アッハハハ!何かと思ったらそれ?でも、美味しいと言ってくれてありがとう」

僕らは紙コップや割りばしをゴミ箱に捨て、ジェットコースター乗り場へ向かう。

勿論、手は繋いで。

順番を待っている間、空を見上げる。

日差しはジリジリと、相変わらず突き刺すような暑さだ。

でも雲1つない、澄みきった空だ。

あぁ…今、オレの気持ちはこの空と一緒で一点の曇りもない。

満足げに浸っていた。

「小野っち、来たよ。ホントに大丈夫?」


ようやく僕らの番だ。

意を決して、ジェットコースターに乗り込む。

足元を固定する安全バーに掴まると、ゆっくり上がっていく。

ふと、僕の手を握った。

「大丈夫だよ、小野っち。アタシ手握ってるから」

その瞬間、ガクンと急降下して凄まじい勢いで園内を駆け巡る。


(大丈夫、大丈夫って言ったら大丈夫なんだ!)

自分に言い聞かせ、波多野の手を強く握った。

(あれ?慣れればそんなに怖くないぞ…)

波多野が僕の手を握ってるせいか、前ほどの恐怖感は無い。

「慣れると楽しいなっ!スゲー面白いよ、これ」

心の底から大声で叫び、ジェットコースターのスリルを味わった。

「あれ?もう終わり?」

ジェットコースターのスリルを楽しめるようになったのはいいが、乗ってる時間があっという間に感じる。

「小野っち大丈夫じゃん!良かったね!」


波多野が隣にいてくれたお陰だ。

「よし、次は何だっけ?観覧車だ、観覧車に乗ろう!」

気がつくと、僕が波多野の手を引っ張っていた。

観覧車の乗り口で順番を待つ。

「やっと来た。さぁ乗ろう」

観覧車に乗り込む。

しかし、この気温で中はかなり暑い。

「暑いね、この中」

僕らは向かい合って座った。

観覧車の高さが頂点に達した時、波多野の隣に座った。

僕はドキドキしながら、波多野の手を握る。

波多野も僕の手を握り返した。

俯いたままだ。

その表情が堪らず、波多野の頬にキスをした。

(やべー、またキスしてんじゃん!)

心臓はバクバクしっ放し。

すると、波多野はこちらに顔を向けた。

互いに惹かれ合うよう、唇と唇を重ねた。

初キスはレモンの味なんて言ったヤツがいるが、そんな味がするワケ無いだろう。

ただ唇を重ねただけで、味なんて無い。

波多野は僕にもたれ掛かり、観覧車は下に降りていく。

その間は無言だ。


でも、波多野とくっついているだけで良かった。

暑かったことすら忘れるような、楽しくも短い時間だった。

観覧車から降りた途端、滝のように汗が流れた…

ドキドキしたりまったりしたりと、心臓はジェットコースター並みの速さだった。
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