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彼女が出来た

あのさ、夕飯食べに行かない?

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最後メリーゴーランドに乗って、遊園地を出た。

帰る頃はぎこちなかった手の繋ぎ方も、スムーズに握れた。


端から見ても、高校生のカップルという感じで違和感は無い。


地下鉄の構内を通ってホームへ。

タイミング良く電車が着た。

「あそこ空いてるから座んなよ。
今日は疲れたろ?乗り換えの時、起こすから」

波多野を座らせようとした。

「いいよ、座るなら小野っちが座ってよ。アタシ立ってるから大丈夫」

「いいって、今日早く起きて弁当作ったんだろ?ほら、早く座らないと誰かに取られちゃうよ」

波多野を座らせ、僕はその前に立って吊革に掴まる。

「ありがとう。それじゃ少し寝るけど、ちゃんと起こしてね」

そう言うと下を向き、しばらくすると眠りについた。

今日の事を思い浮かべる。

いろんな事があったな…

まさか、ファーストキスまでするとは…

観覧車の中で…思わずニヤけてしまう。

そこで意識が途切れた…

「…っち、小野っち起きて!また寝過ごしたみたい…」


(…えっ、、)

咄嗟に顔を上げると、3つ先の駅に停車した。

吊革に掴まり、立ったまま寝ていた。

我ながら、器用に寝るもんだ…

「やべっ、早く降りないと!」

だがドアは閉まり、無情にも電車は次の駅へ向かう。

「小野っち立ったまま寝るなんて、随分器用な事できるんだね(笑)」


通学の途中、吊革に掴まって寝るサラリーマンを何度も見たが、まさか自分がそれをやるとは…


どうやら立ったまま寝ていた僕の顔が可笑しくて、笑いを堪えていたらしい。

次の駅へ到着すると、急いで反対側のホームに向かった。


「前も寝過ごしてこんな事あったよね」

そうだ!あの時も僕が寝過ごして、Uターンしたんだ。


まさか二度目とは…波多野を起こすつもりが、逆に起こされるなんて…

エスカレーターで上がると、手を繋いで反対側のホームまで歩く。


「でも、今日はしょうがないよね。二人とも疲れたし。無理してジェットコースターに乗ったから、疲れたでしょ?次は小野っちが座ってよ」

「んー、大丈夫。さっき寝たから。しかも立ったまま」

「でも吊革に掴まって寝るって、おかしいね!アハハハハ!」

それが波多野のツボに入ったらしく、ずっと笑っていた。


吊革に掴まって寝るサラリーマンなんて、やっぱり疲れてるんだろうな。


乗り換えの駅に着いた。

先程と違い、反対方向に行く電車で乗客も少なくガラガラだ。

「小野っち、ここ座ろうよ」

波多野が先に座り、隣の空いている席をバンバンと叩く。

波多野の隣に座った。

仄かにいい匂いがする。

「あ、なんかいい匂い。何つけたの?」

バッグから
【Ban16】というデオドラントスプレーを出した。

「暑かったでしょ?だから、帰りにシュッシュッてスプレーしたの」

波多野の首筋から微香性の香りがした。

その優しい香りに包まれ、僕は再び眠気に負けた。

「小野っち、次で降りるよ」

その声で目が覚めた。

ゲっ!

波多野の肩にもたれ掛かって寝ていた!

しかも、ヨダレを垂らしている!

「あー…うん」

急いで頭を起こし、姿勢良く座る。

ドアが開いて、再び手を繋ぎながら乗り換えのホームへ。

「小野っちやっぱ、オモシロイ~っ!
急にシャキッとなるんだもん(笑)」

そんなに変なのか?波多野の肩にもたれ掛かって寝ていたのが恥ずかしくなった。
おまけに、ヨダレを垂らしていたとは!あぁ~情けない!

「あぁ、ゴメン。寝てばっかで」

情けない姿で寝ていたとは…

あぁ、みっともない!

「アタシの肩、寝やすかった?気持ち良く寝てるから起こしたら悪いなぁと思って、ギリギリまで寝かせたんだよ」

(なんかみっともないな、オレ)

赤面ものだ。



ようやく最寄り駅に着いた。

あぁ…今日はもうこれでウチに帰るのか。

もう少しだけ一緒にいたい…

「小野っち、今日はありがとう。また行こうね」

「うん」

ここでお別れするのか。

「あ、波多野…」

後ろ姿の波多野を呼び止めた。

「なぁに?」

くるっと、笑顔で振り向く。

「あ、あの…もし良かったらだけど、これから飯食いに行かない?無理ならいいんだけど…」

外はすっかり陽が落ちて、日中の暑さはないが、夏独特の湿気のある熱帯夜だ。

「う~ん、帰ってご飯用意してるかなぁ」

少し考えてから

「ちょっとウチに連絡してくるね」

駅の脇にある電話ボックスに入った。

僕は真っ暗になった空を仰いだ。

(明日も暑いんだろうな…)

夏だから当たり前なんだけど。

波多野が電話ボックスから出て、開口一番

「今ね、お母さんにご飯食べてくるからって言ったから、食べに行こう!」


声を弾ませ僕の手を握ると、商店街にある中華レストランに入った。

このまま帰るのは物足りないというか、今日は波多野の世話になりっぱなしだから、せめて夕飯でもご馳走しようと、僕なりのお礼のでもあった。
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