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忌まわしき過去

兄と再会

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いくら待っても返事は来なかった。
やっぱりダメなのか…


部屋で悶々としてるより外に出た方がいいかもしれない。
もう夕方になるが、とりあえず外へ出た。

外は日が暮れ始め、やや蒸し暑さを感じる。

ブラブラとアテもなく歩きながら、ふと思った。オレにはこれと言った趣味が無い。

何か趣味を見つけなければ。

それがきっかけで友達が出来るんじゃないか。

どんな趣味にしようか?

もうすぐで16になるからバイクの免許を取ろうか。

ツーリング仲間だって出来る。
でもバイクに興味が無い。


アニメとかマンガはどうだろう。
そんな事を頭に思い浮かべながら、気がつくと駅前の繁華街まで来た。


この時間帯は人通りが多い。
人混みが苦手なオレは、脇にある細い路地に入った。

路地に入ると、風俗店が軒並みに並んでいる。

風俗か…金払ってセックスするなんて、オレには出来ない。


目の前のソープランドでは、客が店を出たところだった。
入り口でソープ嬢が客を見送っていた。


「あっ!」

思わず声を上げた。

鴨志田だ!大きな胸を強調するような、胸元のパックリと開いた深緑のドレスを着ていた。

「っ!古賀くん…」

オレの顔を見て驚いた表情をしていたが、すぐに店の中へ入っていった。

「先生…」

まさかホントにソープ嬢になっていたとは…
見てはいけないものを見てしまった感じだ。


すると、店から出た客がオレを呼び止めた。

「おい、こんなとこで何やってんだよ!」


声の主は兄だった。

長身の痩身、茶色いロン毛に腰パンのデニムを履き、サイケデリックな柄のシャツを着て、シルバーアクセサリーを身に付けていた。

コイツ、鴨志田の客だったのか!
こんな場所で会うなんて、最悪だ!

オレは無視して足早に立ち去ろうとした。

「おい、待てよ。何シカトしてんだよ」

兄はオレの腕を掴んで引き留めた。

「外で会っても声掛けるな、って言ったのはそっちだろうが」


父の葬儀の際、オレに「外で会っても声を掛けるんじゃねぇ」と言い放った。

「そんな事言ったっけか?まぁいい、お前に話があんだよ」

惚けやがって!虫酸が走る!

「何の話だ!オレはアンタとは赤の他人じゃないのか」

「いいから、ちょっとコーヒーでも飲んで話をしようぜ」

あまりにもしつこいので、仕方なく駅前のコーヒーショップに入った。

「お前、金持ってるか?」

「え?」

「オレ、さっきの店で金使い果たしたから、コーヒー代払ってくれよ」

どこまで図々しいヤツなんだ。
オレは渋々コーヒーの代金を払った。


「オレ、タバコ吸うからこっちの席にしようぜ」

喫煙席に座って、タバコに火を点けた。

ちょっと待て、確かまだ未成年だろ?

「19才なのにタバコ吸うのかよ」

「あ…?何、学校の先生みたいな事言ってんだよ?いいんだよ、こっちは客なんだから」

何が客だ!金払ったのはこっちだろ!

「で、話って何だよ?」

すると兄は鴨志田の事を聞いてきた。

「お前、あの女と知り合いか?」

「別に…人違いだろう」

「何か隠してねえか?」

「何も無いよ」


ふーん、と言ってタバコを消し、また次のタバコを火を点ける。
コイツ、この年でヘビースモーカーなのか…

「それとお前、オヤジのマンション売っ払ったらしいじゃねえか。その金何処にあるんだよ?」

何処にあるって…父の遺産を独り占めしたのに、まだ金が欲しいのか…
開いた口が塞がらない。

「知らない!売ったのはオフクロだ。オフクロに聞けばいいだろ」

「何、勝手に売ってんだよ!?あのマンションはオヤジが亡くなった後、オレの所有になってんだよ。金は何処に隠したんだ!」

「だからオフクロに聞け!それよりも、オヤジの残した金がまだあるだろ!まさか、もう全部使ったのか?」

「そうだよ、遺産は全部ギャンブルや女に使ってもう無ぇんだよ。だから、さっさと金よこせ」

コイツはバカか?幾ら受け取ったのか知らないが、かなりな金額の筈…
どうやったらそんな短期間で金を使い果たすんだ?
これじゃ、父が浮かばれない!
父の代わりに、このクズが死ねばよかったんだ…!


「オヤジが遺した金をそんな事で使い果たすなんてっ…!ふざけるなっ!」

悪びれる様子も無く、金の無心ばかりする態度に腹が立った。

すると兄は態度を変え、平謝りした。

「…いや悪かった。ついムキになってしまった。ホント申し訳ない」

先程までの傲慢な態度からうってかわり、しおらしい態度になった。

「あの時は金の事しか頭に無かった。だけどしばらく経つと、オヤジが頭の中で浮かんできてな…
オヤジとは折が合わなかったから、大学へ入学したと同時に家を出たんだ。
だけどな、まさかオヤジが死ぬなんて…」


「気持ちは分からないでもないけど、だからといって、金を全部使い果たすのはおかしいだろ!」


兄は俯き、ポツリポツリと語り始めた。

「お前には分かんないだろうな…少しの間しか一緒に暮らしてないだろうからな。
だけどオレは、小さい頃にオフクロと別れて、オヤジとつい最近まで一緒に暮らしてきたんだ。
何度ケンカしたか覚えてないが、子供の頃、オヤジが慣れない手つきで飯を作ってくれたりしてなぁ…
そんなオヤジが死んで自暴自棄になっていたせいか、金を湯水のように使い果たしてしまった。
分かるか?お前に。
気を紛らわしたかっただけなんだ。そして気がつけばこんな有り様だ…」

忌まわしい出来事を忘れたいが為に、憂さ晴らしをしていた結果、散財してしまったという。

ショックだろう…オレだって、もし母が殺されたらショックで自暴自棄になるだろう。

段々兄が不憫に思えてきた。

「ところで」

兄が話を変えた。

「さっきのソープ嬢なんだが、知り合いなのか?先生とか言ってたけど」

鴨志田の事か…もう教師には戻れないだろうな。

「あの女に相手してもらったけど、頭の中でオヤジの事を思い出して、イケないで終わってしまったよ…」

ハハハッ、と弱々しい笑いを浮かべた。

「なぁ、オフクロは元気か?」

兄にとって、母は唯一の肉親だ。

「会ってみてえなぁ。まだ物心つく前に離れてしまったからな…」

「もし会いたいのならオレが何とかしようか?」

こんなに弱っている兄を見過ごすワケにはいかない。
話を聞いているうちに、兄に同情していた。

「そんな事出来るのか?」

兄の表情が変わった。

「うん、だってアニキはオフクロが生んだ子供じゃないか?オフクロだって会ってみたいと思ってるはずだよ」

「そうか…じゃあ、悪いがオフクロに会わせてもらえないだろうか?」

兄は頭を下げた。今は独りで淋しいのだろう。オレも友達はいないし、独りだ。
兄の気持ちは分かるつもりだ。

「近いうちに会えるようにしておくよ」

兄と打ち解けたような気がして、オレはちょっと嬉しかった。

「悪いな…で、さっきの話だけど、あの女は一体何者なんだ?」

兄がここまで腹を割って話をしてきたんだ。
隠す必要も無いだろう。

「高校の教師だったのか…悲しいもんだな、借金の為にソープ嬢に堕ちるなんて」

その通りだ。

さすがに鴨志田が実の母親だという事は言えなかったが、それまでの経緯を兄に話した。

「そうか、オフクロがあの女の借金を肩代わりしたのか…」

「…うん」

「金の無心ばかりして、挙げ句の果てにソープに沈められたのか。こんな事言うのは申し訳ないけど、自業自得だな」

そうかもしれない。


「オフクロから金を引っ張って遊び呆けてるなんて、冗談じゃねぇ!出来ればぶっ飛ばしてやりたいぐらいだ!」

「いや~、殴ったらダメだよ。でも、店に行かないと会うことは出来ないんじゃないかな?」

店に行かないと鴨志田に会う事は出来ないだろう。

「そうなんだよな…でもオレはもう、金が無いしな。ただこのままじゃ気が済まないんだよ」

財布には20万近い金がある。少し躊躇ったが、どうせ使い道の無い金だ。

オレは当面の生活費にしてくれと、兄に金を渡した。

「いいのか、亮輔?オレこんなに金貰っても返すアテが無いんだぞ?」

「いいよ、別に返してもらおうだなんて思ってないし。この金を生活費に回してよ」

「亮輔、すまない…ホントにありがとう!」

兄は何度も頭を下げた。

店を出て、帰り際にお互いの連絡先を交換してから別れた。

「何かあったら連絡してくれ」

「うん、分かった」

これでいいんだ…オレが大金持っても仕方ないし、宝の持ち腐れだ。

何か良い事をしたような嬉しい気持ちで繁華街を通り、家路に着いた。
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