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忌まわしき過去
母性愛
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血だらけになり、激痛と共に達也に浴びせられた言葉のショックで、亮輔は失意のまま駐車場を出た。
血に染まった顔を隠す為、下を向いて歩いてた為、ドン!と前を横切った女性とぶつかってしまった。
「あ…ごめんなさい。…あれ古賀くん、古賀くんでしょ?どうしたのこんなに怪我して?」
声の主は鴨志田だった。
「先生…」
何故先生がこの会社に?
確か千尋の話だと、ヤミ金に追われ身柄を拘束され、ソープに沈められたはずでは。
しかし、目の前にいる鴨志田は、高校の教師をしていた頃の髪を一つに束ねてメガネをかけ、相変わらず大きな胸が目立つスーツ姿だ。
最後に会った、ソープランドの前で見かけた時とは随分雰囲気が変わった。
変わったというより、元に戻った格好だ。
「古賀くん、そんな血だらけになってどうしたの?」
「…」
亮輔は無言のまま立ち去ろうとした。
「待って」
鴨志田は亮輔の腕を掴み、ハンカチで出血していた鼻や口元を拭いた。
「誰にやられたの?」
「…」
相変わらず無言のままだ。
「まさか社長が…」
亮輔は社長という言葉に反応した。
「先生、ここの会社の社長ってもしかして…」
聞きたい事は色々とある。鴨志田も亮輔の事は気にかけていた。
「ジッとしてて」
鴨志田はハンカチで亮輔の顔を止血した。
「何で先生がここにいるんだよ…まさか先生もこの会社の人間なのか?」
「喋らないで!血を止めてるから。
ここじゃ人の目が気になるからどこかで治療しないと…」
「先生、確かソープランドに働いてはずじゃ…」
「…古賀くん、ここじゃちょっと…場所変えましょう」
そう言うと、スマホを出した。
「もしもし、おはよう。今日ちょっと例の件で面接があるんでけど…ええ、2,3人程来る予定なので。うん、申し訳ないけど。
はい、では失礼します」
面接…?
何をしているんだ、先生は。
「古賀くん、どこか人目のつかない場所で話をしましょう」
鴨志田は地下の駐車場へ行くと、社用車に乗り込んだ。
「さぁ、乗って」
亮輔は後部座席で横になった。
国道沿いのラブホテルにチェックインした。
ラブホテルなら人目につかないだろうと思った。
部屋に入ると、亮輔の腫れ上がった顔を水で濡らしたタオルで冷やし、ベッドに寝かしつけた。
「先生、どういう事なんだよ…一体何がどうなってんのか説明してくれよ…」
どれから話せばよいのか、鴨志田は困惑した。
千尋を消し去る事に関与している為、迂闊な事は言えない。
千尋は失踪したという事にして、今までの経緯を亮輔に話した。
亮輔はベッドに横たわり鴨志田の話を黙って聞いていた。
「先生…」
「何?」
「それじゃ、先生はアニキの部下って事かよ?」
「…」
鴨志田は何も言えなかった。
ソープから抜け出たい一心で、会社を乗っ取る計画を手伝ったが、その事だけは口が避けても言えない。
「何でアニキがあの会社の社長になってんだよ?おかしいだろ、どう考えても」
「それは千尋さんが、あなたのお兄さんが会社を継ぐという事を事前に言ってあるし、急にいなくなったんだから、お兄さんが会社を継いで社長になるのは当然の事でしょ…」
「じゃあ、オフクロは何で急にいなくなったの?どう考えても変だろ。
それにアイツはまだ大学生なのに、社長だなんて、周りが納得しないだろ!違うか?」
本当の事を言えず、鴨志田はしどろもどろになった。
「…ホ、ホントに失踪の件は知らないのよ!
何せ急にいなくなったし…
それで急遽、お兄さんが会社を継ぐ形で社長になったみたいだし…」
「先生…他に何か隠してる事ない?あまりにも不自然だよ。
もしかしたら、アニキは会社を自分の物にしたいからオフクロを消したんじゃないかと思ってるんだけど、違うか?」
「…何をバカな事言ってるの!そんな事したら、とっくにお兄さんは逮捕されてるわ」
「じゃあ、何でアニキが社長になって先生が秘書になってんだよ?おかしいだろ!
先生、秘書なんてやった事あるのかよ?」
「…それは」
出来ることなら、亮輔には真実を話したい。
だが、それを話せば、自分の身が危うくなるし、何よりも達也を愛していた。
「オフクロの下で仕事教わって、いなくなったら社長かよ!
そんな上手い話があるか?随分と用意周到じゃねえか!
なぁ、先生!ホントの事を言ってくれよ!」
何度も鴨志田を問い詰めた。
だが、口を割ることは出来ない。
鴨志田自身が儲け話に目が眩み、犯罪の片棒を担いでいるからだ。
「わ、私は外部の人間だし、あの会社に来てまだ日が浅いのよ。だから真相はよく知らないの。これだけは信じて!」
すると、亮輔はベッドから起き上がり、玄関で靴を履いた。
「何処に行くの?」
「あのヤローをぶっ殺す!間違いなくオフクロを消したのはアイツだっ!
あんなクズ、生かしておけねえっ!」
「待ちなさい!
今会ってもお兄さんはあなたを相手にしないわ!それに周りに何人も囲まれた状態でどうやって殺すのよ!」
鴨志田は亮輔の腕を取り、引き留めた。
「先生が知らないなら、アイツに直接聞くしかないだろ?あのクズはオレが殺る!」
「いい加減にしなさい!今は待つしかないの!ホントの事が分かるまで迂闊な事は出来ないの。
そんな事をしたら、あなたが警察に捕まるかもしれないのよ!」
「アイツ殺して警察に捕まるなら上等だ!どうせ生きててもロクな事が無いんだ!
マンション追い出されて、寝る所を転々としてんだ。
どうせ、この先良いことなんて無えんだよ!
だからアイツを殺してオレが少年院に入りゃいいだけの事だろ!」
「いい加減にしなさいっ!」
パシーンと乾いた音がし、鴨志田は亮輔の頬を叩いた。
「ゴメンなさい、痛かった?
…いい、あなたは私の子なのよ!それは知ってるでしょ?だから、そんなバカな事は止めて、ねっ?」
「そういやアイツ、オレの事を全く血の繋がってない兄弟だって…
なぁ先生…先生は義理の父親の子供を妊娠して、それがお前だって言われたんだよ。
これはホントなのか?」
「それは、ホントの事よ…
あなたのお父さんと私の間に出来た子供という事になってるけど、実際は義理の父親との間に出来た子供なの。
でも、生まれても認知はしないと言われて…
当時お父さんが勤めていた会社の社長と常務がお父さんが出世する条件として、私とお父さんの間に生まれたって事にしてくれって…」
その言葉を聞いた途端、身体の力が抜けた。
オレは一体誰の子なんだ?
ヘナヘナとその場に座り込んだ。
鴨志田は亮輔を優しく抱きしめた。
「そんなバカな事をするより、この先はどうするの?
あなたは住む所が無いんでしょ?
今はそっちの方が重要なの、分かる?」
「住む所なんて無いよ。
何処に行っても保証人が必要だから、断られてばかりだ!」
「私が保証人になるわ。
それと、僅かだけど、毎月生活費を渡すから、また学校に通って…
定時制でも通信制でも何でもいいから、高校だけは卒業して。
これは先生としてじゃなく、母親としての願いなの…もう、辛い思いをしなくていいから…ね?」
亮輔は鴨志田の胸に抱かれ号泣した。
鴨志田が初めて母親らしい姿を見せた。
「大丈夫よ、私はあなたの本当のお母さんだから。ごめんね、今まで辛い思いさせて…」
鴨志田も涙を流した。
15才の少年にしては、あまりにも過酷な生活を強いられた。
鴨志田は母性が芽生え、何が何でも亮輔を守ろうと心に決めた。
そして、達也に対する愛情から、亮輔に注ぐ母性の方が大きくなっていった。
血に染まった顔を隠す為、下を向いて歩いてた為、ドン!と前を横切った女性とぶつかってしまった。
「あ…ごめんなさい。…あれ古賀くん、古賀くんでしょ?どうしたのこんなに怪我して?」
声の主は鴨志田だった。
「先生…」
何故先生がこの会社に?
確か千尋の話だと、ヤミ金に追われ身柄を拘束され、ソープに沈められたはずでは。
しかし、目の前にいる鴨志田は、高校の教師をしていた頃の髪を一つに束ねてメガネをかけ、相変わらず大きな胸が目立つスーツ姿だ。
最後に会った、ソープランドの前で見かけた時とは随分雰囲気が変わった。
変わったというより、元に戻った格好だ。
「古賀くん、そんな血だらけになってどうしたの?」
「…」
亮輔は無言のまま立ち去ろうとした。
「待って」
鴨志田は亮輔の腕を掴み、ハンカチで出血していた鼻や口元を拭いた。
「誰にやられたの?」
「…」
相変わらず無言のままだ。
「まさか社長が…」
亮輔は社長という言葉に反応した。
「先生、ここの会社の社長ってもしかして…」
聞きたい事は色々とある。鴨志田も亮輔の事は気にかけていた。
「ジッとしてて」
鴨志田はハンカチで亮輔の顔を止血した。
「何で先生がここにいるんだよ…まさか先生もこの会社の人間なのか?」
「喋らないで!血を止めてるから。
ここじゃ人の目が気になるからどこかで治療しないと…」
「先生、確かソープランドに働いてはずじゃ…」
「…古賀くん、ここじゃちょっと…場所変えましょう」
そう言うと、スマホを出した。
「もしもし、おはよう。今日ちょっと例の件で面接があるんでけど…ええ、2,3人程来る予定なので。うん、申し訳ないけど。
はい、では失礼します」
面接…?
何をしているんだ、先生は。
「古賀くん、どこか人目のつかない場所で話をしましょう」
鴨志田は地下の駐車場へ行くと、社用車に乗り込んだ。
「さぁ、乗って」
亮輔は後部座席で横になった。
国道沿いのラブホテルにチェックインした。
ラブホテルなら人目につかないだろうと思った。
部屋に入ると、亮輔の腫れ上がった顔を水で濡らしたタオルで冷やし、ベッドに寝かしつけた。
「先生、どういう事なんだよ…一体何がどうなってんのか説明してくれよ…」
どれから話せばよいのか、鴨志田は困惑した。
千尋を消し去る事に関与している為、迂闊な事は言えない。
千尋は失踪したという事にして、今までの経緯を亮輔に話した。
亮輔はベッドに横たわり鴨志田の話を黙って聞いていた。
「先生…」
「何?」
「それじゃ、先生はアニキの部下って事かよ?」
「…」
鴨志田は何も言えなかった。
ソープから抜け出たい一心で、会社を乗っ取る計画を手伝ったが、その事だけは口が避けても言えない。
「何でアニキがあの会社の社長になってんだよ?おかしいだろ、どう考えても」
「それは千尋さんが、あなたのお兄さんが会社を継ぐという事を事前に言ってあるし、急にいなくなったんだから、お兄さんが会社を継いで社長になるのは当然の事でしょ…」
「じゃあ、オフクロは何で急にいなくなったの?どう考えても変だろ。
それにアイツはまだ大学生なのに、社長だなんて、周りが納得しないだろ!違うか?」
本当の事を言えず、鴨志田はしどろもどろになった。
「…ホ、ホントに失踪の件は知らないのよ!
何せ急にいなくなったし…
それで急遽、お兄さんが会社を継ぐ形で社長になったみたいだし…」
「先生…他に何か隠してる事ない?あまりにも不自然だよ。
もしかしたら、アニキは会社を自分の物にしたいからオフクロを消したんじゃないかと思ってるんだけど、違うか?」
「…何をバカな事言ってるの!そんな事したら、とっくにお兄さんは逮捕されてるわ」
「じゃあ、何でアニキが社長になって先生が秘書になってんだよ?おかしいだろ!
先生、秘書なんてやった事あるのかよ?」
「…それは」
出来ることなら、亮輔には真実を話したい。
だが、それを話せば、自分の身が危うくなるし、何よりも達也を愛していた。
「オフクロの下で仕事教わって、いなくなったら社長かよ!
そんな上手い話があるか?随分と用意周到じゃねえか!
なぁ、先生!ホントの事を言ってくれよ!」
何度も鴨志田を問い詰めた。
だが、口を割ることは出来ない。
鴨志田自身が儲け話に目が眩み、犯罪の片棒を担いでいるからだ。
「わ、私は外部の人間だし、あの会社に来てまだ日が浅いのよ。だから真相はよく知らないの。これだけは信じて!」
すると、亮輔はベッドから起き上がり、玄関で靴を履いた。
「何処に行くの?」
「あのヤローをぶっ殺す!間違いなくオフクロを消したのはアイツだっ!
あんなクズ、生かしておけねえっ!」
「待ちなさい!
今会ってもお兄さんはあなたを相手にしないわ!それに周りに何人も囲まれた状態でどうやって殺すのよ!」
鴨志田は亮輔の腕を取り、引き留めた。
「先生が知らないなら、アイツに直接聞くしかないだろ?あのクズはオレが殺る!」
「いい加減にしなさい!今は待つしかないの!ホントの事が分かるまで迂闊な事は出来ないの。
そんな事をしたら、あなたが警察に捕まるかもしれないのよ!」
「アイツ殺して警察に捕まるなら上等だ!どうせ生きててもロクな事が無いんだ!
マンション追い出されて、寝る所を転々としてんだ。
どうせ、この先良いことなんて無えんだよ!
だからアイツを殺してオレが少年院に入りゃいいだけの事だろ!」
「いい加減にしなさいっ!」
パシーンと乾いた音がし、鴨志田は亮輔の頬を叩いた。
「ゴメンなさい、痛かった?
…いい、あなたは私の子なのよ!それは知ってるでしょ?だから、そんなバカな事は止めて、ねっ?」
「そういやアイツ、オレの事を全く血の繋がってない兄弟だって…
なぁ先生…先生は義理の父親の子供を妊娠して、それがお前だって言われたんだよ。
これはホントなのか?」
「それは、ホントの事よ…
あなたのお父さんと私の間に出来た子供という事になってるけど、実際は義理の父親との間に出来た子供なの。
でも、生まれても認知はしないと言われて…
当時お父さんが勤めていた会社の社長と常務がお父さんが出世する条件として、私とお父さんの間に生まれたって事にしてくれって…」
その言葉を聞いた途端、身体の力が抜けた。
オレは一体誰の子なんだ?
ヘナヘナとその場に座り込んだ。
鴨志田は亮輔を優しく抱きしめた。
「そんなバカな事をするより、この先はどうするの?
あなたは住む所が無いんでしょ?
今はそっちの方が重要なの、分かる?」
「住む所なんて無いよ。
何処に行っても保証人が必要だから、断られてばかりだ!」
「私が保証人になるわ。
それと、僅かだけど、毎月生活費を渡すから、また学校に通って…
定時制でも通信制でも何でもいいから、高校だけは卒業して。
これは先生としてじゃなく、母親としての願いなの…もう、辛い思いをしなくていいから…ね?」
亮輔は鴨志田の胸に抱かれ号泣した。
鴨志田が初めて母親らしい姿を見せた。
「大丈夫よ、私はあなたの本当のお母さんだから。ごめんね、今まで辛い思いさせて…」
鴨志田も涙を流した。
15才の少年にしては、あまりにも過酷な生活を強いられた。
鴨志田は母性が芽生え、何が何でも亮輔を守ろうと心に決めた。
そして、達也に対する愛情から、亮輔に注ぐ母性の方が大きくなっていった。
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