快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

sky-high

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流浪の如く

慢性化する過呼吸

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夜の寒空の公園で、オレはナツとベンチに座っていた。

コンビニでナツに会うと、繁華街に逸れた街灯もあまり付いてない公園に連れていかれた。

「何で拒否してるの?もしかして私の話聞いて、ドン引きした?」

怒っているというより、オレが着信拒否をしている事がどういう事なのか、と問いただしてきた。

こんな、寒い公園で長話なんてしたくない。

「それよか、仕事しなくていいのかよ?こんなとこにいたらサボってると思われるぞ」

早く仕事に戻れと話を逸らした。

「いいんだってば、仕事は。どうせ声掛けても入ってこないよ、今日は」

どうやら店は客の入りが悪く、暇みたいだ。
月曜日という事もあり、週の頭からキャバクラに来る客はあまりいないらしい。

「悪いけど、オレには関わらない方がいい。関わったら、お前も不幸になる」

内心はナツと会っていたい。
だが、鴨志田や兄、レンタルクラブのオーナーに母。皆死んでいった。

オレに関わった人間は、不幸な最期を迎えてしまう。
ナツは鴨志田の妹だ。
今更、オレは鴨志田の実の子供だなんて言えないし、ましてや、この世にいないなんて事は、口が避けても言えない。

「えっ、どうして?急に拒否られたから、私ショックだったんだよ」

言うべきなのか…
明日は鴨志田の月命日だ。

ナツも一緒に連れていくべきかどうか。

「黙ってないで、何とか言ったらどうなの?」

プライベートの時と違って、カールしたセミロングの髪につけまつげ、そして濃い目のメイク。

ナツは美人だな。

その美人も、かなり暗い過去を背負ってきた。

暗い過去ならオレの方が遥かに上回っている。

だからこそ、オレに関わらない方がいいんだ。

「とにかく、オレには関わるな、それだけだ」

「古賀くん、もしかしてお姉ちゃんの事…知ってるのね?ねぇ、そうでしょ?」

悟られてしまったか?
いや、それは無い。

それに、ナツが探している姉の名前すら聞いてない。

「何でオレが知ってるんだよ?第一、お前の姉ちゃんの名前すら知らないんだぞ」

寒くて手が悴んできた。

指先にハァーっと、息を吐いて手を暖めていた。

「お姉ちゃんの名前は紗栄子。広瀬紗栄子って言うの」

…やっぱり!鴨志田は養子縁組する前の名字は広瀬のはずだった。

「広瀬紗栄子?名前だけじゃ分かるワケないだろ?しかも高校の先生って言うけど、オレは高校入って一学期で辞めたんだぞ。
学校に縁の無いオレが知るワケないだろ」

「え?一年の一学期で辞めたって、随分早くない?」

「入学したはいいけど、親が亡くなったからな。おまけに身寄りが無いから、15の時から一人で暮らしていたよ」

「ウソっ、15才で一人暮らし?」

そりゃ、驚くだろうな。
おまけにあの兄に騙されて、しばらくは住む場所すら無くて、ホテルやインターネットカフェを転々としていたなんて言っても信用しないだろうからな。

「古賀くん、両親は?」

「オヤジは海外の出張先で強盗に遭って銃で撃たれて死んだよ。オフクロは事故で亡くなったし」

「え、そんな短い期間でご両親を亡くしたの?でも、兄弟とかいるでしょ?」

「アニキがいたけど、家はちょっと複雑な家庭でな。血の繋がってない兄弟だから、今は何してんだか」

兄の事は言えなかった。
兄の事を喋ったら、うっかり鴨志田の事まで喋りそうになってしまうからだ。

「そんな…じゃあ、お兄さんに助けてもらったりとか出来なかったの?」

この前はオレが質問攻めしたが、今日はオレが質問攻めにあってる。

「さぁ、何せお前と一緒で、オレが産まれて間もなくして離婚したから、アニキの顔すら知らない。
まぁ、戸籍上はアニキだけど、実際は血が繋がってないから親が亡くなった時点で赤の他人だよ」

ウソは言ってない。
オレと兄は血の繋がりは無いのだから。

「…」

ナツもどう言えばいいのか、迷っている。
そんなヤツに掛ける声なんてあるワケがない。

「ところで、お前と姉ちゃんは戸籍上、姉妹って事なのか?」

「うん…一応そうなってるけど。そうか、古賀くんもお兄さんと会ってないのか。何か私たち一緒だね、境遇が。
古賀くんは、お兄さんに会いたいとか思わないの?」

忌まわしい出来事が鮮明に蘇ってきた。

あの兄のせいで、母は廃人になり、鴨志田は消された。

…ぐっ、まただ!また呼吸が苦しくなった…
突如速まる心拍数、いてもたってもいられなくなり、じっと座っている事さえ、出来ない…

口元を手で覆い、なるべく鼻で呼吸しようとした。

だが、一向に治まらない。

「…はぁ、はぁ、はぁ~…ぐっ、はぁ、はぁ、苦しい…」

「どうしたの?古賀くん?」

ナツは驚き、どうしていいか分からず、狼狽えていた。

「すぐに…治る…はぁ、はぁ、ぐっ、くそっ!はぁ…」

ベンチで横になった。

ナツは過呼吸だと分かると、オレの背中をさすった。

「古賀くん、大丈夫?ゆっくり呼吸して、大丈夫だから。私ここにいるから安心して…」

オレは苦しいながらも、この言葉でナツとこれからも会っていきたい。
例えバレてもいい、その時はその時だ、と。
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