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顔を変えた過去

スパイはナツ

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達也の顔に変えた小島は狙われ、ホームから転落して特急列車に撥ねられ、手足や内臓が散乱していた。

(もし、アイツと顔をすり替えなければ、オレがあんな風になっていたのか)

達也は次のターゲットを決めた。

反対側の駅のロータリーには、黒塗りの高級車に沢渡と弁護士が同乗していた。

「どうやら上手くいったみたいだな」

「そうですね。やっとハエが退治出来ましたよ。先生、ありがとうございます」

「ガキのクセに意気がるから、バラバラになってしまうんだ。ホントにバカなヤツだ」

「所詮、大学生が会社を経営できるワケなんてないんですよ。これで邪魔者はいなくなりました」

「ハタチを目前に控えて無様な死に方したんだ、自業自得だろ」

葉巻を吹かしながら、弁護士は沢渡が持っているアタッシュケースに目をやった。

「あぁ、遅れて申し訳ありません。これが今回の費用です。キャッシュで一億、ご確認下さい」

沢渡はアタッシュケースの中を見せた。

ギッシリと札束が入っていた。

「確認しなくても分かるよ。アンタはウソはつかないからな」

葉巻の煙を燻らせ、弁護士は始末した連中に連絡した。

「どうだった?…そうか、バラバラか。じゃあ後で金は払う」

小島を始末した連中は構内が騒然とした後、乗客のパニックに乗じてその場を去っていった。

任務完了という事だ。

だが、その反対側の駅前には、小島に扮した達也が車の助手席に座って、スパイに弁護士の住んでる老朽化したビルへ向かうよう指示した。

沢渡から金を受け取り、ここで車を降りるつもりだろう。

達也とスパイは一足先にビルの近くに車を停め、作業着に着替えた。

後は弁護士が来るのを待つだけだ。

「来たぞ」

すると、黒塗りの高級車がビルの手前で停まり、弁護士がアタッシュケースを持って降りた。

車は弁護士を送った後、去っていった。。

達也たちは少し離れた場所から、様子を見ていた。

「いなくなったな…よし、じゃあ仕事にかかるか。
あのアタッシュケースには、大金が詰まっている。
ジイさんはあの世で、作戦が失敗に終わったことを後悔するだろうな、ハハハハ!」

達也とスパイは台車の上に大きな段ボールを乗せ、階段の上り口に台車を置いた。

段ボールを抱え、弁護士の住む二階へと上がった。

これならば、宅配業者と思うはずだ。

達也とスパイは扉をノックをした。

【コンコン】

「誰だ、空いてるぞ」

いつものように鍵はかけてない。

「すいませーん、宅配便です」

「宅配?何も贈られてくる物などないぞ、帰んな」

「いえ、それが送り先の住所がここになってるんですか」

ここに届け物がくるなんてあり得ない、弁護士は不審に思った。

郵便物は近所のヤクザの事務所に届けられる筈。

この住所に届け物が来るはずがないのだ。

「おい!ひょっとしたらお前、宅配便に扮した鉄砲玉か?」

(ヤバい、勘づかれたか?)

達也は焦った。ここまで用心深いとは思ってもいなかった。

「あ…いや、でもとりあえず中を確認してもらえませんか?僕らホントに宅配の者です」

「ほう…じゃあ、中に入んな」

弁護士は奥の書斎に座り、新聞を読んでいた。

「失礼します」

達也とスパイは大きな段ボールを重そうに抱え、中に入っていった。

「何だ、そのバカデカい箱は?」

弁護士は不思議そうに段ボールの中を開けようとした。

次の瞬間、スパイが短刀を手にし、弁護士の首筋を切り裂くように真横に刃を振り抜いた。

「ガッ…」

弁護士は首から鮮血が吹き出し、すかさず達也は心臓目掛けてナイフを突き刺した。

弁護士は言葉を発する事もなく倒れ、床には血が水溜まりのように溢れた。

二人は段ボールの中に、弁護士を折り畳むように詰めた。

「おい、この血を早く拭き取らないとマズいぞ。モタモタしてると誰か来る」

この付近には、ヤクザが事務所を構えている。

バレたら、二人はその場で殺されてしまう。

予め用意していたウエスで、隅々と床を拭いて血痕を消し、書斎の机に置いてあったアタッシュケースを弁護士の遺体と共に段ボールに入れた。

「よし、底が抜けないようにしっかり持てよ」

二人は段ボールの底を手で押さえながら運び、階段を下りた。

「何でエレベーターが無いんだよ、このビルは」

狭い階段を下り、ビルの入口に置いてあった台車に段ボールを乗せると、停めてあった車の後部ドアを開け、素早く段ボールと台車を乗せ、走り去った。

「よし、これでこの車ごと跡形も無く消して終わりだ」

「…」

「何だよ。今更、罪の意識を感じてるのかよ?」

達也は助手席に座っている、スパイの上着のチャックを下ろし、形の良さそうな胸を揉みしだいていた。

「…あ、あぁ~ん…」

「いいだろ、少しぐらい触らせてくれよ」

「…誰かが見たら変に…んん」

「こうしてると落ち着くんだ。もう少しだけ触らせてくれよ、ナツ」

スパイとは、ナツの事だった。
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