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顔を変えた過去

身代わりの哀れな最期

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スパイと達也は、常に連絡を取り合っていた。それを知らずに、沢渡と弁護士は水面下で行動していた。

弁護士には、機が熟したら正式に依頼する段取りとなっている。

弁護士は裏社会でも絶大的な存在で、彼の指示で、闇に葬る人物を背後に持つ。


後は沢渡からの連絡を待つのみ。

盗聴器は予め、沢渡が察知していると思っているだろう、というのを見越して仕掛けただけで、あくまでも囮のような物だった。

達也は沢渡の先手を考え、盗聴器を全て処分した後、達也抹殺の為に躍起になって行動を共にしている人物達に、スパイを送り込んでいた。


「そうか…沢渡のヤロー、インチキ弁護士にオレを消すよう依頼したのか…
まぁ、いい。その作戦に乗ってやろうじゃないか。
…そうだ、オレは死ぬという事になる。
安心しろ、死ぬのはオレだが、オレじゃない。
…ふっ…まぁ、見てろって。
そろそろ日本に帰る予定だ。
沢渡のヤローから目を離すなよ。じゃ、頼んだぞ」

思った通りだ!オレを消す為に、チョロチョロと陰で動いていたのか。

「バカなヤツだ。この知恵比べ、どっちが上か思い知らせてやる」

小島になった達也は、この国の女と遊びまくって、帰国の日を迎えた。

「いいか!もし、お前の身に何かあった場合、弁護士を呼べ、と言うんだ。その弁護士は超一流だ。
だから何があっても、お前は心配する必要は無い。分かったな?」

帰国の際、達也は小島と入念な打ち合わせをした。

「あぁ、分かった。でも何かあったらって…お前、ヤバい事でもしてんのか?」

小島は怪訝そうな顔をしている。
コイツ、何か悪いことしてるんじゃないかと。

「バカ、万が一の話だよ!何せ、この年で社長になったから、妬みだとか色々あるんだよ~。
でも、お前はオレの代わりに社長になったんだから、ドンと構えてりゃいいんだ!
心配すんなって」

機内でそんな事を話してる頃、日本では、亮輔が鴨志田が最後に残したメールを見ていた頃だった。

このメールの内容を見せ、達也を告発して欲しい。
そしてこれ以上犠牲者が出ない為に。

亮輔は遺言とも言える、メールの内容を警察に見せ、達也を重要参考人として出頭するように命じていた。

タイミング良く、達也と小島が帰国した直後、小島は任意出頭の為、事情聴取をされてしまった。

「じゃあな、小島。もうすぐ、弁護士が来る。釈放された時、お前の人生はそこで終わる…
助かったよ、お前が借金まみれのバカで…
まぁ、あの世で自分の愚かさを悔いるんだな」

達也は小島と空港で別れ、小島が住んでいた六畳一間のアパートに着いた。

【万が一、何かあったら弁護士を呼べ】

小島は達也の言った言葉を思いだし、沢渡に弁護士を呼ぶよう伝え、警察に任意同行された。
沢渡はマスクをしている達也の様子を見て、気のせいか、いつもの達也とは違うように思えたが、帰国してすぐに警察署に連れていかれたので、偽物の達也かどうか見分けがつかないまま、弁護士の下へと向かった。

(釈放された時、お前の最期だ)

「おい、車を出せ」

部下に命じて、沢渡は車に乗り込み弁護士を迎えにいった。


小島は、何が何だか分からぬまま、署に連れていかれ、鴨志田のメールの内容の事を聞かれ、どうしていいか分からず、ただ狼狽えていた。

(アイツ、人を殺したのか?って事は、オレはアイツにハメられたのか?…あのヤロー!だから、顔を変えようなんて言い出したのか!)

時既に遅し、だった。

勿論、小島は何も知らないので、聴取にも知らぬ存ぜぬの一点張りで、後は黙秘を貫いた。

弁護士が来るまで待つしかない。

一方、小島のアパートの部屋では、達也がスパイからの情報を得て、小島は釈放されたと同時に、命を狙われるという情報を得た。

「亮輔のヤツ、あの時消すべきだったな!それにしてもあの女、最後の最後でとんでもねえ切り札出してきやがった。
…でもまぁ、消されるのはオレじゃなく小島だからな。アイツもいいヤツだったんだがな…ギャハハハ!」

部屋では、達也の笑い声が響き渡っていた。

しばらくして、弁護士によって釈放された小島は礼を言った。

【会社では、横柄にしてりゃいいんだよ。誰もオレに逆らうヤツなんて、いないんだからよ】


その言葉を思いだし、弁護士にも高圧的な態度をとっていた。

「で、先生にいくら払えばいいんだ?」

(うん、こんな感じだろう。何せ、一番偉いのは達也、いやオレだからな)

すると、ドスの効いた声で、弁護士は一喝した。

「調子に乗ってんじゃねえぞ、テメーっ!!今置かれてる立場考えて物言ってるのか、おいっ!」

この迫力で小島は怖じ気づいたが、達也になりきる為に、一歩も怯まなかった。

「たかだが弁護士の分際で何、上から偉そうに言ってんだよ?いいか、アンタは黙ってオレの言う通りに仕事してりゃいいんだよっ!!分かったのか、おいっ!」

弁護士も、沢渡と同じく達也を見て、違和感を感じた。
何か違う。
気のせいか…

「へっ、せいぜい意気がってろ…お山の大将が。テメーの足元、よーく見てから物言うんだな」

意味深な言葉を残し、弁護士は去っていった。

小島に扮した達也は、一足先に最寄りの駅前に着いた。

「ここで電車に轢かれて死ぬ。そう言ったんだな?」

助手席のスパイに再度確認した。スパイは無言で頷いた。
車を駅前に停め、小島が来るのを待った。
駅の反対側のロータリーでは、沢渡が同じく車を停め、弁護士が手配した裏の世界の人間達が、ラッシュアワーでごった返しているホームに紛れていた。
全員スーツを着て、メガネをかけている。
サラリーマンの格好をしているので、見分けがつかない。

小島は、会社に着いたら金を自分の口座に振り込み、それでギャンブルをやろう!
そんな事を考えながら、迎えに来る車を待っていた。

だが、いつまで経っても、車が迎えに来る様子はない。

小島は苛立ちながら、会社に連絡した。

「おい!いつになったら、迎えに来るんだ?さっきから待ってるのに、一向に来やしねえじゃねえか!…あ?誰もいない?ふざけんなバカヤローっ!迎えに来るのが筋ってもんだろ!もういい、タクシーでも電車でもいいから、そっちに向かう!いいか、あのバカどもに伝えとけ!
このオレを迎えに来ねえとは、どうなってるか分かってんだろうな?って!」

苛立ちながら電話を切った。
それというのも、達也は機内で、着陸前に小島にある事を伝えた。

「いいか…まず会社に着いたら、社長室に行け。そこでパソコンを開くと、経理に関するファイルがあるから、それをクリックしろ。
そこには、会社の金の事が全て記録されてる。まぁ、財布代わりみたいなもんだよ。これ渡しておくな。
パスワードだから、絶対に無くすなよ」

小島にパスワードの書いたメモを渡した。

ポケットには、パスワードが書かれているメモが入っている。
一秒でも早く会社に着いて、ファイルを開け、金を横流しして遊びに行きたいからだ。

勿論、達也のウソだ。
ほとんどの金は、達也が既に懐に入れてしまったからだ。

小島はダッシュで、駅に向かった。
早く帰って、パソコンを開かねば…

「来たぞ」

駅前に停めてあった車の窓から、小島が息を切らせながら走っていった。

「よし、ここで待ってろ。オレもホームに向かう」

達也は車から降り、駅のホームへ歩いていった。

小島が駅に着いた時間帯は、ラッシュアワー時で、サラリーマンや学生達でいっぱいだった。
列に並んで、電車が来るのを待っていた。

達也は反対側のホームで小島を探していた。
達也のいるホームは、郊外へ向かう方面の電車のため、反対側のホームに比べると、乗客数は少ない。

「いたっ」

達也は小島を見つけた。

順番を待つ乗客や、行き交う人に肩がぶつかり、イライラしてるのが遠目からでも分かる。

「邪魔だ、どけっ!」

小島のイライラは最高潮に達し、前へと乗客を押し退け、割り込みをして電車が来るのを待った。


特急列車の通過の為、ホームの線に下がってお待ち下さい、とアナウンスが流れた。

特急列車が、速度を落とさず駅を通過しようとした。

その瞬間、数人のサラリーマンに囲まれ、後ろから押されるような形で、ホームから転落した。

そして、特急列車に轢かれ、小島は肉片となって線路に飛び散った。

達也はその様子を眉一つ動かさず見届けて、立ち去った。

騒然とする構内、気を失う乗客、パニックとなり、反対側のホームは乗客が右往左往していた。

(じゃあな…小島。オレの代わりになってくれて、ありがとよ。次は反対側のロータリーにいる、あのジジイだ!)

周りが騒然とする中、駅を出て、スパイが待機している車に乗り込むと、弁護士の住んでる老朽化した建物に先乗りした。
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