最強のエンターテイメント

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Roots Of Wrestling 最強

シュートサイン

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ギガンテスに見舞ったジャーマンスープレックスを見た外国人レスラー達が

「あの受け身の取れないスープレックスは危険だ。あんなのを食らったらオレたちはたまったもんじゃない!ジングウジに伝えてくれ、あのスープレックスを試合で使うな、と」

ギガンテスは頭部のダメージが思った以上に重症だったらしい。

幸い脳への影響は無かったが、脳震盪を起こし、フラフラで歩くことも困難な状況で、試合会場に救急車が駆けつけ、そのまま病院に直行した。

そのまま病院で一晩過ごし、翌日には退院したが、大事をとって翌日の試合は欠場させようと、会社側で判断したみたいだ。 

ギガンテスは外国人レスラーの中でもエース的な存在で、過去にはWWAのチャンピオンにも輝いた程の実績もある。

その元チャンピオンが中堅レスラーのジャーマンスープレックスで病院送りにされてしまったのだから、他の外国人レスラー達はオレのスープレックスを止めるよう会社側に申し出た。

オレは会社の上層部から、その事を言われ、反論した。

「冗談じゃない!オレのスープレックスが危険だと?ならば垂直落下式の技の応酬はOKでオレのスープレックスがNGって事なのか?
オレたちはプロレスラーなんだぞ!その為に相手の技に耐えられる程のトレーニングをしてるじゃないか!
プロレスラーってのは投げたり投げられたりするのが仕事のうちだろ?受け身の練習だって徹底的にやってるじゃないか!
オレにスープレックスをやるなって、じゃあ何をやればいいんだ?」

オレは猛反対した。

サーカスのようにアクロバットに飛んだり跳ねたりする技や、頭を垂直に落とす技ばかりが目立つ最近のプロレスの方が危険だ。

ファンが要求する、見たこともない、インパクトの強い大技ばかりを繰り出して、カウント2,9のギリギリで返すスタイルばかり求めていたら、プロレスはダメになってしまう。

最終的にはどんな技を使えばいいんだ?
それこそ命のやり取りになりかねない大技だらけになってしまうぞ!

オレはそんなプロレスなんか出来ない。

スープレックスが危険?じゃあお前らのやってる技は何なんだ?

頭を打ち付け合いながら、カウント3ギリギリで返す大技の応酬がプロレスというのか、冗談じゃない!


オレはそんなプロレスを否定する為にクラシカルな技を使い、パフォーマンスや派手な動きなんか必要ない、本格的なレスリングがしたいだけなんだ。


だが上層部はオレの反論を聞き入れてくれなかった。

そしてオレはしばらく試合に干された。

会社側の言うとおりに従わないというのなら、試合には出さない。

昔ながらのレスリングよりも、エンターテイメント性のある、スリリングでダイナミックな技の応酬をファンは要求しているんだ、と。

それがイヤならWWAを退団しろ、とまで言われた。

オレは退団するつもりでいた。

こんなパフォーマンス重視でスタイリッシュで洗練されたエンターテイメントレスリングをするぐらいなら、オレは自分のやりたいレスリングをする場所を見つける。

だが、今のプロレスはオレのようなクラシカルなスタイルを繰り広げるレスリングを受け入れてくれる団体なんて無かった…

こうなりゃいっそ総合格闘技に転向しようか、そんな事も視野に入れていた。

来る日も来る日もセコンドでリングサイドで試合を見る日々、これじゃまるで新弟子と一緒だ。

時折会場からファンの声援が飛んでくる。

【神宮寺、何で試合やんないんだよ?】

【またあのジャーマンみせてくれよ!】

【今度いつ試合するんだよ?】

そんなファンの声援を背に受け、オレはセコンドで忸怩たる思いをしていた。

試合に出たい…
オレはセコンドをやるためにここにいるんじゃない!

リングサイドじゃなく、リングの上に立ちたいんだ、そして試合がしたいんだ!

オレは自暴自棄になりかけ、毎晩酒を浴びるように飲んで、憂さ晴らしの為に道場で若手相手にスパーリングでしごいた。

「どうしたっ!まだ動けるだろっ!立てっオラ!」

オレと若手じゃスパーリングをしても何の得にもならない。

雲泥の差があって、オレは面白いように技を極める。

タップしてもすぐには技を解かない。

「おら、返してみろ!すぐにタップすんじゃねぇ、悔しかったら返してみろ、このヤロー!」

試合に出れない悔しさを若手にぶつけていた。

若手は戦々恐々で、今日は誰がオレの関節技地獄に付き合わされるのか、そんな事を考えながらトレーニングしていたのだろう。

これじゃただのイジメだ、そんな事は解ってる。
解ってるんだが、こうでもしないと日頃の鬱憤を晴らす事が出来ない。

同期の財前はチャンピオンとして防衛記録を更新している。

それなのにオレはこうやって道場で若手相手にいたぶってる毎日…

バカバカしい!

辞めた辞めた!こんなとこ辞めて総合格闘技に転向しよう!

総合のジムに久しく顔を出してないけど、これを機に総合格闘技の練習を徹底的にやろう!


プロレスラーは強くなければならない。
WWA創始者カイザー大和の言葉だ。

見せかけの飛んだり跳ねたりする技や真っ逆さまに落とすだけのプロレスにウンザリしてきた。

そして今シリーズが終了した時、オレはWWAを退団しよう。

もう、こんな団体に未練など無い。

そう思って退団届けを書いた。

だがシリーズ最終戦、メインイベントの財前のタイトルマッチ前に意外な人物が登場し、場内は騒然とした。


客席で観戦していたガタイの大きな男がいきなり花道を走りだし、私服姿でリングに上がり、マイクを手にした。

【斎川だ!】

【何だ何だ、いきなり!】

【帰れ、ここはデスマッチだらけの邪道のプロレスをする所じゃねぇぞ!】

【帰れ!帰れ!帰れ!】


インディ団体【Danger(デンジャー)】のエース、斎川英樹(さいかわひでき)がリングでマイクアピールした。

「おい、WWA!何がエンターテイメントだ、コラ!
エンターテイメントならオレたちのデスマッチを受けてみろ!
おい、財前!聞いてるか?お前ここのチャンピオンだろ?
オレの世界デスマッチ選手権とお前のWWAのベルト賭けて一騎打ちだ、おい!
聞いてるのか財前!」

この言葉をきっかけにセコンドがリングになだれ込み、乱闘を始めた。

斎川の他にもDangerに所属するレスラー達が入り乱れ、タイトルマッチ前に両軍が大乱闘を起こした。

オレはセコンドにいたが、こういったアングルにも嫌気が差していた。

誰だ、こんなアホらしいアングルを考えたのは?

オレは蚊帳の外で乱闘の中に入って行かなかった。

もう、こんな茶番劇にはうんざりだ。

控室で荷物をまとめてさっさと帰ろう、そう思ってオレは花道を歩いて控室へ向かおうとしていたその時、斎川はオレを名指しして挑発した。

「おい、神宮寺!お前最近試合してねえじゃねぇか!まずはお前から潰してやろうか、おいっ!」

斎川のマイクでオレを挑発していた。

アホか、オレはそういった類いのヤツが一番シラケるんだよ…

シカトして花道を歩いていたが、観客から物凄い神宮寺コールが起こった。

【神宮寺、斎川をぶっ潰してくれ!】

【神宮寺~っオレはまたあのジャーマンが見たいんだよ!】

【神宮寺、ガチで斎川潰してしまえ!】

【神宮寺!神宮寺!神宮寺!】

オレは迷った…

デスマッチと言っても、凶器を使って、ロープの代わりに有刺鉄線に電流を流して爆破したり、バットに有刺鉄線をグルグル巻きにして叩きつけたり、画ビョウや蛍光灯、場外には五寸釘を敷き詰めプロレスとは言えないような試合だ。

凶器という凶器を使い、互いに血だらけになり、身体中に何針も縫った傷痕を己の勲章とばかりに誇らしげにしている。

オレの目指すスタイルとは正反対で、関わる事は一切無いと思っていたし、あんなのはプロレスじゃない、ただのキワモノだ。

「逃げるのか、神宮寺!総合で勝ったからっていい気になるなよ、おいっ!」

いい気?いい気どころか、邪魔者扱いされてんだよ、こっちは!

斎川はマイクアピールを止めない。

「ギガンテスをジャーマンで病院送りにしたんだろ?なら今度はオレがテメーを病院送りにしてやるぞ!あの程度のジャーマンなんかでいっぱしのプロレスラー気取りしてんじゃねぇっ!」

…プロレスラー気取り?あの程度のスープレックスだと?

オレは花道を引き返してリングに向かった。

リング上ではまだ乱闘を繰り広げてる。

オレはリングサイドで、リングの上では我が物顔の斎川が見下ろしている。

【神宮寺、やれ~っ!】

場内は大神宮寺コールだ。

このコールを受け、身体中の血が滾ってくる。

打ち震える程、心の底からリングに上がりたい、試合をやりたい!

このコールに応えなければならない!

向こうは当然デスマッチでくるだろう、何処のリングでやるのか?
間違ってもここのリングじゃないだろう。

となると、Dangerのリングしか無い。

オレはリングに上がった、そして更なる神宮寺コールで沸き上がって、ボルテージはマックスだ。

オレは乱闘をしている選手達を制してマイクを取った。

そして初めてマイクアピールをした。

「見ての通り、オレは今、干されてるんだ。そんなに試合をしたいなら何処のリングでも構わない」

オレは絶叫するワケでもなく、訴えかけるワケでもなく、淡々とマイクアピールした。

【マジかよ、神宮寺干されてるのかよ?】

【やっぱギガンテスにジャーマンやったのが原因だったのか】

場内がざわついている。

斎川は今にもオレに襲いかかりそうな勢いで、周りの選手達が止めている。

オレはリングの中央でぐるっと四方を見渡した。

久々に上がるリングで観客の様子がよく見える。

うん、これだ。この眺めがリングの上から見る眺めだ、オレはこのリングに上がって試合をしなきゃならない、それがプロレスラーたる所以だ。

そして最後に一言だけ斎川に告げた。

「やるならこれだ」

オレは右腕を上げ、親指と人差し指を立てた。

ピストルのサイン、いわゆるシュートだ。

うぉ~っ!と鳴り止まない歓声の中、オレはリングを降りて、花道へ引き上げて行った。

初めてのマイクアピールでシュートを公言するのなんてオレぐらいなもんだろう。

2週間後、Dangerが興行を行う野外スタジアムでオレと斎川のシュートデスマッチがメインイベントとして発表された。
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