最強のエンターテイメント

sky-high

文字の大きさ
11 / 50
Roots Of Wrestling 最強

強さを求めて何が悪い?

しおりを挟む
斎川がリングに上がったのはアングルでも何でもなく、WWAの許可無しに勝手にリングに上がり、対戦を要求しただけで、こっちとしては既に両団体との対抗戦が始まるというアングルだと思っていた。

それにオレが乗っかってしまい、Dangerは即座にメインの試合として、オレと斎川のデスマッチをやるとぶち上げた。

セコンドばかりで試合をやりたくてウズウズしていたオレはまんまとDangerサイドの思惑通りに動いてしまったワケだ…

翌日、本社に呼び出され、上層部からえらい剣幕で怒られた。

【今やメジャー団体ナンバーワンのWWAがデスマッチ主流のインディ団体と対抗戦をして何の得になるというのだ】と。

しかも【お前は向こうの挑発に乗ってしまったんだ、しかもリング上でシュートを仕掛けるだなんて、一体何を考えているんだ!】

そんな事言っても、もう向こうの挑発に乗っかったんだ、今さら後には引けない。

それならば、とオレは退団届けを提出した。

2週間後に行われるDanger主催の試合にはフリーとして出場する、それなら問題は無いだろうと。

新体制になったWWAの役員達はオレをどのようなレスラーにしようと考えていたのか?オレはこの際だから聞いてみた。

だが、新たに生まれ変わったWWAはオレというレスラーをあまり重要視していなかった。

総合格闘技に出たのも、以前のオーナーであるカイザー大和の指令の下であって、今のWWAのカラーに合うタイプのレスラーではないと判断していて、会社側としては、タッグ専門のレスラーとして、タッグチャンピオンにさせるつもりだが、団体の4,5番目の存在、つまり中堅レスラー止まりで、とても財前のライバルという立場には程遠い。

おまけに外国人レスラーのエースであるギガンテスをスープレックスでKOし、欠場させたというペナルティとして、無期限の試合停止処分でセコンドでリングサイドから試合を観る日々。

リングに上がらないレスラーなんてレスラーじゃない…
新弟子じゃあるまいし、オレのフラストレーションは溜まりに溜まっていた。

後から来た後輩のレスラーに後塵を拝するような形で遅れをとり、ただリングサイドでセコンドとして巡業に帯同するだけ…

どのみち、昨日はシリーズ最終戦で、メインの試合が終わった後に退団の話をしようと思っていたところだった。

ギガンテスをKOしたスープレックスは危険すぎるし、他の外国人レスラー達からは、あんなスープレックスを受けたくない、受け身が取れないと苦情もきている。

総合格闘技で勝利し、ギガンテスをKOしてここから勢いに乗って財前の保持するチャンピオンベルトをオレの腰に巻くという目論見はあっさりと崩れ去った。

おまけにエンターテイメントプロレスを掲げる我が団体に古くさいレスリングをする地味な選手をどうやって売り出すのか、会社側としてはオレの扱いに困っていたところみたいだが、もうオレ自身がこのWWAという団体に何の魅力も感じなくなってしまった。

斎川との試合はWWAを退団し、どこの団体にも属さないフリーランスのレスラーとしてDangerのリングに上がると言う事を伝えた。

【ウチの団体を出ていった選手の言った事で、我々としてはこの件に関しては一切タッチしない。だからお前が何処のリングに上がって試合をやろうが構わない。
アングルやブックに関してはDangerサイドと個人で話し合ってくれ】

これがWWA側の出した答えだった。

しかし、プロレス最後の試合がデスマッチとは…

仕方ない、これからは総合格闘技でプロレスラーという肩書きで試合をしよう、そう心に決めていた。

 だが、オレの退団に待ったをかけてくれた人物がいた。

WWAの最高顧問という立場で、かつてはカイザー大和と共にWWAのリングでしのぎを削った、佐藤隼士(さとうしゅんじ)という人だ。

プロレス入団前は柔道でオリンピックに出場した経歴を持ち、帝国プロレスに入団。

その後はカイザー大和と同時に帝国プロレスを退団し、WWA旗揚げに一役買って出た往年の名レスラーだ。

そしてもう一人は、当時WWAの営業部長で、この人がいなかったら、現役のボクシング世界ヘビー級チャンピオンがカイザー大和と異種格闘技戦を行う事は無かっただろうと言わしめた、山田重信(やまだしげのぶ)という、かつてはカイザー大和の参謀的存在で、現在はWWAで相談役という役職に就いている。

この山田という人は人脈がかなり広く、カイザー大和を日本のトップレスラーにする為、大物格闘家をリングに上げる事に奔走した。

【ストロングスタイル】

【キングオブスポーツ】

【プロレスラー最強】

こういったキャッチコピーでプロレスの全盛期を築き上げた影の功労者だ。

この二人がオレの退団に異論を唱えた。

「強さを証明するのがプロレスラーなんじゃないのか?エンターテイメントもいいが、レスラーは強さの中にエンターテイメント性が必要とされる。なのに今のプロレスは何だ?強さよりもエンターテイメント第一だと?履き違えた事をしてるのはお前らだ!プロレスを何だと思ってるんだっバカものが!」

佐藤さんは役員達の前で一喝した。

さすが老いてもかつての名レスラーだ、その迫力に役員達はたじろいでいる。

山田さんもその場にいて、今のプロレスの在り方というのに異論を唱えていた。

「イロモノみたいな選手ばかり増えてプロレスラーの凄みが全く伝わらない!飛んだり跳ねたりして、顔の良いヤツらばかりを売り出して強さを全面に出すレスラーがいないじゃないかっ!そんなにサーカスの曲芸みたいな技が必要か?」

山田さんもカイザー大和がプロレスラーが強いという証明を見せつける為、世界各国の名だたる格闘家相手に異種格闘技を行い、その都度世界に渡り交渉をしてきた。

「しかしですね、今のプロレスというのは昔と違うんですよ。ファンはより洗練された見映えのいいレスラーと技、そしてアピールの度合いによって人気が増えてくるんです。
強さばかりを競うなら何もプロレスじゃなく、総合格闘技があるじゃないですか?」

役員の一人が反論した。

「お前はプロレスというのが何が一つ解ってない!だから素人みたいなヤツらがプロレスラーだなんて名乗っていくつもの団体が乱立してるんだっ!」

佐藤さんの言うとおり、今のプロレス団体はメジャー、インディ問わず合わせて何十団体もある。

オレも全部のプロレス団体の名称や、どんなレスラーがいるのかも全く知らない。

コミカルなリアクションをする団体もあれば、男女混合の試合にをする団体もある。

一目見て、ごく普通の一般人みたい人物がプロレスラーを名乗る時代だ。

佐藤さんと山田さんはそんな今のプロレスの在り方について異を唱えている。

「とにかく我々は彼の退団届けをハイそうですかって受理するワケにはいかない」

山田さんはオレの退団届けを受理せずに保留という形にして欲しいと言い、佐藤さんも山田さんと同じ意見だった。

そしてこの二人に言われたのはただ一言

「お前のシュートを見せてもらおう」

二人はニヤって笑ってオレがどのような試合をするのか、お手並み拝見といった感じの様子だった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

処理中です...