最強のエンターテイメント

sky-high

文字の大きさ
12 / 50
Roots Of Wrestling 最強

過去に逃げ出した男

しおりを挟む
オレはWWA所属という形でDangerのリングに上がり、試合を行う事が決定した。

オレの退団届けは佐藤さんと山田さんの提案により、保留という形で、全てはこの試合の結果次第で判断する考えだ。

この試合は、オレが斎川の挑発に乗るという形でDangerサイドが一方的にカードを組んだ事で、試合当日はセコンドに誰も付けず、オレ一人でDangerのリングに上がる。
これはオレの要望で、いくらWWA所属とはいえ、会社側は無関係で、あくまでオレ個人の問題として、単身でDangerのリングに上がると伝えた。

【そんな事は無茶だ!】

【必ず誰か一人でもいいからセコンドに付けろ】

だがこれはオレ個人の為にやる試合で、しかもシュートと公言した。だからこそ他の選手を巻き込みたくない。

試合の1週間前に斎川VSオレの
【シュートとデスマッチどちらが最凶か】
という見出しで調印式を兼ねた会見が行われた。

おれはスーツ姿で、会見の場に現れ席に着いた。調印式という事もあって、さすがにこの場だけはオレ一人というワケにはいかず、関係者と若手レスラー数名が会見場の袖で様子を見守っていた。

アングルで斎川が会見の場をグチャグチャにする可能性もあり、いつでも飛び出して行けるようにスタンバイしている。

一方の斎川は、試合の時と同じような膝の破れたデニムにTシャツ姿というラフなスタイルで現れ、オレを睨みつけるかのようにして、席に着かない。

今さらどんなアングルやるんだ、どうせ暴れて会見の場が荒れるだけだろ。

オレは向こうのアングルに一切乗っかるつもりは無い。

間に入ったDangerの社長が斎川をなだめ、席に座らせた。

会見の席にはオレと斎川の間にDangerの社長が座り、調印式が行われた。

オレは試合内容も向こうに任せているので、ただサインだけ記入した。

調印式が終わり、記者からの質問にオレや斎川は答えるといった会見になった。

【神宮寺選手、今回の試合はDangerでのリングでしかもアウェイという立場になりますが、何故デスマッチを受けるつもりになったのですか?】

オレは座ったまま表情を変えずに淡々と答えた。

「何故と言われても…まぁここ最近試合をしていなかったせいもあって、身体が鈍っていたままじゃマズイなと。で、今回こういう形で試合をする事になっただけですね、はい」

斎川はずっとオレを見ている。

今にも襲いかかりそうな勢いの表情だが、オレは一切無視した。

【斎川選手、前々からWWAに対戦要求してようやく実現できるようになりましたが、神宮寺選手はシュートを仕掛けると言ってますがそれについて何か対策はあるのでしょうか?】

斎川は身を乗りだし、鉄柵の中で暴れてる動物園のゴリラみたいにマイクを持って立ち上がり、オレに向かって捲し立てた。

「いいか、シュートだか何だか知らねえが、総合格闘技で勝ったのがそんなにスゲーのか?ジャーマンで相手をKOしたのがスゲーのか、えぇおい!こっちのデスマッチの方が10倍、100倍も危険でスゲーんだよ!本来ならチャンピオンの財前が出てくるのが当然だろ!
なのに総合格闘技でちょっとだけ名前が知られたヤツなんかと試合なんてしたかねぇんだよ、こっちは!
いいか、何がシュートだ?シュートよりもオレたちDangerのデスマッチの方が遥かに上なんだ、解ったか、おいコラ!」

オレは斎川の方を一切見ずに次の質問に答えた。

【神宮寺選手、シュートを公言しましたが、ホントにシュートをするつもりなんですか?】

「そうです。今回の試合はシュートです。もしシュートじゃなきゃ自分はリングに上がるつもりはありません」

斎川は再び立ち上がり、オレに襲いかかろうとした。

と同時に袖から両団体の関係者や若手レスラーが駆けつけ斎川を抑えつけようと必死だ。

「おいっ!テメーシュートにこだわりたいらしいな?こっちはシュートでも何でも構わねえ、その代わりオレたち流のデスマッチにビビって逃げ出すんじゃねえぞ、コラ!」

オレは斎川を終始無視した。

「試合内容が何であれ、プロレスとは鍛え上げられた己の肉体から繰り出すパワーやテクニックで闘う事だと思っています。
凶器でも何でも使って構わないです。こっちの条件はただ一つ、シュートで闘いますので。
これを肝に命じておいてください」

そう言うとオレは立ち上がり

「ルールもそちらにお任せします。スリーカウントのプロレスルールか、ギブアップまたはKOのみの決着、どちらでも構いません。
こっちは凶器を一切使いません。唯一凶器と言うならば、この身体を鍛え、道場のスパーリングでボロボロにされながら身に付けたシュートレスリング、デスマッチ流に例えるなら、パンクラチオンスタイルで挑むだけです。下手なアングルはいりません。自分はプロレスラーとしてリングの上で闘う。ただそれだけです」

オレはDangerの社長に頭を下げ、会見の場から去った。

収まりのつかない斎川は、怒り狂い、会見の壇上にあった机を投げ飛ばし、椅子を振り回して暴れまくっていた。

オレはプロレスラー、リングで試合するのが仕事だ。

今回の試合だけは何がなんでもシュートで決着をつける。

ブックなんて必要ない。

WWAの関係者には、試合となればギャラが発生するが、別にノーギャラでも構わない、とにかく絶対にブックの話だけはしないでくれと伝えた。

もしブックの話を受けたらオレは当日リングには上がらない。

これはDangerの社長にも事前に伝えた。

後は試合に向けてコンディションを整えるだけだ。

オレは道場でトレーニングせず、総合格闘技に出た時に世話になった道場でトレーニングをした。

インディだかメジャーだか知らないが、この日本にプロレス団体の数はあまりにも多すぎる。

お世辞にもプロレスラーとは言い難い連中がプロレスラーと名乗っている。

Dangerの試合はオレが中学高校の時にテレビで何度か特集をやって観たことがある。

創始者は浅野透(あさのとおる)
かつてはカイザー大和も在籍した帝国プロレスでジュニアヘビー級のチャンピオンとして活躍していた。

カイザー大和はその頃既にWWAを旗揚げをして異種格闘技戦を行っていた時期で、両者との間に接点は無い。

浅野は帝国プロレスで正統派レスリングを駆使してジュニアヘビーのタイトルを何度も防衛し、主力選手の一員で人気もあったが、度重なる膝と首の故障により、ドクターストップがかかり、これ以上プロレスを続けると一生寝たきりの生活になると言われ、現役を退いた。

引退後は飲食店を経営し、実業家として成功したが、まだプロレスに対して未練が残り、不完全燃焼のまま引退した事、そして故障がちな身体をもう一度鍛え直し、現役に復帰した。

だが、一度引退した選手を受け入れる団体は無く、浅野は経営していた飲食店の土地を売り、その資金で新団体Dangerを旗揚げした。

浅野の他に、フリーランスで試合をしていた選手や、他団体でくすぶっていた選手や待遇に不満を持っていた選手達を集め、中規模の会場で旗揚げ戦を行った。

しかし、これといったネームバリューのある選手もおらず、テレビ中継というバックも無い状態で観客は僅か数十人という散々な結果に終わり、早くもピンチを迎えた。

そこで浅野が思い付いたのが、ロープの代わりに有刺鉄線を張り巡らせ、電流を流し、有刺鉄線に触れると爆破するという、【有刺鉄線電流爆破デスマッチ】を行った。

有刺鉄線に触れる度に派手に鳴り響く爆薬と煙硝で観客の度肝を抜いた。

このアイデアが効を奏して、Dangerは一躍人気団体として脚光を浴びた。

だが、このスタイルは賛否両論で、
【こんなものプロレスじゃない、ただのキワモノだ】という反対派の意見もあれば、
【いや、あのスタイルは評価するべきだ!あれだけ血だらけになって被爆して試合が出来るレスラーが他の団体にはいない】と良くも悪くもプロレス界に斬新すぎるデスマッチを持ち込み、浅野は一躍時の人となり、各メディアに引っ張りだこだった。

その浅野も年齢からくる衰えで、晩年はデスマッチをやらず前座で若手相手に試合をしていた。

その浅野の後継者として注目を浴びたのが斎川だ。

そして浅野の引退試合の相手として、金網有刺鉄線電流爆破デスマッチを行い、勝利してDangerのエースは斎川になり、世代交代する形で浅野は引退した。

斎川がエースになったDangerは、各インディ団体に呼び掛け、【インディペンデント王者決定デスマッチトーナメント】という、インディ団体の選手達で真のインディ団体を決めるトーナメント方式を行い、斎川が初代インディペンデント王者に輝いた。

斎川は浅野がいた頃のDangerより過激なデスマッチを敢行する為、有刺鉄線の他に、画ビョウをマットの上にばらまき、場外を五寸釘で敷き詰め、バットに有刺鉄線をグルグル巻きにして、相手に振り回し、蛍光灯やガラスの破片、カッターナイフ使用のデスマッチを繰り広げ、斎川の身体中はキズだらけで何針も縫った跡が無数にあり、このキズこそがデスマッチ王としての証だと豪語していた。

帝国プロレスやWWAに挑戦状を何度も送り付け、誌上でオレと闘え!と何度も挑発したが、メジャーと呼ばれる団体は斎川を無視した。

というのも、斎川は中学卒業後、WWAに入門した経験を持つが、練習がキツくて僅か3ヶ月で道場から逃げ出し、その数週間後にはDangerの第一期入門テストを行い、合格してDangerでデビューした。

年齢はオレや財前と同じだが、中学を卒業してこの世界に入ったから、一応先輩レスラーって事になる。

だが、ウチの練習についていけず逃げ出したヤツが今さら挑戦状を叩きつけても誰も相手にしなかった。

その誰も相手にしなかった斎川を相手にしてしまったのがオレという事だ…

    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...