14 / 50
Roots Of Wrestling 最強
デスマッチしか出来ないプロレスラーもどき
しおりを挟む
試合当日、空は雲行きが怪しく、今にも雨が降りだしそうな夕暮れ時だった。
【シュートVSデスマッチ最凶決定戦】
都内近郊にある野外スタジアムで開催出来るインディ団体はDangerぐらいだろう。
オレは少し早めに会場入りし、控え室で上下のジャージに着替え、スタジアムのグランド内を軽くランニングした。
まだ客入り前の広々としたスタジアム内では内野と外野の境目辺りにリングを設置する業者と若手レスラーが忙しそうに鉄柱を担いだり、ロープの張り具合をチェックしていた。
緑の天然芝が繁っている外野のフィールドには無数の椅子が並べられ、野球場が数時間後には電流爆破と煙硝によって火薬の匂いに包まれるのだろう。
オレの試合はメインイベントだからまだ数時間先の出番だが、いつも通りに早く会場に来て練習する。
いつもなら試合前はリングの上で入念にストレッチをして、スクワットやプッシュアップをして、スパーリングを行い汗を流していた。
今日は他団体のリングに上がるので、スパーリングする相手もいない。
本来ならセコンドに付く若手レスラー相手にスパーリングでも行うのだが、今日はオレ一人でDangerのリングに上がるのでセコンドの必要は無いと言った。
何せ試合と言っても、こっちはシュートで向こうはデスマッチだ。
どんな試合になるのか…いや試合にならないような凄惨な結果になるのかもしれない。
とにかくこの試合に関しては、オレがDangerのアングルに乗っかった形で試合をする事になってしまったので、他の連中を巻き込むワケにはいかない。
スタジアムの外野席や内野席の階段をダッシュで上り下りをして軽く汗をかいた後、出来上がったリング上で若手レスラーが受け身の練習やロープワークをしてリング内を縦横無尽に走っている。
ウチの団体とは全く違う練習方法だ。
この団体は練習を指導する人物はいないのだろうか?
リングサイドではスクワットをしている練習生らしき坊主頭のヤツや、試合で使うバットに有刺鉄線をグルグルと巻いてるヤツ、その他の連中はリングの上でマットの固さをチェックしていた。
オレはバックネット裏からヤツらの練習風景をじっと見ていた。
各自トレーニングを黙々とこなしているが、スパーリングはやらないのか?
一体誰から教わっているんだろう?
コイツらレスリングの基礎を知ってるのか?
オレにとっては疑問だらけの練習風景だった。
「神宮寺さん」
背後からオレを呼ぶ人がいて振り返るとジムで練習していた時に取材に来た記者がバックネット入り口から階段を下りてオレの隣に立ち、練習の様子を見ていた。
「この団体はスパーリングをしないんですか?さっきから練習を見ているんですが、コーチもいない、スパーリングもやらないって、この団体の若い連中はレスリングの基礎をちゃんと学んでいるんですか?」
オレは記者に疑問に思った事を聞いてみた。
「そこなんですよ、この団体の悪い点は。
とにかく身体を大きくして、デスマッチで有刺鉄線を巻かれたバットで互いの身体を痛め付けるだけの試合ですからね。以前はコーチがいたんですが、斎川と対立して辞めてしまって今ではレスリングを教えるコーチがいない状態なんですよ」
記者は呆れるような口調でDangerの内情を話してくれた。
「てことは斎川もレスリングをまともに出来ないんじゃ…」
レスリングの無いプロレス団体だなんて、無茶苦茶だ。
「えぇ、斎川は浅野からレスリングの基礎を教え込まれましたが、今はデスマッチオンリーの試合だからまともにレスリングなんて出来ないでしょうね」
こんなふざけた団体があるか、オレは斎川という男の人間性を疑う。
「オレは他の団体の事はよく知りませんが、ここの団体の決着ルールは通常のプロレスルールなんですか?」
恥ずかしながらオレは他団体の試合を観ない。
興味が無いワケじゃないが、あまりの団体の多さにうんざりしていた。
「基本的には通常のプロレスルールで試合をしてますね。ただ決まり手が有刺鉄線を巻いたバットを叩き込んでピンフォールというケースが多いです。
たまにプロレス技で決着がつく場合もありますが、ほとんどはゴングが鳴ったら終始凶器攻撃というパターンですね」
記者もDangerという団体、いや斎川という男に嫌悪感を示している。
「何故、ここまでしてデスマッチにこだわるんですか?通常のプロレススタイルを全く取り入れないなんて、ファンもデスマッチだらけで飽きてくるのでは?」
デスマッチにこだわる斎川の考えが全く理解できない。
「斎川は浅野からDangerの後継者になった当初はファンも減ってかなり経営難に追い込まれたのはご存知かと思いますが、斎川は浅野のようなカリスマ性も無く、エースと言っても浅野の敷いたレールの上を歩いているだけでしたから。
で、斎川が思い付いたのは浅野の時より遥かに危険でスリリングなデスマッチを極めようという考えを持つようになり、五寸釘や画ビョウにガラスの破片にファイヤーデスマッチと言った具合にどんどんと過激なデスマッチになり、怖いもの見たさにファンは会場に足を運ぶようになって人気を盛り返したようなもんです」
そういう事か。
デスマッチありきの団体というワケか。
「それじゃデスマッチしか出来ない連中の集まりみたいなもんじゃないすか?」
オレは斎川の下にいる若手レスラーが本当にデスマッチをやりたくてDangerにいるのか、もしくは斎川にデスマッチを強いられて仕方なくデスマッチをしているのかその辺の事情は知らない。
だが、レスリングの基礎すら教えずに身体だけ大きくして最低限の受け身は出来るぐらいの練習生みたいなヤツをリングに上げて凶器攻撃で血だらけになってデビューを果たす、そんなもん決してプロレス団体とは呼べない。
「成る程、これで心おきなく今日の試合は遠慮無しに楽しめそうですよ」
オレは記者に礼を言って再びスタジアム内をランニングした。
スタジアムの外には開場を今か今かと待ち構えているファンの人だかりでいっぱいだ。
開場と同時にあっという間にスタジアムに人が押し寄せ、超満員になり、オレは三塁側ベンチの隅に目立たぬようにしてスタジアムの様子を眺めていた。
リングアナウンサーがリングの上で試合開始のアナウンスをするとスタジアム内は異様な歓声に包まれた。
オレは控え室には入らず、しばらくこの場所で前座の何試合かを観戦した。
一言で言い表すなら、酷くショッパイ試合だ…
第一試合から凶器を手に互いの額を切り裂き、流血戦だ。
どいつもこいつもTシャツにデニムというコスチュームでプロレスラーらしさを感じない。
試合の組み立てや流れなど全く無視でどれだけ相手の額や腕や背中に凶器攻撃して血を流し合うのかを競う我慢比べみたいなもんだ。
オレが前座の頃、酷い試合をすると、コーチや先輩レスラーから怒鳴られ、時には竹刀で殴られたりもした。
「あんなショッパイ試合しやがってこのヤロー!」
こんな事を何度言われたか…
前座の試合に大技など必要無い。
道場で教わった基本のレスリングである寝技の展開、時にはゴツゴツと荒く敵意剥き出しの殴り合いといった軍鶏のケンカのようなファイトをしていた。
ドロップキックやボディスラム、逆エビ固め。
出す技も限られていた。
しかしこの団体の試合はあまりにも酷すぎる。
前座の試合からマットに画ビョウが散乱し、身体中に有刺鉄線を巻き付けられ、蛍光灯の破片で額を突き刺す。
これ以上観る気になれない。
オレはベンチから通路に向かい、誰もいない場所で黙々とスクワットをしてウォーミングアップを始めた。
コイツらのやる事はプロレスじゃない、どれだけ血の量を流し、観客にインパクトを与える程のえげつない凶器攻撃で優劣を決めているだけだ。
スクワットで汗を流し、オレは通路の床に座り、目を閉じた。
オレも今日の試合はヤツらと同じぐらいにイカれた闘い方をする。
だが凶器は一切使わない。
【プロレスラーは鍛えぬかれた身体こそが凶器だ】
そんな言葉を思いだしながら出番を待った。
セミファイナルが終わり、いよいよメインイベントでオレの出番だ。
その頃、スタジアム内ではリングをメインイベント用のデスマッチにする為、ロープを外していた。
どういうデスマッチになるのかは発表されてない。
ただ斎川も本気でデスマッチにオレを引きずり込み、茅場のように再起不能にするつもりなのだろう。
Dangerサイドから何度もブックの話をしてきたが、オレは頑として断り、シュートマッチじゃなきゃこの試合はやらないと言ってきた。
だからこそ、向こうもある意味シュートで対抗するつもりなのだろう。
観客のどよめきが通路まで伝わる。
何を仕掛けたのか解らないが、オレにとっては久々の試合だ。
念のためにオープンフィンガーグローブとレガース、ニーパッドを用意したが、ここは総合格闘技のリングでは無い、プロレスのリングだ。
ならばオレはプロレスラーとしてリングに上がるべきだと思い、黒のショートタイツと黒のレスリングシューズのみで闘う。
オレは三塁側ベンチの奥で入場のコールを受けるのを待っていた。
ベンチからリングの様子を見た。
ノーロープに各コーナーに松明をスタンドに固定し、炎がメラメラとリング上が陽炎のようになっており、場外はリングを囲むように五寸釘を敷き詰め、剣山のような針地獄。
こりゃ五体満足でリングを降りるのは難しいかもな…
【只今よりメインイベント、シュートVSデスマッチ最凶決定戦を行います!】
リングアナウンサーのコールでスタジアム内の歓声が更に大きく、神宮寺コールと斎川コールが交差している。
【青コーナーよりWWAシュートレスラー、神宮寺直人選手の入場です!】
ウォ~っ!っという大歓声の中、入場テーマが流れ、オレは三塁側ベンチからリングへと向かった。
【神宮寺~っ!】
【シュートでぶっ潰せ!】
【そのスタイルでデスマッチに挑むのかよ!】
オレはガウンを纏わず、黒のショートタイツにレスリングシューズのみの出で立ちで花道をゆっくりと歩いた。
四方に囲まれた剣山のような無数の五寸釘が敷かれた場外の前でリングに上がる為に若手レスラーが階段を設置した。
オレはロープの無い、各コーナーに松明の炎が揺らめくリングに上がった。
【赤コーナーよりデスマッチ王、斎川秀樹選手の入場です!】
テーマソングが流れ、一塁側ベンチから有刺鉄線をグルグルに巻いたバットを片手に斎川が花道を悠然と歩き、リングインした。
Tシャツにチャンピオンベルトみたいな形のバックルをしたベルトをして、破れたデニムの膝には黒のニーパッド、白のレスリングシューズ。
それにしてもかなりダブついた身体だ。
特に腹回りの弛んだ肉付き、明らかにトレーニングをしていない証拠だ。
オレは中央で斎川と対峙した。
バットを片手に僅か数センチの距離で斎川は虫酸が走るような下卑た笑みを浮かべ、豪語した。
「よぅ、神宮寺。よく逃げずにここへ来たなぁ~。テメーも茅場みてぇに再起不能にしてやるつもりだからよ、今のうちに救急車用意しとけよ、おい!」
身長は190を越える程の長身ながら、そのだらしない体型を隠したかのようにTシャツにデニムというコスチューム。
おまけにゴツい顔でヒゲをたくわえ、とても同じ年には見えない。
「救急車でも何でもいい、とにかく今日はこれだ。それだけは忘れるな」
オレは右手をピストルのようにして斎川に向けた。
シュートサイン、これからレスリングの恐ろしさをじっくりと教えてやろう…
【シュートVSデスマッチ最凶決定戦】
都内近郊にある野外スタジアムで開催出来るインディ団体はDangerぐらいだろう。
オレは少し早めに会場入りし、控え室で上下のジャージに着替え、スタジアムのグランド内を軽くランニングした。
まだ客入り前の広々としたスタジアム内では内野と外野の境目辺りにリングを設置する業者と若手レスラーが忙しそうに鉄柱を担いだり、ロープの張り具合をチェックしていた。
緑の天然芝が繁っている外野のフィールドには無数の椅子が並べられ、野球場が数時間後には電流爆破と煙硝によって火薬の匂いに包まれるのだろう。
オレの試合はメインイベントだからまだ数時間先の出番だが、いつも通りに早く会場に来て練習する。
いつもなら試合前はリングの上で入念にストレッチをして、スクワットやプッシュアップをして、スパーリングを行い汗を流していた。
今日は他団体のリングに上がるので、スパーリングする相手もいない。
本来ならセコンドに付く若手レスラー相手にスパーリングでも行うのだが、今日はオレ一人でDangerのリングに上がるのでセコンドの必要は無いと言った。
何せ試合と言っても、こっちはシュートで向こうはデスマッチだ。
どんな試合になるのか…いや試合にならないような凄惨な結果になるのかもしれない。
とにかくこの試合に関しては、オレがDangerのアングルに乗っかった形で試合をする事になってしまったので、他の連中を巻き込むワケにはいかない。
スタジアムの外野席や内野席の階段をダッシュで上り下りをして軽く汗をかいた後、出来上がったリング上で若手レスラーが受け身の練習やロープワークをしてリング内を縦横無尽に走っている。
ウチの団体とは全く違う練習方法だ。
この団体は練習を指導する人物はいないのだろうか?
リングサイドではスクワットをしている練習生らしき坊主頭のヤツや、試合で使うバットに有刺鉄線をグルグルと巻いてるヤツ、その他の連中はリングの上でマットの固さをチェックしていた。
オレはバックネット裏からヤツらの練習風景をじっと見ていた。
各自トレーニングを黙々とこなしているが、スパーリングはやらないのか?
一体誰から教わっているんだろう?
コイツらレスリングの基礎を知ってるのか?
オレにとっては疑問だらけの練習風景だった。
「神宮寺さん」
背後からオレを呼ぶ人がいて振り返るとジムで練習していた時に取材に来た記者がバックネット入り口から階段を下りてオレの隣に立ち、練習の様子を見ていた。
「この団体はスパーリングをしないんですか?さっきから練習を見ているんですが、コーチもいない、スパーリングもやらないって、この団体の若い連中はレスリングの基礎をちゃんと学んでいるんですか?」
オレは記者に疑問に思った事を聞いてみた。
「そこなんですよ、この団体の悪い点は。
とにかく身体を大きくして、デスマッチで有刺鉄線を巻かれたバットで互いの身体を痛め付けるだけの試合ですからね。以前はコーチがいたんですが、斎川と対立して辞めてしまって今ではレスリングを教えるコーチがいない状態なんですよ」
記者は呆れるような口調でDangerの内情を話してくれた。
「てことは斎川もレスリングをまともに出来ないんじゃ…」
レスリングの無いプロレス団体だなんて、無茶苦茶だ。
「えぇ、斎川は浅野からレスリングの基礎を教え込まれましたが、今はデスマッチオンリーの試合だからまともにレスリングなんて出来ないでしょうね」
こんなふざけた団体があるか、オレは斎川という男の人間性を疑う。
「オレは他の団体の事はよく知りませんが、ここの団体の決着ルールは通常のプロレスルールなんですか?」
恥ずかしながらオレは他団体の試合を観ない。
興味が無いワケじゃないが、あまりの団体の多さにうんざりしていた。
「基本的には通常のプロレスルールで試合をしてますね。ただ決まり手が有刺鉄線を巻いたバットを叩き込んでピンフォールというケースが多いです。
たまにプロレス技で決着がつく場合もありますが、ほとんどはゴングが鳴ったら終始凶器攻撃というパターンですね」
記者もDangerという団体、いや斎川という男に嫌悪感を示している。
「何故、ここまでしてデスマッチにこだわるんですか?通常のプロレススタイルを全く取り入れないなんて、ファンもデスマッチだらけで飽きてくるのでは?」
デスマッチにこだわる斎川の考えが全く理解できない。
「斎川は浅野からDangerの後継者になった当初はファンも減ってかなり経営難に追い込まれたのはご存知かと思いますが、斎川は浅野のようなカリスマ性も無く、エースと言っても浅野の敷いたレールの上を歩いているだけでしたから。
で、斎川が思い付いたのは浅野の時より遥かに危険でスリリングなデスマッチを極めようという考えを持つようになり、五寸釘や画ビョウにガラスの破片にファイヤーデスマッチと言った具合にどんどんと過激なデスマッチになり、怖いもの見たさにファンは会場に足を運ぶようになって人気を盛り返したようなもんです」
そういう事か。
デスマッチありきの団体というワケか。
「それじゃデスマッチしか出来ない連中の集まりみたいなもんじゃないすか?」
オレは斎川の下にいる若手レスラーが本当にデスマッチをやりたくてDangerにいるのか、もしくは斎川にデスマッチを強いられて仕方なくデスマッチをしているのかその辺の事情は知らない。
だが、レスリングの基礎すら教えずに身体だけ大きくして最低限の受け身は出来るぐらいの練習生みたいなヤツをリングに上げて凶器攻撃で血だらけになってデビューを果たす、そんなもん決してプロレス団体とは呼べない。
「成る程、これで心おきなく今日の試合は遠慮無しに楽しめそうですよ」
オレは記者に礼を言って再びスタジアム内をランニングした。
スタジアムの外には開場を今か今かと待ち構えているファンの人だかりでいっぱいだ。
開場と同時にあっという間にスタジアムに人が押し寄せ、超満員になり、オレは三塁側ベンチの隅に目立たぬようにしてスタジアムの様子を眺めていた。
リングアナウンサーがリングの上で試合開始のアナウンスをするとスタジアム内は異様な歓声に包まれた。
オレは控え室には入らず、しばらくこの場所で前座の何試合かを観戦した。
一言で言い表すなら、酷くショッパイ試合だ…
第一試合から凶器を手に互いの額を切り裂き、流血戦だ。
どいつもこいつもTシャツにデニムというコスチュームでプロレスラーらしさを感じない。
試合の組み立てや流れなど全く無視でどれだけ相手の額や腕や背中に凶器攻撃して血を流し合うのかを競う我慢比べみたいなもんだ。
オレが前座の頃、酷い試合をすると、コーチや先輩レスラーから怒鳴られ、時には竹刀で殴られたりもした。
「あんなショッパイ試合しやがってこのヤロー!」
こんな事を何度言われたか…
前座の試合に大技など必要無い。
道場で教わった基本のレスリングである寝技の展開、時にはゴツゴツと荒く敵意剥き出しの殴り合いといった軍鶏のケンカのようなファイトをしていた。
ドロップキックやボディスラム、逆エビ固め。
出す技も限られていた。
しかしこの団体の試合はあまりにも酷すぎる。
前座の試合からマットに画ビョウが散乱し、身体中に有刺鉄線を巻き付けられ、蛍光灯の破片で額を突き刺す。
これ以上観る気になれない。
オレはベンチから通路に向かい、誰もいない場所で黙々とスクワットをしてウォーミングアップを始めた。
コイツらのやる事はプロレスじゃない、どれだけ血の量を流し、観客にインパクトを与える程のえげつない凶器攻撃で優劣を決めているだけだ。
スクワットで汗を流し、オレは通路の床に座り、目を閉じた。
オレも今日の試合はヤツらと同じぐらいにイカれた闘い方をする。
だが凶器は一切使わない。
【プロレスラーは鍛えぬかれた身体こそが凶器だ】
そんな言葉を思いだしながら出番を待った。
セミファイナルが終わり、いよいよメインイベントでオレの出番だ。
その頃、スタジアム内ではリングをメインイベント用のデスマッチにする為、ロープを外していた。
どういうデスマッチになるのかは発表されてない。
ただ斎川も本気でデスマッチにオレを引きずり込み、茅場のように再起不能にするつもりなのだろう。
Dangerサイドから何度もブックの話をしてきたが、オレは頑として断り、シュートマッチじゃなきゃこの試合はやらないと言ってきた。
だからこそ、向こうもある意味シュートで対抗するつもりなのだろう。
観客のどよめきが通路まで伝わる。
何を仕掛けたのか解らないが、オレにとっては久々の試合だ。
念のためにオープンフィンガーグローブとレガース、ニーパッドを用意したが、ここは総合格闘技のリングでは無い、プロレスのリングだ。
ならばオレはプロレスラーとしてリングに上がるべきだと思い、黒のショートタイツと黒のレスリングシューズのみで闘う。
オレは三塁側ベンチの奥で入場のコールを受けるのを待っていた。
ベンチからリングの様子を見た。
ノーロープに各コーナーに松明をスタンドに固定し、炎がメラメラとリング上が陽炎のようになっており、場外はリングを囲むように五寸釘を敷き詰め、剣山のような針地獄。
こりゃ五体満足でリングを降りるのは難しいかもな…
【只今よりメインイベント、シュートVSデスマッチ最凶決定戦を行います!】
リングアナウンサーのコールでスタジアム内の歓声が更に大きく、神宮寺コールと斎川コールが交差している。
【青コーナーよりWWAシュートレスラー、神宮寺直人選手の入場です!】
ウォ~っ!っという大歓声の中、入場テーマが流れ、オレは三塁側ベンチからリングへと向かった。
【神宮寺~っ!】
【シュートでぶっ潰せ!】
【そのスタイルでデスマッチに挑むのかよ!】
オレはガウンを纏わず、黒のショートタイツにレスリングシューズのみの出で立ちで花道をゆっくりと歩いた。
四方に囲まれた剣山のような無数の五寸釘が敷かれた場外の前でリングに上がる為に若手レスラーが階段を設置した。
オレはロープの無い、各コーナーに松明の炎が揺らめくリングに上がった。
【赤コーナーよりデスマッチ王、斎川秀樹選手の入場です!】
テーマソングが流れ、一塁側ベンチから有刺鉄線をグルグルに巻いたバットを片手に斎川が花道を悠然と歩き、リングインした。
Tシャツにチャンピオンベルトみたいな形のバックルをしたベルトをして、破れたデニムの膝には黒のニーパッド、白のレスリングシューズ。
それにしてもかなりダブついた身体だ。
特に腹回りの弛んだ肉付き、明らかにトレーニングをしていない証拠だ。
オレは中央で斎川と対峙した。
バットを片手に僅か数センチの距離で斎川は虫酸が走るような下卑た笑みを浮かべ、豪語した。
「よぅ、神宮寺。よく逃げずにここへ来たなぁ~。テメーも茅場みてぇに再起不能にしてやるつもりだからよ、今のうちに救急車用意しとけよ、おい!」
身長は190を越える程の長身ながら、そのだらしない体型を隠したかのようにTシャツにデニムというコスチューム。
おまけにゴツい顔でヒゲをたくわえ、とても同じ年には見えない。
「救急車でも何でもいい、とにかく今日はこれだ。それだけは忘れるな」
オレは右手をピストルのようにして斎川に向けた。
シュートサイン、これからレスリングの恐ろしさをじっくりと教えてやろう…
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
妹の仇 兄の復讐
MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。
僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。
その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる