18 / 50
レスリングマスター、そしてコマンドサンボ
キャッチレスリングを習得してこい!
しおりを挟む
あの試合から1週間が経った。
縫った箇所もほぼ癒えた状態だ。
試合を終えた翌日は身体中至る所に無数のキズ口がヒリヒリして、痛み止めの薬を飲んでも効果は無い程で、満足に眠れる状態じゃなかった。
オレは現在合宿所から出て、都内のマンションで一人暮らしをしている。
試合後、車で家まで送ってもらい、佐藤さんや山田さんはしばらく自宅療養という形で家で休んでろ、と言われた。
オレはどうなるのか?あのまま退団届けを受理するのか、それとも佐藤さんと山田さんが待ったをかけてWWAに残れと言われるのか…
しかし何もしないで部屋にいるのは退屈だ。
オレは道場でも行ってトレーニングを再開したいのだが、会社側がオレの処遇をどうするのか結果が分からないまま道場でトレーニングするのは如何なものだろう?と思い、道場へ行くのを躊躇った。
部屋でゴロンと横になり、あの試合の事を振り返る。
翌日のスポーツ紙には大きく取り上げられ、プロレスラーとは何か?
強さなのか?それともエンターテイメントなのか?
そんな事が書かれてあった。
プロレスの専門雑誌では、オレがクルスフィックスで斎川を押さえ込んでいる様子が表紙を飾っていた。
全てカラーの記事で、途中までしか読んでないが、シュートがデスマッチを制した、プロレスラーは強くなければならない、そんな事が書かれており、試合内容としてはオレの完勝、そんな記事だった。
完勝じゃないな…
確かに端から見れば一切の凶器攻撃を使わず、シュートスタイルのレスリングで攻めていたオレがペースを握っていたように見えるが、実際は完勝ではなく、辛勝だとオレは思う。
あの雰囲気、あらゆる凶器攻撃、そして異様なまでの観客の盛り上がり。
オレは試合を終えた時、全身から流れ出る血の量を見て、ゾッとした。
それと同時に斎川はあんな血の量を毎回流しているのか、と。
額に刻まれたシワのような傷跡、デスマッチを誰よりも数多くこなしてきた証だ。
オレはとてもじゃないがあんな試合を続ける自信は無い。
斎川も斎川なりにプロレスラーとしての凄味を見せつけていたのだろう。
それと試合後にカイザー大和から言われた言葉【シュートなら相手の命を奪うつもりで殺れ!】
この言葉が頭の中から離れない。
あれはホントにシュートだったのか?当事者のオレが言うのもなんだが、試合前まではシュートを公言してリングに上がった。
相手の指を折り、肩を脱臼させた。
しかしそれがシュートなのか?と問われると自分でも分からない…
シュートだと思っていただけなのでは?
シュートに一切の情は無用、ただ目の前の相手を潰す、即ちレスラー生命、いや人生をも絶つつもりで闘うのがシュートなのではないか?
自問自答するが、答えなんて出て来ない。
だが周囲はオレをシュートレスラーとしてのイメージを持っているだろう。
となると、今後のプロレス人生に大きく関わる。
神宮寺直人=シュートという先入観で見られてしまう。
そうなると、今後オレはシューターとしてのイメージを植え付けられ、通常のプロレススタイルだと観客がどう反応するのか?
マッチメーカーだってオレにどんな選手を対戦カードを組めばいいのか悩んでしまう。
オレが試合に出ればシュートを期待していまう、そんな不穏な試合を待ち望んでいるとなれはこの先オレはどんなスタイルで試合をすればいいのか分からなくなってしまった。
一介の中堅レスラーが総合格闘技へ参戦して勝利し、巨漢の外国人レスラーをスープレックスでKOし、インディのデスマッチ王とはシュートで制した。
徐々にだが、オレというプロレスラーが有名になった。
有名になるのは悪い事ではない、むしろ良いに決まっている。
だが、有名になった理由がシュートとなれば、シュートしか出来ないブック破りのプロレスラーとして危険な存在になってオレは目標にしていたWWAのチャンピオンにはなれない。
いつまたブック破りのシュートを仕掛けてくるのか、対戦相手はオレとの試合を引き受けてくれるのか?
…そう考えたらオレはこれからどんなスタイルで試合をしなきゃならないのだ。
そんな事を考えていた時、連絡あった。
WWAの関係者からだ。
【キズの方は大丈夫か?もし動けるなら会社まで来て欲しいんだが】
オレは何もする事が無く、退屈な日々を過ごしていたので「はい」と返事をして会社へ向かった。
来社して上層部の連中から祝福とケガは大丈夫か?と言われた。
「問題ないです。ところで何か話があるのでは?」
オレは今後の事についての話し合いだと思っている。
佐藤さんと山田さんも同席の上で会議室で話をした。
「あの試合に勝ってWWAは団体No.1だという事を証明してくれて君には本当に感謝する」
役員の一人がそう言って握手を求めてきた。
「いえ、こちらこそ勝手な事をして申し訳ありませんでした」
オレは握手をしながら勝手にDangerのリングに上がった事を詫びた。
「結論から言わせてもらうが、君はこの団体を出ていく必要は無い」
そうか、デスマッチに勝ったレスラーが団体を出ていくなんてWWAは何を考えてんだ?
と言われるだろうからな。
だが役員は表情を曇らせながらオレに話を続けた。
「君が勝った事で君と我が団体の株はかなり上がった。
だがそれと同時にマッチメーカーが君と対戦させる相手がいなくなってしまった。
シュートを仕掛けてくるんじゃないか、って特に外国人レスラー達が君に警戒心を抱いてしまっている」
やっぱりそうか…
あの試合以前にもギガンテスをKOしたジャーマンや総合格闘技で勝利した事でオレの対戦相手を誰にしようかマッチメーカーは頭を悩ませているって事か…
ふと、頭の中をよぎった事を役員達に伝えた。
「ではしばらくの間、海外遠征をしてみたいのですが…」
役員達や佐藤さん、山田さんはキョトンとしていた。
「前からキャッチレスリングに興味あったんです。イギリスで本場のキャッチレスリングを学びたいんです」
オレは頭を下げてその願いを聞き入れてくれるよう頼んだ。
「いいんじゃないか、キャッチレスリングなんて今どきやる選手はいない。私は彼の意見に大賛成だよ」
山田さんがオレの提案に賛成してくれた。
「…」
役員達は少し考えているようだ。
「対戦相手がいないでここにいるより海外で暫くレスリングをしてみたいんです、どうかお願いします」
もう一度頭を下げた。
「神宮寺行け!その代わりもっと強くなって帰ってこい、いいな!」
佐藤さんはオレの肩をバンと叩きながら後押ししてくれた。
「まぁ、今の状態じゃ試合が出来ないんじゃ仕方ないでしょう」
役員達は佐藤さんと山田さんに押しきられるような形で納得した。
「ありがとうございます。
キズ口が癒えたらすぐにでも出発しようと思ってます」
オレは礼を述べ、すぐにでも海外へ行く準備をしようと思った。
「ところでキャッチレスリングをやりたいと言ったよな?ならばロンドンに行け。
そこにキャッチレスリングのマスターがいる。
そこでキャッチレスリングを習得してこい!」
こうしてオレは山田さんの紹介でロンドンへ旅立ち、キャッチレスリングのマスターと言われた、ロイズ・カーウィンという往年の名レスラーの下で一年間キャッチレスリングを学んだ。
縫った箇所もほぼ癒えた状態だ。
試合を終えた翌日は身体中至る所に無数のキズ口がヒリヒリして、痛み止めの薬を飲んでも効果は無い程で、満足に眠れる状態じゃなかった。
オレは現在合宿所から出て、都内のマンションで一人暮らしをしている。
試合後、車で家まで送ってもらい、佐藤さんや山田さんはしばらく自宅療養という形で家で休んでろ、と言われた。
オレはどうなるのか?あのまま退団届けを受理するのか、それとも佐藤さんと山田さんが待ったをかけてWWAに残れと言われるのか…
しかし何もしないで部屋にいるのは退屈だ。
オレは道場でも行ってトレーニングを再開したいのだが、会社側がオレの処遇をどうするのか結果が分からないまま道場でトレーニングするのは如何なものだろう?と思い、道場へ行くのを躊躇った。
部屋でゴロンと横になり、あの試合の事を振り返る。
翌日のスポーツ紙には大きく取り上げられ、プロレスラーとは何か?
強さなのか?それともエンターテイメントなのか?
そんな事が書かれてあった。
プロレスの専門雑誌では、オレがクルスフィックスで斎川を押さえ込んでいる様子が表紙を飾っていた。
全てカラーの記事で、途中までしか読んでないが、シュートがデスマッチを制した、プロレスラーは強くなければならない、そんな事が書かれており、試合内容としてはオレの完勝、そんな記事だった。
完勝じゃないな…
確かに端から見れば一切の凶器攻撃を使わず、シュートスタイルのレスリングで攻めていたオレがペースを握っていたように見えるが、実際は完勝ではなく、辛勝だとオレは思う。
あの雰囲気、あらゆる凶器攻撃、そして異様なまでの観客の盛り上がり。
オレは試合を終えた時、全身から流れ出る血の量を見て、ゾッとした。
それと同時に斎川はあんな血の量を毎回流しているのか、と。
額に刻まれたシワのような傷跡、デスマッチを誰よりも数多くこなしてきた証だ。
オレはとてもじゃないがあんな試合を続ける自信は無い。
斎川も斎川なりにプロレスラーとしての凄味を見せつけていたのだろう。
それと試合後にカイザー大和から言われた言葉【シュートなら相手の命を奪うつもりで殺れ!】
この言葉が頭の中から離れない。
あれはホントにシュートだったのか?当事者のオレが言うのもなんだが、試合前まではシュートを公言してリングに上がった。
相手の指を折り、肩を脱臼させた。
しかしそれがシュートなのか?と問われると自分でも分からない…
シュートだと思っていただけなのでは?
シュートに一切の情は無用、ただ目の前の相手を潰す、即ちレスラー生命、いや人生をも絶つつもりで闘うのがシュートなのではないか?
自問自答するが、答えなんて出て来ない。
だが周囲はオレをシュートレスラーとしてのイメージを持っているだろう。
となると、今後のプロレス人生に大きく関わる。
神宮寺直人=シュートという先入観で見られてしまう。
そうなると、今後オレはシューターとしてのイメージを植え付けられ、通常のプロレススタイルだと観客がどう反応するのか?
マッチメーカーだってオレにどんな選手を対戦カードを組めばいいのか悩んでしまう。
オレが試合に出ればシュートを期待していまう、そんな不穏な試合を待ち望んでいるとなれはこの先オレはどんなスタイルで試合をすればいいのか分からなくなってしまった。
一介の中堅レスラーが総合格闘技へ参戦して勝利し、巨漢の外国人レスラーをスープレックスでKOし、インディのデスマッチ王とはシュートで制した。
徐々にだが、オレというプロレスラーが有名になった。
有名になるのは悪い事ではない、むしろ良いに決まっている。
だが、有名になった理由がシュートとなれば、シュートしか出来ないブック破りのプロレスラーとして危険な存在になってオレは目標にしていたWWAのチャンピオンにはなれない。
いつまたブック破りのシュートを仕掛けてくるのか、対戦相手はオレとの試合を引き受けてくれるのか?
…そう考えたらオレはこれからどんなスタイルで試合をしなきゃならないのだ。
そんな事を考えていた時、連絡あった。
WWAの関係者からだ。
【キズの方は大丈夫か?もし動けるなら会社まで来て欲しいんだが】
オレは何もする事が無く、退屈な日々を過ごしていたので「はい」と返事をして会社へ向かった。
来社して上層部の連中から祝福とケガは大丈夫か?と言われた。
「問題ないです。ところで何か話があるのでは?」
オレは今後の事についての話し合いだと思っている。
佐藤さんと山田さんも同席の上で会議室で話をした。
「あの試合に勝ってWWAは団体No.1だという事を証明してくれて君には本当に感謝する」
役員の一人がそう言って握手を求めてきた。
「いえ、こちらこそ勝手な事をして申し訳ありませんでした」
オレは握手をしながら勝手にDangerのリングに上がった事を詫びた。
「結論から言わせてもらうが、君はこの団体を出ていく必要は無い」
そうか、デスマッチに勝ったレスラーが団体を出ていくなんてWWAは何を考えてんだ?
と言われるだろうからな。
だが役員は表情を曇らせながらオレに話を続けた。
「君が勝った事で君と我が団体の株はかなり上がった。
だがそれと同時にマッチメーカーが君と対戦させる相手がいなくなってしまった。
シュートを仕掛けてくるんじゃないか、って特に外国人レスラー達が君に警戒心を抱いてしまっている」
やっぱりそうか…
あの試合以前にもギガンテスをKOしたジャーマンや総合格闘技で勝利した事でオレの対戦相手を誰にしようかマッチメーカーは頭を悩ませているって事か…
ふと、頭の中をよぎった事を役員達に伝えた。
「ではしばらくの間、海外遠征をしてみたいのですが…」
役員達や佐藤さん、山田さんはキョトンとしていた。
「前からキャッチレスリングに興味あったんです。イギリスで本場のキャッチレスリングを学びたいんです」
オレは頭を下げてその願いを聞き入れてくれるよう頼んだ。
「いいんじゃないか、キャッチレスリングなんて今どきやる選手はいない。私は彼の意見に大賛成だよ」
山田さんがオレの提案に賛成してくれた。
「…」
役員達は少し考えているようだ。
「対戦相手がいないでここにいるより海外で暫くレスリングをしてみたいんです、どうかお願いします」
もう一度頭を下げた。
「神宮寺行け!その代わりもっと強くなって帰ってこい、いいな!」
佐藤さんはオレの肩をバンと叩きながら後押ししてくれた。
「まぁ、今の状態じゃ試合が出来ないんじゃ仕方ないでしょう」
役員達は佐藤さんと山田さんに押しきられるような形で納得した。
「ありがとうございます。
キズ口が癒えたらすぐにでも出発しようと思ってます」
オレは礼を述べ、すぐにでも海外へ行く準備をしようと思った。
「ところでキャッチレスリングをやりたいと言ったよな?ならばロンドンに行け。
そこにキャッチレスリングのマスターがいる。
そこでキャッチレスリングを習得してこい!」
こうしてオレは山田さんの紹介でロンドンへ旅立ち、キャッチレスリングのマスターと言われた、ロイズ・カーウィンという往年の名レスラーの下で一年間キャッチレスリングを学んだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
妹の仇 兄の復讐
MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。
僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。
その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる