大人にも学校は必要だ

上谷満丸

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第一章 大人に必要な学校

一日の終わり

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「ほれ、外部活動許可証」

「貴方って、本当に馬鹿ね。だけど、これで堂々と私の歓迎会をしてもらえるのね」

「笹川さんと律の歓迎会だよ、なんでそこまで律を仲間外れにするかな」

「外部活動許可証とか考えもしなかったぜ、そもそもそんなものがあることすら知らない生徒が多いこの学園で新入生であるリツがそれを知っているという事実に戦慄するわ、こいつあれだよ携帯の契約書とか隅々まで読んでいちゃもんつける粘着タイプのクレマーの素質を持ってやがるぜ、おお怖い怖いそのうち六法全書渡して全部覚えてこいとかいってみようかな、ふひひひ、面白そう」

「西村、奈帆ちゃんも十分粘着クレマーの素質があると思うな」

 はあー、個性的な奴ばかりだと疲れるな。というか優よ、フォローありがとう。というか笹川の奴、歓迎会はしてもらいたかったのか? よくわからん奴だ。まあ私も歓迎会そのものは正直に言うと嬉しい、だが規則があるので参加するなら学校の許可が欲しかった……私も大概に面倒な奴だな。

「なあに笑っているんだリツよ、ちなみにウチとココにあまり近づくなよ私はこう見えてもガードが堅い女だからほいほいと近づかれた時の為に防犯ブザーの用意もできているんだよ、いいかウチはお前をまだ認めていないし認めようと思わないその理由は数多あるが、本人を前にして傷つくことを連発するのはさすがに可哀そうだろうというウチの僅かな理性に感謝するんだな」

「お前の早口芸に圧倒されて引くわ! というか名前で呼んでくれるんだな、認めないという割には」

「馬鹿野郎お前そこを突っ込むのやめろよ恥ずかしいだろう、ウチは基本名前を呼ぶのが好きなんだけどだからといってお前を認めているという結論はまだ早くてだな動物園で名前ついてたら名前を呼ぶだろう? あれと同じだよウチの親愛は限られたものにしか与えないのがウチの信条でな、だからウチの名前呼びにも段階があってなその段階というのがて――ゴホッゴホッ、……」

 あ、力尽きた。そこまでして何故そこまでして早口を止めないんだ、こいつは。

「じゃあ帰りながらお茶するぞ、笹川は、おっと笹川さんは自分で行くのか?」

「……まあ、貴方のほうが年上のようですし、さん付けじゃなくてもいいわ、あとさすがに貴方達のペースにはついていけないだろうから押してもらうわ、根本さんお願いしていい?」

「いいよ、あと優って呼んでほしいな。僕も綾香さんと呼びたいし」

 笹川は少し怯えた表情をしたが、すぐに表情を戻した。名前を呼ぶという行為に何かあるのだろうか?

「というか男にそういう仕事は任せろよ、何故優なんだ」

「下心があるかもしれないでしょう」

「ねえわ!」

 こうして私達は下校し、ドリンクバーがあるレストランのチェーン店にくだらない話をしながらささやかな歓迎会をしてもらった。その歓迎会は笹川がねちねちと私の悪口を会話に挟むたびに優が注意し、羽田がドリンクをぐいぐい飲みながらやはりドリンクバーは至高だと早口芸を披露し、力尽きては西村さんがフォローをしていた。

 ふと学生たちが私達と同じようにふざけながら勉強している姿が見えた。私が一度もしてこなかった、学校の帰りにだべるという行為。

 だらだらと、とりとめのない会話をしてふざけて笑いあって……私の求めていたのはこういうものだったのだろうか? だとしても時間は戻せない、あの空白だった学園生活は変わらない。だけど、私は今取り戻そうとしているのだろうか? あの空白だった、時間を。答えはまだわからない、その答えを求めるためにも、この学園生活を続けていこう、そう思った。



「全く最近の若い奴は不愉快だ! 歓迎会をしてあげると言っているのに断る奴が普通いるかね!」

「すみません、曽我さんの誘いを断るなんて空気読めない奴が二人も入ってくるなんて、最悪ですね!」

 俺は片瀬望かたせのぞむ、この学園に今日は入学したのだが災難続きだ。朝のホームルームでは同じ新入生のはずの二人がギスギスと自己紹介して俺は空気に耐えきれなくて自己紹介を辞退した。そして落ち込んでいたら曽我さんが、

「君は歓迎会参加するよね!」

 と凄い顔で聞いてきたし、歓迎会なら嬉しいし、そこで仲のいい人を作ればいいやと思って参加したらただのおっさんの愚痴に賛同しなければいけない歓迎会と名ばかりのただの酒の勢いで悪口や愚痴をこぼす会だった。

 話を詳しく聞くと件の二人が歓迎会を断ったのが原因で、このおっさんはご機嫌斜めらしい。酒をかなり飲んで顔を赤くして最近の若者はとか何が規則だとか私は管理職だったんだぞとかそんな話を延々と繰り返している。

 俺はあの二人のせいでスタートから滅茶苦茶だ! でもここにいる人達は皆年上っぽいし、口々に曽我さんの言葉に便乗して、あの二人の悪口を言う。そうだ、あの二人が悪い……そうして俺も自分からあの二人への暴言を酒がまわってきたのか、自分から言い始める。

「そもそも、コミュニケーションを大事にするっていう一番のルールを破っているじゃないですか! 何がルールを守るだ!」

 そうだ、そうだと皆が同調してくれる。俺は段々気分がよくなってことを忘れて、いつの間にか同調して楽しんでしまった。
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