大人にも学校は必要だ

上谷満丸

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第一章 大人に必要な学校

助けてくれない?

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 あの騒動から数日が経った。山のような反省文と都先生によるお説教がやっと終わったが。

「君の信じる正しいに、好き放題言いたいことを言うという項目が無くなるまで追い詰めてやらあ」

 その言葉通り討論会の仕方とかディスカッションの本来のやり方などの基礎を叩き込まれたりして、それはもう大変だった。でも皆で怒られるのは悪くなかった、学生時代に味わなかった青春の一コマを感じているような言葉にできない何かを感じた。この学校に来てよかったかもしれない……紆余曲折あったが、私はあの騒動以来一目置かれ他のクラスの人からも話しかけられるようになった。そして片瀬なんだが、

「なあ片瀬、お前さあ。ほんとーに曽我さんと縁を切ったのか?」

「本当だって! 信じてくれよ! というか使えないから相手にしてくれなくなったんだよ……このグループに混ぜてくれよう」

 と泣きついてきたので私達のグループとして一緒に飯を食べたりしている。だけどこいつは本当に信用することはできないので要警戒である。そしてもう一人山藤さんなのだが、

『私では笹川さんを孤立から守れませんでした。一緒にと言ってくれるのは嬉しいですが、私はどうやらどっちつかずの卑怯者のようです』

 と断られてしまった。気にする必要はないと言ったのだが、羽田が

「サンちゃんはさ仏なんて言われているけど誰の味方もできないというか誰かの味方をしているつもりでも踏み込めないらしいんだ、だから今回の事でまた誰の味方もできなかったことを後悔しているんだと思うそっとしておいてあげてくれ」

 とのことだった。人間関係と言うのは難しい。だけど一つ言えることは。

「ほら、原田帰るわよ。私の車椅子押させてあげるから頑張りなさい」

「まったく人に助けを求めるときはもっと素直にこいよ」

 ため息交じりに言って押そうとするとブレーキを掛けれた。

「わかったわよ……私移動で疲れちゃうから比較の駅まで行くのを手伝ってくれない?」

「かしこまりました……くくっく」

「ふふ」

「おいおいラブコメかラブコメなのかツンが終わってデレがきたのかアヤッチ! 長いようで短いツン時期だったな感慨深いようなそうでもないようなともかく素直なのはいいことだぜアヤッチもしかしたらリツとのハッピーなエンドが」

「「絶対ない!」」

「凄い息ぴったりで西村驚きです。でも本当に良かったです、また皆で帰れるようになって……変な人いますけど」

「俺のこと! 酷い、俺も一緒に怒られたんだから仲間として認めてよ」

「君、律を裏切るから僕嫌い」

「根本さんが辛辣だよ!」

 こうして私達はいじめと言う問題を通して絆を深めることができた……。コミュニケーションが難しい、誰かにすり寄って生きていく、どこにでもいる大人の中にそういう問題を抱えている人はどれくらいいるんだろう? わからないけど生きにくいと感じている大人は私が思っているより、多いのかもしれない。だからこそ、今だからこそ大人にも学校が必要なのかもしれない。



 これは根本優が怪我をした日の事である。

「はあー、なんで律と笹川さんは仲良くできないのかな……」

 トイレの個室で考え事をしながら少しボーっとしていた。彼女はたまに一人になりたいときに一人っきりになれる場所を探してこうしていることが多い。そんな時だった。

「あの笹川とか言う女マジむかつく」

「本当に空気読めないよね! 今からでも律君のグループに行こうかな」

 女子トイレなのでそりゃあ誰かしら入ってくる。個室にいるがああいう会話は好きではないので出ようとした時だった。

「やめときなってあっちにはあいつがいるじゃん、根本優! あの

「ああ、そっか。マジ怖いよね。原田君知っているのかな? 教えてあげてチーム崩壊させようかし」

 ドゴンとトイレのドアが壊れた。女子二人は大きな音に驚き竦む。

「ねえ、今なんて言った? もう一度言ってみてよ、ねえ?」

「ひいぃ! ご! ごめんなさい!」

「なあがなんだってえ!」

 殴ろうと本気で殴ろうとした。、だけど殴る瞬間にのみ働く根本優の最後のブレーキが発動する。

『人を傷つけてはいけないよ、だって君は優しい女の子なんだから』

 その言葉とともにある顔が頭をよぎる、に戻った根本優は拳を隣にある鏡に直撃させる。ガラスの割れ方は激しくもしこれが彼女たちの顔に当たっていたら大変なことになっていただろう。そう根本優の鍛え上げられた拳は人を破壊できる、それを誰よりも自分がわかっているはずなのに、彼女はまた人を殴ろうとした。腰を抜かした殴られそうになった女子をもう一人が連れて逃げようとした。その顔は必死だった、殺されるかもしれない、そんな危機感が伝わってくるような顔だった。血塗れの拳をだらんと垂らし、根本優は呟く。

「よかった……僕はまた人を傷つけるところだった」

 血塗れの手を洗う姿はまるで自分の罪を洗い流しているようだった。そんなことをしても過去はいつまでもついてくると言うのに。

「ああ、誰か僕を……助けてくれないか……」
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