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05 ―Daniel―
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「ねえベル、なぜウィンディの連中は、僕の芸術に理解を示さないんだろう?」
僕の当然の疑問に対して、ベロニカはフローリングの埃取りの手を止めずに、目だけでこちらを振り向いてさもどうでもよさげに答える。
「ウィンディに限って言うなら、単に投稿数が多すぎて埋まっているだけなんじゃない?」
「最初の一言が引っかかるけれど、ウィンディで僕の動画が埋もれるのだっておかしな話じゃないかい?」
「おかしくない。当たり前。お絵描き動画なんて毎日何本アップされてると思ってるのよ」
「何本あろうが関係ないよ。どんな群衆の中にいても、優れた才能というのは必ず発見されてしまうのだから」
「アンタのその根拠のない自信は確かに凄い才能ね。それならもっと人目を引く努力をしてみたら? 注目されたいのなら、他の人にはないオリジナリティを出さなきゃ」
フローリングは彼女を満足させるレベルの輝きを得たらしく、ベロニカはようやく掃除用具を全て置いて僕の近くに腰を下ろした。僕はこれからしばらく綺麗な部屋で過ごせる。
「僕の絵はただの絵じゃない。物語の世界を表現しているんだ」
「そんなのちっとも珍しくないじゃない」
「僕だって何もしていないわけじゃないんだよ。昨日だって、見てもらえる工夫ってやつをしてみたんだ」
「工夫?」
「そう! 検索タグを思いつく限り付けまくってみたのさ!」
言った途端に、ベロニカはあからさまなため息をついた。なぜだ。
「僕の作品は本の挿絵をイメージしているから、本、挿し絵、童話、文学、小説、物語、読書、……こんな感じのワードを手当たり次第詰め込んでやった」
「……へぇ~」
「なんだよ、まるで呆れているような顔に見えるぞ?」
「そりゃそうよ、呆れているんだから」
「酷いなぁ。そりゃあ、まだ効果が出ていないというか、発見されるまでに少しだけ時間がかかっているけれど、きっとすぐに…………ん?」
ベロニカの呆れ顔からふいにPC画面へと視線を戻した僕の目に映ったのは……
「?」
「ほら見ろって! さっそくコメントが来ているじゃないか!」
「ほんとに? あ、ほんとだ。よかったじゃない」
『素敵な絵ですね。こんな素敵な作品の制作過程を見ることができて、とても感動して涙が流れてきました。次の動画も楽しみにしています』
「……えぇ~……? 何よこれ、ちょっと褒めすぎでしょ…。ねえ、これは多分ネタか何かだと思――
「僕の作品で涙を流してくれただって……?」
「…………」
これが、僕と彼女との出会いだった。
僕の芸術を初めて理解してくれたのは、顔も知らない……いや、知らないけれどわかる! この世の誰よりも美しく、可憐で、小鳥のように愛らしい、僕の理想の姫君だ――。
僕の当然の疑問に対して、ベロニカはフローリングの埃取りの手を止めずに、目だけでこちらを振り向いてさもどうでもよさげに答える。
「ウィンディに限って言うなら、単に投稿数が多すぎて埋まっているだけなんじゃない?」
「最初の一言が引っかかるけれど、ウィンディで僕の動画が埋もれるのだっておかしな話じゃないかい?」
「おかしくない。当たり前。お絵描き動画なんて毎日何本アップされてると思ってるのよ」
「何本あろうが関係ないよ。どんな群衆の中にいても、優れた才能というのは必ず発見されてしまうのだから」
「アンタのその根拠のない自信は確かに凄い才能ね。それならもっと人目を引く努力をしてみたら? 注目されたいのなら、他の人にはないオリジナリティを出さなきゃ」
フローリングは彼女を満足させるレベルの輝きを得たらしく、ベロニカはようやく掃除用具を全て置いて僕の近くに腰を下ろした。僕はこれからしばらく綺麗な部屋で過ごせる。
「僕の絵はただの絵じゃない。物語の世界を表現しているんだ」
「そんなのちっとも珍しくないじゃない」
「僕だって何もしていないわけじゃないんだよ。昨日だって、見てもらえる工夫ってやつをしてみたんだ」
「工夫?」
「そう! 検索タグを思いつく限り付けまくってみたのさ!」
言った途端に、ベロニカはあからさまなため息をついた。なぜだ。
「僕の作品は本の挿絵をイメージしているから、本、挿し絵、童話、文学、小説、物語、読書、……こんな感じのワードを手当たり次第詰め込んでやった」
「……へぇ~」
「なんだよ、まるで呆れているような顔に見えるぞ?」
「そりゃそうよ、呆れているんだから」
「酷いなぁ。そりゃあ、まだ効果が出ていないというか、発見されるまでに少しだけ時間がかかっているけれど、きっとすぐに…………ん?」
ベロニカの呆れ顔からふいにPC画面へと視線を戻した僕の目に映ったのは……
「?」
「ほら見ろって! さっそくコメントが来ているじゃないか!」
「ほんとに? あ、ほんとだ。よかったじゃない」
『素敵な絵ですね。こんな素敵な作品の制作過程を見ることができて、とても感動して涙が流れてきました。次の動画も楽しみにしています』
「……えぇ~……? 何よこれ、ちょっと褒めすぎでしょ…。ねえ、これは多分ネタか何かだと思――
「僕の作品で涙を流してくれただって……?」
「…………」
これが、僕と彼女との出会いだった。
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