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11 ―Veronica―
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「♪♪♪~」
「………………」
このところのダニーの心酔ぶりに、私はうんざりしていた。
「…………はぁ~ぁ」
『姫君』と称した例の女の子が初めて姿を見せてくれたと言ってから、何週間が過ぎただろう。
彼女の動画は現在まで随分とコンスタントに投稿され続けているらしい。
コイツはあれから毎日毎日、暇さえあれば彼女の動画を見て、彼女がいかに素晴らしいか、自分がどれほど感激しているのかを、いちいち私に力説してくる。それを聞かされて一体どうしろっていうのよ。
「だからねベル、君も早く見るべきなんだよ!」
「ねえダニー。あなたが彼女に夢中なのはわかったけれど、どれほど勧められてもあたしはその子には全くもって興味がないってこんなにいつも言っているじゃない。なのになぜあなたは毎日懲りもせずにあたしに見ろって言い続けるの?」
「なぜって、君、わからないのかい?」
「わかるわけないから訊いているんじゃない」
「ベル。僕は、素晴らしいものは何でも君と共有したいんだ」
「……え?」
「昔からそうじゃないか。面白い絵本を見つけたら君と一緒に読む。美味しいお菓子を貰ったら君と一緒に食べる。僕たちはずっとそうだっただろう?」
「…………」
「僕は今、素晴らしいものに出会っている。これまでの僕の人生の中で最高といえるものに。それを君と共有しないなんて、僕には考えられないんだ。君にも是非彼女を知ってもらって、この感動を分かち合いたい! 君が拒む理由なんてあるものか!」
「………」
▽▼▽▼
……別に、興味なんてないのよ?
ただ、熱しやすく冷めやすいアイツが珍しく長いこと夢中でいるみたいだから、そこまで入れ込む相手っていうのが一体どれほどのものなのか、見てやってもいいかなって思っただけよ。本当にそれだけなんだから。
「でも、絶対アイツには見たなんて言ってやらない」
興味があるわけじゃなくて、あくまでちょっと確認してみるだけだから。……えーと、確か「アミーリアチャンネル」って言ったっけ?
暇だから。そう言い聞かせ、普段と何も変わらない気持ちでウィンディのホーム画面を開く。よく見ているバンドのMVやら、頭脳派集団のクイズ動画やら、サバイバルホラーゲームの実況動画などが、私の視聴履歴から割り出されて無造作に並べられている見慣れた画面。
その右上の検索欄に、自分の手では初めて打ち込む文字を入力する。絶対にこの文字だけは入力しないと頑なに決めていたのに。
誰にともなくため息をついて、右手をキーボードからマウスに移してルーペのマークをクリックする。
「…………」
やっぱりやめておけばよかったかな…。
そう思った時にはもう、検索結果は表示されていた。
『アミーリアch』
――チャンネルそのものへ誘導するアイコンが先頭にあって、その下に並べられた関連動画の最初の数件は、アミーリアchから投稿されたもので、その更に下には類似の検索ワードで引っかかった無関係そうな動画がいくつか掘り出されていた。その中にダニエルの動画が混ざっていることに少し首を傾げたけれど、今の私には、とてもそんなことを考えている余裕などなくなっていた。
「………………」
『アミーリアch』の動画と思しき数件の小さなサムネイル画像には、少女の姿が映し出されていた。
まだ拡大してもいない。
なのに……こんなに小さく縮小された画像の時点で、すでにそこら辺の女の子たちとは違う、圧倒的な何かがそこにあるのがわかってしまったから。
「………………」
ここまでにしておこうか? 動画を見るのはやめておこうか?……そう思いながらも、もうほとんど自分の意志とは関係なく、手が勝手にマウスを動かしていた。
私は、検索結果の一番上にあった『自己紹介』という5分程度の動画を再生した。
『――初めまして、アミーリアと申します』
「………――」
あぁ、と思った。
本当に可愛い。信じられないほどの美少女がそこにいた。
学校のモテ女とか、そこらのモデルや女性アイドルなんかじゃ到底太刀打ちできないほどの――未だかつて見たことのない、恐ろしいほどの美少女だった。
「………………」
これを見て、一体私はどうしたらいいというのだろう。
「………アイツ、……こんな子に夢中なんだ」
こんなの、どうすればいいのよ。
こんな子が相手じゃ、あたしなんて……――
「………………って、え? は!? いや、何言ってんのあたし!?」
何よ、「こんな子が相手じゃ」って……それじゃまるで……
「…………はぁ、もう……なんかほんと、サイアク」
誰に、どんな感情を向ければいいのかわからなくなって、目を閉じて出来た暗闇に向かってため息をつくことしかできなかった。
それでも、その1本の動画を見終わっても、そこで終わりにすることはできなくなっていた。よくわからない感情のまま、結局私は夜中まで『アミーリア』という少女の動画を片っ端から視聴してしまったのだった。
「………………」
このところのダニーの心酔ぶりに、私はうんざりしていた。
「…………はぁ~ぁ」
『姫君』と称した例の女の子が初めて姿を見せてくれたと言ってから、何週間が過ぎただろう。
彼女の動画は現在まで随分とコンスタントに投稿され続けているらしい。
コイツはあれから毎日毎日、暇さえあれば彼女の動画を見て、彼女がいかに素晴らしいか、自分がどれほど感激しているのかを、いちいち私に力説してくる。それを聞かされて一体どうしろっていうのよ。
「だからねベル、君も早く見るべきなんだよ!」
「ねえダニー。あなたが彼女に夢中なのはわかったけれど、どれほど勧められてもあたしはその子には全くもって興味がないってこんなにいつも言っているじゃない。なのになぜあなたは毎日懲りもせずにあたしに見ろって言い続けるの?」
「なぜって、君、わからないのかい?」
「わかるわけないから訊いているんじゃない」
「ベル。僕は、素晴らしいものは何でも君と共有したいんだ」
「……え?」
「昔からそうじゃないか。面白い絵本を見つけたら君と一緒に読む。美味しいお菓子を貰ったら君と一緒に食べる。僕たちはずっとそうだっただろう?」
「…………」
「僕は今、素晴らしいものに出会っている。これまでの僕の人生の中で最高といえるものに。それを君と共有しないなんて、僕には考えられないんだ。君にも是非彼女を知ってもらって、この感動を分かち合いたい! 君が拒む理由なんてあるものか!」
「………」
▽▼▽▼
……別に、興味なんてないのよ?
ただ、熱しやすく冷めやすいアイツが珍しく長いこと夢中でいるみたいだから、そこまで入れ込む相手っていうのが一体どれほどのものなのか、見てやってもいいかなって思っただけよ。本当にそれだけなんだから。
「でも、絶対アイツには見たなんて言ってやらない」
興味があるわけじゃなくて、あくまでちょっと確認してみるだけだから。……えーと、確か「アミーリアチャンネル」って言ったっけ?
暇だから。そう言い聞かせ、普段と何も変わらない気持ちでウィンディのホーム画面を開く。よく見ているバンドのMVやら、頭脳派集団のクイズ動画やら、サバイバルホラーゲームの実況動画などが、私の視聴履歴から割り出されて無造作に並べられている見慣れた画面。
その右上の検索欄に、自分の手では初めて打ち込む文字を入力する。絶対にこの文字だけは入力しないと頑なに決めていたのに。
誰にともなくため息をついて、右手をキーボードからマウスに移してルーペのマークをクリックする。
「…………」
やっぱりやめておけばよかったかな…。
そう思った時にはもう、検索結果は表示されていた。
『アミーリアch』
――チャンネルそのものへ誘導するアイコンが先頭にあって、その下に並べられた関連動画の最初の数件は、アミーリアchから投稿されたもので、その更に下には類似の検索ワードで引っかかった無関係そうな動画がいくつか掘り出されていた。その中にダニエルの動画が混ざっていることに少し首を傾げたけれど、今の私には、とてもそんなことを考えている余裕などなくなっていた。
「………………」
『アミーリアch』の動画と思しき数件の小さなサムネイル画像には、少女の姿が映し出されていた。
まだ拡大してもいない。
なのに……こんなに小さく縮小された画像の時点で、すでにそこら辺の女の子たちとは違う、圧倒的な何かがそこにあるのがわかってしまったから。
「………………」
ここまでにしておこうか? 動画を見るのはやめておこうか?……そう思いながらも、もうほとんど自分の意志とは関係なく、手が勝手にマウスを動かしていた。
私は、検索結果の一番上にあった『自己紹介』という5分程度の動画を再生した。
『――初めまして、アミーリアと申します』
「………――」
あぁ、と思った。
本当に可愛い。信じられないほどの美少女がそこにいた。
学校のモテ女とか、そこらのモデルや女性アイドルなんかじゃ到底太刀打ちできないほどの――未だかつて見たことのない、恐ろしいほどの美少女だった。
「………………」
これを見て、一体私はどうしたらいいというのだろう。
「………アイツ、……こんな子に夢中なんだ」
こんなの、どうすればいいのよ。
こんな子が相手じゃ、あたしなんて……――
「………………って、え? は!? いや、何言ってんのあたし!?」
何よ、「こんな子が相手じゃ」って……それじゃまるで……
「…………はぁ、もう……なんかほんと、サイアク」
誰に、どんな感情を向ければいいのかわからなくなって、目を閉じて出来た暗闇に向かってため息をつくことしかできなかった。
それでも、その1本の動画を見終わっても、そこで終わりにすることはできなくなっていた。よくわからない感情のまま、結局私は夜中まで『アミーリア』という少女の動画を片っ端から視聴してしまったのだった。
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