【R18.BL】愛月撤灯

麦飯 太郎

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11.蓮の想い

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 折り返しでの宴を終えると、日々の忙しさは倍増する。神が忙しければ神使も忙しい。その上、宴の直後は何かと声をかけられることが増えるのだ。
 それらの多くは舞の感想だが、神から声をかけられれば無碍な反応は出来ないのでどうしても時間が取られてしまう。

「その上、最近は夏様がしつこい」

 個人的な相手をしているわけではないけれど、神使を持たない夏の世話をしていたので、その仕事も増えているのだ。

「夏様のお世話は私達でもやりますよ?」
「でもなぁ、夏様が名前を呼んで頼むから何となく俺がやらないとなって思っちゃうんだよな」

 神使の作業部屋で久しぶりに天花と二人きりになったので、愚痴をこぼす。他の神々の神使に聞かれても問題は無いのだけれど、やはり弱音や愚痴は他者に聞かれて心地よいものでは無い。
 自然と神議り期間中は天花に、屋敷に戻ったら六花とハルトに聞いてもらうことが当たり前になっていた。
 長い溜息を吐いてしまう。
 去年までは仕事量と夏の相手だけを考えればよかったのに、今年は大国主神もなんだか様子がおかしかった上に、夏も例年と違いなんとなく「本気」感があるのだ。
 双子は問題は起こさらないものの、よく分からない執着を見せるようになった。

「俺、何かした??」
「……風花は……」
「んぅ?」

 机におでこをつけてグリグリと頭を振る。そうしていると、天花が立ち上がり隣に座ってきた。

「どうした?」
「あの、風花」

 妙に真剣な顔と雰囲気に、思わず眉間に皺を寄せた。

「何?」
「夏様の元へ行くつもり?」

 天花がそれを知っているのは、夏から自分の元に来いと言われたと打ち明けたからだ。
 正直、今の状況ならそれでもいいと思う。
 夏の伴侶になるとか、そういうことではなく……ただ、彼が四季神なのに神使を持たないのは不自然な気がしたからだ。
 それに……。

「……大和と暁もいるしな。あの二人は神使になるかもしれないし、天花もいるし。まぁ、俺がいなくても蓮様は平気だよ」

 それに、蓮様の傍だと今後も自分の存在意義を何度も問うことになるだろう。それが怖い。
 夏の元に行くのが逃げだとしても、それも良いのではと最近は思うようになっていた。

「本当にそう思うの? 蓮様に聞いたんですか?」

 珍しく早口の天花の問いに、さすがに蓮に直接聞いた訳では無いので返答に迷う。

「風花。もし、風花が夏様の元に行こうとしているのが――……ッ!! 行こう!!」

 グイッと手を引かれ立ち上がる。
 引きずられるように歩いて向かう先は、蓮の元だと分かっているのに拒否も出来ずについて行く。いや、もしかしたら、きっかけが欲しかったのかもしれない。
 天花は足を使い、行儀悪く蓮の部屋の襖を開くと縁側に座りお茶を飲んでいた蓮の元に歩いていく。驚いた恭吾は湯呑み落としそうになり、蓮も驚いて目を瞬かせている。

「蓮様!!」

 大声で呼びかけた天花に、蓮は姿勢を正して「はい!!」と返事をした。

「蓮様!! 蓮様の最愛の人は恭吾さんでしょう? そして銀花様。その次は誰ですか!?」

 驚いた表情のままだった蓮だけれど、再び目を瞬かせたあとに優しく微笑む。その笑みが冬の神なのに春のように暖かく思わず涙が出そうになった。
 きっと、蓮は何を言ってもちゃんと聞いて受け止めてくれるだろう。そう思ったら、胸が苦しくなり喉の奥が熱くなる。

「はい。もちろん、天花さん、風花さん、六花さんですよ。でも」
「でも??」

 でも、でも、でもなんだろうか。不安そうな気持ちが全面に出てしまい、顔が赤くなるのを感じた。そんなこちらの気持ちを察したのか、蓮は立ち上がり、ゆっくりと近付き膝をつく。
 神が、神使に膝をつくなどあってはならない。しかし、蓮はこういう神である。

「でも、三人への気持ちは恭吾さん、銀花と同じくらいですよ」

 グッと喉が痛くなる。熱くなり痛くなり、胸から溢れた想いが涙と共に溢れ出す。

「……ほ、他にもいますよね?」
「ん? あぁ、そうですね。華月様にハルトさんも」
「他にも!!」

 大声を出してしまったけれど、蓮は優しい表情のまま着物の袖で涙を拭ってくれる。次から次へと溢れる涙で袖は色を変えていく。
 申し訳ないのに、全く涙は止まらない。

「大和さんに暁さん。全員、私の愛しい家族です」
「――これから!! こ、これから!!」
「?? これから?」
「これから、もっともっと家族が増えるかもしれないんですよ!? そしたら俺より優秀な奴が出てくる!! 大和も暁も神使になるかもしれない!! ――俺の力が不足しているのは分かってます!! 神じゃないから特別な力は無いし、ただの鬼子です!! それに未熟です!! でもこれ以上努力してもきっと今以上の力は俺には見込めない!! だから、すぐに俺なんかいらなくなる!!」

 いらなくなる。
 そうだ。いらなくなるんだ。
 言葉にするとそれが本当になってしまいそうで嫌だった。いらないと言われる前にどんな形でも求められる場所に行った方がいいのだと思った。
 そこでまたいらなくなっても、また欲する所に行けばいい。悲しいけれど。
 一気に口にして涙で前が滲んでいたけれど、ふと冷静になると目の前の蓮は厳しい表情をしていた。
 それは、本気で怒っている顔だ。
 それに気付きビクリと肩を揺らし、唇を噛む。

「風花さん、誰一人として私の家族を悪く言わせません。それが本人だとしてもです」

 真剣な眼差しに何も言えず、ただ蓮を見つめる。

「風花さん。風花さんは風花さんだから良いのです。要らないなんて言わせません。怒りますよ? 私は優しくて少し口が悪いけれど繊細で家族想いのあなたが愛しいのです」
「……怒るんですか?」

 もう怒ってるじゃないか。とは言えず、それよりも自分自身で良く、こんな自分を愛しているから怒っているということが嬉しくて堪らなくなった。

「ええ、怒ります。私の可愛くて愛しい子供達を侮辱する人は誰一人許しません」

 愛しい子供達。蓮の愛は有限な海の深さではなく、永遠と溶けない積もり続けるだけの冬の雪なのだと思えた。
 優しくゆっくりと積もり、それに包まれていることすら気付けば当たり前になってしまう。
 当たり前が当たり前ではないのだ、特別だから当たり前になる……。簡単に、でも難しく考え過ぎていたようだ。
 その後、まるで幼子のように蓮の膝を借りて泣き続きた。いつの間にか天花と恭吾は席を外しており、その優しさが嬉しくて恥ずかしくてもう訳が分からなくて……とりあえずもう一度泣くことにしたのだった。
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