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13.愛と真実
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あと一週間、あと一週間なのだけれど……。
「もぅ、むりぃ……」
思わず筆を持ったまま寝転んだ風花に、天花が心配そうに顔を覗き込んできた。目が合ったのでわざとらしく死んだふりをする。
「最近、凄いですもんね……」
「…………」
思い出すのも恐ろしい光景が、天花の言葉で脳裏に蘇る。
「…………こわいよ、あいつら。――!?」
そう呟いた瞬間に襖が開き、反射的に飛び起きた。いつでも駆け出せるように足に力を入れたけれど、入ってきた人物の顔を見てホッとしてまた寝転んだ。
襖を閉めたその人は、何も言わずに座って茶を煎れてくれている。湯呑みから暖かな湯気が揺らめくのを眺めると、少しだけ心が落ち着いた気がした。
「どうぞ」
「ありがとう、桂」
「いえいえ。最近、蓮様の神使はお忙しそうですから」
「…………嫌味?」
身体を起こし、差し出された茶をすする。
「嫌味? まさか。真実ですよ」
「慌ただしいのは俺だけだけどね」
自嘲気味に笑うと、桂は袖から小さな包みを取り出した。それを差し出され、受け取る。
「開けていい?」
「もちろん。天花も」
「私も良いんですか? ありがとうございます」
縛っている紐を解くと、中から楓や銀杏の葉の形をした落雁が入っていた。
「うわぁ! 可愛いな!」
「秋様の人間界での仕事で頂いたものです」
一つ口に放り込むと、独特の甘い香りが鼻を抜ける。優しくて癒される香りに満たされ、思わず微笑んでしまった。一気に食べては勿体ないので、しっかりと包みを縛り直し袖に入れた。
こういうお洒落な甘味はゆっくりと味わって食べるのが乙なものだ。しかし、大切に大切にしすぎて黴が生えてしまったことを思い出し、近いうちに食べきらねばと心の中で失笑してしまった。
「ところで、秋様は調子どう?」
「おかげさまで、春様と蓮様の手助けによりどうにか……です」
神議りでの任務を終えた春と蓮が、まだ終わらない夏と秋を手伝う。これは毎年のことだ。
「秋様は作業は早いのですけどね……如何せん、筆記が……」
思わず呟いた天花に、桂も困ったように優しく笑みを浮かべる。
「ええ。パソコンで書類を作る方が五億倍早いと仰って、筆を何本か折ってましたから」
これは比喩ではなく、事実だ。秋は驚くほど字が汚い。それは、大国主大神に書き直しを命ぜられる程だ。
桂や楓が代筆もするけれど、重要な案件は四季神の筆記しか認められない。なので、その度に筆が召される危機に晒されているわけだ。筆も気が気ではないだろう。
「大変だよな」
「そうですね。ですが、秋様は素晴らしい方なので文字の善し悪しは些細なものです」
「そっか」
否定も肯定もせずに微笑み茶をすすると、満足したように桂は笑顔になった。
正直、秋の神使が一番恐ろしい。盲信しているというか、秋が絶対、最近風に言うと秋しか勝たんというやつだろう。
秋の服装について、神議り中くらいは着物を纏えと言ってきた神に怒り狂い、神使なのに雷が落ちたというのは有名な話だ。
「夏様は?」
「ようやくやる気になってくれたので、今日はかなり進むと思いますよ」
「もっと早くやる気になって欲しいよなぁ……」
一方、夏はやれば出来るという奴だ。なので、やる気になるまで審議の巻物が山積みで減らない。
しかし、一度「おっし!」と言えば、それこそ神の速さで山が一つ二つとあっという間に消えていく。そして、正確で、筆にも神が宿ったのかと思うくらい早く美しい。
……見た目の豪快さからは想像できないほど、美しい字を書くので少しムカつくのは誰にも話したことはない。
「あと一週間あるから余裕だな。前は三日前だった」
「ふふ、蓮様が出席されるようになる以前に、解散当日にやる気を出すってこともありました」
「うげ。最悪じゃん」
「ええ、桜様が残って一日だけお手伝いして終わらせました」
ということは、神議り自体はやろうと思えば一日で終わるのではないか……と思ってしまったが、気分屋の神々のことだ。一ヶ月程の時間がないとその時で終わるはずがないとのだろう。そもそも参集日に来ない神も多い。
三人でまったりと話していると、廊下を駆け抜けてくる二人分の足音が聞こえた。
「!?」
思わず立ち上がると天花は窓を開け、桂は手を振っている。
「行ってらっしゃい」
「逃げたら窓閉めて!!」
今度こそ、本当に脱兎のごとく駆け出して、備えてあった草履を履いて窓から飛び降りた。庭を駆け抜け始めると窓を締めてくれる音がして、ホッと息を吐く。
少しだけでも時間稼ぎができただろうか。
この出雲大社の中で鬼ごっこのような真似をしてもすぐに捕まってしまうのだけれど……逃げずにはいられない。
今回はどこに匿って貰おうか。いや、森の中でひっそりと息を殺してみるか。
軽快な音ともに背の高い男が二人、神使部屋に入ってきた。
「あれ!? ふーちゃんは!?」
キョロキョロと見渡す双子は本当に行動までソックリだ。人間の成人の体格になってはいるけれど、ついこの前に天狗の里で学んでいた姿を思い出し、ふふふと笑い声をあげてしまった。
「天花様、桂様、こんにちは」
「こんにちは。大和さん、暁さん。どうされました?」
「風花さんはこちらにいらっしゃいませんか?」
「うーん」
悩む振りをしたけれど、残念ながら湯呑みが三つ残っている上に、全て暖かそうな湯気を立てている。嘘をついてもすぐにバレるだろう。
「いましたよ。ねぇ、桂さん」
「ええ。天花さん。風花さんはいらっしゃいました」
わざとらしく長めにゆっくりと返事をする。
双子ももちろんそれに気付いているのだろうけれど、特段焦る様子はない。
「そうですか。……窓からですね? 失礼します」
部屋に入ってきた双子は窓を開けて確認し、外に出ようとした。
「大和さん、暁さん」
懐から草履を取り出して、すぐに追いかける予定だった様子の双子は首を傾げながら振り向いた。手をこまねきすると、少し悩むように眉間に皺を寄せた暁に、大和は頷いて応えてその場に腰を下ろした。
「天花様、なんでございましょうか?」
「今、ここでの立場はあなた方は神で、私はただの神使です。敬称は不要ですよ」
「いえ。天花様は世話になった天狗の里の長の伴侶です。そして師でもある。礼儀はそのままで」
「暁さんは頑固ですね。大和さんはいかがです?」
「私もです」
「そうですか」
暫しの沈黙のあと、大和が突然頭を下げた。それに倣い、暁も頭を下げる。
「どうされました?」
「オレらは、ふーちゃん……風花様をお慕いしております。オレらには風花様が全て。ご理解頂ければ幸いです」
「なぜ、風花なのですか?」
一番世話をしていた、一番迷惑をかけた、一番傍にいてくれた。様々な要因があるとは思うけれど、それでも目の前の美しく成長した双子ならば、縁談も恋愛もできるだろう。
広い世を知れば固執している理由が無くなり離れていき……風花が傷付くのは見たくない。
「…………桂様、席を外して頂けますか?」
「はい」
空いた湯呑みを下げて、桂が退室する。その後、再び沈黙があったけれど、急かすことなく双子をみつめた。
頭を上げ、大和は暁に目で訴えているようだ。
「…………」
「暁、話そう」
「……わかった」
双子が意を決した様子を確認し、少しだけ安堵の息を吐いた。彼らがこれから話す言葉には、嘘は無いと確信したからだ。
「これから話すことは、私達は誰にも言うつもりはありませんでした。風花さんにも」
「他言無用ですね。お約束致します」
「華月様にも」
「もちろん。私のわがままで二人の秘密に踏み込むのですから、それなりの覚悟はありますよ」
少しだけ意識して微笑むと、暁はホッとしたように顔の強ばりを緩ませてくれた。同時に大和もニコリと微笑む。
「俺は、説明が下手だから、大和から頼む」
「はい。そのつもりです。……まず、あの湖ですが、私達双子が産まれたのは今年に入ってからですが、湖としての意識は湖が完成した頃からありました。遥か昔の……まだあの山に冬の神が訪れる前には、時折やってくる山の動物達を底から眺めたりしていました。そして、冬の神が蓮様となり、まだお独りで過ごされていた頃にも何度か蓮様を底から見上げたりもしました」
「そんな昔から……」
「でも、その頃は実態があった訳ではなく、ただの意識という感じです。私と暁はひとつでした。そして、多くのただ流れる時間を……いえ、時間なんて感覚もなく、ただ移ろいをぼんやりと感じていました。そして、蓮様が三つ子をお迎えされました」
「……まって、もしかして、私達が幼い頃を覚えている??」
そう言うと、暁は思い切り頷いた。
産まれた頃から知っている、おしめを変えたりご飯を食べさせたりしていた双子に、実は幼少期を見られていたという恥ずかしさが込み上げたが、それをどうにか抑える。
「そ、そうなんですね。続けて下さい」
「天真爛漫な三つ子が湖を利用するようになり、炊事洗濯、水汲みや夏には潜って魚を捕ったりと楽しそうな様子に私達は興味を抱きました。それは初めて抱いた私達の感情です。少しずつ彼らが来ることが楽しみになり、知りたいと思うようなりました。知りたいという思いが募ると、次第に彼等の考えていることが分かるようになってきました。それは、彼等が水に触れると流れ出るように伝わってきました」
「!? え、まっ、じゃぁ私が、その華月様とのあの」
湖で泣き続けた時のことを思い出し、思わず問うと、大和は笑みを浮かべる。これは、知られている。どうやら、双子は自分よりもよっぽどこちらを知っているらしい。
自分から聞いておいて何だけれど、かなり恥ずかしい。しかし、今更途中でやっぱり止めてとは言えず促すように手を差し伸べた。
「楽しい、嬉しい、他にも喧嘩をして苛立ったり、悲しんだり、それらの感情はまるで輝く流星のように私達に降り注いできました。そして、天花様と六花の愛という複雑怪奇な感情に触れました。単調な喜怒哀楽と違い、それを理解するには多くの時間を要しました。なぜ愛しているのに泣くのだろう、なぜ愛しているのに自らの命を削るのだろう、……感情を知ってから、愛情は蓮様から溢れる恭吾様への愛と、三つ子への愛しか感じたことがなく、それらには哀しみは無かったので、余計に混乱しました。そして、分からないまま時間が経過し……ふと、風花さんの愛についての感情は常に哀しみを孕んでいることに気付きました」
「哀しみ……」
「大きな哀しみではないのですが、どこか諦めているというか……その頃、風花さんの心が呟いたんです。「俺は一番にはなれない」と」
一番。確かに愛ならば蓮や恭吾は互いが一番だろう。六花とハルトもそうだ。それに自身も華月が居る。銀花は蓮と恭吾にとって別格なので除外するが、風花が求めた一番は相手を大切に思うそれではなく無条件に注がれるたった一つの愛だったのだ。
そう思うと、風花は夏に傾いてもおかしくはなかったけれど、夏は夏で大切なものが沢山あり過ぎて風花のお眼鏡に適わなかったのだろう。
風花に蓮の思いを認識させたりしたけれど、それは大きな勘違いだったのかもしれない。
「あぁー……。そうか、そっかぁ……」
「天花様の行動に無意味な部分はありません」
何かを察した暁が力強く言ってくれたが、余計に恥ずかしくて頬を手で包む。それを見て、今度は大和が微笑んだ。
「私は空回りをしていたみたいですね」
「いえ、そんなことありません。風花さんの渇望する愛は、本人にも理解が出来なくなるほど複雑になっていました。それは今も変わっていないので、天花様の行動に風花さんは救われたと思います」
「そうなら……良いんですけどね」
「大丈夫ですよ。続けても宜しいですか?」
「よろしくお願いします」
「一番になりたい。誰かの一番になりたい。そんな風花さんの想いを聞いて、ふと私達の一番を風花さんにしようと思いました。それは最初は戯れだったと思います。しかし毎日、毎日、湖に来る風花さんに水を伝って想いを流し続けました。涙を流した時は慰めるように優しく柔らかく甘い水に湖を変えました。湖の全てを風花さんのために変化させ、風花さんが居るから湖があるのだと……そう思うようになった頃、何故、私達は湖のままなのだろうと疑問に感じました。人の形を成せば風花さんの傍に居られるのに、言葉で愛を表現し、全身で抱きしめてあげられるのに。と」
ふぅと大和は一息吐いて、言葉を続ける。
「そして、蓮様にお頼みしました。と言っても蓮様は覚えてらっしゃらないようですが、蓮様が湖に触れた時に風花さんのために産まれたいとお伝えしたのです。念のように伝えたそれを蓮様が湖の神として成ることで叶えて下さいました……が、私達は産まれることに焦り過ぎ、未熟な赤子として、ですが」
「本来、神は大人の姿なの?」
「人々の願いによりそれぞれです。子宝や子供の健康を願う人が多い神社の神は子供の姿だったりもします。なので、私達は風花さんが一番だと伝えるために産まれたので本来は今のような成人であるべきでした」
「まぁ、今となってはふーちゃんに世話をしてもらったり甘えたり、最高な時間だったけどな」
「確かに、風花さんを幸せにするためなのに、私達が幸せを感じてましたね」
ふふふと嬉しそうに笑う双子に、ふと浮かんだ疑問を口にする。
「じゃぁ、なぜ早く大人にならなかったのですか? あと、双子なのは?」
「それは、オレらが世の中を知らなすぎたからです。湖とその周辺しか知らない。それに蓮様に関わるごく一部の人々しか知らないと。六花やハルトから世界は広いと教わりました、なのでオレらは知る度に成長しようと決めました」
「あと、双子なのはもともと湖にあった意識が二つだったこともありますが、双子で愛したら風花さんは二人の一番になるので、幸せは二倍でしょう?」
「なるほど……」
どうやら、双子の風花への想いは並大抵ではないようだ。安心したけれど、それに風花が応えるかどうかは別だ。しかし、連日連夜、愛している美しい大好き最高……他にも砂糖菓子に砂糖をまぶしたような、甘い言葉で囁かれ続けている風花が籠絡されてしまうのも時間の問題だろう。
「最後に、これだけは絶対風花さんに言わないでください」
「はい」
先程より真剣な眼差しの二人に、こちらも姿勢を正して頷く。
「私達は、風花さんのために産まれました。なので、風花さんが私達……湖を不要と感じたら消えてしまいます。私達は湖の神ですが、風花さんのための唯一神なのです」
「……え?」
消えてしまう、と言ったか。
「あの湖はあのままですが、風花さんに必要とされる想いだけが、私達が存在する理由なんです」
「そんな、それじゃぁ」
「今はまだ、ふーちゃんがオレらを必要としてくれてるってことです。何度か……オレらの存在を疎ましく思わせてしまって消えかけたけど、ふーちゃんはそれを望まなかった。でも、きっとふーちゃんにオレら以外の誰か愛する人ができたらオレらは消えてしまいます。でも、それはそれで良いんです」
良いのか? 本当に良いのだろうか?
必要なくなったとしても、目の前の立派に育った彼らは家族だ。それは自分にとってもそうであり、蓮にとっては初めての神の息子達ではないのだろうか。
「ごめんなさい。天花様」
「え? なぜ、謝るのですか?」
「だって、オレらがいなくなったら悲しんでくれるでしょう? 天花様だけじゃなくて、蓮様もみんなも。でも、ごめんなさい。オレらはふーちゃんが一番なので、ふーちゃんの一番がオレらじゃなくて……それで幸せを感じたら存在意義は無いんです」
複雑な想いを感じたけれど、双子は並大抵どころか……相当な覚悟と決意を抱いて風花を愛していると知ってしまった。
確かに、これは酷く重い。
華月にすら話せないけれど、墓場まで持って行こうと心に刻む。
と、同時に風花をこの二人に任せようと決意をした。
「風花をよろしくお願いします」
微笑んで手を差し伸べると、三人で力強く握手を交わしたのだった。
森の中にある、少し開けた場所で寝転んでいる。すぐに双子に追いつかれると思ったけれど、予想に反してその影はいつまでもやって来ない。
それならば、少し昼寝でもしてしまうかと目を閉じるとすぐに眠りについてしまい今に至る。
「よく寝た」
ぐっすりと寝たらしく、まだ頭が重い。
「……」
霜月の寒空に星が幾つも瞬き、その中心で月も輝いていた。手を伸ばせば取れそうな月に思わず手を伸ばす。
「綺麗だなぁ――!?」
突然その手が掴まれて、グイッと抱き上げられてしまい驚きつつも落とされないようしがみつく。
「風花さんの方が綺麗ですよ」
「あのなぁ、大和」
「そうだ。ふーちゃんの方が月なんかより美しいぞ」
暁に手を掴まれ、大和に抱き上げられ、更には甘い言葉で囁かれ……。おかしい訳でもないのに、ははっと声を上げた。
すると双子はそれが自嘲だと思ったらしく、触れている部分に力を込めた。
「月によって風花さんの美しさが分からなくなってるなら、月を消しましょうか」
「そうだな。月が無くなれば」
「はい待った」
そう言って双子の口を手で押さえると、目を瞬かせた後に嬉しそうに笑みを浮かべる。顔の半分しか見えていないのに、二人とも幸せという感情が溢れていてこちらが恥ずかしくなりそうだ。
「とりあえず、降ろして」
そう言っても降ろす様子は無く、仕方なく押さえていた手を離して話を続けた。
「今日は遅かったね」
「すみません、お待たせしました」
「いや! 待ってない!!」
待ってないけれど、事情は知りたい。
目で訴えると、暁が握っていた手を持ち上げ指先に口付けをしてきた。
「ちょっとした話をしたんだ」
「ええ、覚悟と決意を」
「なにそれ。意味分からない」
さっぱり分からないけれど、決して嫌な気持ちではないので、きっと悪いことではないだろう。それに、少しだけ今は気分が良い。
「愛月撤灯」
「あいげつてっとう? ふーちゃん、なにそれ?」
「ん? あぁ、さっきさ、月を消そうかって言ってたじゃん? 四字熟語でそんなのあったなぁって思って。まぁ、それは月のために灯りを取り払うんだけど」
「……風花さん」
妙に真剣な声色に大和の顔を見上げる。
「私達は、風花さんの幸せのためなら月だって、神だって取り払います」
「どうも。でも、そんなことしなくていいよ。俺は今……幸せだと思うから」
最後の言葉を自分で発しておいて、非常にくすぐったくて二人と目を合わせないように視線を別に移したが、暁はそれを許さないと言わんばかりに視界に入ろうと動き出す。
「え!? ふーちゃん、幸せ!? 幸せなの!? オレらがいるから?? ふーちゃん!!」
「だー!! 暁、うるさい!! 大和!! 降ろさないなら歩き出して!! お腹空いたから何か作ろう!!」
「分かりました。手伝いますね。でも、私も気になります。幸せなんですね? 私の腕の中が?」
「――――あーもー!! お、ろ、せ!!」
「嫌です」
「ふーちゃん、オレらはふーちゃんが幸せなら幸せだよ」
「はいはい、勝手に言っててくれ」
何も変わっていないのに、何かが変わった気がする。その変化を嫌だと思わないし、心地良さすら感じる。
それは、この二人には今は言わないでおこうと思った。
「もぅ、むりぃ……」
思わず筆を持ったまま寝転んだ風花に、天花が心配そうに顔を覗き込んできた。目が合ったのでわざとらしく死んだふりをする。
「最近、凄いですもんね……」
「…………」
思い出すのも恐ろしい光景が、天花の言葉で脳裏に蘇る。
「…………こわいよ、あいつら。――!?」
そう呟いた瞬間に襖が開き、反射的に飛び起きた。いつでも駆け出せるように足に力を入れたけれど、入ってきた人物の顔を見てホッとしてまた寝転んだ。
襖を閉めたその人は、何も言わずに座って茶を煎れてくれている。湯呑みから暖かな湯気が揺らめくのを眺めると、少しだけ心が落ち着いた気がした。
「どうぞ」
「ありがとう、桂」
「いえいえ。最近、蓮様の神使はお忙しそうですから」
「…………嫌味?」
身体を起こし、差し出された茶をすする。
「嫌味? まさか。真実ですよ」
「慌ただしいのは俺だけだけどね」
自嘲気味に笑うと、桂は袖から小さな包みを取り出した。それを差し出され、受け取る。
「開けていい?」
「もちろん。天花も」
「私も良いんですか? ありがとうございます」
縛っている紐を解くと、中から楓や銀杏の葉の形をした落雁が入っていた。
「うわぁ! 可愛いな!」
「秋様の人間界での仕事で頂いたものです」
一つ口に放り込むと、独特の甘い香りが鼻を抜ける。優しくて癒される香りに満たされ、思わず微笑んでしまった。一気に食べては勿体ないので、しっかりと包みを縛り直し袖に入れた。
こういうお洒落な甘味はゆっくりと味わって食べるのが乙なものだ。しかし、大切に大切にしすぎて黴が生えてしまったことを思い出し、近いうちに食べきらねばと心の中で失笑してしまった。
「ところで、秋様は調子どう?」
「おかげさまで、春様と蓮様の手助けによりどうにか……です」
神議りでの任務を終えた春と蓮が、まだ終わらない夏と秋を手伝う。これは毎年のことだ。
「秋様は作業は早いのですけどね……如何せん、筆記が……」
思わず呟いた天花に、桂も困ったように優しく笑みを浮かべる。
「ええ。パソコンで書類を作る方が五億倍早いと仰って、筆を何本か折ってましたから」
これは比喩ではなく、事実だ。秋は驚くほど字が汚い。それは、大国主大神に書き直しを命ぜられる程だ。
桂や楓が代筆もするけれど、重要な案件は四季神の筆記しか認められない。なので、その度に筆が召される危機に晒されているわけだ。筆も気が気ではないだろう。
「大変だよな」
「そうですね。ですが、秋様は素晴らしい方なので文字の善し悪しは些細なものです」
「そっか」
否定も肯定もせずに微笑み茶をすすると、満足したように桂は笑顔になった。
正直、秋の神使が一番恐ろしい。盲信しているというか、秋が絶対、最近風に言うと秋しか勝たんというやつだろう。
秋の服装について、神議り中くらいは着物を纏えと言ってきた神に怒り狂い、神使なのに雷が落ちたというのは有名な話だ。
「夏様は?」
「ようやくやる気になってくれたので、今日はかなり進むと思いますよ」
「もっと早くやる気になって欲しいよなぁ……」
一方、夏はやれば出来るという奴だ。なので、やる気になるまで審議の巻物が山積みで減らない。
しかし、一度「おっし!」と言えば、それこそ神の速さで山が一つ二つとあっという間に消えていく。そして、正確で、筆にも神が宿ったのかと思うくらい早く美しい。
……見た目の豪快さからは想像できないほど、美しい字を書くので少しムカつくのは誰にも話したことはない。
「あと一週間あるから余裕だな。前は三日前だった」
「ふふ、蓮様が出席されるようになる以前に、解散当日にやる気を出すってこともありました」
「うげ。最悪じゃん」
「ええ、桜様が残って一日だけお手伝いして終わらせました」
ということは、神議り自体はやろうと思えば一日で終わるのではないか……と思ってしまったが、気分屋の神々のことだ。一ヶ月程の時間がないとその時で終わるはずがないとのだろう。そもそも参集日に来ない神も多い。
三人でまったりと話していると、廊下を駆け抜けてくる二人分の足音が聞こえた。
「!?」
思わず立ち上がると天花は窓を開け、桂は手を振っている。
「行ってらっしゃい」
「逃げたら窓閉めて!!」
今度こそ、本当に脱兎のごとく駆け出して、備えてあった草履を履いて窓から飛び降りた。庭を駆け抜け始めると窓を締めてくれる音がして、ホッと息を吐く。
少しだけでも時間稼ぎができただろうか。
この出雲大社の中で鬼ごっこのような真似をしてもすぐに捕まってしまうのだけれど……逃げずにはいられない。
今回はどこに匿って貰おうか。いや、森の中でひっそりと息を殺してみるか。
軽快な音ともに背の高い男が二人、神使部屋に入ってきた。
「あれ!? ふーちゃんは!?」
キョロキョロと見渡す双子は本当に行動までソックリだ。人間の成人の体格になってはいるけれど、ついこの前に天狗の里で学んでいた姿を思い出し、ふふふと笑い声をあげてしまった。
「天花様、桂様、こんにちは」
「こんにちは。大和さん、暁さん。どうされました?」
「風花さんはこちらにいらっしゃいませんか?」
「うーん」
悩む振りをしたけれど、残念ながら湯呑みが三つ残っている上に、全て暖かそうな湯気を立てている。嘘をついてもすぐにバレるだろう。
「いましたよ。ねぇ、桂さん」
「ええ。天花さん。風花さんはいらっしゃいました」
わざとらしく長めにゆっくりと返事をする。
双子ももちろんそれに気付いているのだろうけれど、特段焦る様子はない。
「そうですか。……窓からですね? 失礼します」
部屋に入ってきた双子は窓を開けて確認し、外に出ようとした。
「大和さん、暁さん」
懐から草履を取り出して、すぐに追いかける予定だった様子の双子は首を傾げながら振り向いた。手をこまねきすると、少し悩むように眉間に皺を寄せた暁に、大和は頷いて応えてその場に腰を下ろした。
「天花様、なんでございましょうか?」
「今、ここでの立場はあなた方は神で、私はただの神使です。敬称は不要ですよ」
「いえ。天花様は世話になった天狗の里の長の伴侶です。そして師でもある。礼儀はそのままで」
「暁さんは頑固ですね。大和さんはいかがです?」
「私もです」
「そうですか」
暫しの沈黙のあと、大和が突然頭を下げた。それに倣い、暁も頭を下げる。
「どうされました?」
「オレらは、ふーちゃん……風花様をお慕いしております。オレらには風花様が全て。ご理解頂ければ幸いです」
「なぜ、風花なのですか?」
一番世話をしていた、一番迷惑をかけた、一番傍にいてくれた。様々な要因があるとは思うけれど、それでも目の前の美しく成長した双子ならば、縁談も恋愛もできるだろう。
広い世を知れば固執している理由が無くなり離れていき……風花が傷付くのは見たくない。
「…………桂様、席を外して頂けますか?」
「はい」
空いた湯呑みを下げて、桂が退室する。その後、再び沈黙があったけれど、急かすことなく双子をみつめた。
頭を上げ、大和は暁に目で訴えているようだ。
「…………」
「暁、話そう」
「……わかった」
双子が意を決した様子を確認し、少しだけ安堵の息を吐いた。彼らがこれから話す言葉には、嘘は無いと確信したからだ。
「これから話すことは、私達は誰にも言うつもりはありませんでした。風花さんにも」
「他言無用ですね。お約束致します」
「華月様にも」
「もちろん。私のわがままで二人の秘密に踏み込むのですから、それなりの覚悟はありますよ」
少しだけ意識して微笑むと、暁はホッとしたように顔の強ばりを緩ませてくれた。同時に大和もニコリと微笑む。
「俺は、説明が下手だから、大和から頼む」
「はい。そのつもりです。……まず、あの湖ですが、私達双子が産まれたのは今年に入ってからですが、湖としての意識は湖が完成した頃からありました。遥か昔の……まだあの山に冬の神が訪れる前には、時折やってくる山の動物達を底から眺めたりしていました。そして、冬の神が蓮様となり、まだお独りで過ごされていた頃にも何度か蓮様を底から見上げたりもしました」
「そんな昔から……」
「でも、その頃は実態があった訳ではなく、ただの意識という感じです。私と暁はひとつでした。そして、多くのただ流れる時間を……いえ、時間なんて感覚もなく、ただ移ろいをぼんやりと感じていました。そして、蓮様が三つ子をお迎えされました」
「……まって、もしかして、私達が幼い頃を覚えている??」
そう言うと、暁は思い切り頷いた。
産まれた頃から知っている、おしめを変えたりご飯を食べさせたりしていた双子に、実は幼少期を見られていたという恥ずかしさが込み上げたが、それをどうにか抑える。
「そ、そうなんですね。続けて下さい」
「天真爛漫な三つ子が湖を利用するようになり、炊事洗濯、水汲みや夏には潜って魚を捕ったりと楽しそうな様子に私達は興味を抱きました。それは初めて抱いた私達の感情です。少しずつ彼らが来ることが楽しみになり、知りたいと思うようなりました。知りたいという思いが募ると、次第に彼等の考えていることが分かるようになってきました。それは、彼等が水に触れると流れ出るように伝わってきました」
「!? え、まっ、じゃぁ私が、その華月様とのあの」
湖で泣き続けた時のことを思い出し、思わず問うと、大和は笑みを浮かべる。これは、知られている。どうやら、双子は自分よりもよっぽどこちらを知っているらしい。
自分から聞いておいて何だけれど、かなり恥ずかしい。しかし、今更途中でやっぱり止めてとは言えず促すように手を差し伸べた。
「楽しい、嬉しい、他にも喧嘩をして苛立ったり、悲しんだり、それらの感情はまるで輝く流星のように私達に降り注いできました。そして、天花様と六花の愛という複雑怪奇な感情に触れました。単調な喜怒哀楽と違い、それを理解するには多くの時間を要しました。なぜ愛しているのに泣くのだろう、なぜ愛しているのに自らの命を削るのだろう、……感情を知ってから、愛情は蓮様から溢れる恭吾様への愛と、三つ子への愛しか感じたことがなく、それらには哀しみは無かったので、余計に混乱しました。そして、分からないまま時間が経過し……ふと、風花さんの愛についての感情は常に哀しみを孕んでいることに気付きました」
「哀しみ……」
「大きな哀しみではないのですが、どこか諦めているというか……その頃、風花さんの心が呟いたんです。「俺は一番にはなれない」と」
一番。確かに愛ならば蓮や恭吾は互いが一番だろう。六花とハルトもそうだ。それに自身も華月が居る。銀花は蓮と恭吾にとって別格なので除外するが、風花が求めた一番は相手を大切に思うそれではなく無条件に注がれるたった一つの愛だったのだ。
そう思うと、風花は夏に傾いてもおかしくはなかったけれど、夏は夏で大切なものが沢山あり過ぎて風花のお眼鏡に適わなかったのだろう。
風花に蓮の思いを認識させたりしたけれど、それは大きな勘違いだったのかもしれない。
「あぁー……。そうか、そっかぁ……」
「天花様の行動に無意味な部分はありません」
何かを察した暁が力強く言ってくれたが、余計に恥ずかしくて頬を手で包む。それを見て、今度は大和が微笑んだ。
「私は空回りをしていたみたいですね」
「いえ、そんなことありません。風花さんの渇望する愛は、本人にも理解が出来なくなるほど複雑になっていました。それは今も変わっていないので、天花様の行動に風花さんは救われたと思います」
「そうなら……良いんですけどね」
「大丈夫ですよ。続けても宜しいですか?」
「よろしくお願いします」
「一番になりたい。誰かの一番になりたい。そんな風花さんの想いを聞いて、ふと私達の一番を風花さんにしようと思いました。それは最初は戯れだったと思います。しかし毎日、毎日、湖に来る風花さんに水を伝って想いを流し続けました。涙を流した時は慰めるように優しく柔らかく甘い水に湖を変えました。湖の全てを風花さんのために変化させ、風花さんが居るから湖があるのだと……そう思うようになった頃、何故、私達は湖のままなのだろうと疑問に感じました。人の形を成せば風花さんの傍に居られるのに、言葉で愛を表現し、全身で抱きしめてあげられるのに。と」
ふぅと大和は一息吐いて、言葉を続ける。
「そして、蓮様にお頼みしました。と言っても蓮様は覚えてらっしゃらないようですが、蓮様が湖に触れた時に風花さんのために産まれたいとお伝えしたのです。念のように伝えたそれを蓮様が湖の神として成ることで叶えて下さいました……が、私達は産まれることに焦り過ぎ、未熟な赤子として、ですが」
「本来、神は大人の姿なの?」
「人々の願いによりそれぞれです。子宝や子供の健康を願う人が多い神社の神は子供の姿だったりもします。なので、私達は風花さんが一番だと伝えるために産まれたので本来は今のような成人であるべきでした」
「まぁ、今となってはふーちゃんに世話をしてもらったり甘えたり、最高な時間だったけどな」
「確かに、風花さんを幸せにするためなのに、私達が幸せを感じてましたね」
ふふふと嬉しそうに笑う双子に、ふと浮かんだ疑問を口にする。
「じゃぁ、なぜ早く大人にならなかったのですか? あと、双子なのは?」
「それは、オレらが世の中を知らなすぎたからです。湖とその周辺しか知らない。それに蓮様に関わるごく一部の人々しか知らないと。六花やハルトから世界は広いと教わりました、なのでオレらは知る度に成長しようと決めました」
「あと、双子なのはもともと湖にあった意識が二つだったこともありますが、双子で愛したら風花さんは二人の一番になるので、幸せは二倍でしょう?」
「なるほど……」
どうやら、双子の風花への想いは並大抵ではないようだ。安心したけれど、それに風花が応えるかどうかは別だ。しかし、連日連夜、愛している美しい大好き最高……他にも砂糖菓子に砂糖をまぶしたような、甘い言葉で囁かれ続けている風花が籠絡されてしまうのも時間の問題だろう。
「最後に、これだけは絶対風花さんに言わないでください」
「はい」
先程より真剣な眼差しの二人に、こちらも姿勢を正して頷く。
「私達は、風花さんのために産まれました。なので、風花さんが私達……湖を不要と感じたら消えてしまいます。私達は湖の神ですが、風花さんのための唯一神なのです」
「……え?」
消えてしまう、と言ったか。
「あの湖はあのままですが、風花さんに必要とされる想いだけが、私達が存在する理由なんです」
「そんな、それじゃぁ」
「今はまだ、ふーちゃんがオレらを必要としてくれてるってことです。何度か……オレらの存在を疎ましく思わせてしまって消えかけたけど、ふーちゃんはそれを望まなかった。でも、きっとふーちゃんにオレら以外の誰か愛する人ができたらオレらは消えてしまいます。でも、それはそれで良いんです」
良いのか? 本当に良いのだろうか?
必要なくなったとしても、目の前の立派に育った彼らは家族だ。それは自分にとってもそうであり、蓮にとっては初めての神の息子達ではないのだろうか。
「ごめんなさい。天花様」
「え? なぜ、謝るのですか?」
「だって、オレらがいなくなったら悲しんでくれるでしょう? 天花様だけじゃなくて、蓮様もみんなも。でも、ごめんなさい。オレらはふーちゃんが一番なので、ふーちゃんの一番がオレらじゃなくて……それで幸せを感じたら存在意義は無いんです」
複雑な想いを感じたけれど、双子は並大抵どころか……相当な覚悟と決意を抱いて風花を愛していると知ってしまった。
確かに、これは酷く重い。
華月にすら話せないけれど、墓場まで持って行こうと心に刻む。
と、同時に風花をこの二人に任せようと決意をした。
「風花をよろしくお願いします」
微笑んで手を差し伸べると、三人で力強く握手を交わしたのだった。
森の中にある、少し開けた場所で寝転んでいる。すぐに双子に追いつかれると思ったけれど、予想に反してその影はいつまでもやって来ない。
それならば、少し昼寝でもしてしまうかと目を閉じるとすぐに眠りについてしまい今に至る。
「よく寝た」
ぐっすりと寝たらしく、まだ頭が重い。
「……」
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「綺麗だなぁ――!?」
突然その手が掴まれて、グイッと抱き上げられてしまい驚きつつも落とされないようしがみつく。
「風花さんの方が綺麗ですよ」
「あのなぁ、大和」
「そうだ。ふーちゃんの方が月なんかより美しいぞ」
暁に手を掴まれ、大和に抱き上げられ、更には甘い言葉で囁かれ……。おかしい訳でもないのに、ははっと声を上げた。
すると双子はそれが自嘲だと思ったらしく、触れている部分に力を込めた。
「月によって風花さんの美しさが分からなくなってるなら、月を消しましょうか」
「そうだな。月が無くなれば」
「はい待った」
そう言って双子の口を手で押さえると、目を瞬かせた後に嬉しそうに笑みを浮かべる。顔の半分しか見えていないのに、二人とも幸せという感情が溢れていてこちらが恥ずかしくなりそうだ。
「とりあえず、降ろして」
そう言っても降ろす様子は無く、仕方なく押さえていた手を離して話を続けた。
「今日は遅かったね」
「すみません、お待たせしました」
「いや! 待ってない!!」
待ってないけれど、事情は知りたい。
目で訴えると、暁が握っていた手を持ち上げ指先に口付けをしてきた。
「ちょっとした話をしたんだ」
「ええ、覚悟と決意を」
「なにそれ。意味分からない」
さっぱり分からないけれど、決して嫌な気持ちではないので、きっと悪いことではないだろう。それに、少しだけ今は気分が良い。
「愛月撤灯」
「あいげつてっとう? ふーちゃん、なにそれ?」
「ん? あぁ、さっきさ、月を消そうかって言ってたじゃん? 四字熟語でそんなのあったなぁって思って。まぁ、それは月のために灯りを取り払うんだけど」
「……風花さん」
妙に真剣な声色に大和の顔を見上げる。
「私達は、風花さんの幸せのためなら月だって、神だって取り払います」
「どうも。でも、そんなことしなくていいよ。俺は今……幸せだと思うから」
最後の言葉を自分で発しておいて、非常にくすぐったくて二人と目を合わせないように視線を別に移したが、暁はそれを許さないと言わんばかりに視界に入ろうと動き出す。
「え!? ふーちゃん、幸せ!? 幸せなの!? オレらがいるから?? ふーちゃん!!」
「だー!! 暁、うるさい!! 大和!! 降ろさないなら歩き出して!! お腹空いたから何か作ろう!!」
「分かりました。手伝いますね。でも、私も気になります。幸せなんですね? 私の腕の中が?」
「――――あーもー!! お、ろ、せ!!」
「嫌です」
「ふーちゃん、オレらはふーちゃんが幸せなら幸せだよ」
「はいはい、勝手に言っててくれ」
何も変わっていないのに、何かが変わった気がする。その変化を嫌だと思わないし、心地良さすら感じる。
それは、この二人には今は言わないでおこうと思った。
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