【R18】雨乞い乙女は龍神に身を捧げて愛を得る

麦飯 太郎

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龍神の想い

「はぁぁぁぁぁ……………………」

 長い溜息を吐いて、肺の中の空気が無くなっても吸う気にはなれない気分の龍神は、机に額をつけて目を閉じた。

「…………………………はぁぁぁ…………」

 おとめを山の安全な洞窟で寝かせて、最後に額に口付けをして小さな加護を与えてから屋敷に戻り数刻。龍神はずっとこの調子だ。
 何故か。
 それは龍神自身も分かりきっていた。
 おとめが好みだったからだ。
 それも、異常なほど、全部が。

「…………はぁ………………」

 おとめとの交わりを思い出す。

「初めてだったが……失敗は……してなかったよな……」

 何度か贄の儀式で女が湖に飛び込んできたが……実は最初に失敗してから、抱いたことはない。
 いや、最初も未遂で終わっているのだ。
 それから恥を忍んで女の抱き方を教わったけれど、だからといって抱く気にはなれず……。抱かなくとも雨を降らせたり止ませたりは可能なので、女の記憶を消して記憶喪失状態で離れた他の湖の畔へ飛ばしていたのだ。
 そこで女達が健やかに生きていたかは知らないが、おとめのように過去の贄の女にも村に戻りたいかは確認した上の処置だ。
 どうやら、戻っても龍神に身を捧げ純潔ではなくなった女は不要だと思われるらしい。村八分にされることはなくとも、嫁にはいけなくなる。それならば別の人生をと……本人達が飛ばされることを望んだのだから、そうしたまで。
 今回もそうするべきだと思った。
 いくら好みの女でも……贄には変わらない。
 しかし、おとめは村に戻りたがった。
 しかも記憶を残した状態で。
 記憶が残っているなら、良い想いをさせれば……もう一度来てくれはしないか。
 こちらから会いに行けないが、おとめから来てくれるように尽くす交わりをすれば、いつかまた……そんな打算があった。
 そんなことが起こる確率は極めて低いとわかっていながら、龍神は気持ちを抑えることはできなかったのだ。

「たまらない………………」

 落ちてきた姿は本当にどこかの女神だと思った。それに目や髪の美しさはもちろんだが、声も表情も心根の優しさも…………少し淫らなところも。全てが愛おしかった。

「………………はぁぁぁぁぁ…………」

 本当は龍らしく一日、いや三日は余裕で交わり続けられるのだが、おとめに嫌われないよう紳士らしく一度で留めた。
 中に埋めたままの肉塊は、すぐに力を取り戻していたのだが、引き抜いて平気な振りをしておとめを慈しんだのだ。
 嫌われてはいないと思う。龍神は心で呟いては、でも・もしも・きっと・いや・まさかと、永遠に続く答えの出ない問いを続けた。
 不意に龍神は自らの胸元からおとめの香りががすることに気がついた。肌が触れ合っていたのだから、それが移るのは当然だろう。
 立ちのぼるおとめの香りは、打掛に焚かれていた香とおとめ自身の女の香りだ。胸いっぱいに吸い込み、また優しい顔や声、おとめの全てを思い起こして深く息を吐いた。

「龍神さまは、とうとう嫁様をもらうんか?」

 机の反対側から声がした。しかし、その声の主をよく知っているので龍神は顔をあげない。

「なにいってんのよ。おとめちゃん帰っちゃったじゃん」

 おとめの名前が出て、龍神は顔を上げた。

「おとめを知っているのか?」

 目の前には三匹の獣。
 狸の雄と雌と、狐の雄。
 三匹は龍神の使い……といっても勝手に付いてくるようになった化け狸と化け狐だ。眷属ではない。幼い獣の姿をしているが、中身は数百年生きた立派な妖である。
 狸の雌……ヤエが机に手をついて胸を張る。
「そりゃ、山の獣はみんな知ってるわよ! あんな可愛らしくて、獣にも優しくて、狩る時はちゃんと供養して全部を余さず使う子よ。とても良い子ねってみーんなおとめちゃんが大好きなの。でも見た目が他の人間とは違うから――その、……村では少し辛かったみたいよ」
「そうなのか?」

 ここでたった数刻共に過ごしただけだけれど、おとめからはそんな雰囲気は微塵も感じられなかった。
 だが、辛い思いしたのならば……なぜ村に戻りたがったのだろうか。

「知らないのは、龍神さまだけだな」

 机に肘をついて、獣の小さな手でこちらを指してきたのは狐の雄である三国だ。
 それを雄の狸、次郎が独特の口調で制する。

「それは仕方のーて。龍神さまは湖からほとんどでらんからのぉ。おれはおとめちゃんが嫁様になってくれるのかと思ったんじゃが」

 贄ではなく、嫁になってくれればどれだけ良いだろうか。だが、それは人間を捨てると同義だ。そんなことを神から求めるなど……自分のように田舎の山に引き篭もった神が望むなどあってはならないことだろう。

「村で……そんなにおとめは辛いのか?」
「いいえ。辛い思いもしたけど、おとめちゃんが明るくて前向きだし何より美人でしょう? だから今はそこまででもないわ。ただ、今回みたいに誰かを犠牲にってなったら真っ先に選ばれる。そういうことよ」

 なるほどと龍神は息を吐く。
 あの器量良しならば、帝都に行ったら引く手数多に違いない。こんな田舎をさっさと捨てれば良いものを、そうしない理由はなんだろうか。
 そんなことを考えていると、顔に出ていたのか、三国が答えをくれた。

「おとめちゃん、母親と二人で暮らしてるんだ。いつか夫、おとめちゃんの父親が迎えに来るって信じてる母親が、村を離れたがらないんだとよ」
「なるほどな……。やはりおとめは優しいな。それにしても……あんな……美しい人がいるんだな……」

 最後の方は小さな声で龍神はボソリとつぶやいたのだが、ここに居るのは獣であり妖だ。もちろん全員聞こえている。

「……惚れたんか?」
「惚れてるわね」

 生温い三匹の視線から、逃げるように顔を俯ける。

「でも、村に返したならもう来ないだろ。人間には人間の生活があるからな。雨が降って、田畑が潤えば、忙しくなる。おとめちゃんは妙齢な上に超絶美人だ。贄になったから今すぐはなくとも、すぐに帝都とかの人が目を付けるだろ」
「……………………」
「こらっ!!」

 三国の言葉に、じっとりとした目で三匹を見る。すると焦ったようにヤエが三国の脇腹を叩いた。

「あぁ、恋を知って、秒で失恋か。龍神さま、可哀想やな」
「こ、こらっ!!」

 今度は次郎の言葉に、額を机にゴンッと鈍い音を立てて落とした。
 恋を知って、失恋をした。
 その言葉が龍神の心に重くのしかかる。
 せめて、自分が神ではなく妖ならば。少しは自分で様子を見に行くことだってできただろうか。
 好きで神をしているわけではない。
 今日ほどそう思った日はない。

「ねぇ、龍神さま? 私達が、おとめちゃんの様子を報告しようか?」
「……………………そうだな。頼む。…………出来るなら……また、会いたい」

 ゴロリと頭を机で転がし、弱々しい笑みを浮かべると、三匹はなんとも言えない切ない表情で微笑んでくれた。
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