【R18】雨乞い乙女は龍神に身を捧げて愛を得る

麦飯 太郎

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再びの日照り

 日照りはその後も解消されることがなく、おとめやトヨが通ると村人はコソコソと話をするようになっていった。
 聞こえない時もあるけれど、聞こえる時もある。
 そしてその内容はどれも似たものだ。

「ちゃんと頼めてなかったんじゃないか?」
「いや、一回は降ったし、戻ったのが悪かったのでは?」
「ならもう一回行けばいい」
「もうあの娘は純潔ではないぞ?」
「村に帰ってきた奇跡の子なら、龍神もまた抱くんじゃないか?」
「いや、それより新しい純潔を捧げた方が間違いないだろ」
「そんな娘はもう十になるかならないかの子しかおらんぞ。龍神が満足するか?」
「なら隣の村から……」
「いや、それなら……」

 好き勝手言われ始めた頃は傷付いたりもしたけれど、どうせ雨が降ればそんなこと忘れたように接してくるのが目に見えているので、すぐにおとめもトヨも気にすることをやめた。
 しかし、気にすることはなくとも雨は一向に降らない。
 辛うじてまだ暮らせる分の水が川を流れているけれど、その水かさは随分と減ってしまった。先日は少ない水に追いやられた魚を手掴みで捕らえることができたので、それほど……という訳だ。
 どうしたものかと水分不足で枯れてしまった庭の草を眺めるようにしゃがみこんでいると、表の方から走るような足音が聞こえてきた。

「おとめちゃん――!! おとめちゃん! いる!?」
「いるよー? ゆきちゃんどうしたの?」

 汗だくになったゆきが、ゼーゼーと息を切らし顎に溜まった汗を拭っている。
 その様子が緊急事態を物語っており、おとめは立ち上がり駆け寄った。

「落ち着いて、どうしたの?」
「はぁーはぁーはぁー、ウメが、ウメが――」
「ウメって……ゆきちゃんの姪っ子の?」

 ゆきの旦那の兄は少し離れており、数人の子をもうけている。その中の長女がウメだ。

「今朝――ウメが!! 人身御供に!!」
「はぁ!? ウメはまだ……九歳でしょ!?」
「せん、げつ、はぁー、十になったからっ――はぁーはぁー」
「いやいや! それでも十でしょ!?」
「でも、はぁー……それしかないならって義兄さんが!!」
「あの馬鹿っ!!」

 ゆきの義兄は優しすぎることで有名だ。村のためだと周囲に言われれば、頷くことは目に見えている。

「義姉さんは?」
「泣いてるウメが連れてかれて、気を失って……そのままっ、はぁはぁー、目覚めてないの」

 それもそうだ。おとめのように自分から決断したわけではなく、嫌がる娘を何も出来ずに見送るなど……普通の親には到底できない。

(自分勝手した私が……何も言えないけど……)

「おとめちゃん! 龍神様の湖の場所わかるのよね!? 私が身投げするから、お願い!! 教えて!!」
「ゆ、ゆきちゃんが行くの?」

 ざわりと胸が騒ぐ。

「うん。もう純潔ではないけど……でも、ウメよりも……もしかしたら、生きて帰れるはずだから」

  行きたくて行くのではないと知っているが、それでも目の前のゆきが龍神に抱かれることを考えるだけで、指先から血の気が引くような感覚がする。
 がっしりとゆきの肩を持つ。
 俯いていたゆきは驚いて顔を上げた。そして、何を言うのか悟ったらしく悲しい表情を浮かべた。

「私が行く」
「でも! 一度龍神様に捧げたおとめちゃんは無効だろうって村長が……」
「それは、多分……大丈夫だと思う。それにさ、一度顔を合わせてるから、龍神様も見知った顔だし温情をくれるかも」

 確証はないけれど、龍神なら話くらいは聞いてくれる。そんな思いがおとめにはあった。

「待ってて、絶対にウメを贄になんてさせないから」
「朝から準備してたなら、もう時間がないよね。私はこのまま行くから、お母さんをよろしく。絶対戻ってくるって……勝手してごめんって伝えといて」

 そう言っておとめは立ち上がり、走り出した。
 後ろでゆきが叫んでいるが、足を止める時間はもうきっと残されていない。
 途中で草履の鼻緒が切れたので、それを捨てて裸足で山を駆け上る。痛みはあるはずなのに、今はそれを感じている余裕はおとめにはなかった。
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