15 / 41
龍神のもとへ 1
山に向かう途中、おとめは井戸に寄って頭から水を被る。
汗が冷え体は凍えるほど冷たいけれど、万が一、火の手が迫った時に濡れていれば時間稼ぎくらいにはなるだろう。
龍神の湖まで行ければ良い。
よじ登るように山をかけ登る。
火の手はどんどん広がっているようで、パチパチと燃える音が聞こえてきた。
「――アチッ!! こんなところにまで…………!!」
風で飛んでしまった火の粉が枯葉に燃え移っているようだ。
ふと立ち止まり落ち着いて辺りを見ると、今にも火を吹き出しそうな燻った煙がそこかしこに上がっている。
このままでは、いくら村の中心の畑に逃げていても被害は免れなくなってしまう。
(龍神様が雨を降らせてくれれば……)
しかし、龍神がいくら優しいからといっても、年に何度も人間が頼みごとをするのは良い気はしないだろう。
「でも、龍神様がご無事なら……あぁー!! もう!!」
おとめが山に入ったのは龍神の無事を確認するためだ。それなのに、いつの間にか助けてもらおうと思ってしまっている人間らしい傲慢さに吐き気がする。
それでも、どちらもおとめが大切にしているものなので、見捨てることはできない。
……もし湖が無事ならば、頼ってしまうだろう。おとめは立ち止まったまま空を見る。
微かに夜空が明るいのは他で山火事が広がっている証拠だろう。
そして足元を見れば、燻っていた煙の場所からポッと赤い炎が上がった。
「!! とりあえず走らないと!!」
走り出すと、いつのまにか一匹の狸がおとめの横を伴走するように走っている。
「ねぇ! もう火が近いから君も早く逃げて!!」
おとめを見上げた狸は、少し首を振る仕草をしておとめの前に出た。そして、先導するように獣道を走り込む。その光景に一旦足を止めたおとめに、狸が戻ってきて足に触れた。
「付いて来いって?」
「キャン!」
「私、急いで龍神様に会いに行かないといけないの」
「キャンキャン!!」
言っていることは何一つわからない。でも、おとめはこの狸に付いていくべきだと思った。そっと頭を撫でてやると、嬉しそうに擦り寄ってキューと可愛い声を出した。
「龍神様の元へ、最短でお願いできる?」
「キャン!!」
元気よく鳴いた狸が走りだした。おとめはその姿を見失わないように必死に追いかける。狸の小さな身体が草を揺らし、獣道でもない場所を駆け抜けた。
枯葉で滑り、足がもつれそうになり、くるぶし辺りは枯葉や枯れ枝で傷がいくつもできた。それでもおとめは走り続け、狸を追う。
すると一気に目の前が開き、湖が見下ろせる場所についた。
「すごい!! 畔までは遠回りだけど、ここは近かったんだ!! 飛び込めばいける!!」
そこまで言って、足元の狸に触れた。
「ありがとう。助かったよ。君も早く逃げてね。困ったことがあったら私の家に来てね。絶対助けるから」
狸は嬉しそうに一度大きく飛び跳ねてから山に向かって走っていった。獣達もきっと逃げているに違いない。
人間は獣の場所を借りているに過ぎない。互いに持ちつ持たれつの関係を築いているが、これ以上延焼してしまえばその均衡は崩れてしまう。
しかし、おとめにはどうしようもなく、頭を振って改めて崖の下を覗く。
「――高い!」
狸がいた時は興奮して感じられなかったが、改めて見ると崖は家の屋根より遥かに高い。家を三軒重ねても足りないだろう。
「でも、やるしかないでしょ!!」
十歩ほど下がり、ふぅと息を吐く。
心臓が飛び出そうなほど緊張しているが、気合を入れて踏み出した。
思い切り走り、崖から飛び降りる。
落ちながら見た湖の景色は、見惚れるほど美しい。月明かりを遮る木々がなく、平面からではない上からの景色。
その特別な光景を目に焼き付け、おとめはドブンと湖面に落ちた。
汗が冷え体は凍えるほど冷たいけれど、万が一、火の手が迫った時に濡れていれば時間稼ぎくらいにはなるだろう。
龍神の湖まで行ければ良い。
よじ登るように山をかけ登る。
火の手はどんどん広がっているようで、パチパチと燃える音が聞こえてきた。
「――アチッ!! こんなところにまで…………!!」
風で飛んでしまった火の粉が枯葉に燃え移っているようだ。
ふと立ち止まり落ち着いて辺りを見ると、今にも火を吹き出しそうな燻った煙がそこかしこに上がっている。
このままでは、いくら村の中心の畑に逃げていても被害は免れなくなってしまう。
(龍神様が雨を降らせてくれれば……)
しかし、龍神がいくら優しいからといっても、年に何度も人間が頼みごとをするのは良い気はしないだろう。
「でも、龍神様がご無事なら……あぁー!! もう!!」
おとめが山に入ったのは龍神の無事を確認するためだ。それなのに、いつの間にか助けてもらおうと思ってしまっている人間らしい傲慢さに吐き気がする。
それでも、どちらもおとめが大切にしているものなので、見捨てることはできない。
……もし湖が無事ならば、頼ってしまうだろう。おとめは立ち止まったまま空を見る。
微かに夜空が明るいのは他で山火事が広がっている証拠だろう。
そして足元を見れば、燻っていた煙の場所からポッと赤い炎が上がった。
「!! とりあえず走らないと!!」
走り出すと、いつのまにか一匹の狸がおとめの横を伴走するように走っている。
「ねぇ! もう火が近いから君も早く逃げて!!」
おとめを見上げた狸は、少し首を振る仕草をしておとめの前に出た。そして、先導するように獣道を走り込む。その光景に一旦足を止めたおとめに、狸が戻ってきて足に触れた。
「付いて来いって?」
「キャン!」
「私、急いで龍神様に会いに行かないといけないの」
「キャンキャン!!」
言っていることは何一つわからない。でも、おとめはこの狸に付いていくべきだと思った。そっと頭を撫でてやると、嬉しそうに擦り寄ってキューと可愛い声を出した。
「龍神様の元へ、最短でお願いできる?」
「キャン!!」
元気よく鳴いた狸が走りだした。おとめはその姿を見失わないように必死に追いかける。狸の小さな身体が草を揺らし、獣道でもない場所を駆け抜けた。
枯葉で滑り、足がもつれそうになり、くるぶし辺りは枯葉や枯れ枝で傷がいくつもできた。それでもおとめは走り続け、狸を追う。
すると一気に目の前が開き、湖が見下ろせる場所についた。
「すごい!! 畔までは遠回りだけど、ここは近かったんだ!! 飛び込めばいける!!」
そこまで言って、足元の狸に触れた。
「ありがとう。助かったよ。君も早く逃げてね。困ったことがあったら私の家に来てね。絶対助けるから」
狸は嬉しそうに一度大きく飛び跳ねてから山に向かって走っていった。獣達もきっと逃げているに違いない。
人間は獣の場所を借りているに過ぎない。互いに持ちつ持たれつの関係を築いているが、これ以上延焼してしまえばその均衡は崩れてしまう。
しかし、おとめにはどうしようもなく、頭を振って改めて崖の下を覗く。
「――高い!」
狸がいた時は興奮して感じられなかったが、改めて見ると崖は家の屋根より遥かに高い。家を三軒重ねても足りないだろう。
「でも、やるしかないでしょ!!」
十歩ほど下がり、ふぅと息を吐く。
心臓が飛び出そうなほど緊張しているが、気合を入れて踏み出した。
思い切り走り、崖から飛び降りる。
落ちながら見た湖の景色は、見惚れるほど美しい。月明かりを遮る木々がなく、平面からではない上からの景色。
その特別な光景を目に焼き付け、おとめはドブンと湖面に落ちた。
あなたにおすすめの小説
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。