【R18】雨乞い乙女は龍神に身を捧げて愛を得る

麦飯 太郎

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龍神の煩悩

 年が明けたらしい。
 もう何百年も新年など気にしていなかったので、数日……数週間年明けに気付かないことはよくある。悪ければ、春が近付き もうそんな時期か と思うほどだ。
 それが、今年は全く違う。
 おとめが新年を知らせてくれたからだ。
 龍神はいつものように机に肘をついて顔を下に向けていた。そしていつものように、狸二匹と狐が一匹、向かい側にちょこんと座っている。

「おめでとう……か」

 新年の挨拶など、久しぶりにした。獣は新年を祝わない。春が来れば心躍るように冬眠から醒めるので、この田舎に来てからはそちらの方が親しみがある。
 だが、その時はおめでとうではなく、おはようだ。

「おめでとう……悪くないな」

 ゆるむ頬を引き締められず顔を上げられない龍神を、三匹は生暖かい目で見守っていたが、次郎がふと思い出したように そういえば と呟いた。

 「そういえば、今回はおとめちゃんを抱かなかったのぉ。新年に交わることを人間はなんというんやったか……」
「姫はじめっていうのよね」

 ピクリと龍神の肩が揺れる。しかし、三匹はそれに気付かず話を続けた。

「なぁ。なんで姫なんだ?」
「さぁ? お姫様みたいにお洒落するからかしら?」
「おとめちゃんはいつだって姫みたいに綺麗やない? いや、女神様のようだと思う!! 今日も可愛かったのぉ」
「まぁ確かに。オレらは人間に発情したりしないけど、おとめちゃんの美しさはわかるよな」

 そうだ、おとめは美しい。
 あの澄んだ青い瞳で見つめられると、こちらの心の内まで見られていそうな焦燥感すら湧いてくる。しかし、その瞳が快楽で濡れた時、それは一変する。その瞳に映る全てを己だけにしたいという独占欲。危うい感情すら芽生えてくるのだ。
 それに声も美しい。
 まだおとめの歌を聞いたことはないけれど、きっと澄んだ冬の空気のように心に染み込んでくるに違いない。
 そして、その声もやはり閨では色を変える。
 甘く、蕩けた声で もうだめ と 気持ちいい と漏れるような吐息で告げてくるのだ。その度に吐精しそうになり、そして肉塊は力強さを増してしまう。
 そこまで考え、龍神は思い出しただけで兆しそうにな下半身の熱を感じた。
 ふと、三匹が会話を止めていることに気付き、チラリと視線をやる。

「……なんだ」

 生暖かいままの視線。

「おとめちゃんとの姫はじめ……残念やったな」
「まぁ、新年は新年だから、次が姫はじめよね?」
「留守にしたほうがいい時は、ちゃんと前触れ下さい」

 言いたい放題の三匹に、龍神は押さえていた言葉が沸々と漏れ出した。

「……お前ら――!! 抱けなかったのは誰のせいだと!!」

 しかし、そんな龍神の怒りの声色も気にせず、ニコリと次郎は笑いかけてきた。

「あ!! やっぱり姫はじめしたかったんやなぁ」
「下心しかないのか?」
「龍神様も男よね。おとめちゃんは人間なんだから、繁殖行動だけはダメよ?」

 やはり好き放題言う獣三匹。
 だが、下心は確かにあったし今もあるので、少しだけ言葉に詰まる。

「ちがっ――、しなくても良い!! しなくても良いんだ!! だが、あんな、夫婦みたいな雰囲気は――!!」
「確かに夫婦でしたねー」
「夫婦ならそのままなだれ込むな」
「我慢して偉いですねー」
「でも、帰りは我慢できずにおとめちゃんを抱き締めておったらしいぞ」
「――!? 勝手に覗くな!!」
「野生動物しか居ない山で秘密にしたいことをするのが悪いんですよ」
「――!! 帰れ!!!」

 はーい と楽しそうに跳ねながら三匹は屋敷から出ていった。
 隣の席にある座布団。そこにおとめは座っていた。
 そこをそっと撫でるが、もうとっくに温もりは消えている。

「次は……いつ、会えるだろうか」

 ついさっきまで共に居たのに、もう会いたい。いや、会っていても帰ってしまうと思ったら会いたい気持ちが湧いてくる。
 触れればもっと触れたくなる。
 おとめの全てを手に入れたら、今度は何が欲しくなるのだろうか。

「……我ながら……重症だな」

 空笑いをしながら外に出て天を見上げる。
 夜の闇を照らす月明かりが、澄んだ湖の水を抜けて落ちてくる。
 それに手を伸ばし、龍神は掴めないものを優しく包み込むように掴んだ。
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