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招かれざる客
が、その日の夜におとめは玄関を開けて吐きそうになった。
目の前に、ニタニタとおとめを見下ろす留吉が居たからだ。
「夜更けに何用ですか?」
「なんだ? せっかく帝都から婚約者が帰ってきたんだぞ?」
妄言を吐く息は、酒気を含んでいて酷く臭い。鼻をつまみたくなるが、それをしたら留吉は激怒して何をしだすか分からない。
我慢をして、ほんの少しだけ扉を閉める。
「婚約した覚えはありません」
「はぁ? 村の女はみーんなワシのだろ? ワシがおらん間に、勝手にみんな結婚しやがって。亭主との貞操も守れないのかと思ってたんだがな。おとめは健気に待っていたと。嬉しいことだ。それに」
留吉はおとめの身体を舐めるように視線を絡ませ、口元を緩ませる。
「随分と良い体に育ったな。ワシ好みだ」
チロリと見せた舌に、おとめは全身に怖気が走る。身体を傾け隠そうとするが、半身を玄関に差し込んだと留吉は襟元を掴んできた。
「やめてください!」
「夫婦なのだから、構わんだろ? ほら、夫を迎え入れろ」
「夫? ふざけないで! 私は龍神様に身を捧げたのよ!! それは留吉の両親も知ってるはず。聞いてないのね。私は龍神様のものなの!!」
それを聞いた留吉は、首を傾げたあとに あぁ、あれか とわざとらしく呟いた。
「なんか言っとったな。おとめが龍神様の加護を受けたとか」
「そうよ。龍神様に身を捧げてるのだから、私はもう誰の嫁にもなれないの」
「ふーん。ならもう初物じゃないのか」
下劣な発言に眉を顰めると、正解かと留吉は笑う。その笑みが龍神との密事を想像しているのだと思うと、その顔を土に埋めてやりたくなった。
しかし、おとめにはそんな力も無く、女所帯なので歯を食いしばって我慢をする。
「まぁ、初物じゃないなら無体を働いんても構わんよな? 最初からワシのもんだし」
「違います。お帰りください」
「そう冷たいこと言うなって」
留吉がおとめの着物に手を差し込みそうになった、その時、トヨが後ろから声をかけてきた。
「おとめに手を出したら殺します」
「!? お母さん」
低く威嚇した声、それに包丁を持ったトヨはそれを傾け光らせる。
「ん? あぁ、トヨさんか……仕方ねぇ。殺されたくないし、トヨさんはワシの義理の母になってもらうんだ。嫌われたくないからな。今回は挨拶だけにしてやるよ。おとめ、また来る。その時は股を開くんだぞ?」
そう言うと、留吉は勝手に戸を閉じて去っていった。
力の抜けたおとめがその場にしゃがみ込むと、トヨは玄関の戸を開いて塩を撒く。
「二度と来るな!! ろくでなし!!」
「……おかあさん」
「大丈夫? 私が居たから良かったけど、もう一人の時は扉を開けないようにしたほうが良さそうだね」
素直に頷くと、トヨはそっと抱き締めて立たせてくれた。
「しっかりと戸締りをしたから。今日はわたしと一緒に布団を並べようね」
ポロポロと落ちる涙をトヨが着物の袖で拭ってくれる。
強がっては居たけれど、おとめの声は震えていた。男の人が怖いと初めて感じた。
龍神も身長が高く肉体は立派だけれど、それでも表情や声色に優しさがこもっている。村の男衆も、おとめを見下していた頃もあるけれど、今は普通に……いや、龍神に加護を受けたが奇跡の生還をした女。しかし、ただの村人の女という扱いだ。
だが、留吉は違う。
おとめを卑下し、自分のものであるという確信と謎の自信を持っている。その上、帝都で何があったかは知らないけれど、ただでさえ筋肉質だった肉体が一回り、いやそれ以上に屈強になっていた。
トヨが殺すと言ったけれど、本当にそんなことになったならば殺されていたのはトヨだろう。
「お母さん……」
「大丈夫よ。……しばらく、こうちゃんかゆきちゃんの家にお世話になろうか?」
他の人がいれば留吉も手は出せないだろう。しかし、まだ新婚の家におとめとトヨが上がり込めば迷惑に違いない。
それに、いつまでもそうし続けるわけにもいかないのだ。
「大丈夫……。この家が、いい」
「そう……」
不安そうなトヨに笑みを浮かべるが、その不安が払拭できていないのは明確だ。
けれど、今はどうしようもない。
明日から……留吉がどう出るか。それ次第だとおとめは深いため息を吐いた。
目の前に、ニタニタとおとめを見下ろす留吉が居たからだ。
「夜更けに何用ですか?」
「なんだ? せっかく帝都から婚約者が帰ってきたんだぞ?」
妄言を吐く息は、酒気を含んでいて酷く臭い。鼻をつまみたくなるが、それをしたら留吉は激怒して何をしだすか分からない。
我慢をして、ほんの少しだけ扉を閉める。
「婚約した覚えはありません」
「はぁ? 村の女はみーんなワシのだろ? ワシがおらん間に、勝手にみんな結婚しやがって。亭主との貞操も守れないのかと思ってたんだがな。おとめは健気に待っていたと。嬉しいことだ。それに」
留吉はおとめの身体を舐めるように視線を絡ませ、口元を緩ませる。
「随分と良い体に育ったな。ワシ好みだ」
チロリと見せた舌に、おとめは全身に怖気が走る。身体を傾け隠そうとするが、半身を玄関に差し込んだと留吉は襟元を掴んできた。
「やめてください!」
「夫婦なのだから、構わんだろ? ほら、夫を迎え入れろ」
「夫? ふざけないで! 私は龍神様に身を捧げたのよ!! それは留吉の両親も知ってるはず。聞いてないのね。私は龍神様のものなの!!」
それを聞いた留吉は、首を傾げたあとに あぁ、あれか とわざとらしく呟いた。
「なんか言っとったな。おとめが龍神様の加護を受けたとか」
「そうよ。龍神様に身を捧げてるのだから、私はもう誰の嫁にもなれないの」
「ふーん。ならもう初物じゃないのか」
下劣な発言に眉を顰めると、正解かと留吉は笑う。その笑みが龍神との密事を想像しているのだと思うと、その顔を土に埋めてやりたくなった。
しかし、おとめにはそんな力も無く、女所帯なので歯を食いしばって我慢をする。
「まぁ、初物じゃないなら無体を働いんても構わんよな? 最初からワシのもんだし」
「違います。お帰りください」
「そう冷たいこと言うなって」
留吉がおとめの着物に手を差し込みそうになった、その時、トヨが後ろから声をかけてきた。
「おとめに手を出したら殺します」
「!? お母さん」
低く威嚇した声、それに包丁を持ったトヨはそれを傾け光らせる。
「ん? あぁ、トヨさんか……仕方ねぇ。殺されたくないし、トヨさんはワシの義理の母になってもらうんだ。嫌われたくないからな。今回は挨拶だけにしてやるよ。おとめ、また来る。その時は股を開くんだぞ?」
そう言うと、留吉は勝手に戸を閉じて去っていった。
力の抜けたおとめがその場にしゃがみ込むと、トヨは玄関の戸を開いて塩を撒く。
「二度と来るな!! ろくでなし!!」
「……おかあさん」
「大丈夫? 私が居たから良かったけど、もう一人の時は扉を開けないようにしたほうが良さそうだね」
素直に頷くと、トヨはそっと抱き締めて立たせてくれた。
「しっかりと戸締りをしたから。今日はわたしと一緒に布団を並べようね」
ポロポロと落ちる涙をトヨが着物の袖で拭ってくれる。
強がっては居たけれど、おとめの声は震えていた。男の人が怖いと初めて感じた。
龍神も身長が高く肉体は立派だけれど、それでも表情や声色に優しさがこもっている。村の男衆も、おとめを見下していた頃もあるけれど、今は普通に……いや、龍神に加護を受けたが奇跡の生還をした女。しかし、ただの村人の女という扱いだ。
だが、留吉は違う。
おとめを卑下し、自分のものであるという確信と謎の自信を持っている。その上、帝都で何があったかは知らないけれど、ただでさえ筋肉質だった肉体が一回り、いやそれ以上に屈強になっていた。
トヨが殺すと言ったけれど、本当にそんなことになったならば殺されていたのはトヨだろう。
「お母さん……」
「大丈夫よ。……しばらく、こうちゃんかゆきちゃんの家にお世話になろうか?」
他の人がいれば留吉も手は出せないだろう。しかし、まだ新婚の家におとめとトヨが上がり込めば迷惑に違いない。
それに、いつまでもそうし続けるわけにもいかないのだ。
「大丈夫……。この家が、いい」
「そう……」
不安そうなトヨに笑みを浮かべるが、その不安が払拭できていないのは明確だ。
けれど、今はどうしようもない。
明日から……留吉がどう出るか。それ次第だとおとめは深いため息を吐いた。
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