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おとめの決意
雪の日が続き、冬で一番寒い季節がやってきた。
人の背丈程にまで積もっている雪は、まだまだ降り続き止む気配が見えない。しかし、これはいつもの冬だ。夏のような異常な天気ではない。
なので、おとめはトヨと囲炉裏で暖をとりながら、編み物や内職をして冬を越す。時折、ゆきやこうがやってきたり、逆に家に行ってお喋りをしながら、やはり内職をする。
冬は収入が無いぶん、春に向けて売れるものを作るのだ。
「おとめちゃんは手先が器用だよねー」
「そうかな?」
自ら作ったワラジと、おとめの作った籠を見比べ、ゆきは軽く息を吐いた。
「そうよ!! 私の見てよ。子供の頃から技術が全然上がらない。それに比べておとめちゃん。どんどん習得して、今や自分で新しい編み目を考えちゃうほどの実力でしょう? そんなに綺麗な編み目なら、高く売れるだろうしね!」
「そうだね。でも、ゆきちゃんは畑をよく見てるでしょう? 野菜の不調をすぐに感じ取ってくれるから、病気が蔓延しなくて済む。それにこうちゃんは料理が凄く上手だし、着物のあつらえもすぐ出来るでしょう? 適材適所があるってことだよ」
その言葉に、ゆきとこうは嬉しそうに頬を染めた。誰だって、得手不得手があるものだ。
ふと、龍神にもあるのだろうかと考えた。
出会ってから約半年。
目紛しいほどの出来事があり、多くの時間を共に過ごしたと思うけれど、それでも龍神が何を好んで何を得手しているのかは聞いたことがない。
多分、おとめ自身のことは好いていてくれていると思うけれど……どんなに抱かれても、その言葉を貰ったことはない。身体の反応で、視線で、触れる指先でその気持ちは感じられるが、やはり言葉も欲しいと思ってしまう。
龍神が一言、好きだと愛していると言ってくれれば、おとめも同じように溢れんばかりの愛を囁けるのに。
自ら伝えるのは……どうなのだろうか。
何となく、そういうことは男からだと思っていたが――。
「ねぇ、ゆきちゃん、こうちゃん」
「なに? 龍神様がどうしたの?」
まだ名前を呼んだだけなのに、こうの言葉に驚いて顔をあげる。
「なんでわかったの? って顔してるー! わかるわよ。おとめちゃん、すっごく顔に出るからね」
「えぇ……そう?」
「そうよ。ゆきちゃんも分かりやすいけど、おとめちゃんも負けず劣らず分かりやすいわ」
「え、私も!?」
「そうよ。ゆきちゃんは旦那の悩みの時には下唇を軽く噛んでから話をする癖があるわ」
そうなのか。知らなかった。こうはどうやら人のことをよく見ているらしい。
「で、おとめちゃん。龍神様と何かあったの?」
その言葉に、おとめは首を振った。
「何もないの。いや、えっと。その」
「抱かれてはいるのね」
ゆきのあっさりとした言葉に顔が真っ赤に染まった気がした。こんなところも分かりやすいと言われる所以かもしれない。
ゆっくりと頷き、肯定してからポツリと話しをした。
抱かれるし、大切に扱ってくれていることも分かる。それに龍神の屋敷にはいつ来てもいいと許可も得ている。だけれど、肝心の愛の言葉がないので、まだ贄なのか、ただの身体だけの関係なのか……わからない。
そこまで言うと、ゆきは ありがちね と呟いた。
「男なんて、頭の中の半分以上は下半身で生きているようなものなのよ? おとめちゃんを抱いて、優しくすれば、愛が伝わってるって思い込んでるのよ。きっと」
「え、でも龍神様だし、半分以上下半身ってことはないんじゃない??」
さすがにその言われようは可哀想ではと反論したが、その反論も虚しく、こうが ゆきちゃんが半分正解 と言った。
「下半身で伝わると思ってるのが半分。あとの半分は、龍神様がおとめちゃんを大切にし過ぎてるのよ」
「大切に??」
「そう、大切に。大切で大切で大切で、悲しい想いなんてひとつもして欲しくないのね」
「でもそれなら」
こうは作業をしていた手を止めて、優しい瞳をおとめに向ける。
「おとめちゃんは人間でしょう? 龍神様は神様よ。それって、どうしても越えられない壁だと思うの。おとめちゃんには人間として幸せを育んで欲しい、でも自分の傍にも居て欲しい。愛してるから、大切だから、言えない言葉ってあるものよ」
そうなのだろうか。
おとめは、おずおずと疑問を口にする。
「なら、私から、龍神様に愛してるって伝えて良いと思う?」
目を瞬き、こうは嬉しそうに笑った。
「もちろん、良いと思うわ。それを聞いて、龍神様がおとめちゃんを雑に扱ったら包丁とナタを持って湖に飛び込んであげる」
「っていうか、鬼の形相で小屋吹っ飛ばした龍神様が、おとめちゃんの愛の囁きを雑に扱うと思えないけど。むしろ、嬉しすぎて湖に監禁しそう。そうなったら、やっぱり包丁とナタ持って飛び込むね」
ゆきの言葉にこうは 確かにそうね とツボに入ったように笑い始めた。
おとめが 龍神様はそんなことしない と主張するが、二人は笑い続ける。
「私は龍神様を見れなかったけど、神なのに鬼の形相って――っふふふ! それに、監禁しなくてもおとめちゃんが二週間くらいは抱かれっぱなしで帰ってこなさそうだなって、ふふふ」
「二週間……死なない? それ??」
「大丈夫でしょ? 食事とかはあの狸くん達とと狐くんがするんでしょう?」
「確かにそうだけど……それは恥ずかしいよ!!」
えぇー? と二人が笑うので、おとめもつられて笑い始めてしまった。
言ってもらえないなら、こちらから言えばいい。今だって、会いに来られない龍神に、おとめから会いに行っているのだから。
春になり雪が溶けたら、すぐに会いに行き思いを伝えよう。
おとめはその時の龍神の反応を想像し、心が暖かくなるのを感じた。
人の背丈程にまで積もっている雪は、まだまだ降り続き止む気配が見えない。しかし、これはいつもの冬だ。夏のような異常な天気ではない。
なので、おとめはトヨと囲炉裏で暖をとりながら、編み物や内職をして冬を越す。時折、ゆきやこうがやってきたり、逆に家に行ってお喋りをしながら、やはり内職をする。
冬は収入が無いぶん、春に向けて売れるものを作るのだ。
「おとめちゃんは手先が器用だよねー」
「そうかな?」
自ら作ったワラジと、おとめの作った籠を見比べ、ゆきは軽く息を吐いた。
「そうよ!! 私の見てよ。子供の頃から技術が全然上がらない。それに比べておとめちゃん。どんどん習得して、今や自分で新しい編み目を考えちゃうほどの実力でしょう? そんなに綺麗な編み目なら、高く売れるだろうしね!」
「そうだね。でも、ゆきちゃんは畑をよく見てるでしょう? 野菜の不調をすぐに感じ取ってくれるから、病気が蔓延しなくて済む。それにこうちゃんは料理が凄く上手だし、着物のあつらえもすぐ出来るでしょう? 適材適所があるってことだよ」
その言葉に、ゆきとこうは嬉しそうに頬を染めた。誰だって、得手不得手があるものだ。
ふと、龍神にもあるのだろうかと考えた。
出会ってから約半年。
目紛しいほどの出来事があり、多くの時間を共に過ごしたと思うけれど、それでも龍神が何を好んで何を得手しているのかは聞いたことがない。
多分、おとめ自身のことは好いていてくれていると思うけれど……どんなに抱かれても、その言葉を貰ったことはない。身体の反応で、視線で、触れる指先でその気持ちは感じられるが、やはり言葉も欲しいと思ってしまう。
龍神が一言、好きだと愛していると言ってくれれば、おとめも同じように溢れんばかりの愛を囁けるのに。
自ら伝えるのは……どうなのだろうか。
何となく、そういうことは男からだと思っていたが――。
「ねぇ、ゆきちゃん、こうちゃん」
「なに? 龍神様がどうしたの?」
まだ名前を呼んだだけなのに、こうの言葉に驚いて顔をあげる。
「なんでわかったの? って顔してるー! わかるわよ。おとめちゃん、すっごく顔に出るからね」
「えぇ……そう?」
「そうよ。ゆきちゃんも分かりやすいけど、おとめちゃんも負けず劣らず分かりやすいわ」
「え、私も!?」
「そうよ。ゆきちゃんは旦那の悩みの時には下唇を軽く噛んでから話をする癖があるわ」
そうなのか。知らなかった。こうはどうやら人のことをよく見ているらしい。
「で、おとめちゃん。龍神様と何かあったの?」
その言葉に、おとめは首を振った。
「何もないの。いや、えっと。その」
「抱かれてはいるのね」
ゆきのあっさりとした言葉に顔が真っ赤に染まった気がした。こんなところも分かりやすいと言われる所以かもしれない。
ゆっくりと頷き、肯定してからポツリと話しをした。
抱かれるし、大切に扱ってくれていることも分かる。それに龍神の屋敷にはいつ来てもいいと許可も得ている。だけれど、肝心の愛の言葉がないので、まだ贄なのか、ただの身体だけの関係なのか……わからない。
そこまで言うと、ゆきは ありがちね と呟いた。
「男なんて、頭の中の半分以上は下半身で生きているようなものなのよ? おとめちゃんを抱いて、優しくすれば、愛が伝わってるって思い込んでるのよ。きっと」
「え、でも龍神様だし、半分以上下半身ってことはないんじゃない??」
さすがにその言われようは可哀想ではと反論したが、その反論も虚しく、こうが ゆきちゃんが半分正解 と言った。
「下半身で伝わると思ってるのが半分。あとの半分は、龍神様がおとめちゃんを大切にし過ぎてるのよ」
「大切に??」
「そう、大切に。大切で大切で大切で、悲しい想いなんてひとつもして欲しくないのね」
「でもそれなら」
こうは作業をしていた手を止めて、優しい瞳をおとめに向ける。
「おとめちゃんは人間でしょう? 龍神様は神様よ。それって、どうしても越えられない壁だと思うの。おとめちゃんには人間として幸せを育んで欲しい、でも自分の傍にも居て欲しい。愛してるから、大切だから、言えない言葉ってあるものよ」
そうなのだろうか。
おとめは、おずおずと疑問を口にする。
「なら、私から、龍神様に愛してるって伝えて良いと思う?」
目を瞬き、こうは嬉しそうに笑った。
「もちろん、良いと思うわ。それを聞いて、龍神様がおとめちゃんを雑に扱ったら包丁とナタを持って湖に飛び込んであげる」
「っていうか、鬼の形相で小屋吹っ飛ばした龍神様が、おとめちゃんの愛の囁きを雑に扱うと思えないけど。むしろ、嬉しすぎて湖に監禁しそう。そうなったら、やっぱり包丁とナタ持って飛び込むね」
ゆきの言葉にこうは 確かにそうね とツボに入ったように笑い始めた。
おとめが 龍神様はそんなことしない と主張するが、二人は笑い続ける。
「私は龍神様を見れなかったけど、神なのに鬼の形相って――っふふふ! それに、監禁しなくてもおとめちゃんが二週間くらいは抱かれっぱなしで帰ってこなさそうだなって、ふふふ」
「二週間……死なない? それ??」
「大丈夫でしょ? 食事とかはあの狸くん達とと狐くんがするんでしょう?」
「確かにそうだけど……それは恥ずかしいよ!!」
えぇー? と二人が笑うので、おとめもつられて笑い始めてしまった。
言ってもらえないなら、こちらから言えばいい。今だって、会いに来られない龍神に、おとめから会いに行っているのだから。
春になり雪が溶けたら、すぐに会いに行き思いを伝えよう。
おとめはその時の龍神の反応を想像し、心が暖かくなるのを感じた。
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