【R18】雨乞い乙女は龍神に身を捧げて愛を得る

麦飯 太郎

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雪山の変調

 決意をしてから、おとめは春が待ち遠しくてたまらなくなり、日に何度も雪山を眺めるようになった。
 音のない世界で眺める雪山は、見上げるだけで龍神を感じられる気がする……というだけでなく、春がくればすぐに気付けると思ったからだ。
 だが、今は二月の上旬。
 春はまだまだ遠いだろう。

「おとめ」

 トヨの声に振り返ると、そろそろ戻りなさいと言われてしまった。仕方ないと家に入ろうとしたときだ。

「? お母さん、何か言った??」
「ん? いや、何も??」
「なんだろう……」

 もう一度、外に出て耳をすませるが、何も聞こえない。山を気にしすぎて幻でも聞こえたのだろう。
 そう思い、山に背を向ける。

 ――――ズズズズ。

「!? お母さん、やっぱり何か変な音がする!!」
「ええ? 聞こえないわよ? とりあえず入りなさい」

 後ろ髪を引かれる思いがしたけれど、仕方なくトヨの声に従い家に入る。
 昼食をとり、夜になり、朝になり……しかし、音は不定期に聞こえてきた。
 外に出て、山を眺めても変化は見られない。
 しかし、おとめには山が呻いているように思えた。

「お母さん、私」
「山に行くの?」
「――うん、行きたい。何も無かったらすぐに帰るから」
「はぁ、なら最低限の備えはしていきなさい」
「!? ありがとう!!」

 止められると思ったが、どうやらトヨは昨晩のおとめの様子で察していたらしく、すでに用意してあった笠と蓑。それに雪靴をあっさりと土間に出してくれた。
 更に、携帯食として干し芋を包んでくれた。
 それを食べる前に、できれば戻ってくること。それがトヨとの約束になったが、おとめは守れない気がしていた。

「いってきます。何があってもお母さんの娘だよ」
「もちろんよ。私の娘はおとめしかいないわ。どんな形になっても親子の縁は切れないもの」

 何かを察したのか、直前にトヨはおとめを強く抱き締めた。零れそうになった涙を堪え、トヨに挨拶をしてから山に入る。
 しばらくすると、葉が落ちきり雪が積もった木の影からヤエが顔を覗かせた。

「おとめちゃん!」
「ヤエちゃん! ねぇ、なんか山がおかしくない?」
「あー。うん、そうね」

 ヤエはあからさまに困惑している。やはり山で何か起こっているのは間違いなようだ。

「龍神様に会いに湖に行こうと思ってるの、きっと何が起こってるのかご存知でしょう?」
「え!? あ、そうね、知ってる……けど」

 その表情から察するに、どうやら龍神は湖にはいないようだ。
 ならば、どこへ?
 用事があって出掛けているのか……しかし、ヤエの様子からそうではないのだろう。

「山の中にいるのね?」

 雪山の変調。そこに龍神がいるのだろう。
 嘘がつけない性格のヤエは、目を泳がせてから小さく頷いた。

「そこへ、連れて行って欲しいの」
「危険だわ!! 龍神様が抑えてくださっているから!! 春になったら解決するから!! ね??」
「春に……」

 春になったら解決すること、それは雪が溶けること。溶けるまで解決しない……。

「雪崩……?」

 ぴくんとヤエの耳が動いた。

「雪崩が起きてるのね? そこで龍神様は雪崩を止めてるのね!?」
「――ッ、……うん」

 おとめは思わず手で顔を覆った。
 この三方を山で囲われた村は、何度か雪崩にも見舞われている。特に木を倒し過ぎた場所が雪崩が発生しやすく、それを村人も知っているので今は山の様子を見ながら間引いているのだ。
 しかし、今年の夏は日照りで間引きはしていない。

「枯れた木が……弱くなっていたのね……」

 全ての木が枯れたわけではない。だが、老齢の木々や根が表面にしか張らないような種類の木では、あの少雨は耐えられなかったのだろう。
 龍神に頼り雨を降らせてもらい、それなのに、また龍神に雪を止めてもらっている……。

「ヤエちゃん。あのね、私、龍神様に会いたいの」
「で、でも、龍神さまは」
「嫌がってる?」
「違うわ!! 違うの――ただ怖がるかもしれないから、来ないようにって……」

 両手を顔から離し、ヤエを抱き締める。

「怖くないよ。どんな姿の龍神様も龍神様だもの。何もできないだろうけど、何もしない訳にはいかないから」

 おとめの言葉に、ヤエも小さな手で抱き締め返し わかったわ と頷いてくれた。

「おとめちゃん、龍神さまを愛してる?」

 ヤエの言葉におとめは目を瞬かせ、にっこりと笑う。それだけでヤエは満足そうに笑みを返してくれた。
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