【R18】雨乞い乙女は龍神に身を捧げて愛を得る

麦飯 太郎

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白龍の訪問

 湖の底に降り立つと、龍神はそのまま倒れ込み昏睡状態に陥ってしまった。
 そんな龍神を、おとめは片時も離れずに様子を見守っていた。布団に寝かせ、身体を拭い、手足を暖かい布で包んだりもした。
 時折、瞼や指先を動かすけれど、意識を取り戻し話せるほどの回復はまだまだ先になるだろう。それでも、おとめは離れるつもりは欠片もない。

「龍神様、おはようございます。今日も愛してます」
「……」

 返答のない龍神に微笑みかけ、おとめは濡らした手拭いで顔を拭いてやる。すると、龍神が少しだけ微笑んだような気がした。
 たったそれだけで、おとめの心は暖かくなる。
 だからこうして、伝えられなかった愛の言葉を毎日囁き続けている。きっと聞こえている、この想いが起きるきっかけになると信じて。

「おとめちゃん、昨晩は寝れた??」
「ヤエちゃん。おはよう。大丈夫だよ、ちゃんと龍神様の横に布団敷いたから」

 心配そうに顔を覗きこむヤエの頭を撫でてやる。ヤエも次郎も三国も、順番に龍神の元を訪れてくれている。
 それに、付きっきりになってしまっているおとめの食事も用意してくれているので、おとめは感謝の気持ちでいっぱいだ。きっと、おとめだけだったなら、食事をすることも忘れていたに違いない。

「……もう少し寝ないと」
「でも、いつ起きるか分からないし……」
「そうだけど……」

 この状態になってすぐの頃、おとめはヤエから龍神の力が少なくなっていた事実を聞かされた。いや、聞き出した……に近いだろう。
 それは、龍神の力はここ十数年で一気に少なくなっていた……それを龍神は時の流れだと受け止めていたらしい。
 そこにおとめがやってきたが、ちゃんとした贄ではなく救済という形だったので、龍神はただ己の力を消費していたのだということだ。
 身体を重ねるだけでは、何も力になれていなかった。
 そんな何も得ていない状態で龍神は、おとめの頼みに応え力を使い過ぎてしまった……。
 思い出す度に、おとめは胸が苦しくなる。

「ねぇ、ヤエちゃん。なんで、龍神様は私を何度も助けてくれたのかな? ちゃんと言ってくれれば、ちゃんとした贄になったのに……。龍神様はこのままだと……どうなっちゃうのかな……もしかして、その……死ぬ、とか……?」

 その時、フワリと暖かい風が頬を撫でた。龍神と似た気配に少しだけ心が休まった気がした。

「死ぬとは違うぞ。消えるんだ」
「!?」

 知らぬ男の声に飛び上がるようにして、おとめはヤエに抱きついた。

「――!? ?? !?」
「おーおー、お前が黒龍が惚れたって女か。珍しい髪色だな。金の髪……に目は青――いや、空色に近いのかな。珍しい。どっか別の国が混ざってるのか? あ、それはいいや。黒龍は――ってやっぱり意識戻ってないのか」

 好き勝手に話を続ける男……というには中性的な顔付きの輝くような白髪の男は、その煌めく長い髪を鬱陶しそうに掻き上げながら龍神の顔を覗き込む。
 そうして、ふむふむと観察してから再びこちらを見た。

「よぉヤエ。久しぶりだな」
「ご無沙汰ね。白龍さま」
「はく、りゅう?」

 首を傾げると、白龍は目を丸くしてアングリと口を開いた。
「まさか、黒龍から聞いてないのか?」
 何をだろうか。聞いていないことは多すぎるので、何を聞いていないのかなど見当もつかない。
 沈黙を肯定と捉えた白龍は、マジかよとため息を吐いてから龍神の布団をトントンと叩く。

「あー、初めまして。お嬢さん。俺は、白龍神。五龍神の一人。言えば黒龍の兄弟みたいなもんだな」
「きょうだい……。――待って、そんなことより、さっきの消えるってどういうことですか!?」
「五龍一の美貌なのに、黒龍の兄弟なのに、そんなことよりって……。お兄ちゃん、悲しい」

 わざとらしく白龍はおよよと袖で涙を拭う仕草をしたが、すぐにケロリとした顔で そのままの意味だよ と言ってきた。

「存在として、消えるんだ」
「そ、んな。どうして!!」
「そりゃぁ、龍神としての力が無ければ神としては不要だからな。なぁ、ヤエ。黒龍はお嬢さんに本当に何も?」

 その言葉にヤエは頷いた。白龍は息を長く吐きながらそうかと呟いた。

「うーん。お嬢さんは、黒龍が大切か?」
「もちろん!!」
「愛してるか?」
「愛しています」
「どんなことでも乗り越えらえるか?」
「はい。覚悟できています」
「自らの命が危なくても」
「元々龍神様に捧げた命です」

 白龍をしっかりと見つめて返事をすると、納得したように頷いてくれた。そして、龍神が龍神であるには本来、何をするべきなのかを教えてくれた。
 龍神は絆を重んじる。なので、住処はどこでも構わないけれど、数年に一度、帝都の五龍を祀る神社に集まり五龍の絆を確かめなめればならない。それをしなければ、徐々に力を失っていくという。
 なぜか。
 万能の神ではないが故に、それぞれに得手不得手がある。その得手の中で人の願を叶え、五龍神の絆を強める。それが最も重要だという。

「もちろん、神様だから信仰があってこそだ。ただ、黒龍は人が多くなりすぎた帝都と相性が悪くてな……。逃げるように勝手に田舎に引き篭もったんだ。それで、たまには出てこいと文を送ったり、使いを出したりしたが、全く出てこない。でも、まぁ気配はあるし大丈夫だろって思ってたら、ここ数日で黒龍の気配が一気に消えていったからな。こうして来たわけだ」

 白龍は龍神の顔を横目で見る。その表情が心配だと言っているようで、おとめは少しだけ安心してしまった。
 たった一人……ヤエ達を抜けば、龍神はずっと一人だと思っていたので、こうして心配をしてくれる者がいるということが嬉しかった。

「まぁ、こいつも色々あったから……嫁は神か妖だと思ったが。人間とつるんでるなんて意外だったな」
「あの、龍神様は目を醒ましますか? 帝都に連れていけば戻りますか?」
「うーん。帝都に行くまでの体力は黒龍には残ってないだろうな。とりあえず、目を醒させることはできる。だが、このままだと厳しいだろう」

 確かに、今も眠り続けているのだから、起きたとしても帝都までの旅路は酷でしかないだろう。しかも今は冬だ。寒さが龍神の体力を消耗させるに違いない。

「あの、どうすればいいですか? 龍神様がこのまま消えるのを待つなんてことできません。何かできることがあるから、さっきあんなこと言ったんですよね!?」

 縋るように聞くと、白龍は まてまて と膝を近づけたおとめを止める。

「方法はある。嫁を貰えばいいんだ。五龍の絆が一番強いが、嫁との絆も重要なんだ。信頼し合う嫁がいれば、五龍と離れている時も絆が生まれ続ける。それが龍の力になるからな。ある程度回復したら、帝都にくればいい」
「なら、私がなります!! 方法を教えてください!!」

 すでに、龍神と共にいると決めたのだ。それが、どういう形であったとしても、構わない。龍神はもしかしたら……嫌かもしれないけれど、それでも、おとめを邪険にはしないだろう。
 だが、白龍は少し困ったように頬を掻く。

「でもなぁ……人間だと失敗するかもしれないんだ」
「失敗?」

 不穏な言葉に、おとめは眉間に皺を寄せた。

「死ぬんだよ。人間が」
「え?? 死ぬ??」
「そうだ。龍神の嫁になるってのは、嫁になる者から魂を抜き取って、龍の身体の中で融合させる必要がある。それが絆になるからな。そんで、それが融合して出来上がるまではすぐの時もあるし……何年もかかることもある。融合が終わるまでは人間の身体は死体同然だ。一週間くらいならどうにかなるが、それ以上だと……魂を戻すための入れ物、肉体が腐って使い物にならなくなって、死ぬんだ。運次第だ。こればっかりはやってみなくちゃわからん」

 ならばとおとめは頭を下げた。

「やります」
「それだけじゃないんだ」
「え?」

 命をかけて、更にまだあるのかと驚いて頭を上げる。

「融合した命を嫁に戻したら、なるべく早く交わる」
「まじわる?」
「性交すんだよ。ん? なんだよ。黒龍と散々してんだろ?」
「――!! あ、はい……」

 確かに何度も交わっているけれど、他人から確認されることは恥ずかしいものだ。おとめが俯くと、白龍は首を傾げた。

「……?? あぁ。まだ二本は同時に使ってないのか? 黒龍、失敗してから慎重だからなぁ」
「失敗??」
「白龍さま!!」

 今度はおとめが首を傾げると同時に、今まで黙っていたヤエが大きな声を出した。だが、そんなことを気にしていない白龍はおとめと同じように首を傾げる。

「え? お嬢さん、知らないのか? 黒龍は初めての贄の時に、女を抱くの失敗してな。それからずーっと女は逃がして贄なんて受け入れてないだろ? 俺達に抱き方教わったけど、ビビって何もしなかったんだ。それなのに、使いを出したら女といるから来るなってよー。酷いよな。泣いちゃう」

 嘘っぽく ぐすん と泣きマネをする白龍からヤエに視線を移す。

「そう、なの?」
「……うん。私達も龍神さまに出会う前の、ずっとずっと昔の話よ!!」
「てっきり、その、他の子も抱いてるのだと……え? なら、何で私は抱かれたの?」
「おとめちゃんは特別やからなぁー」

 いつの間にか部屋の中には次郎と三国も揃っていた。いつから話を聞いていたのだろうか。様子からして、ほぼ最初からいたのではと思ってしまう。

「おーおー、黒龍はお嬢さんにベタ惚れってやつか。いいじゃないか」
「白龍さま!!」
「ベタ惚れ……だといいのですが……」

 大切にしてもらっているけれど、愛の言葉や惚れたということは聞いたことがない。そうだといいですねと困ったように微笑んだおとめをみた白龍は少しだけ察したように、優しく微笑んだ。
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