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4、その世界の常識
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その後、信じる信じないは過ごしていくうちに決めて欲しいと言われ、とにかく骨が治るまでは蓮の元で暮らすことが決定した。
巻かれた添え木は、用意された着物に袖を通した後にキッチリと硬いものに巻きなおされた。そのお陰で随分と楽にはなったが、数日間は布団の上でゴロゴロと過ごさなければいけなくなりそうだ。
(鬼だけど人間は食べないって言ってたし、大丈夫だろ。あ、蓮さんも妖怪っていっても何の妖怪か聞いてないや)
ぼんやりと天井を眺めていると、群青の着物の風花が入ってきた。
「蓮さまがこれ食べろって」
「悪いな。あとさ、倒れてた近くに俺の眼鏡なかったか?」
風花は無言のまま立ち上がり、廊下に出て行ってしまった。蓮はゆっくりするといいと言っていたが、やはり良く思わない者もいるのだろう。仕方ないよなと恭吾はため息をついた。
「ため息つくと幸せが逃げると蓮さまが言っていた」
いつの間にか戻ってきていた風花に驚いていると、無言で眼鏡を握った手を差し出された。
「めがねってこれのことでしょ? 落ちてたから、僕のにしようと思って拾った。でも、返してあげる」
レンズを思い切り手で握っていたため、指紋だらけの状態に苦笑いしつつそのままかけると、視界はとてもクリアになった。
すごく目が悪いわけではないが、やはりいつもの場所に眼鏡が無いと落ち着かない。
ぼんやりと見えていた子鬼の姿は、はっきりとしてもやはり人間の幼児と変わらないように見えた。
「そうやって使うのか」
「あぁ、ありがとう。お陰で風花の顔が良く見えるようになった」
「う、うん」
頬を赤く染める風花に恭吾は自分の勘違いだと悟った。ただ、良く思ってない訳ではなく、恥ずかしがりやなだけの可愛らしい風花に人間の子供より素直さを感じた。
子供達は皆、名前に花の文字が入っている上に女の子のように可愛らしい着物を纏っているが、話し方や小さな態度を見ていると男の子のように見える。
よくよく目の前の風花を観察しても、その違いは分からなかった。
「なぁ、風花は男の子だよな?」
「あたりまえだろう」
「じゃぁ、六花は?」
「男。天花も男」
まさかの全員男の子という状態に驚いてしまう。六花はフワフワとしていそうな性格のため、女の子だと思い込んでいた。
男だからどうという訳ではないのだが、鬼という印象は獰猛で恐ろしい牙と角。そして有無を言わさず人間の命を奪う存在だと思っていた。それは必ず男であり、女の鬼だから気立てが優しいのかと思い込んでいた。
「お前も男だろう?」
「恭吾だ」
「……恭吾も男だろ?」
少し間を置いて名前を呼ぶ風花は年齢相応の子供に見えたが、この調子だと実年齢はまだ聞かないほうがショックは少ないような気がした。
風花は恥ずかしがりのようだが、聞くと何でも答えてくれる。
その会話の情報から、意外にもこの場所はゲレンデからそう離れていない山の頂上付近だということ。そして、蓮と子供達の血縁は無く、彼らは三つ子であるということ。鬼の捨て子だった三人を蓮が引き取ったということだ。
恭吾を助けたこともあり、蓮という人物は人情深そうだと判断できた。
全く下心がないと言えるまではいかないが、世話になるうえで多少信用しても良いのではと思う。
「そういえば、今日は蓮さんは?」
「今日は見回りと……」
「見回りだけにしましたよ」
音も無く部屋の戸を開き、蓮が桶と布を持って入ってきた。
その桶からは湯気が出ているので、暖かい湯が入っているのだと分かる。蓮の顔を見た風花は、明るい笑顔になった。
「風花さん、ちゃんとお食事渡せましたか?」
「はい! 恭吾が美味しいって」
「そうですか。おや? お名前を呼んでいるんですね。仲良しになれたのなら良かったです。そうですね、私も恭吾さんとお呼びしてよろしいですか?」
ふんわりと子供に笑いかけるように笑顔を向けられ、胸が跳ねた。カァっと顔が赤くなり、桶から出ている湯気が自身の頭からも出ているのではないかと思えるほどだ。
「え? あ、あぁ。もちろん。俺は、蓮さんでいいか?」
「私のことは蓮とお呼び下さい。さんを付けられる程、立派ではありませんから」
風花との会話の様子を見ている限り、蓮は誰にでも丁寧な言葉使いをしているようだ。年下の様な風貌の蓮に恭吾は甘えることにした。
「そうか? じゃぁ遠慮なく蓮と呼ぶな」
「はい、ありがとうございます」
名前を呼んだだけなのにとても嬉しそうな顔をした蓮に、再び恭吾は胸を高鳴らせた。
「あぁ、そうだ。風花さん、天花さんが呼んでいましたよ。お夕食の当番がどうとおっしゃってましたが……」
まずいと叫んで風花は部屋を飛び出して行った。
どうやら食事は当番制のようで、恭吾が来てから蓮と三人しか見ていないのでそれぞれで回しているのだろう。
蓮と二人きりになった空間に沈黙が走る。
ふと見ると目が合い、微笑まれどうしたのか聞かれる。どうもしていないのだが、なんだかくすぐったい気分になった。
「いけない、せっかくのお湯が冷めてしまいます。身体を拭ったら少しはすっきりするでしょう?お手伝いします」
そう言って蓮は恭吾の着物に手をかける。
思わぬ事態に恭吾は叫んで後ずさった。
「わー! いいって、俺自分で脱げるし拭けるし……あっ痛っ!」
「あぁ、無理をなさるから……わかりました。では、届かないお背中だけでもさせて下さい」
後ろに回った蓮は、恭吾が着物をずらし前面を拭い終わるのを待っている。その一挙一動を見られていると思うと、恥ずかしくて仕方ない。
その視線に耐えながら、上半身の前面を拭くと今度は蓮が丁寧にだがしっかりと汚れを拭うように背中を拭く。
時々、蓮の吐息が首筋にふわりと流れるのを感じた。
それに従順に反応しそうな恭吾の下半身の欲望を、別の想像を掻き立て押さえつける。
葛藤している時間は永遠に続くのかと感じられるほど長く、今までお付き合いをしたことのあるどの女性よりも興奮を感じた。
(この人は妖怪だ、妖怪。もしかしたら、太らせて食うつもりかもしれないんだぞ……でも……優しくて、綺麗でそれに色気がある……だから、だめだって殺されると思え! 俺!)
緊張と葛藤で張った肩を蓮はポンと撫でた。
「ひゃっ!」
「終わりましたよ」
全てが完了する頃には、既に恭吾の肉茎は勃起していたのだが蓮はそれに気づかずに夕食の献立や天気など他愛もない話して部屋を後にした。
(危なかった……)
少しの時間、おとぎ話のような世界で世話になっているだけなのだ。
まだ、これが現実なのだという実感は無い。
だが、深入りせずに自分の住む世界と彼らの世界を犯さないように、そして何より自分の世界へ返して貰えるように彼らの機嫌を損ねないように……そうやってこの異世界を過ごしていこうと恭吾は心に決めたのだった。
巻かれた添え木は、用意された着物に袖を通した後にキッチリと硬いものに巻きなおされた。そのお陰で随分と楽にはなったが、数日間は布団の上でゴロゴロと過ごさなければいけなくなりそうだ。
(鬼だけど人間は食べないって言ってたし、大丈夫だろ。あ、蓮さんも妖怪っていっても何の妖怪か聞いてないや)
ぼんやりと天井を眺めていると、群青の着物の風花が入ってきた。
「蓮さまがこれ食べろって」
「悪いな。あとさ、倒れてた近くに俺の眼鏡なかったか?」
風花は無言のまま立ち上がり、廊下に出て行ってしまった。蓮はゆっくりするといいと言っていたが、やはり良く思わない者もいるのだろう。仕方ないよなと恭吾はため息をついた。
「ため息つくと幸せが逃げると蓮さまが言っていた」
いつの間にか戻ってきていた風花に驚いていると、無言で眼鏡を握った手を差し出された。
「めがねってこれのことでしょ? 落ちてたから、僕のにしようと思って拾った。でも、返してあげる」
レンズを思い切り手で握っていたため、指紋だらけの状態に苦笑いしつつそのままかけると、視界はとてもクリアになった。
すごく目が悪いわけではないが、やはりいつもの場所に眼鏡が無いと落ち着かない。
ぼんやりと見えていた子鬼の姿は、はっきりとしてもやはり人間の幼児と変わらないように見えた。
「そうやって使うのか」
「あぁ、ありがとう。お陰で風花の顔が良く見えるようになった」
「う、うん」
頬を赤く染める風花に恭吾は自分の勘違いだと悟った。ただ、良く思ってない訳ではなく、恥ずかしがりやなだけの可愛らしい風花に人間の子供より素直さを感じた。
子供達は皆、名前に花の文字が入っている上に女の子のように可愛らしい着物を纏っているが、話し方や小さな態度を見ていると男の子のように見える。
よくよく目の前の風花を観察しても、その違いは分からなかった。
「なぁ、風花は男の子だよな?」
「あたりまえだろう」
「じゃぁ、六花は?」
「男。天花も男」
まさかの全員男の子という状態に驚いてしまう。六花はフワフワとしていそうな性格のため、女の子だと思い込んでいた。
男だからどうという訳ではないのだが、鬼という印象は獰猛で恐ろしい牙と角。そして有無を言わさず人間の命を奪う存在だと思っていた。それは必ず男であり、女の鬼だから気立てが優しいのかと思い込んでいた。
「お前も男だろう?」
「恭吾だ」
「……恭吾も男だろ?」
少し間を置いて名前を呼ぶ風花は年齢相応の子供に見えたが、この調子だと実年齢はまだ聞かないほうがショックは少ないような気がした。
風花は恥ずかしがりのようだが、聞くと何でも答えてくれる。
その会話の情報から、意外にもこの場所はゲレンデからそう離れていない山の頂上付近だということ。そして、蓮と子供達の血縁は無く、彼らは三つ子であるということ。鬼の捨て子だった三人を蓮が引き取ったということだ。
恭吾を助けたこともあり、蓮という人物は人情深そうだと判断できた。
全く下心がないと言えるまではいかないが、世話になるうえで多少信用しても良いのではと思う。
「そういえば、今日は蓮さんは?」
「今日は見回りと……」
「見回りだけにしましたよ」
音も無く部屋の戸を開き、蓮が桶と布を持って入ってきた。
その桶からは湯気が出ているので、暖かい湯が入っているのだと分かる。蓮の顔を見た風花は、明るい笑顔になった。
「風花さん、ちゃんとお食事渡せましたか?」
「はい! 恭吾が美味しいって」
「そうですか。おや? お名前を呼んでいるんですね。仲良しになれたのなら良かったです。そうですね、私も恭吾さんとお呼びしてよろしいですか?」
ふんわりと子供に笑いかけるように笑顔を向けられ、胸が跳ねた。カァっと顔が赤くなり、桶から出ている湯気が自身の頭からも出ているのではないかと思えるほどだ。
「え? あ、あぁ。もちろん。俺は、蓮さんでいいか?」
「私のことは蓮とお呼び下さい。さんを付けられる程、立派ではありませんから」
風花との会話の様子を見ている限り、蓮は誰にでも丁寧な言葉使いをしているようだ。年下の様な風貌の蓮に恭吾は甘えることにした。
「そうか? じゃぁ遠慮なく蓮と呼ぶな」
「はい、ありがとうございます」
名前を呼んだだけなのにとても嬉しそうな顔をした蓮に、再び恭吾は胸を高鳴らせた。
「あぁ、そうだ。風花さん、天花さんが呼んでいましたよ。お夕食の当番がどうとおっしゃってましたが……」
まずいと叫んで風花は部屋を飛び出して行った。
どうやら食事は当番制のようで、恭吾が来てから蓮と三人しか見ていないのでそれぞれで回しているのだろう。
蓮と二人きりになった空間に沈黙が走る。
ふと見ると目が合い、微笑まれどうしたのか聞かれる。どうもしていないのだが、なんだかくすぐったい気分になった。
「いけない、せっかくのお湯が冷めてしまいます。身体を拭ったら少しはすっきりするでしょう?お手伝いします」
そう言って蓮は恭吾の着物に手をかける。
思わぬ事態に恭吾は叫んで後ずさった。
「わー! いいって、俺自分で脱げるし拭けるし……あっ痛っ!」
「あぁ、無理をなさるから……わかりました。では、届かないお背中だけでもさせて下さい」
後ろに回った蓮は、恭吾が着物をずらし前面を拭い終わるのを待っている。その一挙一動を見られていると思うと、恥ずかしくて仕方ない。
その視線に耐えながら、上半身の前面を拭くと今度は蓮が丁寧にだがしっかりと汚れを拭うように背中を拭く。
時々、蓮の吐息が首筋にふわりと流れるのを感じた。
それに従順に反応しそうな恭吾の下半身の欲望を、別の想像を掻き立て押さえつける。
葛藤している時間は永遠に続くのかと感じられるほど長く、今までお付き合いをしたことのあるどの女性よりも興奮を感じた。
(この人は妖怪だ、妖怪。もしかしたら、太らせて食うつもりかもしれないんだぞ……でも……優しくて、綺麗でそれに色気がある……だから、だめだって殺されると思え! 俺!)
緊張と葛藤で張った肩を蓮はポンと撫でた。
「ひゃっ!」
「終わりましたよ」
全てが完了する頃には、既に恭吾の肉茎は勃起していたのだが蓮はそれに気づかずに夕食の献立や天気など他愛もない話して部屋を後にした。
(危なかった……)
少しの時間、おとぎ話のような世界で世話になっているだけなのだ。
まだ、これが現実なのだという実感は無い。
だが、深入りせずに自分の住む世界と彼らの世界を犯さないように、そして何より自分の世界へ返して貰えるように彼らの機嫌を損ねないように……そうやってこの異世界を過ごしていこうと恭吾は心に決めたのだった。
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