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14、再び雪山にて
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恭吾は再び、雪山に来ていた。
ウエアに身を包み、少しの食料をポケットに詰め込んでリフトで当時遭難した現場に向かう。リフト券も買わずに乗り込んだが、存在を認識されることがほとんど無くなってしまったので誰も咎める者がいない。
今回は遊びで来ている訳では無いので、足にボードも付いていない。
(こんな所に戻っても、蓮や三つ子に会えるとは思えないけどな)
自嘲の笑みを浮かべて降りた先はあの難関コースだ。
もの凄い吹雪だったあの日が想像出来ないくらい、空に雲ひとつない。きっとこんな天候であれば、遭難もしなかっただろう。だが、蓮とも出会えなかった。
どちらが良かったのかと自問しても答えは出ない。
しかし、今の恭吾は確かめなければならない事がある。
蓮は恭吾に何をしたのか。だ。
やってきた異変が少しずつ酷くなり、とうとう全く認識されなくなった。電話をしても、友人は恭吾という人物を知らないと言った。バイト先では、そんな人物を雇っていないと門前払いで働かせても貰えない。
さすがに、自動ドアに反応されないのは失笑するしかなかった。
まるで幽霊だ。
認識されないのではなく、存在しないことになっていった。人間の世界で居場所を失った恭吾は、部屋を整理し戻らないつもりでこの山に来たのだ。
(まぁ、居なくなっても心配されないなら整理とかしなくても良かったんだろうけど)
彼らに会えなかった場合は死んでしまっても構わないと覚悟を決めてきた。死体となってもきっと認知されないだろう。そうしたら肉体が自然に帰るだけの話だ。
愕然と失望、絶望したのは一時だけで、今は諦めとどこか他人事のような感覚になっていた。
ゲレンデのコースをはずれ、遭難したであろう場所へ向かう。最近降ったと思われる新雪に何度も足を取られ、体力はどんどん奪われていく。
空は澄んでいるが、きっと気温は低いに違いない。
だが、少しも寒いと思わなかった。きっと着物一枚になろうと、裸になろうと寒くないのだろう。
誰も認識しないのは分かっているのに、見てくれを気にしてウエアを着込んでいるのだと気付くとまだ人間の世界に未練があるのかなと思ってしまう。
だいぶ歩き回り、方向感覚が無くなった。
もう戻れない。
登っているのか、降りているのかも分からなくなった。
晴れているのにゴーグルを持ってこなかったのは失敗だったと思う。雪目になってしまったようで涙が止まらない。疼痛もするし、頭痛も酷い。
流れても流れて止まない涙を拭って、ぼやけた視界で前に進む。足を動かすことが前に進むこととは思わない。だが、例え目が見えなくなったとしても進むしかなかった。
(戻れる場所なんてないんだ)
蓮に会っても受け入れてもらえないかもしれない、だからといって元の世界に戻っても居場所がない。
どこにも存在する意味が無いのだと別の自分が外部から話しかけているような感覚になる。
目を閉じて、涙を流し、それでも歩く。
日が暮れたのか先程よりも気温が下がったようだ。だが、寒くはない。
気温に左右されないのは有難いが、体力の限界が近づいてきた。
足を止めて空を仰ぐ。実際は瞼を開けていないので、暗闇しか映らないが恭吾には今求めているものがはっきりと見えた。
(蓮と三つ子の笑顔……か)
幻がこれほど辛いとは知らなかった。見たいものが見れるなんていいじゃないかと思っていたが、実際に無いものを見るのが辛いく……寂しい。
(あぁ、寂しいのか、俺は……)
認識されなくなり、友人にも忘れられ、それでも諦めがついたのに、たった一ヶ月程世話になったあの場所が、彼らが恭吾を捨ててしまう、自分を見てくれない。それが寂しいのだと気付いた。
溢れた涙を暖かいと思った。
唇に流れ着いたそれは雪目の涙より、塩辛く感じる。
膝をつき、柔らかな白い雪に倒れこむ。暖かい涙が通ったそこだけが、雪の冷たさを感じさせてくれた。
「会いたい。蓮……」
自分に何をしたのかなんてどうでもいい。何をしてもいい。彼らになら食われてもいい。
それでも蓮の隣に居たい。
ポケットを弄り、赤い鈴を取り出す。
相変わらず美しい音色がリンと高く響き、コロコロと手から落ちていった。
拾いたいのに身体が言うことをきかない。このまま眠ってしまおう。明日、また歩けばいいのだ。生きていたのならば。
夢だろうか?
蓮が俺を見下ろしている。パクパクと口を動かしているが、何を言っているのか聞こえない。それに、答えてやりたいのに言いたいことがあるのに声が出ない。口も開かない。
『蓮、お前、どうしてそんな寂しそうな顔してんだよ。』
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