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7.5 幕間 耳飾り
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座学が終わり、いつも通り翡翠と共に部屋を後にしようとした時、天花はある男の名前を耳にした。
その名前は最近よく行動を共にしている者なので、少し気になって立ち止まる。立ち聞きは良くないと思いつつも、その話が気になって耳を澄ませた。
「でな、華月様の耳飾り。あのどんな鉱物よりも透明度が高いって噂のあれは地獄で産まれた女神が差し出したって話だぜ」
「うわ! さすが華月様。顔が良いと宝玉から寄ってくるってやつか」
「いやいや、差し出したなら宝玉ってより女が。だろ? っていうか女だけじゃなくて、華月様ってさ、ありゃぁ男でも抱かれたくなるよなぁ」
「ええ!? お前は女しか抱けねぇって言ってただろ?」
「俺じゃねぇよ!! あんなに顔が良けりゃ性別種族関係なく寄ってくるだろって話だって」
立ち止まった天花に気付き、翡翠も立ち止まる。
「確かになぁー。でも、華月様ならもっとデカい装飾の方が好みそうなのに、以外と小さいよな」
「うーん。確かにな。でも、やっぱり、良い女から貰ったから、特別なんじゃねぇのかな?」
「……その話、本当ですか?」
「!? ――天花、さん!?」
突然声を掛けられ、それだけでも驚いていた男達だが、その声の主を確認して更に驚きの表情をした。
「突然すみません。あの、先程の華月様の話は本当ですか?」
「え? え? 華月様の? どの話のこと……ですかね?」
混乱している男達と天花の間に、翡翠が言葉の通り身体を割って入る。
「あーあー、あればい。さっきん耳飾りん話や。そうばいね? 天花」
「はい。耳飾りが地獄の女神からの贈り物だと言っていたのは本当ですか?」
すると、何故かホッとしたような表情をした男達は一同に首を振る。
「それは噂ですよ。きっとただの作り話でしょう。天花さんが気になさることではないです」
「そうですか」
「それより、どうして気になさったんですか?」
「先日あの耳飾りが見当たらないと華月様が騒いでらして……すぐに見つかりましたが、とても大事なものだと仰っていたので、少し気になって」
「へぇ! やっぱり大事なもんなのか。じゃぁ、誰かから――ング!!」
後方の男がそこまで口にした瞬間、周りが一斉にその男の口を押さえた。
「どうかされましたか?」
「いーえいえいえ!! 天花さんはお気になさらずに!!」
「そうですか」
「そうですそうです!! あ、もし何か情報が入ったらお伝えしましょうか?」
「宜しくお願いします」
頭を下げた天花に男達は首を振り、お易い御用だと口々にした。そして天花が去りホッと息を吐くと……残った翡翠が笑みを浮かべて立っていた。
「翡翠……」
「ぬしゃら、いたらんことば言いなすなや?」
その笑みに男達は再び凍りつく。方言独特の強みだけではなく、翡翠のその笑みが「余計なことを言ったら殺す」と書いてあるようだからだ。
男達はゴクリと唾を飲み込み、頷くことしかできなかった。
その後、天花と華月は街に降りた。
「さて、今日は買い物しようぜ。何か欲しいのあるか?」
「私は特に欲しいものは無いです。華月様は?」
「俺も無い! ならぶらぶらとウィンドウショッピングするか!」
「ウィンドウショッピング」
慣れない外国の言葉を繰り返すと、満面の笑みで先を歩く華月が振り向く。
「あぁ! 何も買わないけど、とりあえず色々と店を見たりするんだ。その時に気に入れば買えばいい」
「あらかじめ決めておかないのは、時間の無駄では?」
「はははっ、そう言うなって。ほら例えばあの服、もう冬服飾ってるだろ? まだ暑いけど、次にこんなの流行るのかーとか考えるだけでも楽しいわけだ」
ふむと考えるように見渡した天花は、ハッと目を輝かせてあるマネキンを指した。
「あれ、あの黒い服は華月様に似合いそうです」
「おう、お? あれ? ま、じ?」
「はい!!」
「うわー、あれは……俺は着れない、かなぁ」
何故と首を傾げた天花に、華月は照れたように笑う。
「あれの横見てみろ。白いドレス着た女のマネキンいるだろ? だから、あの黒い服は男側の婚礼衣装だ」
「婚礼――!? そっか、婚礼も着物じゃないんですね……あ、でも今でなくとも華月様ならいつか婚礼の時に着て欲しいですね。見てみたいです」
「天狗の婚礼は和装だ」
「そうですか、うーん。残念です」
心底残念そうにしている天花の頭を華月はくしゃりと撫でる。
「なら、天狗の里で和装して、こっちで写真だけ撮るのもありかな」
「……写真ではなくて直接見たいです」
「――ッ、それなら、お前がウェディングドレス着ろよ」
「うえ? なんですか? それ着たら見れるんですか??」
「おうおう、見せてやる」
くくくと笑う華月が視線を女のマネキンと自身を見比べていることに気付き、天花はムッと頬を膨らませて華月を睨む。
しかし、悪びれることなく華月は言葉を続けた。
「天花ならすっげぇ似合うよ!! そんじょそこらの女より可愛いし綺麗だし、肌だって白くてさ。男物着るより、純白ドレスの方が似合うって」
「嬉しくない。私はまだ男らしくムキムキになること諦めてないですからね」
「やめとけって~、そんな天花は嫌だって」
「華月様には関係ありません!!」
頭から怒りの湯気が出ていそうな天花に、やりすぎたかと思った華月はサッと手を握る。
「なにするんですか!!」
「いいから、いいから!」
そして強めに引っ張り、ある店に連れていった。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
やたら見目の良い男が二人、何故か手を繋いで入店したら大体の人が目を見開くだろう。しかし、この店員はよく教育が出来ているらしく、ニコリと笑って頭を下げた。
「ごゆっくりご覧下さい」
「ありがとう、お姉さん。そうだ。この子さ、ちょっと田舎から出てきたから、色々質問させてくれない?」
そう言った華月は天花をズイと前に押しだした。
「え、でも」
「いいんだよ。ね? 忙しいと思うんだけど頼めないかな?」
華月の言葉に店員は少し驚いたようだが、また微笑み「もちろんですよ」と答えた。
「ま、待って下さい。華月様。ここは……装飾品店ですよね? さっきの流れからして婚礼の類では??」
「お。御明察」
「困ります。私は買う予定ないですから」
「別に買わなくていいだろ? でも、ほら見てみろよ。あの光ってる石と、こっちの石。同じ大きさでも光り方が違うのは切り出し方とか産地が関係あるらしいぞ。それにあっちは同じ石の名前でもなんか入ってる物質の量で色が変わるんだと」
そこまで言うと、天花の目の色が変わった。全く知らなかったら湧きもしない知識欲が、沸々としているに違いない。
華月はもう一度、店員に宜しくと頼むと伝えると天花も頭を下げた。
「宜しくお願いします」
「はい。知る限り、ですが」
きっと天花の質問攻めを予測したのだろう。店員は少しだけ困ったように笑ったが、華月には何故か違ったように見え、自分から頼んだのにつまらない気分になった。
その後、天花の質問攻めに店員総出で知識合戦のようになっていた。最後には店長やマネージャーまで出てきて、これでもかと答えを返すがまた質問が返ってくるといった調子に思わず華月は何度も吹き出しそうになった。
「ほんっとごめんね、お姉さん」
「いえ、私達も知らないことを沢山学びました。ありがとうございます」
最初に対応してくれた店員が店の外まで見送ってくれるようだ。華月が振り向くと、天花も満足そうな顔をしている。
それを見てホッとしていると、店員が華月に声をかけた。
「ひとつ、宜しいですか?」
「ん? なにかな?」
「お客様の耳飾り。とても美しいですね」
その言葉に、店員の後ろにいる天花が目を見開いた。何か、驚くようなそんな表情だ。
「ありがとう。いいだろ。これ」
「はい。良くお似合いです!! それで、そちらは……石、ですよね?」
「ん? あぁー」
「何からできているのか、もし可能であれば教えて頂けますか?」
店員の言葉に何故か後ろの天花も目を爛々とさせている。
「うーん……強いて言うなら 美しいもの かな。これだけは、教えてやれねぇんだわ。ごめんね。お姉さん」
そう言うと、店員と天花は同じ表情で残念そうに眉を下げた。しかし、店員だけはすぐに笑みを戻して「まだ知らない石があるのはロマンですから」と答え、挨拶をして戻って行った。
店員が去った後も、天花はまだ眉を下げたままだ。
「そんなに気になる?」
「……そうですね。それ、どなたから?」
「え? 誰から? 俺が作ったんだけど?」
「華月様、ご自身で?」
今度は目をぱちくりと開き、何度も瞬かせる様子に華月は胸がキュッと音がしたように感じた。
「そ。さっきも言ったけど、あんまりにも美しいものがあったから、それで作ったんだ。いつか天花には教えてやる。今は内緒。あぁ、そうだ。天花にも別に何か作ろうと思ったけど、時間が無いから今はこれな」
そう言った華月は天花の手を取り、装飾の無い小箱を乗せた。
それを天花がそっと開くと、シルバーのチェーンに小さな透明に輝く石がいくつかあしらわれた装飾品が入っていた。
「これを? 私に??」
「そ。アンクレット。足につける輪っかなんだけど、それなら足袋で隠せるし着物の邪魔にもならないかなって」
「宜しいんですか……?」
「もちろん。天花のために選んだからな。付けられそうか?」
華月の言葉に、天花はその場でしゃがみこむ。
そして、パンツの裾を何度か捲り、アンクレットを付けようとしたが……どうやら付け方が分からず悪戦苦闘しているようだ。
「ほら、付けてやる」
「サッと付けられないとカッコ悪いですね」
そう言って恥ずかしそうに笑いながら、天花はアンクレットを華月に差し出した。
「そんなことないって、ほら、足」
「お願いします」
白く細い足首に触れたい衝動を押さえ、華月はなるべく見ないようにして付けてやる。
「はい。できた」
「ありがとうございます! わぁ……可愛い!」
「そうだな。似合ってる」
「あ、どうしましょう」
「ん?」
「付けられないものは、外せないし、外せても付けられないかもしれないです」
困った犬のように垂れた耳が見えそうな天花の頭を撫でる。
「そんときゃ外してやるし、付けてやるよ」
笑ったり困ったり、表情をクルクルと変える天花から華月は目を離せずにいた。
その名前は最近よく行動を共にしている者なので、少し気になって立ち止まる。立ち聞きは良くないと思いつつも、その話が気になって耳を澄ませた。
「でな、華月様の耳飾り。あのどんな鉱物よりも透明度が高いって噂のあれは地獄で産まれた女神が差し出したって話だぜ」
「うわ! さすが華月様。顔が良いと宝玉から寄ってくるってやつか」
「いやいや、差し出したなら宝玉ってより女が。だろ? っていうか女だけじゃなくて、華月様ってさ、ありゃぁ男でも抱かれたくなるよなぁ」
「ええ!? お前は女しか抱けねぇって言ってただろ?」
「俺じゃねぇよ!! あんなに顔が良けりゃ性別種族関係なく寄ってくるだろって話だって」
立ち止まった天花に気付き、翡翠も立ち止まる。
「確かになぁー。でも、華月様ならもっとデカい装飾の方が好みそうなのに、以外と小さいよな」
「うーん。確かにな。でも、やっぱり、良い女から貰ったから、特別なんじゃねぇのかな?」
「……その話、本当ですか?」
「!? ――天花、さん!?」
突然声を掛けられ、それだけでも驚いていた男達だが、その声の主を確認して更に驚きの表情をした。
「突然すみません。あの、先程の華月様の話は本当ですか?」
「え? え? 華月様の? どの話のこと……ですかね?」
混乱している男達と天花の間に、翡翠が言葉の通り身体を割って入る。
「あーあー、あればい。さっきん耳飾りん話や。そうばいね? 天花」
「はい。耳飾りが地獄の女神からの贈り物だと言っていたのは本当ですか?」
すると、何故かホッとしたような表情をした男達は一同に首を振る。
「それは噂ですよ。きっとただの作り話でしょう。天花さんが気になさることではないです」
「そうですか」
「それより、どうして気になさったんですか?」
「先日あの耳飾りが見当たらないと華月様が騒いでらして……すぐに見つかりましたが、とても大事なものだと仰っていたので、少し気になって」
「へぇ! やっぱり大事なもんなのか。じゃぁ、誰かから――ング!!」
後方の男がそこまで口にした瞬間、周りが一斉にその男の口を押さえた。
「どうかされましたか?」
「いーえいえいえ!! 天花さんはお気になさらずに!!」
「そうですか」
「そうですそうです!! あ、もし何か情報が入ったらお伝えしましょうか?」
「宜しくお願いします」
頭を下げた天花に男達は首を振り、お易い御用だと口々にした。そして天花が去りホッと息を吐くと……残った翡翠が笑みを浮かべて立っていた。
「翡翠……」
「ぬしゃら、いたらんことば言いなすなや?」
その笑みに男達は再び凍りつく。方言独特の強みだけではなく、翡翠のその笑みが「余計なことを言ったら殺す」と書いてあるようだからだ。
男達はゴクリと唾を飲み込み、頷くことしかできなかった。
その後、天花と華月は街に降りた。
「さて、今日は買い物しようぜ。何か欲しいのあるか?」
「私は特に欲しいものは無いです。華月様は?」
「俺も無い! ならぶらぶらとウィンドウショッピングするか!」
「ウィンドウショッピング」
慣れない外国の言葉を繰り返すと、満面の笑みで先を歩く華月が振り向く。
「あぁ! 何も買わないけど、とりあえず色々と店を見たりするんだ。その時に気に入れば買えばいい」
「あらかじめ決めておかないのは、時間の無駄では?」
「はははっ、そう言うなって。ほら例えばあの服、もう冬服飾ってるだろ? まだ暑いけど、次にこんなの流行るのかーとか考えるだけでも楽しいわけだ」
ふむと考えるように見渡した天花は、ハッと目を輝かせてあるマネキンを指した。
「あれ、あの黒い服は華月様に似合いそうです」
「おう、お? あれ? ま、じ?」
「はい!!」
「うわー、あれは……俺は着れない、かなぁ」
何故と首を傾げた天花に、華月は照れたように笑う。
「あれの横見てみろ。白いドレス着た女のマネキンいるだろ? だから、あの黒い服は男側の婚礼衣装だ」
「婚礼――!? そっか、婚礼も着物じゃないんですね……あ、でも今でなくとも華月様ならいつか婚礼の時に着て欲しいですね。見てみたいです」
「天狗の婚礼は和装だ」
「そうですか、うーん。残念です」
心底残念そうにしている天花の頭を華月はくしゃりと撫でる。
「なら、天狗の里で和装して、こっちで写真だけ撮るのもありかな」
「……写真ではなくて直接見たいです」
「――ッ、それなら、お前がウェディングドレス着ろよ」
「うえ? なんですか? それ着たら見れるんですか??」
「おうおう、見せてやる」
くくくと笑う華月が視線を女のマネキンと自身を見比べていることに気付き、天花はムッと頬を膨らませて華月を睨む。
しかし、悪びれることなく華月は言葉を続けた。
「天花ならすっげぇ似合うよ!! そんじょそこらの女より可愛いし綺麗だし、肌だって白くてさ。男物着るより、純白ドレスの方が似合うって」
「嬉しくない。私はまだ男らしくムキムキになること諦めてないですからね」
「やめとけって~、そんな天花は嫌だって」
「華月様には関係ありません!!」
頭から怒りの湯気が出ていそうな天花に、やりすぎたかと思った華月はサッと手を握る。
「なにするんですか!!」
「いいから、いいから!」
そして強めに引っ張り、ある店に連れていった。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
やたら見目の良い男が二人、何故か手を繋いで入店したら大体の人が目を見開くだろう。しかし、この店員はよく教育が出来ているらしく、ニコリと笑って頭を下げた。
「ごゆっくりご覧下さい」
「ありがとう、お姉さん。そうだ。この子さ、ちょっと田舎から出てきたから、色々質問させてくれない?」
そう言った華月は天花をズイと前に押しだした。
「え、でも」
「いいんだよ。ね? 忙しいと思うんだけど頼めないかな?」
華月の言葉に店員は少し驚いたようだが、また微笑み「もちろんですよ」と答えた。
「ま、待って下さい。華月様。ここは……装飾品店ですよね? さっきの流れからして婚礼の類では??」
「お。御明察」
「困ります。私は買う予定ないですから」
「別に買わなくていいだろ? でも、ほら見てみろよ。あの光ってる石と、こっちの石。同じ大きさでも光り方が違うのは切り出し方とか産地が関係あるらしいぞ。それにあっちは同じ石の名前でもなんか入ってる物質の量で色が変わるんだと」
そこまで言うと、天花の目の色が変わった。全く知らなかったら湧きもしない知識欲が、沸々としているに違いない。
華月はもう一度、店員に宜しくと頼むと伝えると天花も頭を下げた。
「宜しくお願いします」
「はい。知る限り、ですが」
きっと天花の質問攻めを予測したのだろう。店員は少しだけ困ったように笑ったが、華月には何故か違ったように見え、自分から頼んだのにつまらない気分になった。
その後、天花の質問攻めに店員総出で知識合戦のようになっていた。最後には店長やマネージャーまで出てきて、これでもかと答えを返すがまた質問が返ってくるといった調子に思わず華月は何度も吹き出しそうになった。
「ほんっとごめんね、お姉さん」
「いえ、私達も知らないことを沢山学びました。ありがとうございます」
最初に対応してくれた店員が店の外まで見送ってくれるようだ。華月が振り向くと、天花も満足そうな顔をしている。
それを見てホッとしていると、店員が華月に声をかけた。
「ひとつ、宜しいですか?」
「ん? なにかな?」
「お客様の耳飾り。とても美しいですね」
その言葉に、店員の後ろにいる天花が目を見開いた。何か、驚くようなそんな表情だ。
「ありがとう。いいだろ。これ」
「はい。良くお似合いです!! それで、そちらは……石、ですよね?」
「ん? あぁー」
「何からできているのか、もし可能であれば教えて頂けますか?」
店員の言葉に何故か後ろの天花も目を爛々とさせている。
「うーん……強いて言うなら 美しいもの かな。これだけは、教えてやれねぇんだわ。ごめんね。お姉さん」
そう言うと、店員と天花は同じ表情で残念そうに眉を下げた。しかし、店員だけはすぐに笑みを戻して「まだ知らない石があるのはロマンですから」と答え、挨拶をして戻って行った。
店員が去った後も、天花はまだ眉を下げたままだ。
「そんなに気になる?」
「……そうですね。それ、どなたから?」
「え? 誰から? 俺が作ったんだけど?」
「華月様、ご自身で?」
今度は目をぱちくりと開き、何度も瞬かせる様子に華月は胸がキュッと音がしたように感じた。
「そ。さっきも言ったけど、あんまりにも美しいものがあったから、それで作ったんだ。いつか天花には教えてやる。今は内緒。あぁ、そうだ。天花にも別に何か作ろうと思ったけど、時間が無いから今はこれな」
そう言った華月は天花の手を取り、装飾の無い小箱を乗せた。
それを天花がそっと開くと、シルバーのチェーンに小さな透明に輝く石がいくつかあしらわれた装飾品が入っていた。
「これを? 私に??」
「そ。アンクレット。足につける輪っかなんだけど、それなら足袋で隠せるし着物の邪魔にもならないかなって」
「宜しいんですか……?」
「もちろん。天花のために選んだからな。付けられそうか?」
華月の言葉に、天花はその場でしゃがみこむ。
そして、パンツの裾を何度か捲り、アンクレットを付けようとしたが……どうやら付け方が分からず悪戦苦闘しているようだ。
「ほら、付けてやる」
「サッと付けられないとカッコ悪いですね」
そう言って恥ずかしそうに笑いながら、天花はアンクレットを華月に差し出した。
「そんなことないって、ほら、足」
「お願いします」
白く細い足首に触れたい衝動を押さえ、華月はなるべく見ないようにして付けてやる。
「はい。できた」
「ありがとうございます! わぁ……可愛い!」
「そうだな。似合ってる」
「あ、どうしましょう」
「ん?」
「付けられないものは、外せないし、外せても付けられないかもしれないです」
困った犬のように垂れた耳が見えそうな天花の頭を撫でる。
「そんときゃ外してやるし、付けてやるよ」
笑ったり困ったり、表情をクルクルと変える天花から華月は目を離せずにいた。
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