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32. 盗人猛々しい
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盗人猛々しいとはこのことか。
俊達は真っ赤な顔をしているダガリーに眉根を寄せた。
周りにいた客がざわつき、ロイ達をホールから追い出そうとしていた支配人が二人を連れて何事かと駆けつけてきた。
「数字を変えたのはダイスを振り終わった後ですよ。何か仕込んでたなら最初からそれに賭ければ良いんだから必要ないし、これまであんなに負けてません」
胸を張って良いのか分からないがきっぱり否定する。確かに、と卓の客から賛同の声が上がりダガリーはますます顔を上気させた。
「侯爵家に楯突くか! このあばずれと一緒になって俺を貶めるつもりなんだろう!」
ダガリーがカロリアを突き飛ばす。ディアンが彼女を受け止め、クレイグが止めに入ったがもう遅かった。
「いかさまをしたのはお前だろ! ネタは上がってんだ!」
エバンが侯爵の胸ぐらを掴んで今にも絞め殺さんばかりに睨め付けていた。ひ、と喉を鳴らすも厚顔な男の口は止まらない。
「い、言いがかりだ! 私を誰だと思ってるんだ!」
「マクラウド様に何ということを! 彼はここを贔屓してくださっている侯爵様です」
支配人が警備兵とともにエバンをダガリーから引き剥がす。
パトロンをかばい立てするのは想定内だ。
権力を笠に着られれば分が悪いが、証拠さえあれば局面は動く。
「中指で卓を叩いた後は絶対勝ってただろ! それがいかさまの合図だ! 今もカロリアに外させて借金を負わせようとしてたんだろ!!」
エバンが震える拳を下ろしながら絞り出す。
それを受け、誰かが「そう言えばあの時も」と声を潜めつつ口にした。
ざわめきの中、ディーラーを密かに呼びつけているのを見たことがあるなど怪しい挙動が、客の口から次々と飛び出す。
ギンとクレイグの読み通りだった。皆、やけに運の良い侯爵様を訝しんでいたのだ。
話を聞いた支配人の懐疑的な視線に、ダガリーはあからさまに動揺し口角泡を飛ばし喚いた。
「いかさまをしたと言うのなら、しょ、証拠を出せ!」
「お望み通り見せてやるよ!」
エバンが呆然としているディーラーの箱からダイスを奪い取り、緑の盤上へ置くと短剣を突き立てた。
小さなダイスが真っ二つに割れ、視認できる距離にいた全員が息を飲んだ。
クレイグが欠片を掴み、支配人に渡した。
「魔封石……」
ダイス内部で光る透明な石に、支配人は気の抜けたようにダガリーを見た。
侯爵は「ち、違う」と後ろへ後ずさり、警備兵に肩を掴まれた。
「仕掛けの有無を真偽晒しの術で調べてるんだろ。魔封石ならその術も無効化されて、『真』の時と同じく何も起こらない。重さだけがあれば良い仕掛けの場合こんなに良い素材はない」
俊は備品室でこのダイスを凍らせようとしてできなかった。魔封石によって無効化されていたからだ。
「このディーラーが勝手にやったんだ!」
「ち、違います! 私は彼に脅されて」
「こんな下賎の者と私が繋がっているわけが無いだろう。侯爵家に言いがかりを付けるとは何事か! 詐欺と不敬罪でその者を捉えて処刑しろ!」
見限られたディーラーが真っ白な顔で卓に伏した。
もともと評判が良くないこともあり、ダガリーの癇癪にこの場にいた誰もが彼の不正を疑わなかった。
だが侯爵様が拒否している以上、彼とディーラーがつながっている証拠も必要になる。たとえ支配人でも無理を強いて連行しては不敬罪に問われる可能性がある。
憔悴したディーラーの様子を見に行ったギンが首を横に振った。
切り捨てられた彼が復讐とばかりに支配人の前で口を割ってくれることを期待していたが、この場では望めそうもない。
可能なら武力行使は避けたいと言っていたクレイグが、苦い顔で団員を見回した時だった。
俊達は真っ赤な顔をしているダガリーに眉根を寄せた。
周りにいた客がざわつき、ロイ達をホールから追い出そうとしていた支配人が二人を連れて何事かと駆けつけてきた。
「数字を変えたのはダイスを振り終わった後ですよ。何か仕込んでたなら最初からそれに賭ければ良いんだから必要ないし、これまであんなに負けてません」
胸を張って良いのか分からないがきっぱり否定する。確かに、と卓の客から賛同の声が上がりダガリーはますます顔を上気させた。
「侯爵家に楯突くか! このあばずれと一緒になって俺を貶めるつもりなんだろう!」
ダガリーがカロリアを突き飛ばす。ディアンが彼女を受け止め、クレイグが止めに入ったがもう遅かった。
「いかさまをしたのはお前だろ! ネタは上がってんだ!」
エバンが侯爵の胸ぐらを掴んで今にも絞め殺さんばかりに睨め付けていた。ひ、と喉を鳴らすも厚顔な男の口は止まらない。
「い、言いがかりだ! 私を誰だと思ってるんだ!」
「マクラウド様に何ということを! 彼はここを贔屓してくださっている侯爵様です」
支配人が警備兵とともにエバンをダガリーから引き剥がす。
パトロンをかばい立てするのは想定内だ。
権力を笠に着られれば分が悪いが、証拠さえあれば局面は動く。
「中指で卓を叩いた後は絶対勝ってただろ! それがいかさまの合図だ! 今もカロリアに外させて借金を負わせようとしてたんだろ!!」
エバンが震える拳を下ろしながら絞り出す。
それを受け、誰かが「そう言えばあの時も」と声を潜めつつ口にした。
ざわめきの中、ディーラーを密かに呼びつけているのを見たことがあるなど怪しい挙動が、客の口から次々と飛び出す。
ギンとクレイグの読み通りだった。皆、やけに運の良い侯爵様を訝しんでいたのだ。
話を聞いた支配人の懐疑的な視線に、ダガリーはあからさまに動揺し口角泡を飛ばし喚いた。
「いかさまをしたと言うのなら、しょ、証拠を出せ!」
「お望み通り見せてやるよ!」
エバンが呆然としているディーラーの箱からダイスを奪い取り、緑の盤上へ置くと短剣を突き立てた。
小さなダイスが真っ二つに割れ、視認できる距離にいた全員が息を飲んだ。
クレイグが欠片を掴み、支配人に渡した。
「魔封石……」
ダイス内部で光る透明な石に、支配人は気の抜けたようにダガリーを見た。
侯爵は「ち、違う」と後ろへ後ずさり、警備兵に肩を掴まれた。
「仕掛けの有無を真偽晒しの術で調べてるんだろ。魔封石ならその術も無効化されて、『真』の時と同じく何も起こらない。重さだけがあれば良い仕掛けの場合こんなに良い素材はない」
俊は備品室でこのダイスを凍らせようとしてできなかった。魔封石によって無効化されていたからだ。
「このディーラーが勝手にやったんだ!」
「ち、違います! 私は彼に脅されて」
「こんな下賎の者と私が繋がっているわけが無いだろう。侯爵家に言いがかりを付けるとは何事か! 詐欺と不敬罪でその者を捉えて処刑しろ!」
見限られたディーラーが真っ白な顔で卓に伏した。
もともと評判が良くないこともあり、ダガリーの癇癪にこの場にいた誰もが彼の不正を疑わなかった。
だが侯爵様が拒否している以上、彼とディーラーがつながっている証拠も必要になる。たとえ支配人でも無理を強いて連行しては不敬罪に問われる可能性がある。
憔悴したディーラーの様子を見に行ったギンが首を横に振った。
切り捨てられた彼が復讐とばかりに支配人の前で口を割ってくれることを期待していたが、この場では望めそうもない。
可能なら武力行使は避けたいと言っていたクレイグが、苦い顔で団員を見回した時だった。
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