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79. 魔光石の色
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俊は懐に手を入れ、掴んだものを思い切り大男に向って投げつけた。
それは男の肩を掠っただけにもかかわらず、炎を噴き上げ分厚い鎧を粉々にした。
二重底の下に導の紙とともに隠していた俊の秘密兵器、そろばんの襲撃に大男は呻いた。だがよろめいたものの、男の剣先は変わらない。
ディートは反撃も遁走もせず、ひたすらに修復の呪文を詠唱している。攻撃を覚悟したようにその目が閉じられた。
だめだ間に合わない!
「デビー様!!」
袖口で顔を覆った俊に聞こえたのはディートの断末魔ではなく、悲痛な叫びだった。
恐る恐る開けた目に信じられないものが飛び込んできた。
大男の剣はデビーの胸に振り下ろされていた。豪奢な服が裂け血が噴き出す。
背後に庇われたディートは、片手で崩れ落ちたデビーを支え、躊躇なく術を解いた。即座に作り出した魔法陣で大男と元王子を消し去ると、デビーを地面に横たえすぐさま治癒の術をかけ始めた。
綺麗な鳶色の魔光石が青ざめたディートの首元で揺れている。
俊は思い違いをしていた。ディートに人質などいなかったのだ。
「砲撃構え!」
ハッとして石舞台の中心を見ると小型ではあるが二輪の大砲が十数基、人狼を取り囲むように並んでいた。蒼白になった俊の目の前を第二王子および何故か遅れて現れた第一王子の指揮に合わせ砲弾が飛んでいく。
再び立ち上がっていたクレイグはけたたましい咆哮を上げ、それらを弾いていった。
だが一つが首元をかすめ、狼の動きが一拍遅れた。何かを探すように金の目が動く。そして地面にあった小さなものを銜えた。
第二の砲弾が一斉に発射された。魔光石によって殺傷力が高められた弾が結界を壊し、いくつかがクレイグを貫いた。
俊は衝動のままに走り出した。
痛ましい叫喚がとどろき、巨体が横倒しになる。人狼は一つ唸り声をあげ、動くのをやめてしまった。
蝶国及び花国の兵士達の歓声が上がった。彼らは我先に人狼に近づこうと舞台へ上がった。だが金の目が猛然と見開かれ、この場全てを揺るがす咆哮が上がった。
最後の力を振り絞ったようなそれは、凄まじい衝撃波とともに巨大な闘技場を業火に包んだ。烈火は豪風を呼び、人も、大砲も結界で守られてないすべてを巻き上げた。
すぐ横で自分より数倍屈強な兵士の体が舞台の外へ吹き飛んでいく。そんな光景など目に入らなかった。
「クレイグ!」
炎の中、俊だけがクレイグに辿り着いた。
それは男の肩を掠っただけにもかかわらず、炎を噴き上げ分厚い鎧を粉々にした。
二重底の下に導の紙とともに隠していた俊の秘密兵器、そろばんの襲撃に大男は呻いた。だがよろめいたものの、男の剣先は変わらない。
ディートは反撃も遁走もせず、ひたすらに修復の呪文を詠唱している。攻撃を覚悟したようにその目が閉じられた。
だめだ間に合わない!
「デビー様!!」
袖口で顔を覆った俊に聞こえたのはディートの断末魔ではなく、悲痛な叫びだった。
恐る恐る開けた目に信じられないものが飛び込んできた。
大男の剣はデビーの胸に振り下ろされていた。豪奢な服が裂け血が噴き出す。
背後に庇われたディートは、片手で崩れ落ちたデビーを支え、躊躇なく術を解いた。即座に作り出した魔法陣で大男と元王子を消し去ると、デビーを地面に横たえすぐさま治癒の術をかけ始めた。
綺麗な鳶色の魔光石が青ざめたディートの首元で揺れている。
俊は思い違いをしていた。ディートに人質などいなかったのだ。
「砲撃構え!」
ハッとして石舞台の中心を見ると小型ではあるが二輪の大砲が十数基、人狼を取り囲むように並んでいた。蒼白になった俊の目の前を第二王子および何故か遅れて現れた第一王子の指揮に合わせ砲弾が飛んでいく。
再び立ち上がっていたクレイグはけたたましい咆哮を上げ、それらを弾いていった。
だが一つが首元をかすめ、狼の動きが一拍遅れた。何かを探すように金の目が動く。そして地面にあった小さなものを銜えた。
第二の砲弾が一斉に発射された。魔光石によって殺傷力が高められた弾が結界を壊し、いくつかがクレイグを貫いた。
俊は衝動のままに走り出した。
痛ましい叫喚がとどろき、巨体が横倒しになる。人狼は一つ唸り声をあげ、動くのをやめてしまった。
蝶国及び花国の兵士達の歓声が上がった。彼らは我先に人狼に近づこうと舞台へ上がった。だが金の目が猛然と見開かれ、この場全てを揺るがす咆哮が上がった。
最後の力を振り絞ったようなそれは、凄まじい衝撃波とともに巨大な闘技場を業火に包んだ。烈火は豪風を呼び、人も、大砲も結界で守られてないすべてを巻き上げた。
すぐ横で自分より数倍屈強な兵士の体が舞台の外へ吹き飛んでいく。そんな光景など目に入らなかった。
「クレイグ!」
炎の中、俊だけがクレイグに辿り着いた。
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