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1.プロローグ
しおりを挟むなぜ、なぜあいつがここに。
俺――佐藤司は被っていた真っ黒のローブについているフードを鼻先まで引っ張り下げた。
こげ茶色の髪を必死で隠し、フードの荒い布目から再度前にいる少年を窺う。見間違いではなかった。
一六七しかない俺が羨む長身と短く切りそろえられた黒い髪、涼しげな眼もとと通った鼻筋が織りなす美形がいる。
安倍正成。
俺と同じ高校に通う後輩だ。
現在俺たちが居るのはわりと新しい商業ビルだ。
一階に大手書店、二階はそこのカフェが入っており、老若男女がよく利用している。
だが三階以降はがらりと装いが変わる。
エレベーターを降りて真っ先に目に付くのは怪しげな紫色に塗られた壁。そして立て看板にやけに凝ったフォントで書かれている文字、「占」である。
ホールは、どれだけ目を凝らしても女性ばかり。その一番奥の小さな個室、ビビッドピンクに黒のレースがあしらわれた毒々しいカーテンの向こうに俺はいた。
使用期間三年目に突入する学ランを足元まですっぽり隠す黒いローブを羽織り、フードを被ったここの主、「魔女」として。
――だから、だから嫌だって言ったんだ。ねぇちゃんのバカ!
「司お願い! 代わりに占いに出て!!」
天然物の茶色の柔らかそうな髪に色素の薄い焦げ茶色の瞳。俺との血縁関係を感じさせる姉が両手をパン、と漫画みたいに合わせた。総合病院の個室で、足をギブスで固め吊られた彼女に俺は胡乱な視線を送った。
「絶対に嫌」
俺はにべもなく吐き捨て、母に頼まれた姉の着替えが入ったバッグを宙に放り投げた。バッグは落下せず、ふわふわと浮かびながらベッド脇の棚に収まった。
だいたい周りも見えないバカップルのくせ彼氏とスキー旅行になど行くからだ。彼氏以外見えないくせに雪で滑る二本の板を足に装着して雪の上に出ればケガをするに決まっている。
姉を心配すべき立場の弟であるが、俺の心は凪いでいた。
彼氏である青井修二との馴れ初めを三十八回は聞いた。喧嘩の際には愚痴も聞いたし経験皆無の頭を絞って相談にも乗った。
だが延々と愚痴に付き合った数時間後にはラブラブに戻っている。
それを半年の間に数十回ほど繰り返した。
挙句の果ては、サプライズスキー旅行を計画していた彼氏の浮気を疑った姉に尾行に付き合わされ、真実を知った姉と彼氏の濃厚キスシーンを目撃させられ、盛り上がった二人に忘れ去られ、その場に置き去りにされた。
受験のためバイトもやめた高校三年生の財布から消えた交通費、迷ったせいで帰宅が遅くなり母親から受けた叱責。
それらを加味してなお、姉に優しい顔ができるほど俺はお人よしではない。
そもそも、浮気を疑っていたのなら心でも読めば良かったのだ。
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