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25.理由
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体格差のせいで視界は形の良い鎖骨と白いシャツで埋め尽くされた。
目を白黒させていると、ぎゅう、とさらに背中に回った腕に力が入った。
密着度が増した安倍の胸からどくどくと煩いほど心臓の音が聞こえる。
いや俺の心臓の音かもしれない。
第一弾の衝撃が去っても何もできなかった。
安倍が疲労を和らげるためにやってくれていると分かっていたからだ。
けれど手とは比較にならないほど体が楽になっても、何もできなかった。
何もしなかった。
「先輩」
「……うん」
逃げられないような強い拘束とは裏腹に、緊張を滲ませた声で呼びかけられた。
「嫌じゃないですか」
「うん……お前こそ」
嫌じゃないです、とのどぼとけが上下する振動が、触れている頭に伝わる。
「この先も、何かあったら俺を頼ってください」
思いがけない申し出に、顔を上げようと動かした。
だが安倍がぐりぐりと頭で抑え込んできた。
どうやら顔を上げてはいけないらしい。
見えている首筋が少し赤いので、もしかしたら頬も赤いのかもしれない。
「お前がモテる理由が分かった気がする。……ありがとうな」
強面のくせにすぐ照れるし優しいというギャップ萌えだ。
俺がしみじみ言うも、安倍は答えずにわかに腕の力を強めただけだった。
固いだけの男の胸なのに、眠ってしまいそうなほど心地が良い。
今なら100mを8秒くらいで走れそうだが、俺は何もせず、広い肩に凭れかかった。
「……あの、俺先輩に言いたいことがあって」
もぞ、と落ち着きなく体を動かした後、安倍は意を決したような声を出した。
何? と問おうとして俺は唐突に口を押えた。
ざざ、と脳裏に映像が浮かんだ。
酷い車酔いのような嘔吐感。
――これは予知じゃない。相手の過去を見る力が発動したのだ。
小さいころに何度も挑戦するも感覚に慣れず、挫折した魔法だ。
なぜ今。
もしかして体力が一気に回復したお陰で魔力が暴走しているのか。
俺の動揺など知らず、映像が脳裏を駆け巡っていった。
小さい子供がいる。
立派な日本家屋の庭で、安倍はこの子と遊んでいる。
不鮮明な視界のせいで子供の顔は見えない。
視界が低いので、安倍は屈んでいるのかそれとも彼自身も幼いころの出来事か。
どちらでも良い。
このままいくと安倍の過去が、彼の思い人の顔が、彼女と安倍が何をしたのか見えてしまう。
「っ!」
俺は思いっきり安倍の胸を押し返し、不意を突かれた後輩の腕から逃げ出した。
「わ、悪い……助かった! でももう大丈夫だ! ありがとな!」
怪訝な顔をしている安倍の視線から顔をそらし、俺は一目散に教室から逃げ出した。
YESのカードを引きたくなかった。
柊にすら話さなかった秘密を話してしまった。
思い人の顔を見たくなかった。
――その理由が、分かってしまった。
目を白黒させていると、ぎゅう、とさらに背中に回った腕に力が入った。
密着度が増した安倍の胸からどくどくと煩いほど心臓の音が聞こえる。
いや俺の心臓の音かもしれない。
第一弾の衝撃が去っても何もできなかった。
安倍が疲労を和らげるためにやってくれていると分かっていたからだ。
けれど手とは比較にならないほど体が楽になっても、何もできなかった。
何もしなかった。
「先輩」
「……うん」
逃げられないような強い拘束とは裏腹に、緊張を滲ませた声で呼びかけられた。
「嫌じゃないですか」
「うん……お前こそ」
嫌じゃないです、とのどぼとけが上下する振動が、触れている頭に伝わる。
「この先も、何かあったら俺を頼ってください」
思いがけない申し出に、顔を上げようと動かした。
だが安倍がぐりぐりと頭で抑え込んできた。
どうやら顔を上げてはいけないらしい。
見えている首筋が少し赤いので、もしかしたら頬も赤いのかもしれない。
「お前がモテる理由が分かった気がする。……ありがとうな」
強面のくせにすぐ照れるし優しいというギャップ萌えだ。
俺がしみじみ言うも、安倍は答えずにわかに腕の力を強めただけだった。
固いだけの男の胸なのに、眠ってしまいそうなほど心地が良い。
今なら100mを8秒くらいで走れそうだが、俺は何もせず、広い肩に凭れかかった。
「……あの、俺先輩に言いたいことがあって」
もぞ、と落ち着きなく体を動かした後、安倍は意を決したような声を出した。
何? と問おうとして俺は唐突に口を押えた。
ざざ、と脳裏に映像が浮かんだ。
酷い車酔いのような嘔吐感。
――これは予知じゃない。相手の過去を見る力が発動したのだ。
小さいころに何度も挑戦するも感覚に慣れず、挫折した魔法だ。
なぜ今。
もしかして体力が一気に回復したお陰で魔力が暴走しているのか。
俺の動揺など知らず、映像が脳裏を駆け巡っていった。
小さい子供がいる。
立派な日本家屋の庭で、安倍はこの子と遊んでいる。
不鮮明な視界のせいで子供の顔は見えない。
視界が低いので、安倍は屈んでいるのかそれとも彼自身も幼いころの出来事か。
どちらでも良い。
このままいくと安倍の過去が、彼の思い人の顔が、彼女と安倍が何をしたのか見えてしまう。
「っ!」
俺は思いっきり安倍の胸を押し返し、不意を突かれた後輩の腕から逃げ出した。
「わ、悪い……助かった! でももう大丈夫だ! ありがとな!」
怪訝な顔をしている安倍の視線から顔をそらし、俺は一目散に教室から逃げ出した。
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柊にすら話さなかった秘密を話してしまった。
思い人の顔を見たくなかった。
――その理由が、分かってしまった。
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