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26.今なんて?
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体は羽根のように軽かった。
だが気分は最悪だった。
この世の不幸を勝手に背負ったような顔のまま、今日もまた俺は怪しげな黒猫の頭を被る。
「そんなに億劫なら代わっても良いって言ってるのに」
姉はそう言いつつ、ズレていた頭を直してくれた。
足のリハビリは順調で、姉は週三ではあるが、恋魔女の庵に復帰していた。
「一度受け持った客は最後までやり遂げるよ」
「男前になったね。習ってない魔法をやって三日寝込んだ挙句、おばあちゃんに叱られまくって泣いてたひよっことは思えないわ」
俺は相手に見えないと知りつつ、半目で姉を見やる。
「本人が全然覚えてない、やらかしを暴露すんのやめろ」
「それが家族の醍醐味、……もとい始末の悪いところよね」
じゃあお願いね。姉は俺の肩を鼓舞するように叩くと、バッグと松葉杖を持ち鼻歌を歌いながら庵を出て行った。
青井と復帰祝いのディナーに行くのだそうだ。
スキー旅行の恨みはまだ残っているが、相変わらず仲が良いなと苦笑しながら今日使うタロットを取り出した。
思えば姉が力のことを打ち明けたのも、こんなにのめりこんだのも青井だけだ。
姉は魔力が強過ぎて制御できず意図せず相手の気持ちが読めてしまうことが多々あった。
そのせいで人間関係で悩みは尽きなかった。
そんな姉が好きになれた青井の心はさぞや心地が良いのだろうと思う。
「魔女だって知ってもバカップルぷりに変わりがないのは、なかなかの器の大きさだよな」
俺はタロットの束の一番上にあったカード――星を見つめた。
安倍も驚いてはいたが、嫌悪感は見えなかった。
それどころか気が進まないだろうに俺を助けるために抱擁までしてくれた。
「……結局、あいつなんで魔女を探してたんだろ」
尻尾どころか体丸ごと差し出す勢いで出してしまったのに、政府のマル秘機関のマッドサイエンティストに売り飛ばされたりしていない。
まああの時トラばさみを持っていなかっただけかもしれないが。
そうこうしていたらカーテンが空き、安倍その人が現れた。いつの間にか予約時間になっていたらしい。
急いで体裁を整え、いつもの定位置に座ると安倍もアンティークの机を挟んだ向かいに座る。
本当に猫の着ぐるみを被るというのは良いアイデアだった。
今の俺の表情は、一介の客にすべきものではない。
「では今日も貴方の思い人の気持ちをYESかNOを先に占いますね」
努めてテンション高く告げると、安倍は短く承諾した。
なんだか思いつめたような表情をしている。
人妻と何かあったのか聞こうかと思ったが、どんな答えが来ても辛い。
やはり既婚者への恋慕など間違っている気がする。
ドラマや漫画ならまだしも、現実でそんなこと褒められたものではない。
だが、俺にそれを指摘する権利はない。
俺の気持ちのせいで、間違っていると思い込みたいだけだ。
何より、占いで進むべきだと結果が出てしまった。
ともかく最後までやりきると決めたのだ。
深く息を吸って、タロットを意味深な形に並べ終えた。
では、と声をかけてその上を五芒星を描くように手を滑らせる。
心臓が煩い。
もし今日YESのカードを引いてしまったら……。
すぐさま一枚のカードが肉球に吸い付いてきて、息を詰めた。
「佐藤先輩」
「うん、何?」
カードを握りつぶしそうになる手の力を逃しながら、安倍の呼びかけに答える。
安倍の、俺を呼ぶ声に。
………………………………。
………………………………………………………………うん??
だが気分は最悪だった。
この世の不幸を勝手に背負ったような顔のまま、今日もまた俺は怪しげな黒猫の頭を被る。
「そんなに億劫なら代わっても良いって言ってるのに」
姉はそう言いつつ、ズレていた頭を直してくれた。
足のリハビリは順調で、姉は週三ではあるが、恋魔女の庵に復帰していた。
「一度受け持った客は最後までやり遂げるよ」
「男前になったね。習ってない魔法をやって三日寝込んだ挙句、おばあちゃんに叱られまくって泣いてたひよっことは思えないわ」
俺は相手に見えないと知りつつ、半目で姉を見やる。
「本人が全然覚えてない、やらかしを暴露すんのやめろ」
「それが家族の醍醐味、……もとい始末の悪いところよね」
じゃあお願いね。姉は俺の肩を鼓舞するように叩くと、バッグと松葉杖を持ち鼻歌を歌いながら庵を出て行った。
青井と復帰祝いのディナーに行くのだそうだ。
スキー旅行の恨みはまだ残っているが、相変わらず仲が良いなと苦笑しながら今日使うタロットを取り出した。
思えば姉が力のことを打ち明けたのも、こんなにのめりこんだのも青井だけだ。
姉は魔力が強過ぎて制御できず意図せず相手の気持ちが読めてしまうことが多々あった。
そのせいで人間関係で悩みは尽きなかった。
そんな姉が好きになれた青井の心はさぞや心地が良いのだろうと思う。
「魔女だって知ってもバカップルぷりに変わりがないのは、なかなかの器の大きさだよな」
俺はタロットの束の一番上にあったカード――星を見つめた。
安倍も驚いてはいたが、嫌悪感は見えなかった。
それどころか気が進まないだろうに俺を助けるために抱擁までしてくれた。
「……結局、あいつなんで魔女を探してたんだろ」
尻尾どころか体丸ごと差し出す勢いで出してしまったのに、政府のマル秘機関のマッドサイエンティストに売り飛ばされたりしていない。
まああの時トラばさみを持っていなかっただけかもしれないが。
そうこうしていたらカーテンが空き、安倍その人が現れた。いつの間にか予約時間になっていたらしい。
急いで体裁を整え、いつもの定位置に座ると安倍もアンティークの机を挟んだ向かいに座る。
本当に猫の着ぐるみを被るというのは良いアイデアだった。
今の俺の表情は、一介の客にすべきものではない。
「では今日も貴方の思い人の気持ちをYESかNOを先に占いますね」
努めてテンション高く告げると、安倍は短く承諾した。
なんだか思いつめたような表情をしている。
人妻と何かあったのか聞こうかと思ったが、どんな答えが来ても辛い。
やはり既婚者への恋慕など間違っている気がする。
ドラマや漫画ならまだしも、現実でそんなこと褒められたものではない。
だが、俺にそれを指摘する権利はない。
俺の気持ちのせいで、間違っていると思い込みたいだけだ。
何より、占いで進むべきだと結果が出てしまった。
ともかく最後までやりきると決めたのだ。
深く息を吸って、タロットを意味深な形に並べ終えた。
では、と声をかけてその上を五芒星を描くように手を滑らせる。
心臓が煩い。
もし今日YESのカードを引いてしまったら……。
すぐさま一枚のカードが肉球に吸い付いてきて、息を詰めた。
「佐藤先輩」
「うん、何?」
カードを握りつぶしそうになる手の力を逃しながら、安倍の呼びかけに答える。
安倍の、俺を呼ぶ声に。
………………………………。
………………………………………………………………うん??
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