ゴブリンでも勇者になれますか?

結生

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初任務

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 レミリアさんから衝撃の事実を聞き、私とヘイヴィアは二人そろってゼルの方を見た。


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、ゴブリンがどうやったらビーストに勝てんだよ!」


 ヘイヴィアの言うことに私は全力で首を縦に振った。
 ゴブリンは魔法が使えない。それだけでも相当なハンデを背負っているのに、身体能力が最強クラスのビースト相手にどう立ち回ったら勝てるのだろうか。
 仮にそんなことが可能だとしたら、この世界の常識が覆ってしまう。


「どう勝ったか。アタシが口で説明するより、実際にその戦いぶりを見ればわかるだろう。これから一緒に仕事をしていくんだ。そんな機会は山ほどあるだろうよ」


 えっと、ちょっと待ってよ。もし、もしだよ? 本当にゼルがビーストに勝ったとしたら……。私ってゴブリン以下ってこと!?
 いや、流石にプライドをかなぐり捨てた私でもそれはちょっと心にくるものがあると言うかなんと言うか。


「へっ!」


 と、当の本人はドヤ顔を決めて、鼻で笑っていた。
 どうしよう。ものすごく殴りたくてしょうがない。


「ま、色々と思うところがあるだろうが、それは一旦置いておいて、アンタたちに初日の任務を言い渡す」
「ちょっと待ってください。え、任務って。私たちまだここに来たばかりで何の説明も受けてないんですけど」
「説明? そんなもん、現場で学べ」


 うわ、メチャクチャブラックだ! やっぱり第七師団は想像通りやばいところだった!


「お、いきなり任務か。おっしゃテンション上がってきた」
「ふ、初任務か。ここで功績をあげて一気に勇者へ近づくぜ」


 と、不安でいっぱいの私とは正反対にバカ二人はやる気満々のようだ。
 これが同期ってマジですか? このノリがこの先も続くんだとしたら、私のメンタル持たないよ? はぁ~病む。


「よしよし、やる気は十分だな。つっても今からアンタたちに任せる任務は大したもんじゃない。ただのパトロールだ」
「パトロール?」
「そう。第七師団管轄の地区の見回りをしてもらう」


 見回り? それなら簡単そうかも。だって、騎士団の管轄内なんて犯罪率が極端に低いから、犯罪者に出くわす可能性はないに等しい。
 パトロールって言うよりは色んな街を観光する感覚に近いかもしれない。
 よかったー! いきなりヤバげな任務ふられなくて。
 と、私は一安心したのだが……。


「「…………はぁ」」


 明らかに不満げな表情を浮かべてるのが若干二名。


「んじゃ、三人で行ってこい」
「え? レミリアさんは一緒についてきてくれないんですか?」
「何言ってんだ。行くわけないだろ。せっかく新人が来て、仕事押し付けられたのにアタシが行ったんじゃさぼれないじゃん」


 うわ! この人最低だ!


「でも、もし、何かあった時はどうすればいいんですか?」
「そりゃ、お前たちがどうにかしろ」


 やっぱりこの人無茶苦茶だ!
 こうなったら、問題ごとに出くわさないことを祈ろう。


「ってことで、よろしく」


 そう言って、レミリアさんは二階へ上がっていってしまった。
 本当に手伝う気はないらしい。


「あれ? でも、パトロールするって言ってもどこに行けばいいの?」


 レミリアさんは第七師団の管轄の場所と言っていたが、私たちはその詳しい場所や見回りルートを教えてもらっていない。


「適当でいいだろ」
「いいのそれで? 初任務だよ?」
「いいだろ」
「めんどいしそれでいいよもう」


 うわー、この二人マジでやる気無くしてるよ。さっきのテンションどこ行ったの?
 って言っても私もそこまで意識高い系じゃないから、それでもいいんだけど。
 だって、巡回ルート教えない先輩が悪いしね! うん、ワタシワルクナイ。


「じゃあ、箒に乗って近場の街に……ってそうだ。ゼル、飛べないよね?」


 魔力を持っている者なら誰でも箒に乗って空を飛ぶことが出来る。この国では主要な移動手段として箒が用いられる。
 しかし、魔力のないゼルは箒に乗って飛ぶことが出来ない。


「あーそうだな。じゃ、後ろに乗せてくれ」
「はぁ~これだからゴブリンは。足手まといじゃねぇか」
「うっせ、お前には言ってねぇよ。地味顔」
「は? 誰が地味顔だ!」
「お前だよ。グラサンかけてる奴は自分のキャラの薄さを誤魔化すためにグラサン利用してるって決まってんだよ」
「んだよその偏見は! これは目が日光に弱いからかけてんだよ! キャラ設定の為じゃねぇ!」
「どうだかな。グラサン取ったらどうせモブキャラと見分けがつかねぇだろ」
「モブっつたら、てめぇの方がお似合いじゃねぇか。雑魚キャラが」
「あ? やんのか?」
「てめぇこそ!」


 えー、なんでまた喧嘩始めるのこの二人は……。もういい加減にしてほしいよ……。


「はいはい、分かったから。ゼルは私の後ろに乗っていいから」


 とりあえず、ここで揉められても面倒なので、私が間に入ってなだめる。
 本当は二人乗りだと魔力をいつもより多く消費してしまうため、やりたくはないんだけど、ここは私が折れたほうが良さそう。
 はぁ~、こんなんでこの先上手くやっていけるのだろうか。
 そんな不安を抱えながら、私は初任務へと繰り出すのだった。







「おぉ~! すげえ! たけー!」
「ちょっと、大人しくしてて。落ちちゃう」


 私の後ろに乗っているゼルは箒で空に飛ぶのが初めてだからか、やたらと興奮していて、箒をめちゃめちゃに揺らしてくる。
 箒の扱いに慣れてはいるが、二人乗りは初めてなので、ちょっといつもより制御が難しい。
 その為、あまり余計なことをされると真っ逆さまに落ちてしまう。
 この高さから落ちたら、まぁ無事では済まないだろう。


「わりぃわりぃ。で、これ今どこ向かってんだ?」
「私に聞かれても分かんないよ。前を飛んでいるのはヘイヴィアなんだから」


 ということで、ヘイヴィアにどこへ向かっているのか聞いてみたが……。


「え? 知らんけど。適当に飛んでる」


 わお。マジですか? 本当に行先決めずに飛んでるよ。さっき言ってた適当に見回るってそういうことだったの?


「とりあえず、近くの街に向かった方がいいんじゃない? このまま飛んでてもしょうがないでしょ?」
「あーそうだな。で、近くの街ってどこにあるんだ?」
「はい?」


 今この人なんて言いました?


「いやーこの辺土地勘なくて全然わからんわ」


 じゃあ、なんで前を飛んでるの!?
 と、ツッコみたい気持ちをグッとこらえる。


「土地勘ないって言っても、学校の授業とかで地図は見てるでしょ?」


 カリスト帝国は広大な土地を有する国であるため、その全ての場所を把握することは難しい。
 だが、私たちがさっきまでいた第七師団支部があるオフィーリアと言う街はそれなりに栄えていて、義務教育でも覚えさせる街の一つである。
 だから、その周辺にある街は完全に把握していなかったとしても何となくは見覚えがあるはず。


「学校? いや、俺はこの国の人間じゃないから、知らねぇー」
「へ? ヘイヴィアって外国から来たの?」
「ああ、そうだ」


 衝撃的事実発覚!


「だ、だとしても、自分が配属される支部の周辺地図くらいは事前に把握しておくものじゃないの?」
「えーそうなの? でも、地図とかごちゃごちゃしてて嫌いだ」


 好き嫌いの問題じゃないんだけど……。


「あ、ちなみに俺も分かんねぇー」


 なんかゼルが言ってるけど、うん、最初から期待してなかったから、大丈夫でーす。
 とにかく、今この場でこの辺の地形を把握しているのは私だけなのは分かった。
 えっと、今は支部を出て、北西の方向に約一時間真っすぐ進んできたから、この近辺だと候補は三つくらいかな?
 う~んどこ行ったらいいんだろう。正直、この二人に聞いても何一つ参考にならないと思うから、私の判断で決めるしかないんだけど。
 ま、候補の中で一番栄えてるあそこでいいかな。


「それじゃあ、ここから南に……え?」


 私は嫌な感じがして、そこで言葉を止めた。


「なんだ? どうした?」
「なんかあったのか?」


 私が不自然に言葉に詰まったからか、二人が心配そうに私の方を見る。


「二人とも今の感じなかった?」
「感じた? 何を?」
「ん? もしかして、雨か? でも、天気はいいぞ?」


 ダメだ。この二人全く気付いてない。
 と言うか、若干一名は魔力を持っていないからしょうがないか。


「今、北の方から強い魔法が使われた気配を感じたの」
「ああ、魔力感知か」


 魔力感知。
 それは魔力を持っている者ならば、誰しもが有している感覚の一つである。
 今のように魔法が使われた時にその場所が分かったり、極めれば魔力で個人を特定出来るようになる。


「俺、それ苦手だから、何も感じなかったけど、魔法って日常生活でも結構使われるだろ? それじゃないのか?」
「うんん、この感じは多分、攻撃魔法だと思う」
「「…………」」


 それを聞いて、二人は真剣な顔つきになった。


「それ、どこだ? 距離とかまで分かるか?」
「詳しい距離は分からないけど、私が感知出来る範囲から考えるとそんなに遠くないと思う。多分だけど、ここから北にあるアルケ村だと思うけど……」


 正直、自信はない。だから、どうしても言葉が尻すぼみになってしまう。
 なのに……。


「よし、急ごう」
「マナ、そこまで案内してくれ」


 二人は私の言葉を一切疑わなかった。


「え、でも、気のせいかもしれないし……」
「それならそれで別にいい」
「ああ、そうだ。どうせ、行く宛てなんか決まってないんだ。行かないで後悔するくらいなら行って後悔した方がいい」
「うん、分かった。案内するから、ついてきて」


 最悪の事態を考えて、私たちは全速力でアルケ村へと向かうのだった。
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