世界最強の幼馴染に養われている。

結生

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原神の遺産Ⅰ

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「ここってまさか……大使館か」


 紫苑に連れてこられたのは麻布にある大使館の一つ。


「お待ちしておりました。紫苑様、伊織様」


 タクシーを降りて、大使館の前まで行くと、メイド服を着たエルフが待っていた。
 俺はそのメイドに見覚えがあった。


「あんたは……アリアか?」


 けど、なんか話し方が柔らかい。昨日会った時はめっちゃトゲトゲした感じだったのに。


「あ、いえ、私は妹のメアリー・シスターです」


 なるほど、この人が例の妹さんか。にしてもむっちゃ似てるな。区別付かなかったわ。


「中でアンリエッタ様がお待ちです」


 あ~やっぱりそうか。
 俺の嫌な予感はズバリ的中したというわけか。
 なんとなくそんな気はしていた。


「あの、伊織様? ご気分が優れないのですか?」


 マズい。いやだなぁ~って言うのが顔に出てたか。
 心配そうに俺を見つめるメアリー。
 露骨に嫌がるとか相手に失礼だよな。しゃんとしないと。


「いや、大丈夫だ。少し車に寄っただけだから」
「そうでしたか。もし、体調が悪くなったらお声がけください」


 なんていい人なんだろう。この人本当にあのアリアの妹なのか?
 アリアなんか俺のこと貴様呼ばわりしてたし、目つき悪いし、最悪な印象しかなかった。
 まぁ、姉妹でバランスを取ってるんだろうな。よくある構図だな。


「それで、その……」
「?」


 シスターは俺の前に立ち止まったまま動こうとしなかった。


「昨日の件、聞きました。伊織さんがいなければ私はどうなっていたことか……。改めて、お礼を申し上げます。本当にありがとうございました」
「いえいえ、俺なんてそんな。実際にあなたを助けたのは紫苑ですし、お礼ならあいつに……ってあいつどこ行った?」


 さっきまですぐ傍にいたのに、気が付いたら奴の姿が消えていた。


「あ、恐らく、もう中に入ってしまわれたのかと」


 あの野郎、勝手に大使館に入るとか捕まったりしねぇよな。大丈夫だよな。


「それでは伊織様もこちらへ」


 俺はメアリーに案内され、大使館の中へと足を踏み入れる。
 大使館なんて初めて入るからちょっとワクワクしてる。


「でね、さっき温泉旅行のチケット貰ったんだ! ほらこれ、アンリエッタも来る?」
「いえ、私は先日の事件のせいで不用意に外に出るなと言われているので」
「え~~」


 が、そんな俺を待っていたのは想定外の光景だった。


「お! 伊織、遅かったね」


 俺は案内された客間に入った瞬間、ツッコミを抑えることが出来なかった。


「遅かったね、じゃねぇよ! 紫苑! お前何してんだ!」


 俺はたまらずツッコミ、二人のメイドは苦笑いをしていた。
 何故なら、紫苑はアンリエッタの膝の上で寝転がっていたからだ。


「何って、膝枕だよ? 見て分からない?」
「それは分かってんだよ! なんで、そんなことしてるのかって聞いてるんだ!」
「伊織の方こそ何言ってるの?」


 紫苑は起き上がり、真面目な顔をして俺を見つめる。


「こんな綺麗な足を見て、膝枕をしてもらわないなんて失礼だよ!」
「失礼なのはお前の方だ!」
「あ、もしかして、嫉妬?」
「は!? べ、別に羨ましくねぇし!  ぜ、全然これっぽっちも!」


 嘘です。羨ましい今すぐそこ代われ。
 なんて言えるわけもなく、俺は困ったふりをしてアンリエッタに訊ねる。


「あのアンリエッタ、いいんか?」
「ええ、このくらいでしたら全然問題ないわ」


 アンリエッタは笑顔でそう答えた。
 なので、俺は仕方なく無言で双子メイドの方を見る。
 すると、アリアは困りながら首を振った。


「アンリエッタ様はああいうお方なのです」


 マジかよ。じゃあ、俺も後でしてもらお。
 そんなことを考えていると、調子に乗った紫苑が暴走し始めた。


「すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~。ぐへへ、めっちゃいい匂い……」


 鼻息を荒くしている紫苑を見て、流石にこれは無視できないと判断した俺は、紫苑の首根っこを掴み無理やり引きはがした。


「あ~何するの!」
「やり過ぎだ。少しは自重しろ」


 そして、紫苑をアンリエッタとは向かい側のソファに座らせた。


「今日はお礼をしたいと言われて来たんだけど、まさか膝枕がお礼とか言わないよな」


 紫苑にはそう聞いた。昨日の事件の後、2人で予定を合わせたのだと言う。


「ええそうね。ちゃんと別に用意してあるわ」


 え、別にあるの? 膝枕でいいんだけど?


「メアリー、あれを」


 パンパンとアンリエッタが手を鳴らすとメアリーが食器を運んできた。


「これは……」


 運ばれてきた食器の上に乗った料理を見て、目を疑った。


「私の故郷、エルフヘイムの料理です。お口に合えばいいのですが」
「お口に合えばって言うか、どれもこれもセントラルにはない貴重な食材ばかりじゃないですか」


 アルミラージのカルパッチョやエルリーフ、ミッシュ、カヌタンタ、ポトルフのテリーヌなどなど。
 使われているのは高級食材ばかりで、一皿数万はするような料理がポンポンと出てきて、慄然とした。


「あ、これウマ! こっちも!」


 そんな料理に対し、紫苑はいつも持ち歩いている容器から、砂糖を取り出し、躊躇なく料理の上にぶっかけて、次から次へと料理を口の中に流し込んでいた。
 その光景を見て俺は頭を抱えた。


「何て恐ろしいことを……」


 紫苑は超一流の料理人によって作られた芸術的な料理を冒涜するかのように、砂糖で白く染め上げていく。
 彼女は超が付くほどの甘党である。
 ありとあらゆる料理に砂糖をトッピングしないと気が済まない性格なのである。


「ここは心を落ち着ける為にも1杯……」


 大バカ者の紫苑の行動に気が気じゃない俺は一息つこうと紅茶が入れられたカップを手に取る。


「この独特な甘い香り……、あのもしかしてこの紅茶って、ミントヴルムですか?」
「よく分かりましたね。私、この紅茶が好きなのですけど、セントラルではまだ出回っていないので、この世界に来る時に自分で持ち込んだの」
「おふ……」


 それを聞いて俺は口を付けずにゆっくりとカップを置いた。
 ミントヴルムはエルフヘイムでも貴重な葉で、1杯で1万はするほどの代物だ。
 100年ほど前までは香水にも使われていたが、希少種な為、香水を作らず、使用用途は紅茶のみと決めたらしい。
 あ、いや、製造中止になったのは別の理由か。確か、犯罪に転用できるとかなんとか。
 まぁ、現実逃避はこれくらいでいいだろう。
 はぁ~まったく、もう少し、気軽に食えるものにして欲しかった……ぜ。
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