世界最強の幼馴染に養われている。

結生

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原神の遺産Ⅲ

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「本題?」


 正直、嫌な予感しかしないので無視して帰りたいのだが、アリアに背後を取られている為、俺は大人しく席に着いた。


「失礼ながら、お二人のことを調べさせていただきました」


 メアリーが書類(恐らく、俺たちのことが書かれた報告書)をアンリエッタに渡す。


「まずは紫苑さん。あなたに関しては調べるのは楽でした。いい意味で有名ですから」
「調べたって……まさか私のスリーサイズ!?」


 紫苑は地平線のように真っ平ら胸を両手で隠す。


「そんな……。今まで秘密にしていたのに貧乳であることがついにバレてしまった……!」
「アホか。そんなの周知の事実だ」


 ベシっ!
 ノータイムで紫苑に頭を叩かれた。


「伊織! それセクハラだよ! 私だって怒るときは怒るんだからね!」
「自分から話し始めて何言ってんだ」


 地雷を投げつけておいて踏むなはないだろ。理不尽すぎる。


「いえ、紫苑さんのバストについては調べてないです」
「ホント!? よかったぁ~」


 当たり前のことを言われて胸をなでおろす紫苑。
 本当は心配するまでもない事なんだがな。


「結城紫苑。三月の夜事件、ロックストーン事件、ブラックバレンタイン、紅寮の惨劇などなど。どれもこれも新聞の一面に載るほどの大事件ですが、あなたはこの全てを解決してきました。その結果、齢20歳と言う異例の若さでDDD序列第1位にまで上り詰めた稀代の天才」
「イヤハハハ! それほどでも、あるかな!」


 アンリエッタに褒められ紫苑は鼻高々だった。


「ですが、これらは全て紫苑さんがお一人の力で解決したわけではありませんよね?」


 そう言うアンリエッタは俺の方を見る。


「それは紫苑の実力を疑っているってことか?」
「紫苑さんの実力に関しては疑っていません。しかし、昨日同様、伊織さんが少なからず関わっているのではないかと思っているのです」
「その根拠は?」
「ニュースに取り上げられるような大事件の数々。これらは全て紫苑さんが偶然、事件に巻き込まれたことによって解決したとされています。一つ二つなら分かりますが、記録にあるだけで実に十三件。これは偶然にしては多すぎる数です。まるで、事件が起きることを予め察知していたかのようです。聞いたところによると、昨日の事件では伊織さんがハイヤーの動きの不自然さに気が付いたことがきっかけだったようですけど」


 俺が先に気が付いたことはアンリエッタには言ってないはずだが……。紫苑のやつが言ったのか?


「アンリエッタの言いたいことも分かる。要は俺が、事件が起きる前触れを察知して、紫苑に教えたんじゃないかってことだよな?」


 彼女はコクンと頷く。


「けどなぁ~。それに関していうと、マジで偶然っつうか。紫苑の隠された能力みたいなもんなんすわ」
「隠された能力? それは遺伝子改造によって手に入れたものとは別にと言うことですか?」
「あ~いや、そんな異能力とかそんな大したもんじゃない。なんだろう、第六感って言うのかな。俺も上手くは説明できないけど、こいつは事件の匂いを嗅ぎ付けたり、そう言うのに巻き込まれやすい体質とでもいうのか。本人も自覚がないみたいなんで、何の根拠もないんだけどな。まぁ、要するに事件に巻き込まれるのは偶然だ」
「そう、なのですか?」


 俺の言ったことが真実なのか、アンリエッタは紫苑に訊ねる。


「うん。そうだよ。なんとなく、行ってみようって思って行った先で事件が起きることもあるし。でも、行く前からなんか起きそうって予感があるときもあるんだよ。なんでか分かんないけど」
「それは……その何て言うか……」


 アンリエッタは何て言っていいか分からず口ごもる。
 多分、言葉を選んでるんだろうな。
 行く先々で事件が起きる。それはまるで死神の様でもある。


「ま、そう言うわけなんで。自作自演でもないし、紫苑の実力は本物ですよ」


 とは言え、事件を解決する手伝いをしていたのは事実なんだけどね。


「そう、みたいですね……」


 思惑が外れたからか、アンリエッタはどうしたものかと頭をひねっていた。
 このまま下手に詮索されずに帰りたいんだが。ダメかな。


「……あの!」


 そんな俺の思惑を裏切るようにアンリエッタが立ち上がった。


「下手に回りくどいことはせずに、単刀直入にお聞きします」


 手がなくなったアンリエッタはからめ手なしでストレートに聞いてきた。


「東雲伊織さん。あなたは何者なのですか?」
「何者って、調べたんだろ? 俺たちのこと」
「ええ、調べました。けれど、分かったのは紫苑さんのことだけです。あなたのことは何一つ情報を得られなかったのです。あなたの過去も現在も何一つです」


 流石、王女様と言ったところか。紫苑のことに関してもだが、一晩でよく調べられるもんだ。
 けど、俺が何者か。
 きっと彼女が求める答えを俺は持ち合わせていない。


「俺は人間で、レムナントだ。それ以外の何者でもない」


 だから、俺が言えるとしたら、これくらいのもんだ。
 今の俺はそれ以上でもそれ以下でもない。


「レム、ナント……? あなたがですか? いえ、あなたが能力を使ったところを私は見ていません。なら、きっとそれは真実なのでしょうね」


 少し驚いていたようだが、納得はしてくれたみたいだ。よかったよかった。


「けど……」


 ん?


「あなたは無能力者かもしれない。けど、無能ではない」


 無能ではない、か。生まれて初めて言われたかも知れないな。


「ハイヤーの些細な動きから事件性を感じ取る観察眼。そこから限られた情報だけで推理していく頭の回転の速さ。セントラルにあまり出回っていないエルフヘイムでも希少な食材を知っている、その知識量。そして……いえ、これは言わないでおきましょう」


 最後に言おうとしていたのは、ハッキングのことか? まぁ、あれはあんまり人前で言っていいもんじゃないしな。犯罪だし。


「これだけの能力を持ったあなたが何者でもないはずがありません。もしかして、私に言えないような、知られてはいけないようなものなのですか?」


 真に迫るアンリエッタに俺は若干引き気味だった。


「別にそう言うわけじゃ……」


 いや、その通りかもしれない。だって、無職ですだなんて言えるわけない。恥ずかしいじゃん。
 あれだけ意味深な行動を取っていたんだから、実はなんかすごい人でしたみたいなオチが欲しいところではある。
 でもなぁ、マジでなんもないんだよなぁ。どうしよう、ここはもう恥も外聞も捨てて無職であることを打ち明けるか?
 いやいや、それだけはない。俺の小さなプライドがそれを許さない。


「もしかして、伊織さん、あなたは……」


 そんなことを考えていたら、アンリエッタが机をバンっと叩いて俺に迫った。


「あなたは探偵じゃないんですか?」
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