世界最強の幼馴染に養われている。

結生

文字の大きさ
19 / 43

探偵の初仕事Ⅶ

しおりを挟む
「うおーーーー! 出たーーーーー!!!」


 朱莉と樹斗の異能力を使い、俺たちは何とか地下から脱出することに成功した。


「うぅ……」
「はぁはぁ……」


 けど、能力を使いすぎたせいか、朱莉と樹斗は疲れ切っていた。


「息上がっているところ悪いが、さっさとここから逃げるぞ」
「逃げるって、ここどこですか?」
「どこって、見ればわかるだろ」
「え? ……あ、あれ? ここって」


 朱莉は周囲を見渡し、見覚えのある場所だと気付いたようだ。


「拓登のうち?」


 樹斗もここがどこか分かっているみたいだ。
 そう、俺たちが地下から出てきた場所は、まぐれなのかさっきまでいた水奈月家の中だった。


「見たところリビングだな。追手が来る前にさっさとこの家から出るぞ」


 俺は2人の手を引っ張り外に出ようとする。
 が……、


「逃がす訳ないだろう?」
「っ!」


 その声が聞こえた瞬間、俺は咄嗟に2人を廊下の方へ投げた。


「っぐ」


 直後、俺の右足を光の光線が打ち抜いた。


「え?」
「東雲さん!?」


 朱莉と樹斗は何が起きたのか分からず、混乱していた。


「クッソ、またてめぇーかよ。レーザー男」


 後ろを振り返ると、俺たちが通ってきた穴からさっきのグラサンをかけた男が出てきた。


「変な呼び方をするな。俺の名はギブソンだ」
「知らねぇよ。てめぇみたいな小物の名前なんぞ」


 足がいてぇ……。これじゃあ、あいつらを連れて逃げられねぇな。
 てか、むしろ俺が足手まといだな。


「フランさんの命令でお前たちを殺しに来た」
「っぱ、そうなるか」


 見逃してくれそうな相手には見えない。だけど、向こうは1人だけ。
 なら……。


「おい! お前ら、先に逃げてろ!」
「先にって……、東雲さんはどうするんですか!?」
「こいつを足止めする」
「何言ってるんですか!? 東雲さんは無能力者(レムナント)じゃないですか!?」
「いいんだよ。こっちには考えがあるんだ。問題ない」
「そんな……」


 朱莉は俺を心配してかどうしても逃げようとはしない。


「へぇ、お前、レムナントなのか」
「それがどうした?」
「いや、助かると思ってな。レムナントなら殺しても足は付かない」
「殺す? おめでてぇな。俺を殺せる気でいるのか」
「当然だろ。お前だって、死ぬつもりでいるんだろ? 命がけで後ろのガキ2人を守ろうってんだろう? レムナントごときに出来ることなんかそれくらいしかないだろうしな」
「自慢げに語ってるところ悪いが、死ぬつもりなんかはなっからねぇよ」


 そう、だって、俺は……。


「生きて、恩を返さなきゃいけない奴がいるんだよ」



--------------------------------------------------------------------------



 小学校にあがる少し前、俺は親に捨てられた。
 学校に入学する前、子供は健康診断を受ける。その際、異能力に関する検査も受ける。
 そこで俺は無能力者だと診断された。
 その結果を聞いた後すぐ、俺はトラックに載せられ、埼玉の西部へと送られた。
 埼玉の西部は廃棄場と呼ばれ、毎日多くのゴミが送られてくる。そのゴミの中には当然、レムナントも含まれる。
 世間的には廃棄場となっているが、その実態はレムナントだけが暮らす街となっている。
 そこに住むレムナントは大量のゴミの中から食べられるものを探しながら生きている。
 いや、生きているって表現はあまり適切ではないかもしれない。
 ろくな食料はなく、病気は蔓延しており、それを治せる医者もいない。そんな環境で生き永らえられるはずもなく、そこら辺に死体が転がっている、まさに地獄のような場所。


「…………ごほごほ」


 ここに送られて3日ほどたった頃、俺もよく分からない病気にかかった。
 咳は止まらないし、頭がめちゃくちゃ痛くて、体がすごく熱いし、めまいもするしで最悪の気分だった。


「あ、いた」


 そんな時、空から気の抜けるような声がした。


「よっ、久しぶり」
「……紫苑?」


 空から飛んで来たのは隣の家に住んでいる1つ年上の幼馴染だった。


「もう、伊織探したよ」
「……探した?」
「うん、そう。伊織が急にいなくなっちゃって、おじさんとおばさんに聞いてもどこ行ったか教えてくれないし。だから、ママに聞いて、この辺にいるんと思うって言われてきたんだけど、いや~あっちこっち迷っちゃって見つけるのに時間かかっちゃった。ってことで、さ、帰ろう」
「…………」


 紫苑は手を差し伸べてくれたけど、俺はその手をすぐには取れなかった。


「…………なんで?」
「なにが?」
「俺はレムナントだって……だから、捨てられて……それで……」


 まだ小学生にもなっていない子供だった俺はレムナントがこの世界でどういう扱いを受けているのか、どういう存在なのかあまり分かっていなかった。
 けれど、病院で親と医者が話しているのを少しだけ聞いてしまった。
 生きる価値のない人間だと。いや、俺の親は人間ですらないと。そう言っていた。
 だから、俺は捨てられたのだ。


「生きていちゃダメなんだって……学校にも行けないし……仕事もダメだって……」
「?」


 俺の言っていることが理解できなかったのか紫苑は首を傾げていた。


「だから、俺は帰れないんだって」
「うん、ママに聞いた。だから、うちに来ればいいよ」
「え?」
「大丈夫大丈夫。おじさんとおばさんに会わないようにもう引っ越しの準備進めてるから」
「え、あ、いや……」
「じゃ、帰ろ」
「無理だよ……」
「え~なんで~? ここにいたいの?」
「そんなわけない!」
「じゃあ、なんで?」
「だから、言ったじゃん! 俺は生きていけないって。それに生きてたって……」


 楽しいことなんかない。こんなにつらい思いをするくらいなら死んだほうがマシだと思っていた。


「ん~もう~、伊織ごちゃごちゃうるさい。よし、決めた。伊織はずっと私と一緒にいて」
「はぁ!? 何言って……」
「これもう絶対だから」
「な、何勝手なことを!」
「だって、伊織は捨てられたんでしょ? なら、今、私が拾ったんだから、伊織は私のってことでしょ?」
「んな、めちゃくちゃな……」
「はい、じゃあそう言うことでけってー! 勝手に死んじゃうのはダメだからね」


 分からない。なんで、紫苑がここまで俺にこだわるのか。


「どうして、そこまでして、俺を連れ戻そうとするんだ?」
「なんでって、そんなの決まってんじゃん」


 その時の紫苑の笑顔はきっと忘れないだろう。


「伊織といるのが一番楽しい!」



--------------------------------------------------------------------------



「悪いな。死ねない理由が俺にはあるんだよ」
「そうか。だが……」


 ギブソンは指先からレーザーを放ち、俺の右腕と左足を打ち抜く。


「その状態でお前に何が出来る」
「ホント、容赦ねぇな」


 これで両腕両足が完全に使い物にならなくなってしまった。
 這って逃げることも出来ない。


「諦めるか?」
「そうだなぁ~。これはもう諦めるしかなさそうだ」
「随分、潔いな。死なないのではなかったのか?」
「ああ、誤解させちまったか? そっちの意味じゃねぇよ」
「?」
「俺は俺一人で何とかしようとするのを諦めるんだ」
「何を言って……」


 ギブソンは俺の言っている意味が分かっていないようだ。なら、教えてやるよ。


「紫苑!!!!!!!」


 パリン!
 俺が名前を呼んだ瞬間、窓が砕け1つの影が俺とギブソンの間に割って入ってきた。


「あれ? バレてーら?」
「分かりやすすぎんだよ。家出た時から俺をつけてたのは知ってた」
「ここから選手交代ってことでいい?」
「たまには俺一人だけでって思ってたが、やっぱ無理だったわ」
「でも、私は嬉しかったよ。伊織が他の人に頼られているのを見ているのは」


 それは冗談でもなく、煽りでもなく、本心なのだろう。
 そう分かるほど今日の紫苑はいい笑顔だった。


「な! お前、領域の絶対者か!」
「嘘! あれ見て見て! 紫苑さんだよ!」
「ほ、本物だ! かっけぇー!」


 紫苑の登場に場はざわめき立っていた。


「っく! 流石に分が悪いか」


 ギブソンは勝ち目がないと判断し、逃げようとする。


「逃がす訳ないじゃん」


 だが、紫苑が手をかざすとギブソンは地面に片膝をつき、立てなくなっていた。


「うぐ……体が……重い……なら……」


 立つことを諦めたギブソンは指先を紫苑の方へ向ける。
 恐らくレーザーを放ち牽制するつもりなのだろう。
 ま、紫苑相手にそんなのは意味ないが。


「…………なに?」


 ギブソンが放ったレーザーは紫苑を避けるようにあらぬ方向へと飛んで行った。


「まだ動けるんだ。じゃあ、もっと重くするんね」
「がっ!」


 今度は片膝をつくどころでは済まず、体が地面にめり込んでいた。
 紫苑の能力。それは重力操作だ。
 かける重力の重さを自在に変えられる。また、重力の方向さえも自由に変えられる。
 さっきレーザーの軌道を変えたのは後者の技術を使ったものだ。
 自分の周囲の重力の方向を変えたり、重力を重くすることで遠距離の攻撃を完全に無効化することが出来る。
 相手自身に使えば動きを封じることが出来るし、自分自身に使えば空すら自由に飛び回れる。
 世界最強にふさわしい能力と言えよう。
 ま、紫苑が最強たる所以はこれだけじゃないんだけどな。。


「ねぇねぇ、そこの子」
「は、はい! わ、私でありますか!?」


 紫苑に声を掛けられ緊張しているのか、朱莉は変な喋り方になってた。


「救急車呼んで? あと、これ捕まえたからDDDにも連絡よろしく。私の名前出してくれれば大丈夫だから」


 連絡するのがめんどいのか、紫苑は朱莉に丸投げしていた。
 まぁ、こいつがまともに報告とか出来るとは思えないから正しい判断だと思うけどな。
 なんにしても、これで一件落着だな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...