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ジェルネイル
10話
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職場のビルへ入ると私はオフィスへは向かわず、大きい鏡のあるトイレへと入った。
そして鏡に映る今朝、千佳に縛りなおしてもらった髪を眺めた。
私が毎朝しているのと同じ、ただ髪を後ろで束ねているだけなのに千佳ちゃんがするとどうしてこうも違うんだろう。
自分が別人のように感じてしまう。
『千佳ちゃんすごいなぁ……』と私は鏡を見ながら一人トイレで呟いた。
そしてバックからスマホを取り出し自分の後ろ髪を何枚か撮った。
明日から自分でも出来るようになりたくて。
あとで千佳ちゃんにやり方をしっかり教えてもらおう。
『よしっ!』と、私は鏡を見つめて自分に気合を入れた。
オフィスの中へ入ると何人かの人に挨拶されるが特に髪やネイルに触れられる事もなく、変に緊張していた自分は少し自意識過剰だったかななんて思ったりしていた。
『おっはよー!』
聞き慣れた岡田先輩の声が斜め後ろ辺りから聞こえて私は振り返って『おはようございます』と頭を下げた。
先輩は笑顔で一瞬私をチラッと見て通り過ぎようとしたが
立ち止まってもう一度私の方を向いた。
『あっ、鳴海か! 後ろから見たらいつもと髪型違ったから誰だかわからなかったよ』
小さな変化に気付いてくれたことが嬉しくて私はニヤケそうになる表情を必死で隠すように下唇を軽く噛んで会釈した。
『不得意だったことに挑戦してみようと思いまして……』と私は先輩の顔は見ずにそう言った。
『そっか、髪型とっても可愛いよ』
先輩はそう言ってオフィスの奥の方へと歩いて行った。
私は先輩が去った後もしばらくその場で立ち尽くした。
なんて人だろう。
こんなにも普通の日を素敵な一日にたった一言で変えてしまう。
たった一言でだ。
その一言で今までモノクロに見えていた日常が少し変わった感じがした。
いつも通りの何も変わらないオフィスの中をこうして眺めていても視点を変えれば全く別のものになる。
私は始業時間ギリギリに出社してきた愛沢の方に目を向けた。
きっと今までの私なら、もっと時間に余裕を持てばいいのに。
なんて事を思いながら呆れることしかしなかっただろう。
でも、少し見方を変えると彼女はしっかり髪型を整えてはいる。
そしていつも通り化粧もバッチリだ。
よく見ると彼女は手に何やら資料を持っている。
『愛沢さん、おはようございます』
『あっ、鳴海さんおはよう!』
私は愛沢の持つ資料に目を向けた。
そして愛沢はその視線に気付いて話し始めた。
『今朝ね、家でこの間鳴海さんが作ってくれた資料に目を通した時にすごく良く出来ててびっくりしてね。 同期の私も負けてられないなと思って、もう終わっちゃった会議なんだけど自分なりに資料作り終えようと思ってたらギリギリになっちゃって……今更頑張っても意味無いんだけどね』
きっと今まで私が気付けなかった、その人の頑張りや努力。
そういった人には言わずに努力していること、
他の人が気付いてくれたらとても嬉しいこと。
どれだけ気付かずに通り過ぎてしまったんだろう。
気付く事。 相手をわかろうとする気持ち。
きっと人と関わる事や繋がるにはすごく大切な事だろう。
『愛沢さん?』
『ん?』と愛沢は私を見つめる。
『意味無くなくなんてないよ。 手間かけたらかけた分だけきっと伝わるから。 おいしいパスタと同じだよ!』
『……お、おいしいパスタ?』と愛沢は不思議そうな表情をした。
『うん、おいしいパスタの法則! 仕事もパスタも手間ひまが大事だってこと!』
愛沢は『何それ?』と吹き出して笑った。
今までどれほどの頑張りを見逃してきただろう。
私、もっと視野を広げよう。
一方向からだけではなく、もっともっと広い範囲で周りを見渡して。
その人が頑張っているところ、悩んでいるところを少しでも見逃さないように。
全部は無理かもしれないけれど
自分の手の届く範囲だけは逃さないように。
きっとそこからだ。
相手を理解する事で初めて自分も理解してもらえる。
そして鏡に映る今朝、千佳に縛りなおしてもらった髪を眺めた。
私が毎朝しているのと同じ、ただ髪を後ろで束ねているだけなのに千佳ちゃんがするとどうしてこうも違うんだろう。
自分が別人のように感じてしまう。
『千佳ちゃんすごいなぁ……』と私は鏡を見ながら一人トイレで呟いた。
そしてバックからスマホを取り出し自分の後ろ髪を何枚か撮った。
明日から自分でも出来るようになりたくて。
あとで千佳ちゃんにやり方をしっかり教えてもらおう。
『よしっ!』と、私は鏡を見つめて自分に気合を入れた。
オフィスの中へ入ると何人かの人に挨拶されるが特に髪やネイルに触れられる事もなく、変に緊張していた自分は少し自意識過剰だったかななんて思ったりしていた。
『おっはよー!』
聞き慣れた岡田先輩の声が斜め後ろ辺りから聞こえて私は振り返って『おはようございます』と頭を下げた。
先輩は笑顔で一瞬私をチラッと見て通り過ぎようとしたが
立ち止まってもう一度私の方を向いた。
『あっ、鳴海か! 後ろから見たらいつもと髪型違ったから誰だかわからなかったよ』
小さな変化に気付いてくれたことが嬉しくて私はニヤケそうになる表情を必死で隠すように下唇を軽く噛んで会釈した。
『不得意だったことに挑戦してみようと思いまして……』と私は先輩の顔は見ずにそう言った。
『そっか、髪型とっても可愛いよ』
先輩はそう言ってオフィスの奥の方へと歩いて行った。
私は先輩が去った後もしばらくその場で立ち尽くした。
なんて人だろう。
こんなにも普通の日を素敵な一日にたった一言で変えてしまう。
たった一言でだ。
その一言で今までモノクロに見えていた日常が少し変わった感じがした。
いつも通りの何も変わらないオフィスの中をこうして眺めていても視点を変えれば全く別のものになる。
私は始業時間ギリギリに出社してきた愛沢の方に目を向けた。
きっと今までの私なら、もっと時間に余裕を持てばいいのに。
なんて事を思いながら呆れることしかしなかっただろう。
でも、少し見方を変えると彼女はしっかり髪型を整えてはいる。
そしていつも通り化粧もバッチリだ。
よく見ると彼女は手に何やら資料を持っている。
『愛沢さん、おはようございます』
『あっ、鳴海さんおはよう!』
私は愛沢の持つ資料に目を向けた。
そして愛沢はその視線に気付いて話し始めた。
『今朝ね、家でこの間鳴海さんが作ってくれた資料に目を通した時にすごく良く出来ててびっくりしてね。 同期の私も負けてられないなと思って、もう終わっちゃった会議なんだけど自分なりに資料作り終えようと思ってたらギリギリになっちゃって……今更頑張っても意味無いんだけどね』
きっと今まで私が気付けなかった、その人の頑張りや努力。
そういった人には言わずに努力していること、
他の人が気付いてくれたらとても嬉しいこと。
どれだけ気付かずに通り過ぎてしまったんだろう。
気付く事。 相手をわかろうとする気持ち。
きっと人と関わる事や繋がるにはすごく大切な事だろう。
『愛沢さん?』
『ん?』と愛沢は私を見つめる。
『意味無くなくなんてないよ。 手間かけたらかけた分だけきっと伝わるから。 おいしいパスタと同じだよ!』
『……お、おいしいパスタ?』と愛沢は不思議そうな表情をした。
『うん、おいしいパスタの法則! 仕事もパスタも手間ひまが大事だってこと!』
愛沢は『何それ?』と吹き出して笑った。
今までどれほどの頑張りを見逃してきただろう。
私、もっと視野を広げよう。
一方向からだけではなく、もっともっと広い範囲で周りを見渡して。
その人が頑張っているところ、悩んでいるところを少しでも見逃さないように。
全部は無理かもしれないけれど
自分の手の届く範囲だけは逃さないように。
きっとそこからだ。
相手を理解する事で初めて自分も理解してもらえる。
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