異世界学園系乙女ゲーヒロインに転生したけど浮気とか絶対無理なんで、逆ハールートは断固拒否します!!!

めがねこ

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第七話:羊の皮を被った蛇〜ミカエルside

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嗚呼、退屈だ。
ミカエル・アインスフォードは、心の中でそう呟きながら、黒板の前に立ち、穏やかな笑顔を貼り付けて講義を続けていた。
彼が担当するのは聖ルミナリア学園の「魔法史」。
本来であれば、女神様の素晴らしさを学生たちに伝え、敬虔なる信仰心を芽生えさせるための職務であったはずだ。
だが、現実は理想とは程遠い。

ミカエルがこの仕事を引き受けたのは、若き日の熱意ゆえだった。
だが、いざ教壇に立ってみれば、求められるのは公平な視点による歴史の解説。
女神様の偉大さを全面に押し出すことも許されず、他宗教への配慮などという滑稽な理由で、ルミナリア教に偏った内容を語ることすら制限されている。
この世界には女神様が実在し、誰もがその恩恵を受けながら生きている。
女神様が地上に姿を現されたのは、三千年前の一度きり。
それほどの歳月が流れれば、各地で宗派が分裂し、新興宗教が生まれるのも道理だった。

学園においても、他国からの留学生への配慮のため、「ルミナリア教」の教義は選択授業でのみ教えられ、他の科目では極力触れるなというのが王国からの命令だった。
権力と金とコネ。
その臭いがプンプンする政策に、ミカエルは内心で舌打ちをする。
ルミナリア教への軽視は即ち、女神様への軽視だ。
そんな穢れた世の中で、女神様の名を利用し立ち回る輩がのさばっていることが、彼には堪え難かった。

ミカエルが女神様への信仰を抱いたのは、彼がまだ幼い頃。
大聖堂で見た、女神様の姿を描いたステンドグラス。
その神々しさに心奪われ、彼は幼くして女神様に初恋をしたのだ。
名家・アインスフォード家の次男である彼は、それからというもの聖職者になるべくひたすら努力を重ねた。
家族もまた、彼の選択を喜んだ。
聖職者の位に就きさえすれば、家の権威も増す。
それは彼にとっても家にとっても好都合だった。
努力の末、彼の夢はついに叶う。
晴れて聖職者の試験に合格した時の嬉しさと言ったら…。

しかし、現実は理想とは程遠い。
聖職者たちの集まりは、信仰よりも金と権力にまみれた泥沼だった。
だが、ミカエルはそこで絶望しなかった。
むしろ、彼は歓喜した。
これは女神様が自分に与えて下さった試練だ。
自分こそが、ルミナリア教を正しい道へ導く使命を背負った存在なのだと、彼は確信したのである。

彼にとって、初代癒しの乙女が執筆したとされる聖書を基盤としたルミナリア教こそ、唯一無二の真理であり、他の宗教はすべて邪教に過ぎない。
彼は28年間、その信念を胸に生きてきた。
他国で何が信仰されようと、女神様こそが唯一無二の神である。
この世に正しい神はただ一人。
そう信じる彼にとって、異教の存在は許し難い冒涜だった。

そんな信念を隠しつつ、彼は人当たりの良さそうな笑みと、蛇のような執着心を武器に、司祭の地位にまで上り詰めた。

かつて、教会内で大きな意見の対立があった。
それはミカエルが裏で糸を引き、故意に起こした争いだ。
ルミナリア教と相容れない宗教を国教とする国家に対し、宣戦布告すべきか否か…。
信仰心の薄れが国中で問題視されていた時期、古株の神父や修道女たちの不安を煽り、彼は敵を外に作ることで国内の結束を高めるよう画策した。
だが、その計画はある人物によって阻まれた。
シスター・ヘレン。
反対派を率いた彼女は、女神様の教えの中でも「平和」を重んじるべきだと主張し、彼の計画は頓挫した。
ミカエルにとって、それは大きな屈辱だった。
彼は幾多の機会を利用してヘレンを失脚させ、やっとの思いで彼女を辺境の田舎教会へと追いやることに成功した。

そんな折、思わぬ報せが舞い込んだ。
癒しの乙女が現れた。よりにもよって、シスター・ヘレンの教会の孤児院で。
その報せを聞いた瞬間、ミカエルは激しい憤りに歯噛みした。
あの女…。
だが、彼はその激情を顔に出すことなく、冷静な面を装い、乙女を迎えに行く役目を自ら志願した。
見事、その座を射止めたのだ。

癒しの乙女は十八歳の少女だった。
見た目は凡庸。特筆すべきものもない。
だが、彼女の右手に刻まれた紋章は、まごうことなき癒しの乙女の証。
羨ましかった。
もし自分が女であれば、この尊き役割を女神様から授かることもあったかもしれない…。

もし彼女が「行きたくない」と駄々をこねるのであれば、それは即ち女神様への侮辱。
そう覚悟していたが、拍子抜けするほど素直だった。
そうして彼女を王都へと連れて行った。
空間移動魔法など、彼にとっては朝飯前だ。
癒しの乙女がシスター・ヘレンの元で育ったことを思えば、どれほど厄介な悪女かと身構えていたが、思いのほか純粋そうな反応を見せる。
大聖堂のステンドグラスに見惚れる姿に、少し肩透かしを食らった気分だった。

だが、出身の教会について何気なく棘のある言葉を投げかけた時、彼女は笑顔を保ちながらも、はっきりとした反論をしてきた。
悪女でもなければ、ただの初心な田舎娘でもないとは。
興味深い。

そして彼はリナを用意された部屋へ案内し、その際に彼女から丁寧なお礼を告げられた。
礼儀正しさと、意志の強さ。
女神様が彼女を選んだ理由が、わずかながら理解できた気がした。

「ご安心ください、女神様。わたくしめが、必ずや癒しの乙女様を正しき道へと導き、護り抜いてみせましょう。」

ミカエルは心中でそう誓いながら、穏やかな気持ちで部屋を後にした。
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