へなちょこ勇者の珍道記〜異世界召喚されたけど極体魔法が使えるのに無能と誤判定で死地へ追放されたんですが！！

第２章

晩餐

　食事を終えた後、ギルドマスターが話をしてきた。

「お主がノエルが話してくれたロイか。儂の話は察しがついているのであろう？そうだこのノエルを、お主に託しに来たのだ。そろそろノエルも自由に生きていっても良いと思ったのだ！と言いたいのだが、ノエルに危険が迫っている、無理を承知で頼む。守ってやって欲しい。お主しか託す事が可能な者がおらぬのだ。それとこのノエルはな、儂に似たのか気が強く時折毒舌を吐くが、見ての通り器量が良く、発する言葉とは裏腹に、心の優しい清らかなる乙女だ。どうか一緒に連れて行ってはくれまいか。それとお主は近いうちにこの街を出ねばならぬ。お主は城から逃げ出したと言われておる召喚者のうちの一人であろう。ノエルから聞いた話からするとそういう結論になるのだが、違うか？」
 
「やはりノエルさんは講習の時に確信されていたんですね。分かりました。僕もシャロンもノエルさんから頼まれ、既にパーティーの仲間として受け入れる事を決めています。ですが良いのですか？僕と一緒に行動するという事は危険極まりないんですよ？ひょっとすると命を落としてしまうかも分からないのですよ」

「うむ、その危険は勿論承知しておる。しかしここにノエルが留まっている方が危険なのだ。ノエルの親が殺されたという事は聞いておるな？どうやら子供がいてまだ生きており、この街の中で生きておるのではと嗅ぎ回っておる連中がいて、その存在について感づかれているようなのだ。だからこうして半ば押し付ける形でノエルを託す事に決めたのだ。おそらく1ヶ月も経たないうちにノエルの存在を嗅ぎつけられてしまうであろう、それが理由の一つだ。そしてもう一つの理由はお主の事だ。明日この屋敷を始め、いくつ家の場所に逃げた召喚者が隠れていないかと立ち入り調査をするのだ。明日そういった調査をするとの事で、儂の所に魔法を使える冒険者を派遣してくれと言ってきたのだ。明日の朝ギルドに冒険者を集め、捜索対象の所に同行し、万が一勇者がいてそこから逃げ出す場合に足止めをするように依頼をされておる。何でも城にいる女達を辱め、金品を奪い逃げ去った事にされておる。勿論そんな事は信じてはおらぬが、儂の所にそういう依頼がくるという事は、冒険者ロイがそうであるという事を知られてはいないが、まだこの町にいるというのは掴んでおるようだ。このノエルが気付いた位だ、お主が城から逃げ出した太一という者という事に気が付く者が他にも遅かれ早かれ出てこよう。そういう事で明日は食事を終えた直後には屋敷を出るのだぞ。また、これはギルドからの特別依頼という形でいくつかの街のギルドマスターへの手紙をお主に渡しておく。またこの札を持っておけ。これはもし万が一明日の朝街の門を出られなかった場合に見せるのだ。これはギルドマスター発行の特別依頼の札だ。これを持っている限り、お主の正確な人相書きでも出ておらぬ限り、街が封鎖されていても出入りができる。街が封鎖されているからこそ威力が発揮するような代物になるのだ」

「分かりました。有り難く受け取らせて頂きます。ただ僕はこの世界の地理についてよく分かっていません。地図自体は頭の中に入っておりますが、実際に見聞きしているわけではないので、どの街がどういった所かというのがよく分からないんです。まずどこに行けばいいのか？それすら分からないんで。すどうすれば良いでしょうか？」

「悪いがお主が自分で考えるんだ。万が一儂がここに行けと言った町に行った場合、儂に嫌疑が掛かり拷問でもされてみろ！口を割るつもりはないがな、自白をする魔法等を掛けられれば、儂の意思とは関係なくお主が何処にいるか喋ってしまう事になるので、行き先を自分で考えて貰わねばならぬのだ。明日はとりあえず薬草採取にでも行くのだな。今日初心者講習が終わったばかりだ。明日薬草採取に行っている分には誰もその行動を疑わぬ。寧ろ行かない方が不自然なのだ。フローラ殿の屋敷に不在の冒険者がいるといっても何故かと聞かれた場合に、前日に初心者講習に行かせた為、必然的に講習翌日に行くのが当たり前の薬草採取に行っている。そういう話が出来るのだ。これが数日間薬草採取に行っていなくて突如明日行っていたとなれば要らぬ詮索をされてしまうでな」

　なる程と太一は頷き、フローラに意見を求めた。

「こちらは大丈夫ですよ。先程明日薬草採取に行って来なさいと言った理由はこれですから。今の所ここは逃亡者がいる可能性が有ると思われている場所のひとつに過ぎません。本当に疑っているようであれば今頃ここは囲まれているでしょう。」


　そうやって話をし、ギルドマスターは帰って行った。そしてやはりエリカの部屋も用意してくれていて、今日はここで泊まりなさいという事になったのであった。