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第55話 石の散弾と圧縮の弾丸
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翌日。
昨日の「土壁ハメ戦法」での大戦果に気を良くした俺たちは、朝から意気揚々とこの階層の深部を目指していた。
今日の目標は、「攻撃系土魔法」の確立だ。
防御は完璧だ。だが、いつまでも壁を作って雫ちゃん任せというわけにはいかない。俺自身にも、中距離での決定打が必要だ。
スケルトン地帯を抜け、俺たちはさらに奥へと進んだ。
通路の壁は苔が目立ち、空気はより湿気を帯びている。
この辺りからは、敵のランクが一段階上がる。
「……ッ! 止まれ」
俺は声を潜め、足を止めた。
曲がり角の先、ぼんやりと光る苔の明かりの中に、そいつはいた。
緑色の硬質な鱗に覆われた、二足歩行の爬虫類――リザードマンだ。
手には粗末だが鋭利な石槍を持っている。動きの鈍いスケルトンとは違い、筋肉のバネを感じさせる強敵だ。
「リザードマンだ。動きが速いぞ。……よし、新魔法のテスト相手になってもらおう」
俺は雫ちゃんを背に庇いながら、右手を突き出した。
試すのは、覚えたばかりの『土魔法・ストーンショット』だ。
昨夜のイメージトレーニング通り、魔力を細かく分割する。狙うは「面制圧」。
「食らえ、ストーンショット(散弾)!!」
ザシュッ!!
俺の手のひらから、小石の雨が散弾銃(ショットガン)のようにばら撒かれた。
広範囲をカバーする飽和攻撃。回避は不可能だ。
「ギッ!?」
小石の礫(つぶて)がリザードマンの全身を叩く。
だが――。
カカン、カカカンッ!
乾いた音が響くだけだ。硬い鱗に弾かれてしまい、致命傷にはならなかった・・・
「……ちっ。威力不足か」
どうやら「散弾」モードは、威力が分散しすぎて、装甲を持つ相手には通用しないらしい。
リザードマンは少し怯んだものの、すぐに鬱陶しそうに顔を振り、俺を睨みつけた。
「ギシャァァァッ!!」
怒りの咆哮と共に、リザードマンが猛然と突っ込んできた。
速い!
「くっ!」
俺はとっさに盾を構える。
ドゴォォォッ!!
石槍と体当たりのコンボが、俺の盾を直撃した。
スケルトンとは比べ物にならない重さ。俺の身体がふわりと浮いた。
「うおっ!?」
「佐東さんッ!?」
俺はそのまま後方へ吹き飛ばされ、通路の壁に背中から激突した。
ガァンッ!
背中にあるタワーシールドがクッションになったが、衝撃で肺の空気が抜ける。
「ぐ、ぅ……!」
体勢を崩した俺に、リザードマンが好機とばかりに迫る。
昨日の「無傷の勝利」ですっかり忘れていた、「痛み」と「死の恐怖」が蘇る。
奴は止めを刺すべく、大きく口を開け、勝利の雄叫びを上げながら飛びかかってきた。
「ギャァァァッ!!」
目の前に迫る、牙の列と喉の奥。
雫ちゃんが悲鳴を上げるのが聞こえた。
――だが、俺の思考は冷え切っていた。
散弾がダメなら、次はどうする?
答えは決まっている。
(イメージ変更……一点集中!)
俺は右手を、迫りくるリザードマンの顔面に突き出した。
ばら撒くんじゃない。一つに固める。
素材は【初級】だからただの石しか選べない。だが、密度を高め、回転を加え、速度を乗せれば――!
イメージしろ。小石じゃなく弾丸をだ。
「ストーンショット(圧縮)!!」
ズドンッ!!
俺の掌から、空気が破裂する音と共に、ゴルフボール大に圧縮された石弾が射出された。形はライフルの弾をイメージした。
それは叫びながら迫っていたリザードマンの、無防備に開かれた「口の中」へと吸い込まれた。
グチャリ。
嫌な音が響く。
高速の石弾は、口腔内の柔らかな組織を食い破り、そのまま後頭部を貫通した。
「ガ、ア……?」
リザードマンの声が途切れる。
勢いのまま俺の目の前まで滑り込んできた身体が、ビクンと一度だけ跳ね、糸が切れたように脱力した。
「……はぁ、はぁ」
俺は壁に寄りかかったまま、足元に転がったリザードマンの死骸をじっと見下ろした。
ここからが重要だ。
今回の検証項目――『魔法で倒した場合、死体はどうなるのか?』。
俺は固唾を飲んで見守った。
一秒、二秒、三秒。
スケルトンの時はすぐに消滅したが……。
「……よし。消えない」
死体はそこに残ったままだ。
生々しい血の匂いと、肉の塊が実在している。
どうやら、魔法で倒しても獲物は残るらしい。
「……佐東さん!」
雫ちゃんが涙目で駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!? すごい音で壁にぶつかって……!」
「あ、ああ。大丈夫だ。背中の盾がいい仕事をしてくれた」
俺はたはははと唸りながら立ち上がり、彼女の頭をポンと撫でた。
昨日の「絶対安全圏」とは違う、ヒリつくような緊張感。
やはり、ダンジョンはこうでなくちゃな。
「それより雫ちゃん、仕事だ。こいつを収納(しま)ってくれ」
「はい! 晩ご飯のお肉ですね!」
雫ちゃんは安堵の表情を浮かべると、慣れた手つきでリザードマンの死体(と槍)に手をかざした。
昨日も解体して食べたおかげか、彼女もこの爬虫類を「敵」というより「食材」として見始めているようだ。頼もしい限りだ。
「検証の結果、魔法で倒しても死体は残ることが分かった。これで狩りの幅が広がる」
「よかったです! せっかく倒しても、お肉が消えちゃったら泣くに泣けませんから」
俺たちは回収を終えると、その場を後にした。
散弾と圧縮弾の使い分け、そして魔法による狩猟の確立。
実りの多い戦闘だったが、同時に「油断すれば死ぬ」という事実も再確認した。
……そして、その教訓は、すぐに活かされることになる。
昨日の「土壁ハメ戦法」での大戦果に気を良くした俺たちは、朝から意気揚々とこの階層の深部を目指していた。
今日の目標は、「攻撃系土魔法」の確立だ。
防御は完璧だ。だが、いつまでも壁を作って雫ちゃん任せというわけにはいかない。俺自身にも、中距離での決定打が必要だ。
スケルトン地帯を抜け、俺たちはさらに奥へと進んだ。
通路の壁は苔が目立ち、空気はより湿気を帯びている。
この辺りからは、敵のランクが一段階上がる。
「……ッ! 止まれ」
俺は声を潜め、足を止めた。
曲がり角の先、ぼんやりと光る苔の明かりの中に、そいつはいた。
緑色の硬質な鱗に覆われた、二足歩行の爬虫類――リザードマンだ。
手には粗末だが鋭利な石槍を持っている。動きの鈍いスケルトンとは違い、筋肉のバネを感じさせる強敵だ。
「リザードマンだ。動きが速いぞ。……よし、新魔法のテスト相手になってもらおう」
俺は雫ちゃんを背に庇いながら、右手を突き出した。
試すのは、覚えたばかりの『土魔法・ストーンショット』だ。
昨夜のイメージトレーニング通り、魔力を細かく分割する。狙うは「面制圧」。
「食らえ、ストーンショット(散弾)!!」
ザシュッ!!
俺の手のひらから、小石の雨が散弾銃(ショットガン)のようにばら撒かれた。
広範囲をカバーする飽和攻撃。回避は不可能だ。
「ギッ!?」
小石の礫(つぶて)がリザードマンの全身を叩く。
だが――。
カカン、カカカンッ!
乾いた音が響くだけだ。硬い鱗に弾かれてしまい、致命傷にはならなかった・・・
「……ちっ。威力不足か」
どうやら「散弾」モードは、威力が分散しすぎて、装甲を持つ相手には通用しないらしい。
リザードマンは少し怯んだものの、すぐに鬱陶しそうに顔を振り、俺を睨みつけた。
「ギシャァァァッ!!」
怒りの咆哮と共に、リザードマンが猛然と突っ込んできた。
速い!
「くっ!」
俺はとっさに盾を構える。
ドゴォォォッ!!
石槍と体当たりのコンボが、俺の盾を直撃した。
スケルトンとは比べ物にならない重さ。俺の身体がふわりと浮いた。
「うおっ!?」
「佐東さんッ!?」
俺はそのまま後方へ吹き飛ばされ、通路の壁に背中から激突した。
ガァンッ!
背中にあるタワーシールドがクッションになったが、衝撃で肺の空気が抜ける。
「ぐ、ぅ……!」
体勢を崩した俺に、リザードマンが好機とばかりに迫る。
昨日の「無傷の勝利」ですっかり忘れていた、「痛み」と「死の恐怖」が蘇る。
奴は止めを刺すべく、大きく口を開け、勝利の雄叫びを上げながら飛びかかってきた。
「ギャァァァッ!!」
目の前に迫る、牙の列と喉の奥。
雫ちゃんが悲鳴を上げるのが聞こえた。
――だが、俺の思考は冷え切っていた。
散弾がダメなら、次はどうする?
答えは決まっている。
(イメージ変更……一点集中!)
俺は右手を、迫りくるリザードマンの顔面に突き出した。
ばら撒くんじゃない。一つに固める。
素材は【初級】だからただの石しか選べない。だが、密度を高め、回転を加え、速度を乗せれば――!
イメージしろ。小石じゃなく弾丸をだ。
「ストーンショット(圧縮)!!」
ズドンッ!!
俺の掌から、空気が破裂する音と共に、ゴルフボール大に圧縮された石弾が射出された。形はライフルの弾をイメージした。
それは叫びながら迫っていたリザードマンの、無防備に開かれた「口の中」へと吸い込まれた。
グチャリ。
嫌な音が響く。
高速の石弾は、口腔内の柔らかな組織を食い破り、そのまま後頭部を貫通した。
「ガ、ア……?」
リザードマンの声が途切れる。
勢いのまま俺の目の前まで滑り込んできた身体が、ビクンと一度だけ跳ね、糸が切れたように脱力した。
「……はぁ、はぁ」
俺は壁に寄りかかったまま、足元に転がったリザードマンの死骸をじっと見下ろした。
ここからが重要だ。
今回の検証項目――『魔法で倒した場合、死体はどうなるのか?』。
俺は固唾を飲んで見守った。
一秒、二秒、三秒。
スケルトンの時はすぐに消滅したが……。
「……よし。消えない」
死体はそこに残ったままだ。
生々しい血の匂いと、肉の塊が実在している。
どうやら、魔法で倒しても獲物は残るらしい。
「……佐東さん!」
雫ちゃんが涙目で駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!? すごい音で壁にぶつかって……!」
「あ、ああ。大丈夫だ。背中の盾がいい仕事をしてくれた」
俺はたはははと唸りながら立ち上がり、彼女の頭をポンと撫でた。
昨日の「絶対安全圏」とは違う、ヒリつくような緊張感。
やはり、ダンジョンはこうでなくちゃな。
「それより雫ちゃん、仕事だ。こいつを収納(しま)ってくれ」
「はい! 晩ご飯のお肉ですね!」
雫ちゃんは安堵の表情を浮かべると、慣れた手つきでリザードマンの死体(と槍)に手をかざした。
昨日も解体して食べたおかげか、彼女もこの爬虫類を「敵」というより「食材」として見始めているようだ。頼もしい限りだ。
「検証の結果、魔法で倒しても死体は残ることが分かった。これで狩りの幅が広がる」
「よかったです! せっかく倒しても、お肉が消えちゃったら泣くに泣けませんから」
俺たちは回収を終えると、その場を後にした。
散弾と圧縮弾の使い分け、そして魔法による狩猟の確立。
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……そして、その教訓は、すぐに活かされることになる。
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