ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow

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第1話 プロローグ:灰色の猟犬は息を潜める

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 三つの大国が睨み合う、その境目にグレイハウンドの町はあった。 
 本作の主人公であるディノッゾが属するギャルダル帝国。東には、その半分ほどの国力しかないライオフォート王国。そして帝国の背後には、常に不気味にその機を窺う神聖オルトリア皇国。 

 三国は互いを牽制しあい、かろうじて均衡の上で平和を保っていた。 
 その均衡の只中にある町――グレイハウンド。 
 四つの街道が交わる交通の要衝であり、かつて俊足の魔獣が駆け抜けた地とも、旅人の安息所「灰色の猟犬」に由来するとも伝えられる。だが今、賑わいは消え、町は重苦しい沈黙に沈んでいた。 
 恐怖は西からやってくる。 
 咬竜峠を越えた牧草地に、夕闇が落ちる頃、それは姿を現す。 
 空を覆う巨大な影――伝説に謳われるグリーンドラゴン。 
 黄金の瞳が群れを冷酷に見下ろし、鉤爪が肥えた牛を鷲掴みにする。断末魔は竜の咆哮にかき消され、命は黒々とした空へと奪われていく。 
 もはや天災だった。家畜は消え、旅人は消息を絶ち、町の経済も人心も、確実に蝕まれていった。
  ついに辺境伯ザンドラは重い腰を上げ、莫大な金を投じて討伐を依頼する。 
 破格の対価に求められる条件は極めて厳しかった。
――最低でもAランク冒険者四名、あるいは単独であればSランク。並の実力では空の災厄には届かない。 

 だが現れたのは、帝国最強と謳われるSランクパーティー【ヴァルハラ・ブレイド】だった。
  斧使いのリーダー・Sランクのガルド、以下Aランクの大剣使いブライアン、格闘家ゾルグ、槍使いキース、そして後衛の魔法使いネスト。屈強な男ばかりの五人組。その名声は隣国の王都にまで轟いていた。 

 彼らの到着に町はざわめき、子供たちは「Sランクだ!」と歓声を上げて駆け寄る。  だが希望は、冷酷な言葉に踏みにじられる。 

 「邪魔だ、クソガキども」 
「どけ、目障りだ」 

 氷のような視線。砕け散る期待。  誰かがぽつりと呟く。 

「Sランク様ってのは、人間性は立派じゃねえらしい」 

 町の空気はたちまち絶望へと逆戻りした。  彼らは当然のように最高級の馬車を要求し、さらに地元の若き冒険者三名を【露払い兼荷物持ち】として雇い入れた。いや、強引に参加させた。
 
 弓使いの長男ポータは収納ギフト「アイテムボックス」を持ち、次男アレンは筋骨たくましい剣士。妹レイラは全属性魔法の才女だった。 
 将来を嘱望されたBランクの新鋭――だが、英雄の駒として扱われた。

 「光栄に思え。俺たちの武勲を間近で見られるんだ」

ガルドは鼻で笑い、大剣のブライアンがポータの肩を乱暴に掴む。 「俺の剣に傷一つでも付けてみろ。貴様の腕ごと落としてやる」  その言葉に、妹レイラの拳が震えた。だが兄たちは、唇を噛んで従うしかなかった。  

さらに辺境伯の館からは、一人のメイドが派遣されてきた。年端もいかぬ少女が、大きなトランクを抱えて立つ。戦闘に備え彼らの身の回りの世話をさせるための【道具】だ。

 「チッ・・・小便くせえガキじゃねえか」 

ガルドは舌打ちし、後衛のネストが冷ややかに言い添える。

 「まあ、汚い御者よりはマシだろう。足手まといになるなよ、小娘」 

 その場にいた御者の一人、中年の男ディノッゾは、深くフードを被ったまま、やりとりを黙って眺めていた。 
 年季の入った革手袋に、馬車を操り続けた硬い手。彼はただ、淡々と「この依頼を引き当てなければいい」とだけ願っていた。 

 だが運命は残酷だった。 
 馬車組合の事務所にガルドの怒声が響く。

 「まだ決まらねえのか!金は相場の10倍を出してやると言ってるだろ!」 

 御者たちは顔を青ざめて俯いた。報酬は破格だが、竜に挑めば死は避けられない。向こう数年働かずに済むような金額だ。
しかし、誰も手を挙げない中、組合長が重々しく告げる。 

「やむを得ん。くじで決めるしかあるまい。印を引いた二人に、この依頼を頼む」 

 死刑宣告のような言葉。 
 差し出された木箱に、御者たちは震える手を伸ばす。息を詰め、棒を握りしめる者。安堵の吐息を漏らす者。胸の奥にあるのは、仲間を見殺しにした安堵と、自分は助かったという卑しい歓喜だった。 

 ガルドはその光景を、嗜虐に満ちた笑みで眺めていた。 
 他人の苦悩こそ、彼にとって最高の娯楽なのだ。  そして――その赤い印を、平凡で中年御者であるディノッゾが引き当てるまで、あとわずかの時間しか残されていなかった。

 その赤い印を握りしめた瞬間、人生の歯車は別の方向へ大きく切り替わるであろう・・・

   


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