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本編
第4話 コピーガードの存在
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「自作PC」という名の、新たな聖域の構築。
それは僕のオタクとしての魂の到達点だったが、目の前には、デジタルデータでは決して乗り越えられない、二つの巨大な壁が立ちはだかっていた。
一つは「お金」。パーツ一つ一つに付された価格は、これまでの同人誌やDVDの比ではない。大金だ。
しかし、僕はすでにその壁を乗り越えるための武器を手に入れていた。
僕は、学校が終わるとすぐに、地元の飲食店で週五のアルバイトに精を出していた。
そこにはオタク仲間は一人としていなかったけれど、厨房での忙しさや、時々客からかけられる感謝の言葉は、回線の向こう側とは違う、新鮮な高揚感を与えてくれた。
身体を動かして稼ぐという行為そのものが楽しかったし、何より、その汗の結晶が、僕のオタク活動とアーカイブの夢を支えているという事実が誇らしかった。お金は、想像以上のスピードで貯まっていった。
もう一つは「知識」だ。カタログや雑誌を読み漁るだけでは足りない。
どのパーツを選べば、僕の目的である「完全なバックアップ」が実現できるのか。
僕は、「うたたね」の同志たちに相談し、2chで調べに調べつくした。
予算は、アルバイトで貯めた15万円。
高性能なゲームを極めるハイスペック機ではなく、究極のアーカイブを実現するための「機能特化型マシン」だ。
CPUはPentium 4、メモリは1GB。
グラフィックボードは、当時コスパの良いRADEONを選んだ。
しかし、僕が最も熱を注いだのは、CD/DVDドライブの選定だった。
当時の僕にとって、DVDの二層化は依然として技術的に難解な課題だったため、まずは喫緊の課題であるCDの完全バックアップに焦点を絞った。
なぜなら、その頃登場した多くの美少女ゲームには、「セーフディスク2.8(SafeDisc 2.8)」という、当時のゲーマーを泣かせた悪名高いコピーガードが存在していたからだ。
このコピーガードは、並のCD-Rドライブでは読み取りすら叶わない。
ドライブ自体に、「データを正確に読み取るための選別」が求められた。
同志たちの助言のもと、僕が中心パーツとして選んだのは、プレクスター社の「Premium(プレミアム)」という、「読み取り精度だけで飯が食える」と言われた伝説のドライブ。
その名を冠したドライブは、圧倒的な読み取り精度を誇り、「コピーガードを破る」ための最後の砦として、当時のオタクの間で神話的な存在となっていた。
プレクスタープレミアムを中心に、タワー型のケースと550Wの電源を選び、ついに全てのパーツが僕の部屋に集結した。
この自作PCへの挑戦を機に、僕はPC周辺機器の知識全盛期を迎える。
チップセット、FSB、冷却ファン、電源効率……。
カタログの数字が、コンテンツの愛という確かな目的と結びついたことで、全てが立体的に理解できるようになった。
そして、完成した「究極のアーカイブマシン」の前に座り、僕は新たな戦いの始まりを確信した。
それは、僕が愛するコンテンツの「完璧」を守るため、
常に進化し続けるコピーガードとの、終わりなきイタチごっこの幕開けだった――。
「自作PC」という名の聖域を手に入れた僕は、その性能を存分に発揮させるべく、数々の美少女ゲームのディスクをCD-Rに焼く作業に夢中になっていた。
これは単なる趣味ではなかった。それは、コピーガードという目に見えない知恵の壁に挑む、僕だけの聖戦だった。
いつしか僕のコピーガードとCD-R、そしてライティングソフトに関する知識は、もはや高校生の範疇を完全に超越し、専門家の領域に片足を突っ込んでいた。
試したライティングソフトは数知れない。
DiscJuggler4、CloneCD、Alcohol120%……当時のオタクたちが「禁呪」と呼んだライティングソフトの全てを試した。
これらのマニアックなソフトが何なのか、一般の友人に説明しても、きっと何のことかさっぱり理解できないだろう。
しかし、僕にとっては、一つ一つがコピーガードを解き明かすための「鍵」であり、「呪文」だった。
僕の究極のドライブ、プレクスターPremiumは、その読み取り性能でほとんどのコピーガードを打ち破った。しかし、戦いは終わらない。
忘れもしない、新たな強敵が登場した。
『斬魔大聖デモンベイン』に搭載されたSafeDisc 2.9だ。
この新バージョンのコピーガードは、プレクスターの神話をも打ち破った。
どんな設定を試しても、エラーを吐き出す。
僕は2chで情報を探し、わずかな光明を見つけ出した。
デモンベインを完璧にバックアップできるのは、
DiscJuggler4と日立LGのGMA-4020Bという、ごく一部のマニアだけが“相性最強”と語っていたCD-Rドライブの組み合わせだけだった。
読み取りのクセが、SafeDisc 2.9の穴に偶然ハマる──そんな“当たり個体”だった。
「完璧なアーカイブのためなら、必要なものを手に入れるしかない」
僕は躊躇しなかった。貯金の一部を崩し、すぐにGMA-4020Bを買いに走った。
帰宅後、検証を繰り返し、ついにバックアップに成功した時の高揚感は、ゲームをクリアした時の比ではなかった。
しかし、この成功は同時に、僕を一つのパラドックスへと追い込んだ。
新しいコピーガードが出るたびに、僕はその防御を打ち破れる新しいCD-Rドライブを買うという、「バックアップするよりゲームを二個買った方が安いのでは?」という現象に陥っていたのだ。
当初の「大切なゲームを残したい」という目的は、いつの間にか「新しいコピーガードを突破したい」という、技術的な挑戦そのものへと変わり始めていた。
コンテンツへの愛が、純粋なハッカー精神へと変貌していたのだ。
そして、僕の前にさらに強固な壁が登場する。
それは、Key作品の系譜を継ぐ名作『ONE ~輝く季節へ~』に搭載されていた、「Alpha-ROM(アルファロム)」というコピーガードだった。
Alpha-ROMは、単なるドライブの読み取り精度だけでは決して突破できない、ハードとソフトが連携する“二重三重の鍵”のようなコピーガードだ。
ここからは、選別したCD-Rドライブだけでは通用しない、新たな次元の戦いに突入することになる――。
僕のPC知識の全盛期は、この巨大な壁との戦いによって、転換点を迎えることになる。
それは僕のオタクとしての魂の到達点だったが、目の前には、デジタルデータでは決して乗り越えられない、二つの巨大な壁が立ちはだかっていた。
一つは「お金」。パーツ一つ一つに付された価格は、これまでの同人誌やDVDの比ではない。大金だ。
しかし、僕はすでにその壁を乗り越えるための武器を手に入れていた。
僕は、学校が終わるとすぐに、地元の飲食店で週五のアルバイトに精を出していた。
そこにはオタク仲間は一人としていなかったけれど、厨房での忙しさや、時々客からかけられる感謝の言葉は、回線の向こう側とは違う、新鮮な高揚感を与えてくれた。
身体を動かして稼ぐという行為そのものが楽しかったし、何より、その汗の結晶が、僕のオタク活動とアーカイブの夢を支えているという事実が誇らしかった。お金は、想像以上のスピードで貯まっていった。
もう一つは「知識」だ。カタログや雑誌を読み漁るだけでは足りない。
どのパーツを選べば、僕の目的である「完全なバックアップ」が実現できるのか。
僕は、「うたたね」の同志たちに相談し、2chで調べに調べつくした。
予算は、アルバイトで貯めた15万円。
高性能なゲームを極めるハイスペック機ではなく、究極のアーカイブを実現するための「機能特化型マシン」だ。
CPUはPentium 4、メモリは1GB。
グラフィックボードは、当時コスパの良いRADEONを選んだ。
しかし、僕が最も熱を注いだのは、CD/DVDドライブの選定だった。
当時の僕にとって、DVDの二層化は依然として技術的に難解な課題だったため、まずは喫緊の課題であるCDの完全バックアップに焦点を絞った。
なぜなら、その頃登場した多くの美少女ゲームには、「セーフディスク2.8(SafeDisc 2.8)」という、当時のゲーマーを泣かせた悪名高いコピーガードが存在していたからだ。
このコピーガードは、並のCD-Rドライブでは読み取りすら叶わない。
ドライブ自体に、「データを正確に読み取るための選別」が求められた。
同志たちの助言のもと、僕が中心パーツとして選んだのは、プレクスター社の「Premium(プレミアム)」という、「読み取り精度だけで飯が食える」と言われた伝説のドライブ。
その名を冠したドライブは、圧倒的な読み取り精度を誇り、「コピーガードを破る」ための最後の砦として、当時のオタクの間で神話的な存在となっていた。
プレクスタープレミアムを中心に、タワー型のケースと550Wの電源を選び、ついに全てのパーツが僕の部屋に集結した。
この自作PCへの挑戦を機に、僕はPC周辺機器の知識全盛期を迎える。
チップセット、FSB、冷却ファン、電源効率……。
カタログの数字が、コンテンツの愛という確かな目的と結びついたことで、全てが立体的に理解できるようになった。
そして、完成した「究極のアーカイブマシン」の前に座り、僕は新たな戦いの始まりを確信した。
それは、僕が愛するコンテンツの「完璧」を守るため、
常に進化し続けるコピーガードとの、終わりなきイタチごっこの幕開けだった――。
「自作PC」という名の聖域を手に入れた僕は、その性能を存分に発揮させるべく、数々の美少女ゲームのディスクをCD-Rに焼く作業に夢中になっていた。
これは単なる趣味ではなかった。それは、コピーガードという目に見えない知恵の壁に挑む、僕だけの聖戦だった。
いつしか僕のコピーガードとCD-R、そしてライティングソフトに関する知識は、もはや高校生の範疇を完全に超越し、専門家の領域に片足を突っ込んでいた。
試したライティングソフトは数知れない。
DiscJuggler4、CloneCD、Alcohol120%……当時のオタクたちが「禁呪」と呼んだライティングソフトの全てを試した。
これらのマニアックなソフトが何なのか、一般の友人に説明しても、きっと何のことかさっぱり理解できないだろう。
しかし、僕にとっては、一つ一つがコピーガードを解き明かすための「鍵」であり、「呪文」だった。
僕の究極のドライブ、プレクスターPremiumは、その読み取り性能でほとんどのコピーガードを打ち破った。しかし、戦いは終わらない。
忘れもしない、新たな強敵が登場した。
『斬魔大聖デモンベイン』に搭載されたSafeDisc 2.9だ。
この新バージョンのコピーガードは、プレクスターの神話をも打ち破った。
どんな設定を試しても、エラーを吐き出す。
僕は2chで情報を探し、わずかな光明を見つけ出した。
デモンベインを完璧にバックアップできるのは、
DiscJuggler4と日立LGのGMA-4020Bという、ごく一部のマニアだけが“相性最強”と語っていたCD-Rドライブの組み合わせだけだった。
読み取りのクセが、SafeDisc 2.9の穴に偶然ハマる──そんな“当たり個体”だった。
「完璧なアーカイブのためなら、必要なものを手に入れるしかない」
僕は躊躇しなかった。貯金の一部を崩し、すぐにGMA-4020Bを買いに走った。
帰宅後、検証を繰り返し、ついにバックアップに成功した時の高揚感は、ゲームをクリアした時の比ではなかった。
しかし、この成功は同時に、僕を一つのパラドックスへと追い込んだ。
新しいコピーガードが出るたびに、僕はその防御を打ち破れる新しいCD-Rドライブを買うという、「バックアップするよりゲームを二個買った方が安いのでは?」という現象に陥っていたのだ。
当初の「大切なゲームを残したい」という目的は、いつの間にか「新しいコピーガードを突破したい」という、技術的な挑戦そのものへと変わり始めていた。
コンテンツへの愛が、純粋なハッカー精神へと変貌していたのだ。
そして、僕の前にさらに強固な壁が登場する。
それは、Key作品の系譜を継ぐ名作『ONE ~輝く季節へ~』に搭載されていた、「Alpha-ROM(アルファロム)」というコピーガードだった。
Alpha-ROMは、単なるドライブの読み取り精度だけでは決して突破できない、ハードとソフトが連携する“二重三重の鍵”のようなコピーガードだ。
ここからは、選別したCD-Rドライブだけでは通用しない、新たな次元の戦いに突入することになる――。
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