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二十話 不確かな未来に向けて
しおりを挟む小井手という青年とは、思ったよりも気があった。明るく人当たりがよく、人気者。コミュ力も高いとなれば、俺とは真逆の人間だとは思うのだが、考え方が妙に似ていて、一緒にいるのが楽だった。
「へー。イタリアンレストラン。美味しい?」
「俺は店で食べたことないけど、評判良いよ。あとまかないはすごく美味しい」
小井手が俺のバイト先である『セレンディピア』に興味を示す。今まで、バイト先の話をした友人は居なかった。
大学での時間が、小井手が現れたことによって、大分色づいている。今までは家との往復だけだったのに、小井手と話すことが楽しくなっている。俺は思ったよりも、寂しかったのかもしれない。
「行ってみようかな。あ、でもどうせなら神足と飲んでみたいかなあ」
「あー。俺も、いつもお世話になってるのに、利用したことないの、ちょっと気になってたんだよね」
斎藤さんにはお世話になっている。一度くらい食べに行くのが礼儀かも。と思いながら、実現できていなかった。『セレンディピア』で食事するなら五千円くらいは予算が必要だし、その余裕がなかったからだ。そして、一緒に行く相手も居なかった。
小井手とは今度飲みに行こうと話をしていて、大学生になって初めての友人との飲み会に、ちょっとだけ浮かれている。
でも、見知らぬ店にお金を落とすより、斎藤さんの店に落とせる方が嬉しい。
(飲み会か……)
雨下に貰った服を着ることになるだろう。靴をきっかけに出会った縁でもあるし、雨下と出会わなければ、今でもボロボロのスニーカーを履いて、安アパートと大学、バイトを往復する人生だったのだろう。
(最初、脚を舐められた時は驚いて声も出なかったけど……)
結果が悪くないのであれば、雨下に脚を舐められたのは、良かったのだろう。
雨下の舌が脚を這う姿を思い出し、ドキリと心臓が鳴る。
「っ……」
同時に、脚を舐められながら慰めてしまった快感と罪悪感を思い出し、顔が熱くなる。
(ヤバ……大学なのに)
もしも家だったら、雨下に触られたことを思い出しながら、一人でシていたと思う。
(……雨下とは、いつまで続けるのかな……)
雨下が飽きるまでは、きっとこの関係を続けてしまうだろう。金銭的な魅力はもちろんあったが、それ以上に―――。
寂しさを埋める人肌の温もりが、気持ち良かったから。
◆ ◆ ◆
「え? うちを使ってくれるの? 気を遣わなくて良いんだよ?」
「そんなんじゃないです。友達も来てみたいって言ってましたし、俺もお客さんで来てみたかったので」
友人との飲みに使いたいと申し出た俺に、斎藤さんは遠慮がちだったが、どこか嬉しそうだった。やっぱり、店を使って貰えるのは嬉しいのだろう。
『セレンディピア』のシフトは曜日固定ではなく、変動で入っている。俺はほとんどの営業日に入っているが、日によっては希望者が多いこともあり、そういうときは俺は休みになる。週末は大抵シフトが入っているが、週の始めなどは休みになることもあった。
小井手は俺の都合に合わせてくれるというので、俺のシフトの無い日に、飲み会をすることになった。
「なんだか、最近の神足くんは、少し明るくなったよね」
「―――そう、ですか?」
斎藤さんの言葉に、ドキリとする。
「うん。良いと思う。せっかく大学に行ったのに、勉強だけじゃ勿体ないよ。社会に出るとね、本当に人と出会うのが難しくなる。俺はこういう店を構えているから、まだ人の入れ替わり立ち代わりがあるけど、会社員になると本当に、新しい繋がりを作るのはね」
「そうなんですね……」
これまでは、他人との繋がりなんて、無くとも生きていけると思っていた。
(でも、雨下と行った博物館は、面白かったな……)
自分一人じゃ広がらなかった世界を広げてくれたのは、雨下だ。大学が楽しくなったのは、小井手のおかげだ。バイトだって。斎藤さんの店は、長く働きたいと思っている。
(将来、か……)
俺は何者になるのだろうか。
まだ未来は見えなかったけれど、想像していた、アパートと会社の往復をするだけの人生は、少しずつかすみ始めていた。
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