20 / 28
二十話 不確かな未来に向けて
しおりを挟む小井手という青年とは、思ったよりも気があった。明るく人当たりがよく、人気者。コミュ力も高いとなれば、俺とは真逆の人間だとは思うのだが、考え方が妙に似ていて、一緒にいるのが楽だった。
「へー。イタリアンレストラン。美味しい?」
「俺は店で食べたことないけど、評判良いよ。あとまかないはすごく美味しい」
小井手が俺のバイト先である『セレンディピア』に興味を示す。今まで、バイト先の話をした友人は居なかった。
大学での時間が、小井手が現れたことによって、大分色づいている。今までは家との往復だけだったのに、小井手と話すことが楽しくなっている。俺は思ったよりも、寂しかったのかもしれない。
「行ってみようかな。あ、でもどうせなら神足と飲んでみたいかなあ」
「あー。俺も、いつもお世話になってるのに、利用したことないの、ちょっと気になってたんだよね」
斎藤さんにはお世話になっている。一度くらい食べに行くのが礼儀かも。と思いながら、実現できていなかった。『セレンディピア』で食事するなら五千円くらいは予算が必要だし、その余裕がなかったからだ。そして、一緒に行く相手も居なかった。
小井手とは今度飲みに行こうと話をしていて、大学生になって初めての友人との飲み会に、ちょっとだけ浮かれている。
でも、見知らぬ店にお金を落とすより、斎藤さんの店に落とせる方が嬉しい。
(飲み会か……)
雨下に貰った服を着ることになるだろう。靴をきっかけに出会った縁でもあるし、雨下と出会わなければ、今でもボロボロのスニーカーを履いて、安アパートと大学、バイトを往復する人生だったのだろう。
(最初、脚を舐められた時は驚いて声も出なかったけど……)
結果が悪くないのであれば、雨下に脚を舐められたのは、良かったのだろう。
雨下の舌が脚を這う姿を思い出し、ドキリと心臓が鳴る。
「っ……」
同時に、脚を舐められながら慰めてしまった快感と罪悪感を思い出し、顔が熱くなる。
(ヤバ……大学なのに)
もしも家だったら、雨下に触られたことを思い出しながら、一人でシていたと思う。
(……雨下とは、いつまで続けるのかな……)
雨下が飽きるまでは、きっとこの関係を続けてしまうだろう。金銭的な魅力はもちろんあったが、それ以上に―――。
寂しさを埋める人肌の温もりが、気持ち良かったから。
◆ ◆ ◆
「え? うちを使ってくれるの? 気を遣わなくて良いんだよ?」
「そんなんじゃないです。友達も来てみたいって言ってましたし、俺もお客さんで来てみたかったので」
友人との飲みに使いたいと申し出た俺に、斎藤さんは遠慮がちだったが、どこか嬉しそうだった。やっぱり、店を使って貰えるのは嬉しいのだろう。
『セレンディピア』のシフトは曜日固定ではなく、変動で入っている。俺はほとんどの営業日に入っているが、日によっては希望者が多いこともあり、そういうときは俺は休みになる。週末は大抵シフトが入っているが、週の始めなどは休みになることもあった。
小井手は俺の都合に合わせてくれるというので、俺のシフトの無い日に、飲み会をすることになった。
「なんだか、最近の神足くんは、少し明るくなったよね」
「―――そう、ですか?」
斎藤さんの言葉に、ドキリとする。
「うん。良いと思う。せっかく大学に行ったのに、勉強だけじゃ勿体ないよ。社会に出るとね、本当に人と出会うのが難しくなる。俺はこういう店を構えているから、まだ人の入れ替わり立ち代わりがあるけど、会社員になると本当に、新しい繋がりを作るのはね」
「そうなんですね……」
これまでは、他人との繋がりなんて、無くとも生きていけると思っていた。
(でも、雨下と行った博物館は、面白かったな……)
自分一人じゃ広がらなかった世界を広げてくれたのは、雨下だ。大学が楽しくなったのは、小井手のおかげだ。バイトだって。斎藤さんの店は、長く働きたいと思っている。
(将来、か……)
俺は何者になるのだろうか。
まだ未来は見えなかったけれど、想像していた、アパートと会社の往復をするだけの人生は、少しずつかすみ始めていた。
55
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談?本気?二人の結末は?
美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
陥落 ー おじさま達に病愛されて ー
ななな
BL
眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。
国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる