91 / 96
2
八十九 バニーガール
しおりを挟む「ちょ、ちょ、ちょっ! 航平! 航平っ! 下ーろーせーっ!!」
暴れる律を抱え上げたまま、俺は店を飛び出す。そのまま店の裏手にある駐車場の方へ行くと、ようやくそこで律を下した。
「な、なんなの!?」
「なんなのはこっちだ! なんだ! その恰好は!!」
「バニーガール」
「ばか!!」
街灯の明かりに照らされて、律のなまめかしい姿が浮かび上がる。赤いピンヒール。網タイツ。際どいラインの水着みたいな衣装。可愛いお尻にはふさふさのしっぽまでついて、カチューシャには耳まで着いている。
「こんな、エロい恰好!!」
しかもなんか、チープな感じしねえし。どこで買ったんだよこんな衣装。
「好きだろ? こういうの」
「大好き! じゃなくて! 他の男がいる前で!!」
「チャイナ服と迷ったのよ。チャイナドレスも好きだろ?」
「大好き! いや、そうじゃなくてな!」
息を荒らげて怒る俺に、律が腕を伸ばして誘惑してくる。
「あとで、サービスしてやるぞ?」
「――それは、嬉しいけど」
それは嬉しいけどな。俺はお前の脚を、他の男に見せたくないんだ。
「解るだろ?」
「わかんなーい」
ニヤニヤ笑いやがって。解っててやってる。
傍からみると完全にいちゃついているように見える俺たちだが、俺はちゃんと怒っているのである。俺の律が。他の男に。
「ちょっとー。いちゃつくのは後にしてくんない?」
と、横から声がして、俺と律は驚いて顔を上げた。チャイナドレスの美女、朝倉だ。
「おー、裕ちゃん。待ってろ」
「ダメっ!」
「あとで裕ちゃんのチャイナドレスも借りてやるから」
「ダメだって!」
もはや朝倉がいようが知ったこっちゃない。これ以上、律のエロい脚を見せるわけにはいかんのだ。その使命感だけで、律を引き留める。
「解った」
そう言ったのは、律ではなく、朝倉だった。
「へ?」
「よっしーのバニーがダメなんだろ? 仕方がない」
「は――」
◆ ◆ ◆
チャララ♪ チャララ♪ チャララッチャ~♪
音楽と共に、ゲラゲラと笑い声がする。指笛を鳴らすヤツまで居る。ムカつくが、仕方がない。俺が我慢するしかないんだ。
「♪~♪~♪~」
朝倉の歌い出しに合わせて、俺もマイクを握った。席の方では律が腹を抱えて笑っている。マジで、あとで泣かしてやる。俺はしっぽを振りながら、全力で熱唱した。
「あー。おかしかった……」
「まだ言ってんのかよ」
「だって、航平のバニー……ぷっ、くっ、くっ」
クソ。絶対に泣かしてやる。
俺の不機嫌に気付いたのか、律は「まあまあ」と俺の肩を叩いた。
「良いじゃん。裕ちゃんにチャイナドレスも借りられたんだし。好きだろ? スリット入ってるの」
「大好き。あのなあ……」
なんか朝倉にも俺たちの関係がバレた気がするんだが。まあ、もうどうでも良いか……。なんだかSDMに行って、気にしなくなってしまった。俺たちが恋人だと知っても、みんな平然としてるんだもんよ。
「マジで、お前、後悔するぞ」
「ええー? 今更しないよ」
「お前は癖を舐めてんだよ。マジで引くからな」
「ええー……」
まあ、一つだけ良い点を挙げるとすれば、律がコスプレを気にしないヤツだと解った点だ。つまりは、ハイヒールを履くことも、ストッキングを履くことも、ニーソックスを履くことも気にしないと言うことだ。ガーターベルトも行けそうだなあ? だがレギンス。お前はダメだ。お前はいけない。
(覚悟しろよ)
どエロい恰好させてやるからな。
鼻息荒く誓う。何かを察したのか、隣で律がブルっと身体を震わせた。
24
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
BL小説家ですが、ライバル視している私小説家に迫られています
二三@冷酷公爵発売中
BL
BL小説家である私は、小説の稼ぎだけでは食っていけないために、パン屋でバイトをしている。そのバイト先に、ライバル視している私小説家、穂積が新人バイトとしてやってきた。本当は私小説家志望である私は、BL小説家であることを隠し、嫉妬を覚えながら穂積と一緒に働く。そんな私の心中も知らず、穂積は私に好きだのタイプだのと、積極的にアプローチしてくる。ある日、私がBL小説家であることが穂積にばれてしまい…?
※タイトルを変更しました。(旧題 BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった)2025.5.21
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる