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19: :『堕胎は禁忌だ』(2)
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オスカーの話は要約すると、
・婚約者にヤキモチを妬かせたくてメイドにちょっかい出してたら、うっかり浮気してしまった。
・そしたら浮気相手が妊娠して、仕方なくクロエとの結婚は諦めて逃亡。
・しかし、蓋を開けてみれば浮気相手は妊娠しておらず、おまけに逃亡中に自分が家に戻れるように手配してくれるはずだった弟には立場を奪われた。
ということらしい。
「………なるほど?」
要約してみてもやはり、クロエには理解できなかった。
「オスカー、ごめんなさいね。私、あまり頭が良くないみたい。貴方の話がちっとも理解できなくて……」
「……え?」
「でもそうね。淑女らしくないとは思うのだけれど、とりあえず……、いいかしら?」
クロエは困ったように微笑んで膝立ちになると、シルヴェスター兄弟の方へと体を向け、大きく手を振り翳した。
そしてその手を、逃げる一瞬の隙さえ与えず、躊躇なく振り下ろす。
バチンッ。
平手打ちの大きな音が静かな室内に鳴り響く。
赤くなった頬を抑えたのは、目を丸くしたオスカーだった。
「ど、どうして……?」
まさか自分が打たれるとは思ってもいなかった、という顔をするオスカー。
どうしてそんな顔ができるのだろうか。クロエは、やっぱり理解できないなと思った。
(どうしてと聞きたいのはこっちよ)
あんなにも恋焦がれた人なのに、どうしてこんなにも理解できないのだろう。
どうしてこんなにも気持ち悪いと思ってしまうのだろう。
そもそも、クロエが恋した王子様は本当にコイツだったのだろうか。何だか、それすらも怪しく思えてくる。
「あの、クロエ。痛いんだけど……」
「ごめんなさい。私、混乱していて……」
「う、うん……?」
「でも貴方の頬を叩いたら少しだけスッキリしたわ。ありがとう」
「そっか……?」
「それでね?オスカー。とりあえず確認したいのだけれど……。貴方はその……、浮気をしていたという事で合っているかしら?」
妊娠したと嘘をつかれても、心当たりがなければ普通は信じない。つまりオスカーは、少なくとも一度はそのメイドと体の関係を持ったことがあるということ。おそらく、避妊もしていなかったのだろう。
「それなのに、さも当然のように被害者面をして堂々と、『全部、弟が全部悪いんだ!』と語っているということで…….、合ってる?」
「そ、それは……」
あまりに純粋な眼差しで首を傾げるクロエ。まるで、見たこともない未知の生き物でも見るかのような目で自分を見つめる彼女に、オスカーは慌てて弁明した。
「そ、それは悪かった。でも、結婚したら関係を断つつもりだったんだ!」
「そんなことを言われても、どうしてその言葉が真実だと信じられるの?」
「え……?」
「『え……?』じゃなくてね?どうして私が貴方の言葉を疑いもせずに信じると思っているのか、と聞いているのよ」
「だ、だって……」
「だって、何?もし私が何も知らずにオスカーと結婚していたら、正妻の私より先に愛人が子どもを産むなんていう、とんでもない自体になっていた可能性だってあったわけでしょう?」
「そんなことはあり得ない!僕は結婚したら君だけを愛するつもりで……!」
「うーん。それも、どうかしら?貴方って、浮気した挙句に避妊すらもしない節操なしだし……」
「いや、だからそれは……」
「貴方と結婚していたら、きっと私は愛人に妻の座を乗っ取られる哀れな女になっていたでしょうね」
正妻より先に愛人が子どもを産んだ家は、どこも悲惨な末路を辿っている。
愛人と正妻で毒物を持ち出した泥沼の殺し合いに発展したり、戦いに敗れた正妻が夫の目の前で焼身自殺をはかったり、愛人が正妻の立場を乗っ取ったり、正妻が愛人の子を殺害したり……。
クロエは家庭教師から、何度もそんな話を聞かされた。
今考えると、あの家庭教師は子どもに何てことを吹き込んでいたのだろうと思う。多分、彼女は家庭教師に向いていないかった。
「ねえ、オスカー。確かに私は、多少の浮気は許せと教わってきたわ。でもね、愛人に子ができたとなると話は別よ?」
貴婦人が夫の浮気を許容するのは、夫が節度を守って遊ぶことが前提だ。
絶対に子を成さず、家門に迷惑をかけず、火遊び程度に留めておけるのなら許してやるというだけの話。
子を成せば、それは前述のようにただの浮気ではなくなる。
「だから男の人は皆、娼館に通うのだけれど……。紳士の社交場で習わなかったのかしら?」
こういう話は社交場で年長者から聞いて知るものだが、きっとオスカーは都合の良いことだけを耳に入れていたのだろう。
クロエは呆然とするオスカーの目の前にしゃがみ込み、彼の赤く腫れた頬に優しく触れた。
そして、何故かもう一発、同じところを叩いた。気持ち、一度目よりも重く。
「だから、なんで叩くんだ!?痛いんだけど!?」
「ああ、ごめんなさい。何だか叩きたくなってしまって、つい……」
「つい!?」
「まあまあ、そう怒らないで?私には貴方を叩く権利があるはずでしょう?……ねえ?お義母様?」
クロエはくるりと振り返り、公爵夫妻を見据えた。
先ほどから大事な息子の頬を二度も叩いているのに、口を離さむことも止めることもしない彼らがどんな顔をしているのか気になったのだ。
・婚約者にヤキモチを妬かせたくてメイドにちょっかい出してたら、うっかり浮気してしまった。
・そしたら浮気相手が妊娠して、仕方なくクロエとの結婚は諦めて逃亡。
・しかし、蓋を開けてみれば浮気相手は妊娠しておらず、おまけに逃亡中に自分が家に戻れるように手配してくれるはずだった弟には立場を奪われた。
ということらしい。
「………なるほど?」
要約してみてもやはり、クロエには理解できなかった。
「オスカー、ごめんなさいね。私、あまり頭が良くないみたい。貴方の話がちっとも理解できなくて……」
「……え?」
「でもそうね。淑女らしくないとは思うのだけれど、とりあえず……、いいかしら?」
クロエは困ったように微笑んで膝立ちになると、シルヴェスター兄弟の方へと体を向け、大きく手を振り翳した。
そしてその手を、逃げる一瞬の隙さえ与えず、躊躇なく振り下ろす。
バチンッ。
平手打ちの大きな音が静かな室内に鳴り響く。
赤くなった頬を抑えたのは、目を丸くしたオスカーだった。
「ど、どうして……?」
まさか自分が打たれるとは思ってもいなかった、という顔をするオスカー。
どうしてそんな顔ができるのだろうか。クロエは、やっぱり理解できないなと思った。
(どうしてと聞きたいのはこっちよ)
あんなにも恋焦がれた人なのに、どうしてこんなにも理解できないのだろう。
どうしてこんなにも気持ち悪いと思ってしまうのだろう。
そもそも、クロエが恋した王子様は本当にコイツだったのだろうか。何だか、それすらも怪しく思えてくる。
「あの、クロエ。痛いんだけど……」
「ごめんなさい。私、混乱していて……」
「う、うん……?」
「でも貴方の頬を叩いたら少しだけスッキリしたわ。ありがとう」
「そっか……?」
「それでね?オスカー。とりあえず確認したいのだけれど……。貴方はその……、浮気をしていたという事で合っているかしら?」
妊娠したと嘘をつかれても、心当たりがなければ普通は信じない。つまりオスカーは、少なくとも一度はそのメイドと体の関係を持ったことがあるということ。おそらく、避妊もしていなかったのだろう。
「それなのに、さも当然のように被害者面をして堂々と、『全部、弟が全部悪いんだ!』と語っているということで…….、合ってる?」
「そ、それは……」
あまりに純粋な眼差しで首を傾げるクロエ。まるで、見たこともない未知の生き物でも見るかのような目で自分を見つめる彼女に、オスカーは慌てて弁明した。
「そ、それは悪かった。でも、結婚したら関係を断つつもりだったんだ!」
「そんなことを言われても、どうしてその言葉が真実だと信じられるの?」
「え……?」
「『え……?』じゃなくてね?どうして私が貴方の言葉を疑いもせずに信じると思っているのか、と聞いているのよ」
「だ、だって……」
「だって、何?もし私が何も知らずにオスカーと結婚していたら、正妻の私より先に愛人が子どもを産むなんていう、とんでもない自体になっていた可能性だってあったわけでしょう?」
「そんなことはあり得ない!僕は結婚したら君だけを愛するつもりで……!」
「うーん。それも、どうかしら?貴方って、浮気した挙句に避妊すらもしない節操なしだし……」
「いや、だからそれは……」
「貴方と結婚していたら、きっと私は愛人に妻の座を乗っ取られる哀れな女になっていたでしょうね」
正妻より先に愛人が子どもを産んだ家は、どこも悲惨な末路を辿っている。
愛人と正妻で毒物を持ち出した泥沼の殺し合いに発展したり、戦いに敗れた正妻が夫の目の前で焼身自殺をはかったり、愛人が正妻の立場を乗っ取ったり、正妻が愛人の子を殺害したり……。
クロエは家庭教師から、何度もそんな話を聞かされた。
今考えると、あの家庭教師は子どもに何てことを吹き込んでいたのだろうと思う。多分、彼女は家庭教師に向いていないかった。
「ねえ、オスカー。確かに私は、多少の浮気は許せと教わってきたわ。でもね、愛人に子ができたとなると話は別よ?」
貴婦人が夫の浮気を許容するのは、夫が節度を守って遊ぶことが前提だ。
絶対に子を成さず、家門に迷惑をかけず、火遊び程度に留めておけるのなら許してやるというだけの話。
子を成せば、それは前述のようにただの浮気ではなくなる。
「だから男の人は皆、娼館に通うのだけれど……。紳士の社交場で習わなかったのかしら?」
こういう話は社交場で年長者から聞いて知るものだが、きっとオスカーは都合の良いことだけを耳に入れていたのだろう。
クロエは呆然とするオスカーの目の前にしゃがみ込み、彼の赤く腫れた頬に優しく触れた。
そして、何故かもう一発、同じところを叩いた。気持ち、一度目よりも重く。
「だから、なんで叩くんだ!?痛いんだけど!?」
「ああ、ごめんなさい。何だか叩きたくなってしまって、つい……」
「つい!?」
「まあまあ、そう怒らないで?私には貴方を叩く権利があるはずでしょう?……ねえ?お義母様?」
クロエはくるりと振り返り、公爵夫妻を見据えた。
先ほどから大事な息子の頬を二度も叩いているのに、口を離さむことも止めることもしない彼らがどんな顔をしているのか気になったのだ。
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